タイヤショップへ行き、ドライバーと会う。部品開発の原点とは?〜《ブリヂストン:後編》部品の仕事(12) (2/2)

トレッドパターンのデザインに「美」は必要か?

野地 秩嘉(ノンフィクション作家)
野地 秩嘉
ノンフィクション作家

トレッドパターンのデザインに「美」は必要か?

「トレッドパターンは用途に応じたデザインが基本なのでしょうけれど、デザイナーとしてはそのなかに『美』を追求しているのですか?」

「はい、もちろんです。冒頭にお話ししたレグノのパターンですが、音を消すための小さな溝の『部屋』を設ける話をしましたね。研究部からは溝を作れば音を打ち消すことができるという分析がくるわけです。極端な話、部屋の形は正方形でも、真ん丸でもいいわけです。でも、周方向の線でできているトレッドパターンに正方形の部屋を設けちゃうと、カッコ悪いと思います。レグノという商品の持つ世界観、高級感にそぐわない。しかも、正方形や真ん丸の部屋が並ぶと静かなタイヤに見えません。

 では、お客さまがコンフォートに見えて、静かそうに見える形ってなんなの? ということを私たちデザイナーが考えなきゃならない。機能を満たしながら、でもその機能がお客さまにちゃんと伝わる形で、その商品の世界観がきれいに伝わる形でデザインされるというのは非常に大事なことだと思います。」


部品は客を見て作る。

 わたしは聞いた。
「最後の質問です。林さんたちは自動車会社の開発の人を見て、デザインを考えるのですか? それとも、タイヤを売っている店に来る一般のお客さんですか?」

 林は即答した
「両方です。最初に言ったように、我々は新車装着用のタイヤは自動車メーカーさんに納めます。一方で、オートバックスさんとか、町にあるタイヤショップさんで売ってる交換用タイヤも作っています。両方やっているので、ほんとにどちらも大事に考えてます。

 新車装着のタイヤについてはメーカーと一緒に開発してます。車が世の中に出る3年とか4年前ぐらいにもう開発がスタートして、今度の車はこういう性能目標だよというのをもらって、それに対して一緒にタイヤを作り上げていく。メーカーさんのテストコースに試作品を入れて、ここが足りない、あそこが足りないという話をずっとさせていただいて、タイヤを作りかえて、さらに作りかえて試作品を入れて、だんだん目標に近いものを作りあげていくことが多いです。

 一方、町のタイヤショップさんの場合、お客さまには『どういう使い方をしますか』と聞くケースがほとんどです。用途によってタイヤを買う。雪が降る地方だったら、スノータイヤを買いますけれど、それも雪質によって選び方が違う。

 ヨーロッパだと雑誌の評価が非常に大きくて、記事に出たタイヤを指名買いで来られる方が非常に多い。雑誌の評価でいい点とるには、いい性能のタイヤを作るしかないので、我々は性能を上げる努力をする。日本は来店してから、店員さんに説明してもらって買う方が圧倒的です。でも、性能が良くないと店員さんも薦めてはくれないので、結局、性能を上げていくのがどの地域でも大前提ではあります」

 タイヤは部品のなかでも独特の位置にいる。新車装着用については自動車メーカーが採用不採用を判断するわけだが、メーカーだって、一般消費者から不評なタイヤを選ぶことはできない。一般消費者の意見、意向が重要視される部品だ。だから、林たちはタイヤショップへ行き、ドライバーと会う。部品開発の原点は自動車を使っている人に会い、使っている現場を見て、そこで考えるということだ。

<写真3>開発パターンは、高価な金型を何種類も製作することが難しいため、スムースタイヤと呼ばれる溝がまったく入っていないタイヤに溝を彫り、パターンを試作する。一見簡単そうに見えるが、どの場所から溝を作るか考えてパターンを作らないと、狙いの形状が作れない。少しでも狙いの寸法から溝の幅や位置、長さ、深さが違ってしまうと、狙いのパターン形状の性能確認をするための試作タイヤとして機能しなくなってしまう。根気と集中力が勝負となるタイヤの試作だ。
<写真3>開発パターンは、高価な金型を何種類も製作することが難しいため、スムースタイヤと呼ばれる溝がまったく入っていないタイヤに溝を彫り、パターンを試作する。一見簡単そうに見えるが、どの場所から溝を作るか考えてパターンを作らないと、狙いの形状が作れない。少しでも狙いの寸法から溝の幅や位置、長さ、深さが違ってしまうと、狙いのパターン形状の性能確認をするための試作タイヤとして機能しなくなってしまう。根気と集中力が勝負となるタイヤの試作だ。


<写真4>溝を掘る道具の先端はパターンによって形を変える必要があるため自作する。先端部分が電気で加熱されることで、ゴムを溶かして溝をつくることができる。
<写真4>溝を掘る道具の先端はパターンによって形を変える必要があるため自作する。先端部分が電気で加熱されることで、ゴムを溶かして溝をつくることができる。


 

 

野地秩嘉(のじつねよし)
1957 年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。近著『トヨタ物語』『トヨタ 現場の「オヤジ」たち』がベストセラーに。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。


 

 

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