世界シェアナンバーワン部品も有する電子部品メーカーが語るセンサーの歴史とその役割〜《村田製作所:前編》部品の仕事(9) (1/2)

野地 秩嘉(ノンフィクション作家)
野地 秩嘉
ノンフィクション作家

野地秩嘉氏の連載『部品の仕事』第9回は、世界シェアナンバーワン部品も有する電子部品専業メーカーの村田製作所です。自動運転技術が進化する中、自動車に数多く搭載されたセンサーは、とくに安全を担保するための役割として重要な自動車部品ととらえられています。今回は、同社が開発する車載センサーの歴史や役割をお伺いしながら、部品会社の仕事に野地氏が探ります。


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MaaS時代に、より一層重要度が増す「部品」。「部品」をめぐる現場の研究開発者のリアルな仕事を「トヨタ物語」の著者であるノンフィクション作家、野地秩嘉氏が追います。

部品メーカーらしい部品メーカー

 村田製作所の本社は京都のJR長岡京駅の駅前にある。同社は電子部品の製造、販売を行い、年間売上高は1兆5750億円、従業員は8万名近い。海外売上比率は約90%。
 市場を占有する世界シェアナンバーワン部品もある。

 積層セラミックコンデンサー 世界シェア40% 
 SAWフィルター 世界シェア50% 
 wi-fiモジュール 世界シェア55% 
 EMIフィルター 世界シェア35% 
 ショックセンサー 世界シェア95% 

 売上高における新製品の割合が40%と非常に大きい。
 つねに新メニューを開発している飲食店みたいなものだ。
 こうしてみると、超優良企業なのだが、消費者向け製品がないので、同社のことを知っている一般人は非常に少ない。ロボットが自転車を走らせるテレビCMの知名度は高いらしい。しかし、CMを見たことのある人がどれくらい村田製作所という名前を認知しているかと言えば、それは何とも言えない。

 ただ、同社のようなBtoB企業にとって知名度が高くないことは宿命だ。一般人に知名度を上げるためにはプロ野球チームを買うとかテレビCMを連打するしかないだろう。
 ただ、同社のような会社はそんなことはしなくていい。要は一般人よりも、理科系の学生に認知されていればそれでいいのである。採用に困らなければそれでいいのだ。

 部品会社が今、まさにやるべきことは、「『部品の仕事』のような技術者、理科系学生に大人気のオンライン記事に出て、村田製作所の仕事について語ること。そして、村田製作所はいい会社だと学生に訴えることだ。

「ね、そうでしょう、荻浦さん」……。
 わたしは冒頭、そんな声涙ともに下る演説をした。


車載センサー

 すると同社の研究員、荻浦美嗣は「ええ」と答えた。わたしの迫力に押されたのだろう。
荻浦は金沢村田製作所のセンサ事業部部長。村田製作所は工場ごとに株式会社になっているから、一般の感覚で言えば、金沢工場の管理職であり、研究員だ。

 さて、わたしは荻浦さんに「だから、わかりやすく、仕事の魅力を話してくださいね」とふたたび圧力をかけた。
 けれども、荻浦は何ら反応せず、至極、冷静に「今日はセンサーの話でしたね」とつぶやく……。「早く取材を始めろ」ということだろう。
 なので、本題に入るが、その前にふたつだけテクニカルタームの解説を入れておく。

センサー
自然現象や人工物の機械的・電磁気的・熱的・音響的・化学的性質あるいはそれらで示される空間情報・時間情報を、何らかの科学的原理を応用して、人間や機械が扱い易い別媒体の信号に置き換える装置。

MEMS(メムス、Micro Electro Mechanical Systems)
機械要素部品、センサー、アクチュエータ、電子回路を一つのシリコン基板、ガラス基板、有機材料などの上に微細加工技術によって集積化したデバイスのこと。

 

株式会社金沢村田製作所_センサ事業部商品開発3部部長 荻浦 美嗣(おぎうらみつぐ)氏
1989年大学卒業後富山村田製作所入社。圧電セラミックを使った発音部品、加速度センサーの開発を担当。その後本社にてセンサー商品の拡売を担当。2005年富山村田製作所へ帰任。センサー商品の製造部で品質管理課を担当後、センサ事業部開発へ戻り、セラミックセンサー、MEMSセンサーの開発部門を担当。2016年からムラタフィンランドにて商品開発を担当。2018年から現職。
株式会社金沢村田製作所_センサ事業部商品開発3部部長 荻浦 美嗣(おぎうらみつぐ)氏
1989年大学卒業後富山村田製作所入社。圧電セラミックを使った発音部品、加速度センサーの開発を担当。その後本社にてセンサー商品の拡売を担当。2005年富山村田製作所へ帰任。センサー商品の製造部で品質管理課を担当後、センサ事業部開発へ戻り、セラミックセンサー、MEMSセンサーの開発部門を担当。2016年からムラタフィンランドにて商品開発を担当。2018年から現職。

 荻浦に「あなたが開発しているのがMEMSセンサーですね」と訊ねた。
 彼は答える。

「ええ、MEMSセンサーとは微小電気機械システムによるセンサーのこと。材料は主にシリコンですけど、シリコンを加工することによって電気的に信号を取り出す機能が生まれる。私が担当しているのは車載センサー用がメインになります。今は車1台にMEMSセンサーが10個以上は載っていますから。

 たとえば、エアバッグ、ブレーキ、ATやCVTなどのトランスミッション、車線維持システム、車間距離制御システムなどを電子制御するコンピューター(ECU Electronic Control Unit)に載ってます。だから、かなりの数になりますね」

 ECUが車に装備される以前、「走る・曲がる・止まる」といった車本来の機能はメカニカルな機構だった。
 たとえば、エアバッグである。エアバッグは自動車がクラッシュしたことを感知、検出して、膨らませる。

 MEMSセンサーが使われる前まで、スプリングとボールのメカニカルな検出装置だった。スプリングの先端にボールがついていて、ぶつかることによってバネでボールが動く。ボールが反対側に触れたとたん、接点がオンになって、電気信号が走る。そして、バッグを膨らますというメカニズムだった。ただ、機械部品なので、加工精度にばらつきが出てしまい、小さなクラッシュだとエアバッグが作動しないといったこともあった。それで、今では電気信号で動作を感知するMEMSセンサーに変わったのである。


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