いい製品を作り納入して終わりではないカーオーディオ〜《クラリオン:後編》部品の仕事(16)

野地 秩嘉(ノンフィクション作家)
野地 秩嘉
ノンフィクション作家

『部品の仕事』第16回は車載エレクトロニクスに特化した会社クラリオンの後編です。前編に引き続き、カーオーディオにおける音のチューニング方法、同社が提供する「フルデジタルサウンド」の特性やユーザーにもたらす効果をお伺いしました。更に、インタビュー後に野地氏がデモンストレーション・カー試乗し、ユーザー起点の「部品の仕事」として創られた音像環境を体感した様子もご紹介します。


製品そのものの質を上げるだけでなく、内装、取り付け、さらにチューニングがいる部品

 クラリオンがやっているカーオーディオという自動車部品は単にいい製品を作って、納入して終わりというものではない。内装材の整備や音のチューニングまでやらなければ「部品の仕事の完成」とはならない。
 
 そして、音のチューニングという仕事は単に機器を操作することだけではない。完成車の一部を改造することも音のチューニングの一部だ。

 武藤さんの説明だ。
「みなさん、ノイズキャンセリングという言葉を聞いたことはありますか?
 スピーカーを横から見た絵を想像してください。スピーカーの場合、音は前からだけでなく、後ろからも出ています。前から出ている音と、後ろから出ている音が混ざってしまうと、ある種の音が消えてしまうという特性があるんです。

 その特性を生かしているのがノイズキャンセリング。自宅で実験するとよくわかるのですが、スピーカーのプラスとマイナスの端子ありますよね。わざと片方のスピーカーのプラスとマイナスの端子を逆につけてみて、両方のスピーカーを鳴らすと、妙に居心地の悪い音になります。低音が消えてしまい、チャカチャカした部分が残るんです。なので、スピーカーは前に出る音はきちっと前に出してあげて、後ろから出てる音を箱の中に閉じ込めるのが大前提なんです。

 さて、ここで話は車に戻ります。車のドアは完成されています。一枚の大きな鉄板です。外国製の車で、ドアのなかの部品を整備しやすいようにたくさん穴をあけているものがあります。すると、スピーカーの後ろから出てくる音がその穴を通じて、前に出てきてしまうので、音が悪くなってしまいます。その場合は穴を埋めるための加工をしなくてはならない」

 つまり、音のよさを求めれば求めるほど、部品の質を高めるだけではなく、本体の車の構造をよく知っていなくてはならない。

 では、改造までしなくとも、最初から音がよく聴こえる車はあるのだろうか。

 ガウディが設計したバルセロナのサグラダ・ファミリアは教会の建物それ自体が楽器をイメージしたと言われる。
 同じように、車の車体自体が楽器のように「よく鳴る」車種はあるのだろうか。

「セダンはいいですよ。また、高級車、スポーツカーのような走りをよくするために剛性のある車は音がいいです。つまり、余計な振動音とかが出ません。ツードアのクーペも悪くない。ワンボックスになってくると、車種によります。高級車であれば、お金をかけてドアを作っていますから、条件はいいです。ドアが薄い車はやはり余計な音がするので、よくないですね。

 ただ、軽自動車やコンパクトカーでも、ドアの穴をふさいだり、ドアの剛性を上げたりといった処理をすれば、びっくりするくらい、音はよくなります。それもドアだけでなく、屋根やトランクといった、一見、オーディオとは関係ないようなところも処理をすればオーディオルームになってしまいます。

 私自身の体験ですが、ワイヤハーネスも交換しました。電気をよく通すために交換したんです。ホームオーディオでもステレオからコンセントまでのコードを取りかえる方がいるでしょう。あれと同じです。音はよくなります。

 そして、いよいよ車のチューニングです。システムを入れて、ドアの穴をふさぐなどの処理をして、最後に僕らのようなエンジニアが出かけていってチューニングすることもあります。
 今は高級車であれば、ほぼ出荷前にチューニングをやっていると思います。

 ただ、純正オーディオのチューニングとアフターパーツとしてオーディオシステムを入れた場合のチューニングはちょっと違う。アフターパーツとしてのオーディオシステムはフルオーダーメイドです。つまり、お客様がいちばん好きという音に作り込んでいくことができる。個人の音の好みで作ることができるわけです。

 ユーザー満足度に対して点数を付けるとすると、フルオーダーメイドは100点満点と言えます。純正オーディオも素晴らしい。しかし、満足度ではどうしても90点くらいになってしまう。音の好みは人それぞれ違うので全員が満足する音にすることがすごく難しいんです。ただ、純正オーディオでも昔は調整しないものもありましたから、昔よりは音は格段によくなってきています」



クラリオン株式会社 Immersive Sound Development #2 武藤 慧氏
クラリオン株式会社 Immersive Sound Development #2 武藤 慧氏


音響の劣化を限りなく最小にしたフルデジタルサウンド

 クラリオンが現在、販売しているカーオーディオは「フルデジタルサウンド」。車載用では世界で初めての技術だ。
 むろん、これまでも音源からはデジタル信号が出ていたが、途中のDA(デジタル、アナログ)コンバーターでアナログ信号に変え、電流を流してスピーカーを振動させていた。アナログになった時点で消えてしまう音もあり、音質は劣化したのである。

 それが、同社のフルデジタルサウンドでは音質の劣化は限りなく少なくなった。

 武藤さんは丁寧に説明する。
「今までのスピーカーはデジタル信号をアナログ信号に変換し、音を出していました。
 弊社の「フルデジタルサウンド」は、デジタル信号のままスピーカーを駆動させることができる独自方式です。

