【対談企画】『TOKYOオリンピック2020と技術レガシー』野地秩嘉新連載に向けて(後編)

INTERVIEW

日本電信電話株式会社
常務執行役員 研究企画部門長
川添 雄彦

野地秩嘉氏の新連載『TOKYOオリンピック2020と技術レガシー』に先立つ企画対談の後編です。野地氏と、TOKYOオリンピック2020の通信技術をになう日本電信電話株式会社の川添雄彦氏による対談が進むなかで、光技術の可能性や東京オリンピックで登場する技術レガシーだけでなく、研究開発に対する想いまで語って頂きました。

「曲げられる光ファイバー」の普及がもたらす変化とは

野地:
 デバイスが光になり、高速になったら、さらに高度な処理ができるということですね。5Gとの関係はどうなるのですか?
 
川添:
 光の技術を使うとなると6Gですね、6Gの特徴として、光の技術をベースにした、新しい世界を生み出していくというのが今の私たちが考えるタイムスケジュールでしょうか。
 
野地:
 では、そもそもの話になりますが、光ファイバーというのはNTTの発明なんですか。
 
川添:
 光ファイバー自体はそうではありません。しかし、光ファイバーを柔軟に曲げる技術、遠くまで信号を飛ばす技術はNTTオリジナルです。それもあって日本は世界一の光ファイバー普及国になっています。
 これまでの光ファイバーってまっすぐ進むだけでした。しかし、NTTは光ファイバーを曲げるだけでなく、ひものように結ぶこともできるようにしました。
 
野地:
 それも大きな発明では。
 
川添:
 うちの研究者が長年かけてやってきたもので、光ファイバーのなかに無数の小さな穴を空ける。小さな空気の穴を空けて、その中にレーザーを通すと自由に曲がりながらきれいに伝搬できるという現象を発見したんです。これがあって光ファイバーは普及したのです。
 
野地:
 曲げたり、結べるようにしたのは何年くらいの話ですか?
 
川添:
  10年くらい前なのかな。


開発した光ファイバーはこの状態でも光信号を伝搬できる。
開発した光ファイバーはこの状態でも光信号を伝搬できる。


野地:
 町に電線がありますね。あれはすべて光ファイバーに変わるのですか。
 
川添:
 はい、すでに変わってきています。ただ、最後まで残る電線がある。それは家まで来る電線ですが、それをまだ電話サービスに使ってます。すべてが光ファイバーに置き換わるのは2024年くらいと計画しています。
 
野地:
 もうすぐですね。
 
川添:
 それは、ずーっと工事しているわけですから。

野地:
 光ファイバーでレーザー信号を送っているのは通信の会社だけですか?
 
川添:
 いえ、他社も使い始めています。たとえば三菱重工さんも使っている。
 いわゆるレーザー加工という技術がありますね。モノを切断したりする技術です。三菱重工さんはそこで光ファイバーを使っています。

 彼らは光ファイバーってまっすぐしかないと思っていたようで、うちの技術を見たときにびっくりしたそうです。
『光ファイバーって曲げられるんですか』って聞かれたので、『ええ、曲げられますよ』と。ただ、ビームの出力が非常に強い。それでも、実際に作ってみたら見事にいいものができた。

 たとえば原子力建屋の解体作業などは遠いところからレーザーを送って、切断しなくてはならない。しかし、これまでのレーザーではそれができなかった。ところが、NTTの曲げられる光ファイバーを使えば出力が大きいから長距離を飛ばすことができますし、柔軟に運用もできる。これを応用すれば自動車工場の穴あけ作業なども効率化できます。

 我々は通信のなかでしか技術を見ていなかったけれど、他の業界の専門家が見れば光の技術は彼らの仕事にも応用できる。
 
野地:
 なるほど、広範な研究をしていれば、他業種の専門家にとっても有用だ、と。では、たとえば自動車にワイヤーハーネスって電気のネットワークが積載されていますね。あれをすべて光ファイバーに変えたら軽量化できるのでは?
 
川添:
 確かにそうです。ほんとうに軽くなりますよ。
 実は今回、去年のR&Dフォーラムで出したのですが、かつて、電話機というのは、給電と電話が両方いっぺんにできたの覚えてますか?
 
野地:
 コンセントがひとつという意味ですか。
 
川添:
 はい、昔はコンセントではなかったけれど、1本の電線でやっていました。黒電話が一台あって、線がつながっていた。電電公社時代は電話機に給電もしていたから、電線が1本で済んだ。でも、今の電話機はコンセントとネットワークの線の2本が必要です。

 しかし、光ファイバーであればパワー伝送もできますから、パワー伝送と情報伝送を1本の光ファイバーでできるような電話機の試作機を作りました。ただし、家庭の中まで光ファイバーを敷設する必要はありますけれど。
 
野地:
 つまり、レーザー信号で動く電話機ですね。


談話中の日本電信電話株式会社 川添雄彦氏と野地秩嘉氏
談話中の日本電信電話株式会社 川添雄彦氏と野地秩嘉氏


60年近く技術者が引継いてきた光技術

川添:
 光の技術について、私の前任者がこの技術をある学会で発表したときに、満場の拍手と喝采を受けたんです。
「光のトランジスタができたのか?」って。みんな、信じられないといった表情だったようです。
 
野地:
 こういうことをNTTは世の中にもっと知らせないといけないんじゃないんですか。
 
川添:
 ええ、説明責任は私にあると思ってます。
 
野地:
 だけど、1960年代からずーっと考えてきたことがやっと60年経って、できたというのも根気のいる仕事ですね。60年間、研究開発をし続けるなんて、なかなか民間企業にできることではありません。
 
川添:
 それはもう感無量です。東京オリンピックを間近にしてですからね。
 
野地:
 60年といったら、3代ぐらい技術者が関わっているのですか?
 
