『第6回 医療と介護の総合展 [大阪](メディカル ジャパン)』現地レポート

東京と大阪でそれぞれ1回ずつ年に2回、開催されている医療と介護の総合展(通称、メディカル ジャパン)は、病院・クリニックの運営支援、医療機器、設備、ITなどを含む医療分野と介護、看護、地域包括ケア、薬局向けなどを含む介護分野に関わる製品、技術、サービスなどが出展する展示会です。

2019年まで大阪のみでしたが同年秋から東京でも開催され、病院、クリニック、介護事業者、調剤薬局の経営者などが製品・技術の導入を目的に来場し、出展企業にとって自社や団体の特徴をアピールすることはもとより、医療や介護の分野でのビジネス拡大に活用されてきました。

2020年に大阪で開催された同展を取材しましたが、開催期間が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を防ぐために政府・行政が要請したイベント自粛時期に重なったことで、出展各社が展示をとりやめたり、展示内容を変更するなどして大きな影響を受けていました。各会場の入口には、マスクが配布され、体温を測定する機器による入場制限が行われ、主催のリードエグジビジョンジャパンによれば特に来場者数が前年同時期の大阪展の半分以下となったようです。


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歩行訓練情報を見える化する、医療用歩行器キャスター

取材日は展示初日でしたが、会場に入るとさすがに出展各社のブースや来場者の少なさが目立ち、出展中止の掲示をするブースもありました。その中でアナウンスによる展示説明をしていたのが株式会社ユーエイ(大阪府東大阪市)です。

同社は、主に作業現場で運搬作業する運送車のキャスターなどを製造販売していますが、取り扱っているキャスターは約6,000種類あるそうです。医療や介護の現場でも生体情報モニター、超音波画像診断装置、X線やCT装置、MRI装置、リハビリ歩行器など、多くの運送製品にキャスターが使われていますが、同社が出展していたのが移動センサーを内蔵したバッテリーレスの歩行器用のキャスターです。

今回の展示会について、説明してくださったキャスター事業部の太田隆之(おおた・たかゆき)氏によれば、2019年も出展しましたが来場者の数は7〜8割減といったところだそうです。

このキャスターは走行時の回転によって発電するエナジーハーベスティング技術(環境発電技術)を採用したバッテリーレス構造になっていると言います。無線通信モジュールと各種センサーを内蔵することで、日常動作のさまざまな情報を蓄積し、見える化し、移動距離の増減や回復の度合いなどをみながらリハビリ効果を高めていくことができるそうです。


ユーエイが出展していた歩行器。実際に歩行のデモンストレーションが行われていました。
ユーエイが出展していた歩行器。実際に歩行のデモンストレーションが行われていました。


「もともと物流倉庫や工場内で使うことを想定したキャスターですが、医療用として歩行器に使えないかと考えて開発しました。歩行器を使って機能回復訓練、リハビリをしている方が多くいますが、この歩行器のキャスターの中に移動センサーが入っていて、車輪の回転数を計測することで歩行速度や移動距離を見える化しています。歩行訓練の傾向を調べることで段階的な歩行距離の延長など、適切なリハビリの目標設定などの方向性を決めることが可能になります」(太田氏、以下同)

管理者用の画面には、グラフによる見える化で施設内の各エリアでの滞在割合、移動割合、時間帯、各歩行器の1か月の移動状況などがわかるそうです。実際のデモンストレーションでは、キャスターを介して送られてくるデータをリアルタイムでモニターし、画像の中では施設内の各エリアのどこにいるのかをアイコンで示されていました。




キャスターには移動センサーが入っていてバッテリーレスで情報を送信するそうです。
キャスターには移動センサーが入っていてバッテリーレスで情報を送信するそうです。



また同社は、施設内の各所にIoTセンサーを設置するシステムも出展していました。大気圧センサー、照度センサー、バッテリーレスでどこでもナースコールが可能になるスイッチなどを提供し、温度や湿度を感知することでウイルス感染防御の施設内環境を管理することができると言います。

「例えば、トイレのドアに回転センサーを設置することで、ドアの開け閉めを感知し、入院患者さん、入居者さんがトイレに入ったことをナースステーションに知らせてくれるなどの日常生活動作を検知する見える化が可能になっています」

歩行器は、リハビリテーション用の場合は医療機器で規制がありますが、介護・福祉用は特に規格や規制はありません。同社によれば、歩行器のキャスターについても特に規制はなく、歩行器自体が認可されていればいいそうです。こうしたキャスターを活用するのと同時に、院内環境の管理システムによる見守り強化などによって患者の療養環境を改良し、目の届かない場所の見える化でスタッフの業務効率の向上が期待できると言います。


施設内の各所に設置できる各種のセンサー。情報を一元的に管理し、院内感染を防ぐことに役立てることができるそうです。
施設内の各所に設置できる各種のセンサー。情報を一元的に管理し、院内感染を防ぐことに役立てることができるそうです。


医療・ライフサイエンス分野の産学連携を支援する関西広域連合

今回の医療と介護の総合展では、特別協力として関西広域連合という団体が出展していました。説明してくださった広域産業振興局産業振興企画課の谷川佑子(たにがわ・ゆうこ)主査によれば、関西広域連合は2府6県4市(京都府、大阪府、滋賀県、兵庫県、和歌山県、奈良県、鳥取県、徳島県、大阪市、京都市、神戸市、堺市)で構成する全国初の広域連合だそうです。

「関西が医療・ライフサイエンス分野の国際拠点になることを目指し、今回の医療と介護の総合展に特別協力させていただきました。日本の中でも医療・ライフサイエンス分野の産業ポテンシャルが関西地域の強みですが、それをPRするためにも関西広域連合ブースにて『関西バイオクラスター』を出展しました。

