NTTはなぜトヨタと協業するのか?〜《NTT(日本電信電話):後編》部品の仕事(8) (2/2)

画像情報の考え方

野地 秩嘉(ノンフィクション作家)
野地 秩嘉
ノンフィクション作家

画像情報の考え方

 森の話は続く。
「データ処理のなかで負荷が大きいのが画像情報です。センサーから得られる情報も多数ありますが、物量では、カメラ画像が大きい。そして、カメラ画像ってずーっと集めていると、ムダな情報がいっぱい入っている。ですから、いかに必要なカメラ画像をピンポイントで抜いてくるかが腕の見せ所でしょう。

 街角の防犯カメラの画像の場合、人が映った瞬間だけアラートが出る、あるいは人が映った瞬間だけストック画像にするシステムはすでに開発されています。

 ただし、コンビニの防犯カメラになると、ずっと人が映っているわけですから、どの瞬間をとらえればいいのかが難しい。車が獲得する車内や車外の画像もどういった瞬間だけをピックアップするか、しかも、いかに効率的に持ってくるかがポイントになってきます」


サプライヤーではなく開発パートナー

 さて、部品会社の仕事に対する世間の見方はおおよそ、次のようなものではないか。

────部品を発注する会社が部品会社の担当を呼ぶ。

「こういう部品を作ってください。これが仕様です」
 部品会社の担当者は仕様を読み込んで、一生懸命、部品を製造して納入する。さらに毎年、単価を切り詰める努力をする……。
 発注者はそれこそサプライヤーに発注するのが仕事……。

「部品という仕事」の取材をして来てわかったことだけれど、上記のような古典的な関係は現実には多数派ではないと思われる。
 今や、ほとんどの部品は発注者とサプライヤーが開発段階から共同で関わることになっている。サプライヤー側の専門知識がなければ部品は完成しないからだ。

 そして、NTTとトヨタの場合は発注者とサプライヤーの関係ではなく、ひとつのチームだ。
 ソフトの「部品」開発においては一心同体で開発、製品化にあたることが要求されてくる。そしてまた、2社だけでは「部品」を完成できないことも充分ありうる。
 見えない部品は異業種が合同で取り組むことが前提になってくるのではないか……。

 そんな私見を述べたら、森はさらに深くうなずいた。
「そうですね。おもしろさはそこにあります。トヨタ自動車さんは非常に認知度が高く、世の中に対するインパクトも大きい会社です。そういった会社さんと一緒に仕事できて、しかも、やっていることは今後5年後、10年後の交通システム作りのようなことです。大きな仕事ですし、非常におもしろいから、うちのメンバーもやりがいを持ってやってくれています。

 弊社はもともとトヨタ自動車さんのサプライヤーとかそういった感じではなかったわけです。今ではサプライヤーの枠を越えて異業種をまとめて一緒にやっていかないと次の未来は作れない時代に入ってるのかなと正直、思っています。

 実はこの仕事の途中でトヨタ自動車さんと一緒にオートモーティブ・エッジコンピューティング・コンソーシアムって団体を作りました。そこには弊社グループ以外にも、IT企業、クラウド事業者、アプリケーションを作るベンダーも参加しています。いくつかの異業種の会社が参加しなければスピード感も足りないし、大きな地殻変動みたいなこともできません。今、チームのメンバーがトヨタさんと話していることは車自体のことではないんです。車の集合体、あるいは交通環境だとか、モビリティ社会の全体をどうしていくかを話してることがほとんどです」

その後の日本はどうなる?

────最後に、「見えない部品」作りのアイデアを考えるために、やっていることはありますか?

 森は「これまた難しい質問ですね」とうなった。
「考えることが僕ら研究員の仕事なんです。
 自由に考えること、自由な環境のなかにいることが大事なんじゃないでしょうか。
 僕がいるNTT研究所は裁量労働制等になっていて、何時に来て何時に帰ってもいい。仕事の途中に筋トレに行く人もいれば、わざと早く帰って家で在宅勤務の残りをやる人もいます。そこらへんはかなり自由にできますね。

 私の場合は身体を動かしながら考えるようにしてます。たとえば道を散歩しながら仕事について考えるとか、わざと風呂に入ってみるとか、そうやって少し発想の幅を広げてみる。
 僕らの仕事は『今ないものを創れ』です。机の前に座って考え込んでも、あまりいいアイデアは出ないように思います。

 あとは、そうだなあ。会社の帰り、わざと駅まで45分ぐらい歩いて帰ったりもしていますよ。NTT研究所から三鷹駅まで、ふだんはバスで通っていますが、アイデアを出す時はスーツを着て、鞄を持って普通に歩きながら、けっこう頭の中で考えています。椅子に座っていても思考は停止してしまうので、わざと体を動かしながら考えることで、いつもと違う情報が脳内を動くと思っているんですけれど」

────でも、夏はできないのでは?

「はは、無理です。汗だくになっちゃいます。そして、三鷹の研究所だからできることです。大手町の本社から表参道まで歩くかというと、まずやらないでしょう」

 彼らの仕事は得意先に対しての答えを考えつくことではない。白紙の状態からいままでにない新しいサービス、新しい部品を考えることだ。「見えない部品」作りにはこれまでの部品作りとはまったく違うアプローチが必要だ。

左から日本電信電話株式会社研究企画部門プロデュース担当 担当部長 平林義和(ひらばやしよしかず)氏、日本電信電話株式会社ソフトウェアイノベーションセンタ 主任研究員 森航哉(もりこうや)氏、日本電信電話株式会社研究企画部門プロデュース担当 担当課長 小泉敦(こいずみあつし)氏
左から日本電信電話株式会社研究企画部門プロデュース担当 担当部長 平林義和(ひらばやしよしかず)氏、日本電信電話株式会社ソフトウェアイノベーションセンタ 主任研究員 森航哉(もりこうや)氏、日本電信電話株式会社研究企画部門プロデュース担当 担当課長 小泉敦(こいずみあつし)氏

 


世界シェアナンバーワン部品も有する電子部品メーカーが語るセンサーの歴史とその役割〜《村田製作所:前編》部品の仕事(9)

野地秩嘉氏の連載『部品の仕事』第9回は、世界シェアナンバーワン部品も有する電子部品専業メーカーの村田製作所です。自動運転技術が進化する中、自動車に数多く搭載されたセンサーは、とくに安全を担保するための役割として重要な自動車部品ととらえられています。今回は、同社が開発する車載センサーの歴史や役割をお伺…

野地秩嘉(のじつねよし)
1957 年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。近著『トヨタ物語』『トヨタ 現場の「オヤジ」たち』がベストセラーに。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。

▽連載『部品の仕事』シリーズ一覧
  1. 日本精工(NSK)「ベアリング」前編 / 後編
  2. BOSCH「二輪車用ABS」前編 / 後編
  3. GSユアサ「自動車用バッテリー」前編 / 後編
  4. NTT(日本電信電話)「コネクテッドカー」前編 / 後編
  5. 村田製作所「車載センサー」前編 / 後編
  6. ブリヂストン「トレッドパターンデザイン」前編 / 後編
  7. 矢崎総業「ワイヤーハーネス」前編 / 後編
  8. クラリオン「カーオーディオ」前編 / 後編
  9. エフ・シー・シー「クラッチ」前編 / 後編
  10. ソミック石川「ボールジョイント」前編 / 後編
  11. 林テレンプ「内装部品」前編 / 後編
▽番外編・特別編

 

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