日本版SBIR制度で中小企業のものづくりを支援、イノベーション創出のカギとなるか  横浜市発の事例から学ぶ(前編)

INTERVIEW

横浜市 経済局
中小企業振興部 ものづくり支援課
春日井 利宜
沖田 耕作

ものづくり、開発の資金をどのように得ればよいのか。新型コロナウイルス拡大で経済が冷え込むなか、開発費の捻出はものづくりの企業、開発に携わる者にとって大きな悩みでしょう。特に中小企業は、まだ海のものとも山のものともわからない研究開発に資金、人的リソースをまわす余裕がなくなります。どうすればよいのか。

米国が発祥の「SBIR(Small Business Innovation Research)制度」がカギになるかもしれません。政府はイノベーションにつなげるために制度見直しに取り組んでいます。今回は、全国のなかでも手厚い独自SBIR制度を持つ横浜市にフォーカスをあて、SBIR制度のなりたちや申請、活用のポイントを紐解きます。


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米国発のSBIR制度が次々と「ユニコーン」を誕生させた仕組みとは

SBIR制度は、米国でイノベーションを創出するために、1982年に創設されました。農務省、商務省、国防総省、エネルギー省庁など11省が参加してスタートアップの中小企業の開発支援を行っています。特徴は、年間外部研究開発予算が1億ドル以上の省庁に2.5%(2017年度以降は3.2%年)を拠出することを法律で義務付けていることです。日本円換算で約2,000億円を技術開発に投じています。

フェイズ1、2、3の3段階の選抜方式で先端技術の初期の不確かなアイデアの試作品を作ってもらい、「目利き」を可能にします。さらに、政府調達という形で政府が最初の顧客となり、政府に採用されたということで民間のベンチャーキャピタルを呼び込むことにつなげています。

また、課題を設定して産業のイノベーションにつなげ、選抜方式で「賞金」(SBIR award)を設定、科学者をベンチャー起業家へと誘導しました。有名なところではHIV感染予防薬開発で知られる製薬会社ギリアードや、掃除機ルンバのロボット開発会社アイロボットの研究開発、通信・半導体関連のクアルコム社など世界的会社のいくつもの革新的な「技術シーズ(種)」をユニコーン(評価額が10億ドル以上の未上場のスタートアップ企業)へと花開かせてきました。産業に大きなイノベーションをもたらし、米国の技術優位性の力になっています。


日本版SBIR制度の課題、「イノベーション創出」に貢献するためには

日本では、「中小企業技術革新制度(日本版SBIR制度)」として米国の制度を参考に16年後の1998年、中小企業等経営強化法に基づき導入され、翌1999年から施行されました。この時期、バブル経済が破綻し実質経済成長率がマイナスを記録、廃業率が開業率を上回るという厳しい経済状況下だったことが背景にあります。

この制度には総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省の7省が参画、中小企業等の研究開発を支援、新技術研究開発予算のうち、中小企業者向けの「特定補助金等」を指定しています。

予算としては、制度創設時には110億円(実績96億円、948社)でしたが、2018年度460億円(実績407億円2,053社)と増額しています。約20年間を積み重ねてきた日本版SBIR制度ですが課題もみえてきました。 中小企業庁などによると、現在の日本版SBIR制度では、イノベーション創出につながっていないといいます。

内閣府などによると、イノベーションには多様性が重要ですが、現在の制度では「特定補助金」が各省の積み上げになっているため、バランスが偏り、戦略的に実施されているとはいえません。また、初期段階に支援して、芽が出たものに支援を重ねていく段階ごとの選抜がイノベーションには重要ですが、初期段階のフィージビリティ・スタディ(FS)やプルーフ・オブ・コンセプト(PoC)の支援が手薄になっています。中小企業の経営強化には貢献してきましたが、イノベーションの創出にはつながっていないため、制度の見直しを検討しています。

