タイヤショップへ行き、ドライバーと会う。部品開発の原点とは?〜《ブリヂストン:後編》部品の仕事(12) (1/2)

野地 秩嘉(ノンフィクション作家)
野地 秩嘉
ノンフィクション作家

 『部品の仕事』第12回はタイヤメーカーのブリヂストン後編です。タイヤのトレッドパターンのデザインは、必要な性能を満たしながら、その性能を顧客にちゃんと伝えなければなりません。タイヤそれぞれの世界観がしっかりと顧客に伝わるデザインとはどのようなものなのでしょうか。前編からのデザイン性の追求に続き、同社の考える未来のタイヤについてお伺いすることで、部品開発の原点にせまります。本記事の巻末で、タイヤ試作の様子も動画でご紹介します。


スタッドレスタイヤと各国の道路

 では、スタッドレスタイヤ、つまり、雪道に使うタイヤはどういう風にデザインするのか。
「よく見てください。トレッドにジグザグした溝がたくさん入っています。溝の中に雪が入り込むと、ぎゅっと固まります。雪でできた氷の柱ができて、それが雪道にささり込んでいくことでグリップを発生させる。たくさんの氷の柱がスパイクの役割を果たすわけです。そして、デザインとしては氷の柱を作るための溝を作ることがポイントになります」

<写真1>スタッドレスタイヤのトレッドパターン
<写真1>スタッドレスタイヤのトレッドパターン

「もうひとつ、スタッドレスタイヤは各国の雪の性質によって違ってきます。日本国内向けのスタッドレスタイヤはアイスに対して性能がいいものが多いです。日本の都市は交通量が多いので、降った雪が交差点でアイスバーンになりやすいのです。雪が押し固められて氷になってしまうためです。雪と氷を比べると、氷のほうが滑りやすい。日本で使うタイヤは氷でも滑りにくいタイヤを作る方向で進化してきました。

 また、国によって道路環境が違います。ヨーロッパとアメリカと日本ではかなり違います。ヨーロッパは冬タイヤをはいても、高速走行する人が多い。ですから、冬タイヤであっても、高速の耐久性が非常に高いタイヤが多いです。アメリカは雪が降るとすぐに融雪剤をまいてしまうことが多い。ですから、雪が解けて水と入り混じった状態の道路になってしまう。そうすると、スノーも大事なんだけど、溶けかけた雪の排水性を確保しつつ雪に対する備えも必要というタイヤになってくるんです。アメリカの場合、日本ほど交通が集中することがないので、アイスバーンにはなりにくいんです」

 タイヤを輸出しようと思ったら、開発する際には、各国の道路状況、季節の移り変わりまで研究しなければならないということだろう。

さまざまなタイヤの種類

 さて、わたしは訊ねた。
「パンクしても走行できるタイヤが実用化されていますね……。」

 林は「ええ」とうなづき、「そうですね。レクサスやBMWの高級車は装着しています」と言った。

「ランフラットタイヤというやつです。空気が抜けた時、タイヤの側面に荷重を支えてくれる補強ゴムという別のゴムも入れています。側面がつぶれなければ、パンクしても数十キロは走ることができる。普通のタイヤでしたら、パンクしたとたんにハンドルを取られて走ることはできません」

「ランフラットタイヤではなく、まるっきり空気を充填しないタイヤも開発しているのですか?」

 横にいた広報担当が、待ってましたとばかりに、林に変わって答えてくれた。
「自転車では『エアフリーコンセプト』という次世代タイヤを開発しました。タイヤ側面の特殊形状スポークにより荷重を支えることで、タイヤへの空気充填を不要とする新技術です。でも、まだ実用化はこれからです。」

 林さん、自動車用タイヤで、エアフリーは可能ですか?
 これについても答えたのは広報担当だった。「空気で車の荷重を支えるってことはものすごく都合が良いと考えています。空気の代わりに樹脂などで支えるとなると、一般的に乗り心地だったり、耐久性が悪くなってしまうことが懸念されます。空気に勝る物質を応用するのはなかなか難しいと考えています」

 一瞬の後、林が追加で説明を始めた。
「装着される車両にもよりますが、やっぱりタイヤは空気で支えるのが適しているのだと思います。空気の代わりに窒素を入れると抜けづらいというのはありますけれど、どこにでもあるものではないから、やはり空気に頼ることになってしまうんです」

 では、話題を変えますと言って、わたしは次の質問をした。EV専用のタイヤはあるのか? 自動運転についての専用タイヤは開発しているのか? 自動車の大変革期にタイヤはどうなっていくのか?

 林は整理しながら答える。
 まずはEV用タイヤについて。

「EVで大きく変わるのは、トルクに対する対策です。モーターという動力はすごくトルクが大きい。すなわち前後方向の入力が大きくなります。タイヤ側からの心配点としては摩耗しやすくなるので、EVならではの大きなトルクに耐える構造やトレッドパターンとを考えています。むろん、素材のゴムについても、考えています。すでに走っているEV車についてはそうしたタイヤをつけています」

 では、自動運転用のタイヤはあるのか?

「自動運転ってこれからの技術なので、まだ模索中のところがあるのですが、自分で運転しないということになると、タイヤに対してもメンテナンスフリーみたいな部分が求められます。それこそ免許を持っていない人が車に乗っていて、自動運転中にパンクしました、と。すると、パンクを直せないからSOSしなきゃならない。それを考えると、パンクしても走るランフラットタイヤとか、そもそもパンクしないエアレスなタイヤが求められるのではと考えています」

 わかりました。では、空飛ぶ車のタイヤはどうなりますか?
 林は苦笑した。
「いやー、そこは、まだあまり考えたことはなかった(笑)。でも、いずれ出るわけですね。
あくまで想像で答えます。着陸するときに本来の何倍もの力が加わるはずなんで、そういった部分の耐久性がいる。また、空を飛ぶものですから重量がすごく大事になってくる。すごく軽いタイヤかな。軽くて耐久性が抜群のタイヤを作るしかないな、と」

<写真2>株式会社ブリヂストン 先端技術・デザイン創出本部先端デザイン創出部デザイン第1ユニット 林信太郎氏と中野健太郎氏(右)。中野氏は主にトレッドパターンの試作をしている。
<写真2>株式会社ブリヂストン 先端技術・デザイン創出本部先端デザイン創出部デザイン第1ユニット 林信太郎氏と中野健太郎氏(右)。中野氏は主にトレッドパターンの試作をしている。


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