ボールジョイントは自動車の関節、壊れてはいけない部品〜《ソミック石川:前編》部品の仕事(19)

野地 秩嘉(ノンフィクション作家)
野地 秩嘉
ノンフィクション作家

野地秩嘉氏の連載『部品の仕事』第19回は、ボールジョイントなどの自動車部品を扱う浜松のソミック石川です。どんな車にも必ず装備されているボールジョイントは、タイヤとサスペンションアームの間で関節のように働き、路面からの衝撃や振動を吸収する、言わば事故を起こさないために壊れてはいけない部品です。今回は、ボールジョイントの基本的な役目から、設計ノウハウまで伺うなかで、「走っている車の数だけ売れる部品」の仕事に迫ります。


ソミック石川の、ボールジョイントとダンパー

 ソミック石川は浜松に本社機能を置く自動車部品の会社だ。
 主な製品はボールジョイントとダンパー。といっても、「何それ?」と思う人がほとんどだろう。自動車部品のなかでもタイヤ、トランスミッションなど、名称を聞けばすぐに形が頭に浮かぶものもあれば、ボールジョイント、ダンパーのように、車に詳しい人でなくては何かわからない部品があるということだ。

 ボールジョイントは金属の丸い球に棒を付けたスタッドとそれを包み込む金属製ソケット、そして、スタッドのカバー(樹脂製)からできている。


ボールジョイントの機能と部品
ボールジョイントの機能と部品


 タイヤとサスペンションアームの間にあり、タイヤが路面に合わせて上下動したのに連れて、ボールジョイントも動く。タイヤと車体をつないで支え、路面からの衝撃や振動を吸収する。また、ハンドルからの動作をタイヤに伝え、進行方向を変える役目もある。

 もうひとつの主製品ダンパーは自動車のさまざまな箇所で使われている。例えばシートの座面と背もたれをつなぐ部品では、走行時にはシートへの振動の伝達を吸収したり、シートの折り畳みや跳ね上げる時の急な速度を調節する。ダンパーがないと、シートが急速度で跳ね上がったりするから、操作する人間が顔を打ったりすることがある。この場合、ダンパーはシートの背もたれの運動を制御する部品だ。

 いずれも複雑な製造工程が必要な部品とは思えないが、ボールジョイントはどんな車にでも必ず装備される。言い方を変えれば、走っている車の数だけ売れる部品だ。

 そして今回はそのボールジョイントについての話である。
 同社の場合、ボールジョイントのシェアは国内が56パーセントで、世界シェアは16パーセント。

 しかし、わたしの最大の疑問はそれほど複雑な工程を経た部品ではないのに、なぜ他社は参入、あるいは追随してこないのか。
 また、同社の競争力の源泉はどこにあるのかということだ。


自動車の関節として働くボールジョイント

 インタビューに答えた斉藤要は取締役でボールジョイント事業本部長。
 元は完成車メーカーで設計部長だった。部品を仕入れる側だったが、「部品開発の現場に行きたい」と移ってきた。車が好きで、自動車会社に入り、今度は部品が好きになったのだろう。

 斉藤は言う。
「ボールジョイントは単純な部品のように思われていますが、たとえば、これがなければ、サスペンションが上下しなくなってしまう。人間でいえば関節を固定したことに近い。タイヤが上下するのに合わせて関節でもあるボールジョイントが動いて、路面の振動、衝撃を吸収します。
 一方で、ハンドルの動きをタイヤに伝える時も関節の役目を果たします」

 元々、ソミック石川は織機のボルト、ナットの製造から出発している。その後、自動車に使う、ねじの製造を始め、ねじの発展形とも言えるボールジョイントの製造を始めた。いずれも鍛造品だ。

 ボールジョイントのまわりにはサスペンション系の部品がいくつもある。たとえば、ボールジョイントが腕の関節だとすれば肘(ひじ)の骨、上腕部の骨にあたるような細い金属製の部品だ。このうち、ソミック石川が作っているものもあれば、そうではないものもある。

 素人はつい、次のように考えてしまう。
「会社の成長のためには製品の種類を増やしていけばいい。それならばタイヤとハンドルをつなぐ部品で、そのうち鍛造技術を使える金属部品を作ればいいじゃないか」