このため、具体的には、現在の日本版SBIR制度の根拠規定を、中小企業等経営強化法から科学技術・イノベーション活性化法に移管するために、現国会で同法の改正法案が提出され、審議待ちになっています。改正法案が可決されれば、各省庁バラバラだった交付執行に関してルールを統一して利用しやすくするほか、これまでの特定補助金の積み上げ方式を変更し、予算をつけやすくします。

中小企業庁経営支援部技術・経営革新課課長補佐の南崎義徳氏は「新型コロナウイルス感染拡大で、研究開発投資が難しい状況ではあるかと思います。たとえ成果がすぐにでないとしても、開発投資が停滞すれば将来的に競争力を失うことになります」と制度を活用するなどした開発投資の重要性を説きます。


横浜市独自のSBIR制度の特徴と活用のポイント

横浜市のSBIR制度の前身は1984年に始まりました。当初は全国から問い合わせがあったそうです。SBIRと呼ぶようになったのは2005年です。助成対象としては、 ①開発可能性調査として100万円(助成算定額の3分の2以内) ②新技術・新製品開発にむけた応用研究として1,000万円(同) ③新製品の開発などとして1,500万円(同)となります。

横浜市経済局中小企業振興部ものづくり支援課係長の春日井利宜氏(右)と沖田耕作氏
横浜市経済局中小企業振興部ものづくり支援課係長の春日井利宜氏(右)と沖田耕作氏


2018年度から①の開発可能性調査の助成を新たに設置しました。横浜市経済局中小企業振興部ものづくり支援課担当係長の春日井利宜氏は「これまでの申請案件をみると、市場調査が不十分な事例が散見されました。調査不足で同様の製品がすでにあり、今から研究開発しても商品の優位性が保たれない。こうした事案は採択が難しい。このために初期のFSなども助成対象にしましたが、広報が不十分なのかまだ応募にいたっていません」と明かします。

評価のポイントを春日井氏に伺いました。「審査では、技術的価値、研究開発能力、事業性、市場性があるのかなどを評価します。プランニングはよくても実際実施できる体制、設備などを持っているかも評価対象です。事業性、市場性が煮詰まっているのか。こうしたニーズがあるから技術開発を行うといったストーリーを描けるかどうかもアピールのポイントになります」

審査に先立ち、専門の調査員が実際に会社を訪れ事業計画などの聞き取り調査を行います。そのやりとりを経て、審査会では調査員が説明、必要に応じて申請した会社の開発担当者が質問に答える形となります。

横浜市の制度では、開発の人件費も経費のなかで計上できます。ソフトウエアの分野では製造業と違って領収書ベースの経費でないことが多いのですが、この制度では人件費の時間の単価も経費として計上することができます。社内の人件費が計上できるのは、中小企業にとっては大きいことです。
 
「グローバル化が進み製造業は海外に拠点を移し、日本が本来、得意としてきた現場力を生かしたものづくりの強みが失われつつあります。お客さんにいわれたものを作るだけではなく、自分たちが開発した付加価値の高いものをビジネス化して競争力の強化につなげてほしい」 (春日井氏)

2020年度の事前相談は4月16日~6月12日まで、申請書の提出は同月18日までです。毎年、行ってきた説明会は5月14日に予定していましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止になりました。このため、動画をHPで流す予定にしています。


2020年度中小企業新技術・新製品開発促進助成金の申請スケジュール
2020年度中小企業新技術・新製品開発促進助成金の申請スケジュール


「経済が冷え込み、開発にお金をかけられない時期ですが、こうしたときだからこそ
この制度を使って開発に注力してほしい」と春日井氏。同課の沖田耕作氏は「厳しい時期ではありますが、ぜひ応募してほしい」と話しています。

横浜発の技術がユニコーンに成長することを目指し、ものづくりの拠点づくりを行っています。

次回は、この横浜SBIR制度に一昨年、昨年と2年連続で、「産業用の装着型下肢支持装置」開発で採択された株式会社ニットーの事例をご紹介します。



文/人物写真 杉浦美香


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