車の内装に求められる、乗る人の心地よさに大切な機能とは?〜《林テレンプ:前編》部品の仕事(21)

野地 秩嘉(ノンフィクション作家)
野地 秩嘉
ノンフィクション作家

今回で第21回となる、1年近く連載を続けてきた野地秩嘉氏の『部品の仕事』。最後にご紹介する会社は、永きにわたって自動車内外装を手掛けてきた名古屋の林テレンプです。私たちが車に乗るたびに目にし、触れる、身近な“部品”である車の外装と内装。以前は単に“加飾”としてだけの内装が、近年、より具体的な機能を求めて開発されてきたと言います。今回は、車の内装部品の一つであるフロアカーペットの製作過程やその機能を伺いながら、「内装部品の仕事」を探っていきます。

 林テレンプは「自動車内外装のトータルサプライヤー」。
 内装品には国内シェアが約60%、グローバルシェアが約10%というフロアカーペットがある(2018年時点)。他に車の天井を覆うカバーであるヘッドライニング、ドア内側に付けるドアトリム、ドアオープニングトリム、ドアウェザストリップ、スカッフオーナメント……。そうしたもの全般と外装部品を開発してきた会社である。

 同社の沿革を見ると、名古屋市中区に履物問屋「林商店」を創業したのが1910年で、
1935年には「国内自動車産業の黎明期にその重要性・発展性に着目」して、「(車の)天井用生地2反を納入し、自動車業界に参入」したとなっている。

 社名にあるテレンプとは「綿糸を地糸に使用し、モヘア糸をパイル糸にした二重ビロード織物」のこと。耐久性が良いので電車のシートなどに広く使われていたという。

 さて、部品と聞くと、鉄やアルミでできたメカニカルな製品、あるいはエレクトロニクス、通信関係の製品が頭に浮かぶが、フロアカーペットなどの内装品もむろん立派な部品だ。

 実物を手に取りながら説明し、さらに研究室の隅々まで案内してくれたのは取締役主席執行役員で技術本部長の松浦昭博氏。化学工学を専攻し、同社に入社してからは内装品の開発を続けてきた。


車の内装部品、フロアカーペットを作ることとは

「うちがやっている内装部品はシートとインパネ(インストルメントパネルの略、計器盤)、コンソール以外のすべてです。自動車の床、天井、ピラー、トランクのなかも含めてやっています」

 内装部品は馬車の時代から存在したものだ。車の床が木材そのものであったり、金属がむき出しだったら乗り心地が悪い。住宅の床が石や土だったら、人が生活する場にならないのと同じだろう。

 馬車や初期の自動車の場合は木の床面の上にビニールのシートや布を敷いていた。適当な形に切断した布を複数、敷いていたのだろう。現在では繊維の敷物ではなく、繊維と樹脂を合体させた内装部品となっている。「敷く」というより、車内の凹凸に合わせて「部品をはめ込んでいく」ようになっている。

 松浦は言う。
「フロアカーペットは床面の全面を覆ってあるものです。床のパネル形状に合わせて成形してある部品で、車種ごとに形状は違います。ですから、はめ込むのです。

 現在、日本の乗用車の約50%は当社の製品になっています。会社のスタート時は布地などを扱い、商社として自動車メーカーに納めていました。それが自動車産業が成長するとともに部品もやったらどうかとなり、商社と部品メーカーと両輪みたいになったわけです」


林テレンプ株式会社 取締役兼主席執行役員 技術本部長 松浦昭博(まつうら・あきひろ)氏
1983年の入社以来、フロアカーペット、ルーフライニング、ラゲージトリム、ドアトリムなどの材料・工法開発、評価基準の設定や評価方法の開発などを担当。
林テレンプ株式会社 取締役兼主席執行役員 技術本部長 松浦昭博(まつうら・あきひろ)氏
1983年の入社以来、フロアカーペット、ルーフライニング、ラゲージトリム、ドアトリムなどの材料・工法開発、評価基準の設定や評価方法の開発などを担当。



 彼の記憶によれば、1960年代までの車の場合は、車の床面の形に合わせてカーペットを裁断し、縫い合わせて立体形状を作って「敷いていた」。

 その後、車の内部形状に合わせたカーペットを成形し、そこにフェルトのような繊維を貼り付け、できあがったもの全体を「はめ込む」ようになったという。これは単純なことだけれど非常に大きな進歩だ。断熱性が高まり、また、隙間がなくなったわけだから、外部の音を遮断しやすくなったのである。