川添:
 引き継いできたわけです。
 話は戻りますが、インテルも認めてくれて、一緒にやろうとなりました。それが「IOWNグローバルフォーラム」です。NTT、インテル、ソニーが発起人になって立ち上げることにしました。


光技術以外の東京オリンピックで披露する技術レガシーとは

野地:
 今うかがった光の技術だけでも、相当おもしろいのですが、技術レガシーになり得るものは他にもあるのですね。

川添:
 ええ、たとえば感動を共有する映像、前述した「Kirari!(きらり)」がそうです。それもまたオリンピックでお披露目する予定です。いかに感動を共有できるかということを目指す研究開発から生まれたもので、沖で行われるヨットやウインドサーフィンといった競技を砂浜で誰もが見て、感じてもらえるのがKirari!です。
 
野地:
 それから、たとえば。
 
川添:
 けっこうあるんです。たとえば、道案内のデータ収集とその提供です。車椅子に乗っているハンディキャップの方々がスムーズに会場まで行けるルートを提供します。
 これまでは車いす専用のルート案内ってないんですよ。道案内、乗換案内はあるけれど、車いすの方用のはなかった。車いすは微妙な段差があると、通ることができません。そういった道を避けながらルートを見出していくアプリケーションも開発中です。他にも、スマホのボディがシースルーになっているデバイスとか。
 
野地:
 シースルーのスマホですか?
 
川添:
 端末自体はパナソニックさんとNTTで一緒にやっていて、これまた会場で使う予定です。
 
野地:
 こうした研究をほかのキャリアがやらないのは、研究開発費や人件費にお金をかけるよりも、携帯電話の通信だけに特化しておいた方が利益率はよくなるからですか。
 
川添:
 他社のことは何とも言えません。しかし、それはそうかもしれません。
 
野地:
 NTTは、いわばおかずを作って売るのに、畑を作って、野菜を栽培して、それからおかずを調理する。
 一方、他社は野菜を買ってきておかずを調理して売る……。
 
川添:
 弊社は土壌やタネの開発からやっていますし、もっと言えば肥料の手当てもしてから野菜を作る会社です。
 
野地:
 変わった会社ですよね、簡単にいうと(笑)。
 
川添:
 でも、それはNTTが日本の企業を引っ張ってきたからだと思うんです。ところが、いつの間にかインターネットの上位のグーグルやアマゾンといった会社の存在が大きくなって、地道な部分が軽視されるような雰囲気になってきた。

 ですから、私たちはインフラをすべてゲームチェンジさせて、大きく伸ばすようなIOWN構想をやっていきたい。後世に残る技術レガシーはインフラのなかから生まれるからです。


研究開発への思い、「僕たちにしかできないこと」をする

野地:
 では、最後に、NTTの研究者であれば誰もが大切にしていることってありますか。
 
川添:
 はい、これです。「知の泉を汲んで研究し実用化により世に恵を具体的に提供しよう」。
電気通信研究所の初代所長の言葉ですけれど。
 
野地:
 吉田五郎さん。
 
川添:
 はい。世の中に恵みを具体的に提供しようというところが、大学の研究所とは違うところです。
 我々は具体化できるんだということを念頭に置いて、実際にじゃあ、どういう研究が必要なのかということを取り組んでいく。実際にあらゆる人に対して恩恵を与えることができたり、幸せな未来を作ることができるかというところが、大きな根っこでもあります。


NTT武蔵野研究開発センタにある吉田五郎氏の碑
NTT武蔵野研究開発センタにある吉田五郎氏の碑


野地:
 川添さんのところにいろんな研究員が、こういう研究をやりたいって来るわけですよね。そのときにどういう言葉をかけるのですか。
 
川添:
 私がもっとも重要視してるのは、「これは僕たちだけしかできないことなんだね」と。それを言い切った人間の研究ならば何でもOKです。
 
野地:
 光トランジスタみたいな。
 
川添:
 ええ。私たちがやることがバリューになるんだね。と。それに対して時間がかかったりとか、お金かかったりとか、そこは問いません。
 最初からお金と時間の話になったら、やる意味はなんなのっていうことになっちゃうんですよ。
 
野地:
 それはたとえば、研究員じゃなくても、NTT内の社員で、なにかやりたいって言ってきた人がいるとするじゃないですか。そのときは川添さんも、僕らしかできないことをやってくれと言うわけですね。
 
川添:
 もちろんです。そして、世の中の上司はみんなそういうべきです。営業のことだろうが、人事のことだろうが、製造のことだろうが、要するに他の真似はするな。自分たちにしかできないことをやれ。
 そういうことです。

野地:
 川添さん、言い切りましたね。




野地秩嘉(のじつねよし)
1957 年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。『トヨタ物語』『トヨタ 現場の「オヤジ」たち』がベストセラーに。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。近著は『スバル ヒコーキ野郎が作った車』(プレジデント社)。

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