コンデンサーが原点。シャーペンの芯より小さい極小のものも!〜《村田製作所:後編》部品の仕事(10) (1/2)

野地 秩嘉(ノンフィクション作家)
野地 秩嘉
ノンフィクション作家

『部品の仕事』第10回は電子部品専業メーカーの村田製作所後編です。EVや自動運転に用いられる車載センサーの開発に加え、同社の小さくて高性能を誇るコンデンサーなどの世界シェアナンバーワン製品のビジネスについてお話を伺うことで、部品研究者の幸せや部品会社での仕事の魅力について野地氏が迫ります。


連載 部品の仕事 | みんなの試作広場

MaaS時代に、より一層重要度が増す「部品」。「部品」をめぐる現場の研究開発者のリアルな仕事を「トヨタ物語」の著者であるノンフィクション作家、野地秩嘉氏が追います。

EVおよび自動運転用のセンサーはあるのか。

 さて、今後の車載センサーについて訊ねた。「EVや自動運転用のセンサーはあるのですか?」
 荻浦は「はい、やっています」と言った。

「自動運転という用途が出てきていますので、それに向けたセンサーの開発もやってたりはします。ただ、今のESCであっても、これでよしではありません。お客様はより小さくて、より性能のいいもの、そして、より安いものを要求されます。それに向けて、では、どういう技術を盛りこんだら、要求を満たすことができるのかを始終、考えていかなくてはならない。

 自動運転に戻りますけれど、実現するためには、さまざまなセンサーの組合せが必要になります。たとえば、衛星から電波を拾って場所を特定するという技術があります。また、レーザーレーダーと言って、赤外線のレーザーを放射状に出して、周りの景色を画像化していくという技術もあります。あるいはカメラで映像を撮って、それを画像化していくとか、ミリ波レーダーと言って、今度は電波を出してその反射を拾って距離を測ったりとか……。

 自動運転の基礎となる車体と対象物の位置を測る方法はさまざまです。それを組合せて初めて自動運転が実現するんですけれども、その中の大事な機能として、いずれも我々が作っているような、ジャイロセンサーと加速度センサーの組合せたものが必要になってくる」

 続けてEVについても訊ねた。
 彼の答えは次の通りだ。
「EVの車は電池で動くものです。ですから、電池の状態を計るには当然、必要になります。ただ、車体の姿勢制御のような、車体がどう動くかはEV車だろうが、ガソリン車だろうが一緒です。ですから、今、うちが作っているMEMSセンサーはEV車でも同じように使えます。
電池の減りを検知する電流センサーはすでに存在していますし、ハイブリッド車にはすでに使われていると思います」

株式会社金沢村田製作所_センサ事業部商品開発3部部長 荻浦 美嗣(おぎうらみつぐ)氏
株式会社金沢村田製作所_センサ事業部商品開発3部部長 荻浦 美嗣(おぎうらみつぐ)氏

村田製作所のセンサー以外の部品について

 村田製作所が開発している部品はセンサーだけではない。彼らの製品のなかでもっとも多いのはコンデンサー。鉱石ラジオなどでも使われる電気を蓄えて放電する蓄電装置のことで、ノイズを除去することなどに使われることが多い。なお、日本ではなぜか「コンデンサー」と呼ぶが、国際的には「キャパシタ」と呼ばれる。

 荻浦は「わたしはキャパシタの専門家ではないのですが」と言いながらも、わかりやすく説明してくれた。

「当社だけでなくコンデンサーを作っている会社はたくさんあります。ただ、当社の製品は先端技術が盛り込んであり、小さくて高性能。ですから、付加価値が高い。

 戦後、当社が伸びたのはラジオ、テレビなどの家電製品が出てきて、それに合わせてコンデンサーがたくさん使われたからです。それとフィルターですか。ラジオやテレビの周波数帯域をより分けるためのチューナーにはフィルターが必要で、それで伸びたという面もあります。その頃から部品を買っていただいているのは性能が安定しているということがあると思います」

 話を聞きながら、コンデンサー、MEMSセンサーの実物を見た。センサーは1辺が10ミリ程度の立方体だ。小さいのに高性能なんだなと思える。一方、コンデンサーは……。1辺が3ミリや2ミリのものはわかる。しかし、なかには、紙の上にボールペンで点を打っただけのような、0.3ミリ程度の製品もある。

積層セラミックコンデンサ(MLCC)。0.5mmのシャーペンの芯と比べるとその極小さがよくわかる。
積層セラミックコンデンサ(MLCC)。0.5mmのシャーペンの芯と比べるとその極小さがよくわかる。

 荻浦は「小さいですよね」と感心したように、ため息をついた。

「これは人の手じゃ取り付けられませんね」
 そう聞いたら、「当然です」と言う。

 横にいた宇野が続けて、こう言った。
「スマホにはこのへんが主流で、こんな小さいのが800個から1000個ぐらいも入っています」

 わたしが聞いたのは「汎用品になると価格が安い方が採用されるのか?」ということ。
「いえ、決してそんなことはありません」

 これは荻浦の答えだ。
「BCPという観点があります。ビジネス・コンティニュティ・プラン」

 ここで説明すると、BCPとは「企業が、テロや災害、システム障害や不祥事といった危機的状況下に置かれた場合でも、重要な業務が継続できる方策を用意し、生き延びることができるようにしておくための戦略のことで、サプライチェーンをまもること」だ。

「小さなコンデンサーひとつでも、安定的に供給できるかどうかは部品を買う側にとっては大切な観点なんです」

 ここで宇野さんが後を引き取った。
「ショックセンサーになると約95%のシェアがあり、ほとんど村田製作所のものが使われています。ショックセンサーとはハードディスクドライブの衝撃を検知するセンサーで、ここにいる荻浦が開発してたものなんですけれども、それはもう村田のものしか使われてない状況になっています。そうなると、セカンドベンダーがないので、BCPのために当社のなかで製造工場を分けたり、また地震があったら、ここのものはここで作るとか。対応策を取っています。最初は何社かで作っていたのですけれど、うちの製品が強かった」


株式会社村田製作所_センサ事業部商品技術シニアエンジニア、ビジネスデベロップメント 宇野 静(うのしずか)氏
株式会社村田製作所_センサ事業部商品技術シニアエンジニア、ビジネスデベロップメント 宇野 静(うのしずか)氏

 部品メーカーで世界シェアナンバーワンになったら、価格決定力を持つわけだから、儲かって笑いが止まらないのでは、わたしは単純にそう思った。しかし、世界でその会社しか作っていないとなると、これは別種の責任を伴う。法外に値上げすることはできない。勝手に生産をやめることもできない。しかし、開発は続けなくてはならない。

 世界シェアが高まるのはいいことだけれど、ナンバーワン、オンリーワンの両方を追いかけることはない。理想的にはオンリーワンの技術を持ちながら、ライバル会社と切磋琢磨する環境であり、そのなかでシェアを伸ばすことだろう。

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