 そう伝えたら、斉藤は「そう簡単なものではありません」と答えた。

「技術的には可能です。しかし、部品はすべての製品がカーメーカーさんの設計によって配置が決まっているんです。つまり、設計はカーメーカーの設計部です。そして、どの部品もそれぞれスペシャリティを持った会社が昔から作っています。それぞれ独自の技術がありますから、表面上は真似ができても、同じ性能や耐久性を出すのは簡単なことではありません。

 うちがやっているボールジョイントに関しても同じです。表面上の真似はできても、同じ性能のモノを作るのはできないのです。それに、ボールジョイントは自分たちで設計して、自分たちで寸法を出すことができる部品です。カーメーカーさんからの要求だけではないところに技術開発の喜びがあるのです」

 要は、どれほど小さな部品であっても、長年、その会社が持っている独自の技術があれば他社はなかなか参入できない。長年の経験と独自の技術が競争力であり、連結している部品だからといって、同じ性能のモノを作るには時間と費用がかかる。

 逆に言えば、部品会社とは独自の技術がなければ存在できない。部品会社は何よりもまず独自の技術を持つしかない。


株式会社ソミック石川 取締役 専務執行役員 ボールジョイント事業本部長 斉藤要(さいとう・かなめ)氏
1962年生まれ。1984年自動車会社へ入社しシャシー設計に従事した後、2016年ソミック石川へ転職。技術・品質担当の後、2019年ボールジョイント事業の責任者となる。
株式会社ソミック石川 取締役 専務執行役員 ボールジョイント事業本部長 斉藤要(さいとう・かなめ)氏
1962年生まれ。1984年自動車会社へ入社しシャシー設計に従事した後、2016年ソミック石川へ転職。技術・品質担当の後、2019年ボールジョイント事業の責任者となる。



壊れてはいけないボールジョイントを作る技術

 斉藤は「当社の独自の技術とは壊れないこと」と断言した。

「つまらない回答になるかもしれませんが、うちの製品はとにかく壊れないんです。悪路走行などをして、ボールジョイントが壊れたとしましょう。すると、タイヤの向きが変わり、さらに、ボールジョイントが抜けてしまうと、タイヤがハの字になってしまう。タイヤの下の部分が広がってしまいます。そうするとブレーキをかけても、タイヤが接地していないので車が止まらなくなります。また、ハンドルを切って向きを変えようと思っても進路を変えることができないので、事故になる。

 当たり前すぎてつまらない回答なんですが、ボールジョイントは絶対に壊れてはいけない部品です。まあ、どの部品も壊れてはいけないのですが、なかでも壊れてはいけないものです」

 斉藤は実物を手に取り、わたしに示しながら説明を始めた。

 ——ボールジョイントはすべてが金属でできているのではなく、スタッドの部分には球体を覆う樹脂製カバーがある。カバーのなかの球体の表面には潤滑油が塗ってあり、ソケットに包み込まれている。潤滑油があるからこそスタッドはソケットのなかでスムーズに動く。

「どういう状態がボールジョイントの破損につながるのかを説明します。
 まず、カバーが切れてしまい、中に水が入る。すると、球面が錆びてしまい、ソケットの金属を削ってしまう。そのうちに球体がソケットから抜けてしまうという構図になります。そういうことを起こさないようにするために、大切なのがカバーの役割で、これは単純に見えますが、こだわりがある製品なんです。

 うちの製品のカバーはほとんどすべてNOK株式会社さんのものです。海外の工場でもNOKさんに進出いただいて使っています。見た感じは他の会社製のカバーとほぼ同じなのですが、耐久性がまったく違います。

 簡単に言えば、普通の使用状態では表面が切れないような製品なんです。また、うちのスタッドは釣り鐘型になっているので、カバーはかぶせにくい。その代わりになかなか抜けにくいようになっている。ここが設計の重要なところなんです」

「設計の秘密をわたしに話してしまっていいのですか」と聞いたら、齊藤は「いや、見ればわかるくふうです。しかし、真似するのは簡単ではありませんから」と言った。

 続けて、「ボールジョイントはタイヤの内側にあるから水がかかりますし、小石も飛んできます」。

 ——雨が降れば水が当たるし、水たまりのなかを走れば、水中にあるのと同じだ。ボールジョイントは過酷な環境にありながら、壊れてはいけないという部品である。

「少なくとも10年は持ちます。車の使い方にもよりますけれど一般走行の車でしたら10年はまったく問題ありません。逆にそれより短い期間に破損してしまうようなボールジョイントはダメです」

