性能を表現するタイヤのトレッドパターンデザインの世界〜《ブリヂストン:前編》部品の仕事(11) (1/2)

野地 秩嘉(ノンフィクション作家)
野地 秩嘉
ノンフィクション作家

野地秩嘉氏の連載『部品の仕事』第11回はタイヤの世界的大手メーカー、ブリヂストンです。一般的に交換需要の方が多い部品と知られるタイヤは、電気自動車、自動運転になっても必須な部品といえます。今回は、タイヤを作るうえでその性能に影響を与える重要な部分であるトレッドパターンに注目し、中でも「速さ」や「静粛性」といった性能の表現に欠かせないデザインについて野地氏が切り込みます。


天然ゴムは新世界のもの

「コロンブス交換」という言葉がある。
 コロンブスがアメリカ大陸にたどり着いて(1492年)以降、旧世界とアメリカ大陸間で植物、動物、病原体、鉄器などが広範囲で交換されたことをいう。

 たとえば、イタリア料理にトマトソースは欠かせないけれど、トマトはアメリカ大陸の産物。つまり、それまでイタリアにパスタはあったが、トマトソースはなかった。
 じゃがいもだって同じだ。じゃがいもはアメリカ大陸が原産。アイリッシュシチューと言えば羊肉とじゃがいもが入っているものだけれど、コロンブスが到達するまで、アイルランドにアイリッシュシチューはなかったのである。
 トウモロコシ、インゲンマメ、カシューナッツもアメリカ大陸だ。一方、小麦、玉ねぎ、にんにくは旧世界(ヨーロッパ、アジア、アフリカ)が原産だ。

 そして、タイヤの原料である天然ゴムもまたコロンブスが西インド諸島のハイチで発見した。
自動車だけでなく、オートバイ、飛行機など乗物には天然ゴムを使ったタイヤが付いている。タイヤ付きの乗物が普及したのはコロンブス交換があったからだ。


タイヤはユーザーが選択して買う部品。

 タイヤは自動車部品なのだけれど、ミッションやワイヤハーネスなどの内蔵部品とは違う点がある。それは、ユーザーが直接、自分で選んで買う点だろう。新車でも中古でも車を買った時からすでにタイヤは装着されている。だが、すり減ってきたら、自分自身で買いに行かなくてはならない。

 世界のタイヤメーカーでトップのブリヂストンの広報は「タイヤは一般的に交換需要の方が多い部品です」と教えてくれた。
「新車需要と交換需要の比率は3対7くらい。新車重要よりも交換需要のほうが大きいです。例えば、車の寿命を10年とした場合、一般的な使われ方で2回はタイヤ交換するチャンスがあります。最初の1回は新車装着で、あとの2回はタイヤ販売店で換えていただくという需要になってます」

 この他、雪が降る地域ではスタッドレスタイヤを買って交換する客がいる。
 タイヤは自動車会社に対してだけでなく、最終消費者にもアピールしなければならない部品の筆頭と言えるだろう。
 ちなみに、タイヤにおける世界シェア率(2017年)は以下の通りだ。

1位 ブリヂストン [14.5%]
2位 ミシュラン [14.0%]
3位 グッドイヤー [8.5%]
4位 コンチネンタル [6.7%]
5位 住友ゴム(ダンロップ) [4.0%]

 

 

タイヤの作り方と開発について

 ブリヂストンでタイヤの開発について、長時間、熱弁をふるってくれたのが林信太郎だ。デザイン創出本部に所属するトレッドパターンのデザイン担当だ。青いシャツにコットンパンツという姿の粋な成熟した青年である。

 第一声はタイヤの作り方だった。
「『タイヤなんて、タイ焼きを作るみたいに型にゴムを流し込んで、ガチャンとやったらできる』
そう思われている人が多いのですけれど、そうではありません。製造工程は複雑で、いくつもの部材を組み合わせて作ってます。例えばこのトレッドという地面と接触する部分ですが、その表面がキャップゴムと呼ばれています。トレッドの部分のゴムだけでも一種類ではなく、内側にまた別のゴムが入っています。その下には有機繊維を巻いた補強層があり、さらに鉄を編み込んだ、ベルトというものが2層入ってます。
 加えてプライという部分、空気が逃げないようにするインナーライナーなど、多くの部材を組み合わせて作っています。つまり、トレッドだけでも複数の層を一枚一枚重ねて作っていくものなんです」

 林も強調したように、タイヤは「型のなかに溶けたゴムを流し込んで円筒を作る」のではない。張り合わせたシート状の素材をリング状にする。素材を型の内側に貼りつかせ、なかから空気を入れて、膨らませてリング状のタイヤを作る。
 素材の質、張り合わせる部材の種類などは各社各様だ。ただ、もっとも大きな違いはタイヤの表面にある模様、つまりトレッドパターンにあらわれることが多い。

 林が次に解説してくれたのが新型タイヤの開発方法についてである。

「タイヤを開発する第一歩は営業、商品企画、設計などのいくつもの部が集まって、次のタイヤをどういうふうにしようかを決めます。我々デザイン担当はデザインコンセプトを作る。一方で設計は性能目標を設定して、その性能を満たす形状、構造を決める。

 我々は設計からトレッドパターンの目標をもらってくる。たとえば、溝(へこんだところ)と陸(突起しているところ)の部分の比率がいくつであるとか、単位面積あたりに細い溝が何本入ってるかとか、そういうパターンに関した構造成分ですね。それから我々は成分に基づいてトレッドのパターンをデザインする。

 その際、気をつけることがあります。トレッドパターンは車のなかで唯一、路面と接して性能を発揮する部分ですから、充分に機能を満たしておかなくてはならない。一方で、お客さまが店頭で見た時の印象も大切です。タイヤをぱっと見て、『このタイヤはすごくグリップしそうだなとか、乗り心地がよさそうだなとか、あるいは静かそうだな』……。

 お客さまはイメージを持たれてやってきて、自分にあったタイヤを購入されるので、トレッドパターンという外観デザインから機能を伝えなくてはならない。機能と外観をいかに高いレベルで両立させるかが我々デザイナーの仕事ですね」

 つまり、林たちはタイヤのトレッドパターンに付加された機能をイメージさせるためのデザインをする。
 ただ、疑問として浮かんでくるのは、ゴムに刻まれたデザインパターンで「速さ」や「静粛性」あるいは「乗り心地のよさ」をどう表現するのだろうか。


株式会社ブリヂストン 先端技術・デザイン創出本部先端デザイン創出部デザイン第1ユニット 林信太郎氏
1976年生まれ。大学院修了後2001年ブリヂストン入社。新車装着用タイヤ開発、先行技術開発を経て、2012年よりデザイン部でトレッドパターンデザインを担当。国内市場向けだけでなく、全世界向けのパターンデザインに携わる。
株式会社ブリヂストン 先端技術・デザイン創出本部先端デザイン創出部デザイン第1ユニット 林信太郎氏
1976年生まれ。大学院修了後2001年ブリヂストン入社。新車装着用タイヤ開発、先行技術開発を経て、2012年よりデザイン部でトレッドパターンデザインを担当。国内市場向けだけでなく、全世界向けのパターンデザインに携わる。


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