
『部品の仕事』第8回は電気通信事業会社NTTの後編です。なぜ、NTTグループはトヨタとコネクティッドカー分野の技術開発・技術検証で協業を進めているのでしょうか?前編に引き続き、モビリティ・サービスにおけるデータ分析の特徴、将来の交通イメージなどを伺うなかで、「見えない部品」作りの仕事のあり方にまで野地氏が切り込みます。
なぜ、NTTがこうした取り組みをしているのか。
ここで、わたしはひとつ質問した。
────トヨタはauの株主で、昔から関係があります。また、ソフトバンクとはモネという会社を作り、モビリティ・サービスを始めています。それなのに、なぜ、トヨタはNTTとコネクティッドカー分野の技術開発・技術検証について協業しているのですか。
平林は答えた。
「はい、それにはまずNTTグループについて、説明した方がいいかもしれませんね」
彼の答えは次のようにまとめることができる。
au及びソフトバンクは携帯電話サービスの会社だ。一方、NTTは携帯電話だけの会社ではない。固定電話もやっている。NTTデータのように情報サービスもやっている。NTTコミュニケーションズのようにグローバルネットワークを持つ会社もある。何より、通信、映像の専門技術を追求しているNTT研究所がある。
総合的に通信サービスを担っている会社は日本ではNTTとその周りの企業しかないというのが現実でもある。
「トヨタさんは、ソフトバンクさんとはこの基盤技術ではなく、Maas(マース)という新サービスについて取り組まれているところで、取り組みの領域が違うわけです。我々は車のデータをいかに効率的に、いかに大量のデータを集めて処理するかを進めているのです」
このプロジェクトには100人ほどの技術者が関わっているという。NTT、トヨタの双方が50人ずつ出している。
トヨタは自動車業界の変革のなかにいる。だからこそ、ソフトバンクともNTTとも協業することになった。危機感から生まれた関係ともいえる。
一方のNTTグループも、もはや固定電話やドコモのケータイビジネスでは食っていけない。そこで、グループの総力を挙げて、モビリティ・サービスに新境地を開こうとしているのだろう。
思えばこれは自動車業界だけの話ではない。森が言ったように「モノとモノが結びつく」IoTの時代になったら、製造業のどのメーカーも目に見える部品だけでなく、「見えない部品」を作るためのデータ収集が必要になってくる。
この2社の取り組みは他のモノづくり企業と部品会社にとっても、非常に参考になる取り組みだ。

すでに採用されている技術
NTTにはデータの収集、分析から始まって、すでに商品化された技術があるという。
この分野ですでに手掛けている商品化の例については小泉敦が丁寧に教えてくれた。彼もまた研究企画部門のメンバーだ。
小泉は言った。
「CAFIS(キャフィス)という言葉はご存じありませんか?」
小泉はNTTデータからプロジェクトに異動してきた技術者でもある。
「CAFISはクレジットカードなどの決済総合プラットフォームです。データの収集、分析から処理までを含めた技術開発で、NTTデータが開発しました。現在、かなりの割合でさまざまなクレジットカード決済に使われているシステムです。
決済端末自体はメーカーさんが作っているのですが、その先のネットワークと銀行をつなげて決済しているのがCAFISです。NTTデータは1トランザクションあたり、いくらという課金でビジネスになっています。
オンラインで認証して、ブラックリストになっていたらすぐに止めるという機能も入っていますよ」
要は、コネクティッドカーから収集したデータもいずれはクレジットカードのオンライン決済のような誰もが使える便利なサービスという形に収束していく。それを予測して、彼らは働いている。

株式会社NTTデータにおいて公共系のシステム開発・導入業務を経て、現在は日本電信電話株式会社へ転籍。コネクティッドカー分野での技術開発・検証および自動車会社との協業を推進している。
問題点はどこにあるのか。
データの収集、蓄積は今まさにやっている。そして、分析してから製品の形になるわけだが、なんといっても分析の過程がもっとも難しいのだという。
森はうなずきながら言う。
「分析ってところが難しい。そもそもどういった分析をやるかを決めることがいちばん大事なんですが、では、どこをやるのかを決めるには多くのデータを判断するための知見がいります。
なんでもかんでも分析するのではなく、世の中がもっとも必要とするのは何か、経済的にもメリットがあるのはどれか。その分析はNTTデータにやってもらおうとは思っているのですが、それだけでは足りなくて、分析を専業としている方たちとも組んで深掘りしていく予定です。
分析するデータの量が膨大ですし、しかも、自動車という移動体からの情報です。もし、間違えたら事故を起こしてしまうかもしれないようなこともあります。
たとえば、集めたデータから事故が起きる前に車を止める判断をするシステムを作ったとします。目の前に人が出てきた時に急ブレーキを踏むかどうかというのは、コネクティッドカーから得た情報だけでは解決しない。車の技術を変えなくては解決しないからです。
1台の車から始まって、街全体の交通状況を把握することも必要ですし、また、事故を起こさないために、1台の車のための基盤作りも大切なんです」