 加えて、このスピーカーは見た目は一層構造に見えるのですが、6個の信号が入る特殊な構造になっています。

 よくお客さまには『アンプはどこにあるのか』と聞かれるのですが、これはアンプで増幅したものではなく、独自の信号の入れ方でボリュームをコントロールしているものなんです。スピーカーの位置の動きを振動に置き換えているとも言える。

 ホームオーディオではすでに存在する技術ですけれど、弊社は車載LSIを独自で開発して、車載に最適なフルデジタルサウンドを実現しました」



フルデジタルサウンドシステムの概念図(Clarionのウェブサイトより)
フルデジタルサウンドシステムの概念図(Clarionのウェブサイトより)


 思ったのだが、フルデジタルサウンドのシステムでは、豊かな音を出すだけでなく、走行音を軽減する技術などもあるのだろうか。

「走行中の音とはつまり、エンジン音とタイヤ音です。そうすると、極論すれば低音域、低音の部分というのがどうしても聴き取りにくくなってしまいます。ですから、私たちがチューニングする時には少し低音の部分を強調します。それは走った時を想定しているからです」

 では、次に今後増えていくEVの場合はどうなるのだろうか。

 武藤さんの答えである。
「EVであれば確かにエンジンの音はなくなります。ですが、タイヤのノイズは減りません。弊社ではEVを使ってもテストしていますが、車内の音響に関してはエンジンノイズよりはロードノイズのほうが影響は大きいと実感しています。

 エンジンの音というのは、走っていると意外と気にならないんですよ。高級車やハイブリッドカーは感覚としてエンジンがかかっているのは感じますけれど、決して不快ではない。やはり、気になるのはロードノイズなんです。

 そのため、いい音にしようと思ったら、ノイズが少ないタイヤに付け替えるという手があります。実際、私自身、ロードノイズが少ないタイヤに付け替えて走っています(笑)。それくらい、車内の音響に気を配る立場でもありますから」



コネクティッドカーにも対応のサウンドシステム

 EV化に次いで、今後はコネクティッドカーが増えてくる。そうなると、オペレーターの声もまた音質がよくなる。
 では、車内で聴く音楽を始め、さまざまな音がクリアになり、さらにいい音質、音像になるとユーザーにとってはどういったメリットが生まれてくるのか。

「マニアの人たちも含めてですけれど、人間は音質のいい音を聴いていると、ほっとします。ストレスが軽減されるため、気持ちがよくなる。たとえば、昔の車に乗って、音がよろしくないスピーカーでラジオを聴いたとします。今のユーザーさんは長い時間はもう聴いていられないんですよ。音楽でなく、落語でもプロ野球中継でも、一度、音質のいい音を聴いてしまうと後戻りできなくなります。

 弊社のサウンドシステムを通すと、コネクティッドでもラジオの番組でも基本的には全部、システムを通すので、音はよくなります。

 そして、ストレスが軽減すると、何がよくなるかと言えば、気持ちがゆったりとするから安全運転につながるのではないでしょうか。毎日、聞きにくい音を聴いているよりも、自分が望んだ音を聴きながら通勤するのではまったく違ってくると思います」

 インタビューをした後、武藤さんがチューニングした音を聴くために駐車場へ行き、止まっている状態でさまざまな音楽を流してもらった。車は日産のエルグランド。室内は広い。そして、音楽を聴くためにはエンジンをかけなければならない。武藤さんが言ったように、車のエンジン音というのは意外に気にならない。アクセルを思い切り踏めば別だろうけれど、アイドリング音は大きなものではない。

 武藤さんの話の後、実際にデモンストレーション・カーに乗り込んで、フルデジタルサウンドを鳴らしてもらった。

 オーケストラの演奏を流してもらい、目をつむって、耳を澄ますと、確かに微細な音がちゃんと聴こえる。また、MISIAの『everything』ではボーカルのかすかなブレス(息継ぎ)音も再現される。

 さらに、音像を明確に体験するために運転席と助手席でクラシック、ジャズ、ポップスを聴いた。運転席で聴く音像になっていたので、運転席に座ると、そこはもうコンサートホールの客席と言っていい。

 クラシックの壮大な音楽を聴いていると、ストレスが軽減するどころか、全身が音楽に浸るという体験空間なのだ。
 音がよくなることはいいことだ。だが、一度でも、いい音質、音像を体験してしまったら、従来のサウンドシステムの音が貧弱に聞こえてならない。音楽好きの人がサウンドシステムを取り換えてしまうことに十分、納得した。



デモンストレーション・カーでの様子
デモンストレーション・カーでの様子



野地秩嘉(のじつねよし) 
1957 年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。『トヨタ物語』『トヨタ 現場の「オヤジ」たち』がベストセラーに。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。近著は『スバル ヒコーキ野郎が作った車』(プレジデント社)。



▽連載『部品の仕事』シリーズ一覧
  1. 日本精工(NSK)「ベアリング」前編 / 後編
  2. BOSCH「二輪車用ABS」前編 / 後編
  3. GSユアサ「自動車用バッテリー」前編 / 後編
  4. NTT(日本電信電話)「コネクテッドカー」前編 / 後編
  5. 村田製作所「車載センサー」前編 / 後編
  6. ブリヂストン「トレッドパターンデザイン」前編 / 後編
  7. 矢崎総業「ワイヤーハーネス」前編 / 後編
  8. クラリオン「カーオーディオ」前編 / 後編
  9. エフ・シー・シー「クラッチ」前編 / 後編
  10. ソミック石川「ボールジョイント」前編 / 後編
  11. 林テレンプ「内装部品」前編 / 後編
▽番外編・特別編

 

 

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