「フロアカーペットの材質は基本的には石油由来の合成繊維で、一部に防音材として木綿、ウールのような洋服の再生品、端きれが入っています。
 過去のことで言えば、麻のような天然繊維を使ったりしたこともあったのですが、結局、値段の問題で今は合成繊維が主流です」

 フロアカーペットを例にとって彼らの仕事を解説すると、こうなる。

 まず、開発対象の車の図面、仕様を知る。どういった車なのか、どれくらいの大きさなのかなどの詳細を調べる。そうして開発、設計が始まる。車種のサイズに合わせてフロアカーペットのデザイン、材質を決める。

 デザインには「加飾」、すなわち色を決めたり、柄を入れたりという美的な意味もある。次に、車のサイズにあわせるという正確性も必要だ。

 材質はさらに重要だ。フロアカーペットに仕上げる場合の吸音材、遮音材、断熱材の開発がある。そして、カーペット生地については「こういう繊維でこういう構造でこういう物をつくってくれということを要求し、材料メーカーさんに作ってもらいます」(松浦)。

 布地に関しては林テレンプが織ったり、編んだりすることはほぼない。
「当社には生地のプロがいます。あくまで一部ですけれど。そして、フロアカーペットの格好に仕立て上げて、上手に立て付けをする。難しいんですよ、フロアにすき間なく敷き詰めるというのは。そうした設計の力であり、あとは図面どおりに生産する製造技術がいります」


フロアカーペットで重要な防音機能

 日ごろ、私たちは車のフロアカーペットを気にしたことはない。家にあるのと同じようなカーペットという認識しかない。目にしてきれいで、かつ、断熱、保温、防炎といった機能を持つんだろうな、くらいのことしか考えていない。

 しかし、自動車のフロアカーペットは自宅のじゅうたんとは違う。何と言っても車は動くものだ。当然、さまざまな音が発生する。風切り音、タイヤのロードノイズ、雨が降れば天井を叩く雨音……。
 フロアカーペットに止まらず、天井やドアトリムなどの内装部品で、今やもっとも求められているのは静粛性だという。

 松浦は言った。
「加飾性はもちろんですけれど、今、求められている機能は防音性能です。車における音がうるさくないように感じる機能を司るのは主として内装部品なんです。

 なんといっても、車の表面は鉄です。鉄のなかに乗って動いているわけです。もし、内装部品をすべて取り払って車に乗ったら、うるさくてしようがない、鉄は吸音しないから。

 そこで重要なのが防音性能、静粛性です。なんといっても静粛性は、よくなっていくと、もう後戻りができない性能ですからね。ひとたび、静かになったものが少しでもうるさくなったら、すぐに、みなさんが気づくでしょう。

 静粛性を高めるために必要なのは、まず、すき間なく設計すること。それから、材料そのものの厚み、吸音材、遮音材の配置を含めた開発と設計です。

 そうして、設計は車種ごとに違ってきます。車両全体の性能を考えて開発をやっているわけですから。例えば、『次の車はさらに防音性能を向上させる』と決まれば、現在のものよりも厚みを上げるとか、もっと性能のいい吸音材を入れるといった方向に変わってきます」


自動車の内装は今、加飾以上に防音性能が求められている。
自動車の内装は今、加飾以上に防音性能が求められている。


内装品で車外と車内の音をコントロールする

 遮音材、吸音材という言葉が出てきたが、いったい、両者はどこに違いがあるのか。

 松浦は丁寧に教えてくれた。
「遮音材は、音が来ないようにとめる壁なんですね。重いプラスチック、もしくはシートが材質です。吸音材は、音が入ってきたら、なかで減衰して消えていくもの。文字通り、音を吸収してしまう。材質はポーラス(多孔質)、つまり繊維、発泡体でできているものです。

 住宅では壁のなかにグラスファイバーの吸音材が入っています。これは断熱材も兼ねています。吸音材と断熱材って、ポーラスな形態が似ているからです」

 車の床面に直接、触れる層は吸音材のウレタンやフェルトだ。その次が遮音材のプラスチック。さらに上に載るのが私たちが足を載せる合成繊維の層。つまり、フロアカーペットはおおむね3層からできている。他の内装品でもこうした3層構造になっていることが多い。

