「未来の車の形」を考える!作家・野地秩嘉による「東京モーターショー2019」取材~部品の仕事(番外編)〜 (1/2)

野地 秩嘉(ノンフィクション作家)
野地 秩嘉
ノンフィクション作家

 2019年10月24日~11月4日に一般社団法人 日本自動車工業会(JAMA)主催による「第46回東京モーターショー2019」が開催されました。今年は豊田章男JAMA会長の並々ならぬ想いを反映させたショーとも言える内容で、これまでの東京モーターショーにはないアウトオブキッザニアをはじめとした体験型の催し物が数多く見られました。本記事では、『部品の仕事』番外編として、作家・野地秩嘉氏に東京モーターショー2019を取材するなかで「未来の車の形」をご考察いただきました。


連載『部品の仕事』シリーズ一覧 | みんなの試作広場

MaaS時代に、より一層重要度が増す「部品」。「部品」をめぐる現場の研究開発者のリアルな仕事を「トヨタ物語」の著者であるノンフィクション作家、野地秩嘉氏が追います。

昔に戻った東京モーターショー

 東京モーターショーは2019年で46回目。かつて1991年には200万人を超える観客が足を運んだが、直近の2017年(隔年開催)には77万人になっていた。
 今回も始まる前までは、「観客は減るだろう」「自動車産業の地盤沈下は続く」と言われていた。
 しかし、蓋を開けてみたら入場者は130万900人、前回よりも50万人以上と大きく増えた。
 増加の原因は宣伝活動と内容の変化だと思われる。何よりも、近頃、東京モーターショーに来ていなかった層に対してアピールしたからだ。

 わたしはかつて初めて東京モーターショーに来た時と同じ種類の人たちが数多く来場していたと感じた。
 その人たちとは…。
「少年たちと、少年の心を持った大人たち」だ。

 初めてわたしが東京モーターショーに行ったのは東京オリンピックの年、1964年だった。小学校2年生だった。前年まで「全日本自動車ショー」と言っていたのが「東京モーターショー」と改称され、海外メーカーが出展した展示会に変わった。その年は東京モーターショーが今年と同じくらい大きく変化した年だった。
 記録にはこうある。

「翌(65)年4月に予定されていた乗用車の輸入自由化を目前に、海外メーカー3社が出展することになった。これを機に『全日本自動車ショー』を『東京モーターショー』に改め、同時に報道関係者の取材協力のための『プレスルーム』を開設するなど国際ショーへの本格的な一歩を踏み出した。国産乗用車といえば4ドアセダンが多かったが、このショーではGT、クーペなどを名のる車種が多く展示された。スポーツライクなクルマへのあこがれもあったのであろう。昭和30年代のモータリゼーションの推進役ともなり、業界の名勝負ともいわれたブルーバード対コロナ、いわゆる〝BC戦争〟のもう一方の主役、3代目コロナRT40型も登場し、ブルーバードと競い合っていた。」

 あの時の変化で最大のものは子どもたちが大勢、足を運ぶようになったことだった。会場にはわたしと同じくらいの少年が大勢いた。わたしたち少年は車を見た。
 コンセプトカーではなく、市販車だ。日産に吸収されたプリンス自動車は「グロリアスーパー6」や「スカイライン」を出展していた。日産は「セドリック」、トヨタは「コロナ」、日野は「コンテッサ」、三菱は「デボネア」。その時の入場者数は116万人。晴海の見本市会場は少年と少年の心を持った車好きの大人であふれていた。

 少年と大人がやることは同じだ。クレイジーケンバンドのリーダー、横山剣さんもまたその時の会場に来ていたと言っていたが、やったことは同じだった。
 わたしたちはとにかく豪華なパンフレットを集めまくった。車を見たり、乗ったり、触ったりもしたけれど、背中に背負ったリュックサックがいっぱいになるまで豪華なパンフレットをもらって歩くのが目的だったのである。
 そして、自動車業界の人たちも若者と子どもが未来の顧客になるとはっきり分かっていたのだろう。係員の人は小学校2年生だからと嫌な顔もせず、豪華なパンフレットを奮発してくれた。

 あの時、わたしや横山さんが嬉しかったのは社会で初めて大人扱いをしてもらったからだ。そして、あれ以来、車が好きになって、今でも好きだ。
 東京モーターショーの目的とはあの時以来、少年と少年の心を持った大人たちに来てもらうことだった。そして、車を見て、感じてもらうことだった。ところが、いつしか東京モーターショーは自動車業界関係者とマスコミと専門家たちが行くところになっていた。
 今回の東京モーターショーでは、それが正道に立ち戻ったと言える。


自動車産業はサービス産業になっていた

 わたしは会期が始まったばかりの土曜日と終わる前の土曜日に出かけていったのだけれど、どちらも家族連れの姿が目立った。

 彼らが列を作り、ひたすら待っていたのは「体験する」ことだった。なんといっても人気だったのは「子どもたちが働く街―アウト オブ キッザニア(Out of KidZania in TMS2019)」である。キッザニアは子どもが大人と同じユニフォームを着て、大人と同じような仕事をする。子どもにとっては大人扱いをしてもらえる場だ。だから、楽しい。混雑は当たり前だ。その他でも家族連れが行列していたのは、オープンロードで電動キックボードに乗ること、そして、e-sportsの体験。いずれも「見る」こと派ではなく、「体験」であり、自らが参加して楽しむことだ。
 今回の東京モーターショーは「クルマを見ること」から「モビリティを体験すること」へ移っていた。

 展示、展観でいえば本家本元の美術館の世界ではすでに10数年前から、「体験」の大切さが指摘されている。2004年に金沢21世紀美術館が開館して以来、「体験型アート」はどこの美術館でも当たり前になった。絵でも彫刻でも粘土細工でも、やってみれば、「見るだけ」よりもはるかに楽しい。
 人はただ「クルマを見る」だけでは満足できなくなっている。

 東京モーターショーが体験型になったという変化は、今後潮流となっていくのではないか。
 アウト オブ キッザニアのブースではスバルの「クルマをメンテナンスする仕事」、ダイハツの「クルマを組み立てる仕事」、日野の「トラックをプロデュースする仕事」、トヨタの「クルマを組み立てるメカニック」の仕事をはじめ長蛇の列だった。それでも子どもたちはじっと並んで待っていた。

 もし、再来年もまたアウト オブ キッザニアをやるとするなら、ひとつ提案がある。次回からは「少年の心を持った大人」も参加させてほしい。メカニックのユニフォームを着て、車をメンテナンスしたり、組み立てたりするのは楽しそうだったし、はっきり言ってうらやましかった。平日の午前中は子どもは学校に行っていて、参加できない。それなら、平日の午前中には大人に向けて「アダルト版キッザニア」(非常に変な表現だけど)をやってほしい。


Out of KidZania in TMS2019
Out of KidZania in TMS2019
e-Motorsportsコーナー
e-Motorsportsコーナー
大人の心を持った大人たちに人気だった展示 次ページ

こちらの記事もおすすめ(PR)