 斉藤の話では同社のボールジョイントが競争力を持っているのはスタッド(球体部分)の構造、カバーと潤滑油の品質にある。

 球体の構造だけれど、同社のボールジョイントの形状は釣り鐘のように鐘の真ん中が膨らんでいる。そのためカバーをかぶせる時に、カバーの口を引っ張って広げなくてはならない。だが、その分、装着した時に抜けにくくなる。もし、全体が弾丸のような形だったら、かぶせやすいけれど、抜けやすい。

 以前、部品業界では、弾丸のような形のボールジョイントが多かったが、その時はカバーをかぶせた後、被覆した金属線などで根元を縛っていた。ただし、それでは針金が腐食したら、カバーがズレて内部に水が入り込んでしまう。さらに、製造する時にいちいち、根元を縛らなければならないから作業の手間が増え、製造コストがかかる。

 ソミック石川ではスタッドを釣り鐘型にして、被覆した金属線で縛っていない。
「なーんだ」と思うかもしれないけれど、このカイゼンに価値があるという。

 なぜなら球体の形を変えればそれで済むわけでなく、装着したら抜けることのないようにカバーの材質、形状を一から開発しなくてはいけないからだ。しかも、カバーには少なくとも10年以上、破れない耐久性もいる。

 同社がカバーをNOK製に決めたのは長い時間、一緒に開発をしてきたからだろう。ボールジョイントはソミック石川とNOKのチームが作った部品とも言える。

 斉藤もうなずく。
「ええ、おっしゃる通りです。その部分が一番大事です。スタッドと樹脂のシート(カバー)で決まります。
そして、それに劣らず大事なのがスタッドとソケットの間に入っているグリースです。グリースが不足してくると、潤滑状態を保てなくなくなり、金属同士が当たり始めて、削って抜けてしまう。樹脂シートに加えて、潤滑を切らさないというのがプロのわざ、設計になります」



球面部分の設計ノウハウ

 ここからは専門的な話になっていくのだが、スタッドの球面部分の設計は大事だ。そして、ここまで来るまでに失敗もあったという。

 斉藤は「いろいろ経験しています」と言った。

「球面の設計については、何回か失敗を乗り越えています。リコールも経験したことがあるのですが、実は、ぴかぴかにすればするほどダメになっていくんです。球面はある程度まで粗くすればグリースは載ります。

 ぴかぴかにするとグリースを保持してくれなくなるから、ある程度の凸凹が欲しい。ショットピーニングという表面に小さな球をぶつけて、凸凹を作る処理などをした方がグリースが載ります。ただし、凸凹があまり大きくなると、今度はカバーの樹脂を削り始めるので、あくまで小さな凸凹でないといけないのです。

 あのう、表現は卑近ですけれど、ラーメンでも、縮れ麺かストレート麺かでスープの保持が違いますでしょう。それと同じで、表面に凸凹がある方がいいんです」


《後編に続く》

野地秩嘉(のじつねよし)
1957 年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。『トヨタ物語』『トヨタ 現場の「オヤジ」たち』がベストセラーに。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。近著は『スバル ヒコーキ野郎が作った車』(プレジデント社)。


▽連載『部品の仕事』シリーズ一覧
  1. 日本精工(NSK)「ベアリング」前編 / 後編
  2. BOSCH「二輪車用ABS」前編 / 後編
  3. GSユアサ「自動車用バッテリー」前編 / 後編
  4. NTT(日本電信電話)「コネクテッドカー」前編 / 後編
  5. 村田製作所「車載センサー」前編 / 後編
  6. ブリヂストン「トレッドパターンデザイン」前編 / 後編
  7. 矢崎総業「ワイヤーハーネス」前編 / 後編
  8. クラリオン「カーオーディオ」前編 / 後編
  9. エフ・シー・シー「クラッチ」前編 / 後編
  10. ソミック石川「ボールジョイント」前編 / 後編
  11. 林テレンプ「内装部品」前編 / 後編
▽番外編・特別編

 

 

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