 遮音性能、吸音性能は重要ではあるが、単に音を遮ったり、音を吸収すればいいというものではない。

 車内では会話がある。また、携帯で外部と連絡することもある。コネクティッドカーであれば車内スピーカーでオペレーターと話をしなければならない。カーオーディオで音楽を聴くことも、カーライフではむろん重要だ。

 車外の音はなるべく遮音、吸音し、車内の音はクリアに聞こえるという具合に、音をコントロールしなければならない。

 フロアカーペットなどの内装品はただ、そこに、はめ込んであればいいというものではない。今では音を調節するための機能を持っていることが重要になっている。
 そのため、松浦たち開発陣は音の研究に力を入れている。



車の内装部品、それは車に乗る人の心地よさのためのもの

 松浦は「ええ、いろいろ研究は進めています」と語った。

「面白いことに、地域によって、人種によって、うるさいと感じる音の周波数域が違ってきたりするんです。言語の違いもあるのでしょう。例えば言語に子音が多いような地域、欧州がそうですけれど、そういう地域ですと高周波を、うるさいと感じるようです。

 高周波とは高い音で、高い音が混ざると会話がしにくいようです。一方、日本人はどちらかといえば低い音で話しているので、高い音が来てもかぶらない。そこで、聞こえやすい。

 音の性能指標に会話明瞭度というのがあります。要は、会話の周波数域の防音性がすぐれていると、会話が通りやすいからいいとされるのですが、厳密には、日本人と欧米人ではズレが生じるようです」

 これは車内の会話についての話だが、車外の音でも地域性がある。それは各国の道路事情が関係してくる。

「新興国で道路事情がよくないところを走る車と日本の道路を走る車では聞こえてくる音が違う。当たり前ですよね。そうすると、新興国向けの車では、日本仕様よりも、ロードノイズ対策を重視しようとなる。つまり、フロアカーペットに防音材をいくらか多めにしたりするのです。

 車の部品とは車の性能を向上させるものが多いというか大半です。しかし、オーディオとか私どもが作っている内装部品は車に乗る人のためのものです。心地よさのための部品とも言えます。

 我々は人間がいかに快適になるかを考えて、内装部品をどう配置すればいいか、さわり心地、見た目の色、それから防音性能、みんな人の感じ方を追求して開発しています」

 もうひとつ、松浦が指摘したのは内装部品とは乗っている人が毎日、見る部分であり、触れるところでもあることだ。
 新型コロナウィルスが猛威を振るっている現在、とたんに話題になるのが内装品の抗菌性能である。

「はい。すべての車とは言いませんが、一部はそういう性能が要求され、以前からやっている車種もあります。それから、必ず触る場所に抗菌剤を入れたわけです。抗菌だけでなく、消臭についても提案されたことがあり、それもいれたことはあります。
 抗菌性能とは樹脂のなかに抗菌剤を練り込む。金属系の触媒です、ほとんどは。

 消臭と少し似ているのが揮発成分に対する対策です。いわゆるホルムアルデヒドとかトルエンのような有害な揮発成分です。住宅では使ってはいけないという規格がありますが、車も同じです。どの車も有害な揮発成分が出ない部材を使っています」


《後編に続く》


野地秩嘉(のじつねよし) 
1957 年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。『トヨタ物語』『トヨタ 現場の「オヤジ」たち』がベストセラーに。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。近著は『スバル ヒコーキ野郎が作った車』(プレジデント社)。


▽連載『部品の仕事』シリーズ一覧
  1. 日本精工(NSK)「ベアリング」前編 / 後編
  2. BOSCH「二輪車用ABS」前編 / 後編
  3. GSユアサ「自動車用バッテリー」前編 / 後編
  4. NTT(日本電信電話)「コネクテッドカー」前編 / 後編
  5. 村田製作所「車載センサー」前編 / 後編
  6. ブリヂストン「トレッドパターンデザイン」前編 / 後編
  7. 矢崎総業「ワイヤーハーネス」前編 / 後編
  8. クラリオン「カーオーディオ」前編 / 後編
  9. エフ・シー・シー「クラッチ」前編 / 後編
  10. ソミック石川「ボールジョイント」前編 / 後編
  11. 林テレンプ「内装部品」前編 / 後編
▽番外編・特別編

 

 

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