私たちは各自治体とのつなぎ役をしたり産学連携のお手伝い、大学発ベンチャーの支援などをしています。前回、東京にも出展しましたが、大阪は第1回から今回の6回まで毎回出展し、展示会の取りまとめなどをしています。今年は新型コロナウイルス感染症の影響で出展中止などがありましたが、セミナーは事前のアナウンス通り開催しました」(谷川氏、以下同)


関西広域連合の説明図。2府6県5市の自治体首長が音頭を取って、医療やライフサイエンス分野の産業やアカデミアが集まっているそうです。
関西広域連合の説明図。2府6県5市の自治体首長が音頭を取って、医療やライフサイエンス分野の産業やアカデミアが集まっているそうです。


この関西広域連合は、各自治体の首長が集まって定期的に会議をしている一種の有志連合とのことです。参加している企業の業種は多種多様ですが、今回は特にライフサイエンス分野の企業や産学連携の成果として各種センサーやトレーニング機器などを出展していました。当初は体験型の展示を主にしようと考えていましたが、新型コロナウイルス感染症の影響で取りやめになったそうです。

「大学や研究機関の研究シーズを事業化へつなげるセミナーで、各企業さんとのマッチングをするなどしています。過去5回、大阪の医療と介護の総合展にしてきまして、製品化まで漕ぎ着けた技術もいくつかあります」

出展していたものでは「過酷環境下の体調管理に役立つ多機能生体センサー」というものがあり、これは災害時などで作業する消防士や災害救助隊員などの生体情報(心電と心拍、呼吸数、体温、汗)や活動情報(活動量や姿勢)、さらに環境情報を計測することで、彼らの心身のストレス、疲労、熱産生、熱ストレスなどをリアルタイムに監視して作業者安全に見守る技術だそうです。


関西広域連合では京都大学の山中伸弥教授がビデオでセミナーをしていました。
関西広域連合では京都大学の山中伸弥教授がビデオでセミナーをしていました。


また「運動機器用オイルダンパー」は、トレーニングマシン用のショックアブソーバーだそうです。屈曲側と伸展側の運動負荷を独立して調整することで、片側の筋肉だけに負荷をかけて安全にトレーニングをしたり、屈曲側・伸展側のそれぞれの筋肉に適切な負荷をかけて効率良くトレーニングすることができると言います。

関西広域連合のブースでは、他に産学官連携による製品・試作品の展示、関西広域連合の取組などのパネル紹介などが展示されていました。京都大学や大阪大学、理化学研究所など、医療やライフサイエンス分野のアカデミアが集積している強みを活かし、コロナ後も、より活発に活動を続けていくそうです。


関西で開かれる医療と介護の総合展では第1回から出展している関西広域連合のブース。
関西で開かれる医療と介護の総合展では第1回から出展している関西広域連合のブース。


いろんな医療現場を支えるものづくり技術

日本トムソン株式会社(東京都港区)では、リニアウェイやボールベアリングの技術を応用した細胞自動回収装置やマルチ網膜診断機、さらには手術用ロボットなどの医療機器に使われる製品群を出展していました。高速で高応答な位置決めを可能にしたリニアモータテーブルは、コンパクトなサイズ感と低メンテナンス、リニアによる高クリーンを実現していると言います。特に医療用として使われるために、特殊な潤滑剤を利用したメンテナンスフリー、高い耐食性と互換性が重要だそうです。


日本トムソンのCルーブリニアウェイという直動の案内レールは、小型でも安定した動作精度と剛性がある構造になっていて手術用ロボットなどに多く使われていると言います。
日本トムソンのCルーブリニアウェイという直動の案内レールは、小型でも安定した動作精度と剛性がある構造になっていて手術用ロボットなどに多く使われていると言います。


パラマウントベッド株式会社(東京都江東区)は、患者の状態を確認し、医療・介護従事者の業務の効率化を図ることのできるスマートベッドシステムを展示していました。これは、ベッドに寝ている患者の、呼吸・心拍・睡眠状態をセンシングし、その状態をナースステーションへ送るシステムだそうです。ベッドサイドの端末から、患者の生体情報を入力することができることで業務の効率化につながると言います。


パラマウントベッドのスマートベッドシステム。端末と連動し、患者の生体情報を管理できるベッドだそうです。
パラマウントベッドのスマートベッドシステム。端末と連動し、患者の生体情報を管理できるベッドだそうです。


東京の企業も出展していました。タマチ工業株式会社(東京都品川区)は、自動車部品や医療用機器の製作をしている企業で、試作レベルから製品化までレーザー加工機による微細加工が得意と言います。

株式会社青海製作所(新潟県新潟市)は2005年に医療用具製造業許可を取得し、2012年に医療機器製造業許可された企業で、今回はニッケルチタン製の薄肉加工や多軸複合・ひな形状の微細加工品などを出展していました。例えば、ステントと呼ばれる血管などを内側から広げる筒状の金属製器具をニッケルチタンで製作し、形状記憶合金の特性を活かした同社の技術になっているそうです。ステントは大動脈解離の治療などに使われていると言います。


微細加工の技術を活かし、医療用のものづくりをしている青海製作所の展示。
微細加工の技術を活かし、医療用のものづくりをしている青海製作所の展示。


大阪で開催された6回目になる医療と介護の総合展は、新型コロナウイルス感染症の影響で来場者が半減し、出展社も展示を取りやめるなど、大きな影響が見られました。しかし、中には興味深いものづくり技術があったのも確か。今後、開催される同展に期待したいと思います。


文/石田雅彦



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