「未来の車の形」を考える!作家・野地秩嘉による「東京モーターショー2019」取材~部品の仕事(番外編)〜 (2/2)

大人の心を持った大人たちに人気だった展示

野地 秩嘉(ノンフィクション作家)
野地 秩嘉
ノンフィクション作家

大人の心を持った大人たちに人気だった展示

 一方、大人たちが長蛇の列を作り、熱い視線を送っていた展示は何だったか。
見た人によって異なるだろうけれど、わたしが見た限りで言えば、もっとも注目を集めていたのはレクサスのEVコンセプトカー、「LF-30 Electrified」だと思う。全長5,090mm×全幅1,995mm×全高1,600mm。最高速度は200km/hでEVとしての航続距離は500km。0-100km加速は3.8秒。
 EVとしてはスタイリッシュで、スーパーカー並みの性能である。


レクサスLF-30 Electrified
レクサスLF-30 Electrified


 しかし、大人が熱い視線を送っていたのは高性能だったからではない。おそらく会場内に置かれた市販されるであろう車のなかではもっとも高額になるに違いないEVだったからだ。現行のレクサスでも高い車は1,300万円以上にはなる。LF-30 Electrifiedは少なくともそれよりはかなり高額になるだろう。

 そう、大人の心を持った大人は金額が高い車が好きだ。
 大人にとっての夢および未来とは金持ちになること。ただし、普通は夢はかなわない。まず金持ちにはならない。金持ちにならないからこそ、高い車をせめて夢として見てみたい。息苦しくなるくらいの渇望がそこにある。

 今回のモーターショーにはスーパーカーを出す会社、フェラーリもランボルギーニもポルシェもアストンマーチンも出品していない。しかし、高級車メーカーこそ世界各地のモーターショーに高額な車、夢の車を出すべきだ。どんどん高い車を大人に見せるべきだ。

 近頃、発表されたアストンマーチン・ヴァルハラは約1,000馬力で価格は1台1億数千万円。それでも日本では15台がすでに予約されているらしい。
 もし、アストンマーチン・ヴァルハラが東京モーターショーに出ていたら、今度は大人の入場者が激増しただろう。東京モーターショーはもっとバブリーであってかまわない。

未来の車は形ではない

 会場ではさまざまな「未来の車」を見た。しかし、現在、「未来の車の形」を考えることは専門家にとっても難しいことはよくわかった。
 たとえば、昭和の時代であれば「未来の車の形」は簡単だ。とにかく奇想天外であればよかったのだから。
 ロケットのようだったり、空飛ぶ円盤のようだったり、飛行機のような翼をつけたり、その当時、走っていた自動車とまったく違うデザインにすれば、それが未来のカタチを意味したのである。
 ところが、現在、考えられている未来の車とはデザインでは表現しにくいものばかりだ。

 コネクティッド、自動運転、シェアリング、EVは形で表されるものではない。CASEと呼ばれている車の大変化はいずれも機能面での変化だ。
 コネクティッドやシェアリングを1台の車の形としてデザインしろと言われても、それは無理な相談かもしれない。未来の車を考えるという仕事は自動車開発者にとっては必要なのだろうけれど、デザイナーにとっては難しくなる一方だ。

未来の車に必要なのは、大きな違和感とかすかな嫌悪感

 さて、では次回、開かれるはずの東京モーターショーを楽しむにはどうすればいいのか。
ひとつは体験だろう。キッザニアやキッザニア的な体験ブースは増えるだろうから、そこへ行く。入場料さえ払えばあとはタダだから、どんどんトライすることだ。

 もうひとつは車を「読むこと」。見るだけではなく、「読む」ことだ。

 10年ほど前のこと、現代日本画家の代表選手、千住博氏から「美術の展示は見るものではない。読むものだ」と教わった。
 一緒にニューヨーク近代美術館を歩いた時、彼は美術作品の見方を教えてくれたのである。

「美術鑑賞は見るだけでは面白くありません。パッと見て、ああ、きれいだなで終わってしまう。でも、私たち画家は絵を読みます。物語を考えて、読んでいく」
 彼は「美術館ではこれまでになかった新しいものに惹かれる」とも言った。
 わたしたちふたりは「人はこれまでになかったものを見ると、どういった感情を感じるか」といった話をして、以下のような合意に達した。

──新しいものを目の前にすると、にわかに感想が出てこない。
 それは過去にあった美術作品のコンテクストでは判断できないからだ。
 これまでになかったもの、新しいものには、人は大きな違和感と、かすかな嫌悪感を抱く。
 しかし、眺めているうちに、いつの間にかあこがれてしまう自分に気づく。

 ガラケーしかなかった当時、スマホの形を見た時、わたしたちは「なんかヘンな形だな」と思ったのではないか。
 それが大きな違和感であり、かすかな嫌悪感だ。しかし実際に使い出して10日もしたら、どちらの感情もきれいさっぱりなくなったと思われる。
 これまでになかったもの、新しいものに対して、人は最初からウェルカムな感情を持つことはないと思う。

 これは美術に限らず、文学でも音楽でも同じではないか。
 ポール・マッカートニーの『レット・イット・ビー』や『イエスタデイ』や『ロング・アンド・ワインディング・ロード』は誰でも一聴すれば「名曲だな」と感じる。これまでの音楽のコンテクストに合った曲だから。
 しかし、ジョン・レノンの曲『マザー』とか『カムトゥギャザー』や『ヘイ・ブルドッグ』を聴いて、最初から「いい曲だな」と感じる人はまずいない。それは『マザー』も『カムトゥギャザー』も『ヘイ・ブルドッグ』もそれまでのロックとは文脈が異なるからだ。それまでに得た音楽体験ではすぐに反応できないのである。

 次回の東京モーターショーで未来の車、未来の部品を出展する人、開発する人には伝えたい。
 見た人に「大きな違和感と、かすかな嫌悪感」を抱かせてほしい。『レット・イット・ビー』よりも『ヘイ・ブルドッグ』を狙ってほしい。万人受けよりも、少年と少年の心を持った大人を狙ってほしい。


100万人超の人でにぎわった東京モーターショー2019
100万人超の人でにぎわった東京モーターショー2019


野地秩嘉(のじつねよし)
1957 年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。近著『トヨタ物語』『トヨタ 現場の「オヤジ」たち』がベストセラーに。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。


▽連載『部品の仕事』シリーズ一覧
  1. 日本精工(NSK)「ベアリング」前編 / 後編
  2. BOSCH「二輪車用ABS」前編 / 後編
  3. GSユアサ「自動車用バッテリー」前編 / 後編
  4. NTT(日本電信電話)「コネクテッドカー」前編 / 後編
  5. 村田製作所「車載センサー」前編 / 後編
  6. ブリヂストン「トレッドパターンデザイン」前編 / 後編
  7. 矢崎総業「ワイヤーハーネス」前編 / 後編
  8. クラリオン「カーオーディオ」前編 / 後編
  9. エフ・シー・シー「クラッチ」前編 / 後編
  10. ソミック石川「ボールジョイント」前編 / 後編
  11. 林テレンプ「内装部品」前編 / 後編
▽番外編・特別編

 

 

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