トヨタと協業してコネクティッドカー分野の技術開発を切り拓く〜《NTT(日本電信電話):前編》部品の仕事(7)

野地 秩嘉(ノンフィクション作家)
野地 秩嘉
ノンフィクション作家

野地秩嘉氏の連載『部品の仕事』第7回は日本電信電話株式会社(以後NTT)です。コネクティッド・サービスをリードするトヨタと協業し、ビッグデータ収集・分析だけでなく、ネットワーク、データセンター、5G、エッジコンピューティングなどの通信技術で自動車の「見えない部品」を開発するNTTグループ。今回は、コネクティッドカー分野における通信技術の開発概要と展望をお聞きしながら、「見えない部品」の仕事を探っていきます。

「見えない部品」の仕事

 自動車の大変革時代となり、業界の誰もが口にする合言葉がCASEだ。
Cはコネクティッド、Aはオートノマス(自動運転)、Sはシェア/サービス、Eはエレクトリック、つまり電動自動車のこと。

 このうち、コネクティッド・サービスではトヨタがリードしている。レクサス、クラウン、プリウスなど年間150万台規模のコネクティッドカーをマーケットにリリースしつつある。

 トヨタ副社長兼トヨタ・コネクティッド社長の友山茂樹はコネクティッドとはどういう機能なのかを誰もが理解できるような説明をしている。

「昔の話になりますが、かつてパソコンは『つながらない』道具でした。つながらないまま、パソコン本体でワープロや表計算などをやっていた。ところがインターネットが一般化し始めて、パソコンにモデムがついて、ネットワークにつながった。
 今ではパソコンはインターネットにつながって動くのが前提になっています。シンクライアント(Thin client)という言葉がありますけれど、ユーザーの端末では最小限しか処理をしないで、中身はすべてクラウドにあるようにもなりました。
 つながることによって、パソコンの価値は飛躍的に高まり、さまざまなことができるようになったのです。車とコネクティッドの関係もパソコンとインターネットみたいなもので、車もネットワークに常時、つながることによって、さらに便利になり、新しい使い方が生まれます」

 そして、トヨタと協業してビッグテータを収集し、コネクティッドカー分野の技術開発・技術検証しているのがNTTグループだ。
 これまで自動車部品と呼んでいたのは、エンジン、ミッション、タイヤ、車載電池といった形のあるものだった。だが、自動車の電子化、コネクティッド化が進むにつれて、ソフト、ビッグデータを活用したサービスといったものも、他の車と差別化するための重要な「部品」となってきている。
 見える部品だけの時代から、「見えない部品」が活躍する時代がすでに始まっている。

 では、NTTグループとトヨタが技術開発しようとしている「見えない部品」とは、いったいどういうものなのか。そして、彼らはどうやって「見えない部品」を技術開発しているのか。
 NTTグループの社員数は約30万人。ボッシュグループの41万人には及ばないけれど、国内では最大の、通信事業を手がける会社である。

 さて、大手町にあるオフィスで、トヨタとの協業活動についてレクチャーしてくれたのは平林義和。研究企画部門の担当部長だ。

「まず概要を申し上げます。2017年、トヨタと弊社は、コネクティッドカー分野の技術開発を進めることを決めました。取り組みの対象分野は、データ収集・蓄積・分析基盤、IoTのネットワーク、データセンター並びに5G、エッジコンピューティング(データの生成元、あるいは、その近くでのデータ処理を行う技術)などの通信技術といったところです。

 具体的には車のデータ、つまり車に搭載されたセンサーやカメラ画像で、車の状態などのデータを収集し、分析する。分析した結果を活用して自動運転や運転支援に結びつける。データを効率的に通信するために5G、エッジコンピューティングを活用します」


日本電信電話株式会社研究企画部門プロデュース担当 担当部長 平林義和(ひらばやしよしかず)氏
西日本電信電話において、通信インフラ系の研究開発業務を経て、現在は日本電信電話株式会社に転籍し、コネクティッドカー分野の技術開発・検証等、自動車業界におけるR&D活動を推進している。
日本電信電話株式会社研究企画部門プロデュース担当 担当部長 平林義和(ひらばやしよしかず)氏
西日本電信電話において、通信インフラ系の研究開発業務を経て、現在は日本電信電話株式会社に転籍し、コネクティッドカー分野の技術開発・検証等、自動車業界におけるR&D活動を推進している。

 テクニカルタームのためか、ストレートに理解できない部分があるので、さらにわかりやすく説明すると……。
 つまり、両社はこういうことをやろうとしている。

——コネクティッドカーがセンサーや画像で集めた車両状態を示す情報、さらに、その車両の周辺の状態などの情報、そういったものを集めて、分析し、自動運転や運転支援につなげる。

 たとえば、現在、渋滞情報は各種あるけれど、走行レーン上に落下物などがあることを教えてくれるサービスはない。車のセンサー、カメラ画像から車の周辺状況もわかる。そのためにはコネクティッドカーの車両台数が増えること、センサー技術、データ収集・蓄積・分析技術などをさらに進化させることが必要になってくる。


NTTとトヨタとの協業概念図
NTTとトヨタとの協業概念図

 平林は説明する。
「2020年には、数千万台、数千項目のデータ並びに、画像データを数秒のリアルタイム性で処理し、後続車両にも活用できるように基盤技術をさらに性能向上していきたいと取り組んでいます」

 ただ、現在、自動車と自動車まわりのビッグデータを集める方法はコネクティッドカーだけがやっているのではない。たとえば、グーグルは自社で自動運転の車を造ろうとしている。そのためのビッグデータを集める手法はスマホに入っているグーグルのアプリだ。それを使っているドライバーから間接的に位置情報を集めて渋滞の把握とか予測をしている。

 しかし、トヨタとNTTがやろうとしているのは車両自体の詳細な情報だ。さらに、1台の車が前後左右から取得してくる膨大な情報を取り込もうとしている。
 両者の取り組みで他社と違っている最大のポイントは周辺情報を集めることだろう。

「1台の車ではなく、周辺を含めた複数の車の情報をセンターで統合することによって、1台のみの情報では価値を見いだせないようなものが意味を持ってきます。複数台の車のデータを集めることによってより価値のあるデータになるのです」(平林)
 
 高速道路上で、1台の車の速度が落ちているとしよう。
 そのデータから「この区間は渋滞している」と判断することはできる。
 しかし、1台のコネクティッドカーがいくつものセンサーやカメラをつけていれば、前後の車の状況もわかる。コネクティッドカーが高速道路の全区間に散らばって走っていれば、「渋滞の起点はここからで、終点はここまで」とか「渋滞のなかにいると平均スピードは20キロ」といったより精度の高い情報を集めることができる。さらに、いえば「この先は10キロ、渋滞が続くので、下道に下りてから、ふたつ先のインターで高速に復帰すればいい」といった複雑なルートへの誘導もできる。今の技術でやっていることより、さらに便利になるわけだ。


車の外部情報がポイント

 実際にエッジコンピューティング技術を手がけているNTTソフトウェアイノベーションセンタ 主任研究員の森航哉は「車の情報も大事ですけれど、外の情報も大事」と話す。

「今後モノとモノとのコミュニケーションがおそらく中心になってくるだろうと。それを表現する言葉のひとつがIoTであり、直接つながることによって、車の状態とか、それから車の周りの状況をつかむことができるということです。
 そして、スマホでは車の状態に関する情報を集めることができません。ですから、車と直接、つながるコネクティッドカーであること、そこからデータを取ってくることが重要なんです」

 彼は続けた。
「スケールとしては何百万台という車の外部の情報も集めてくることが一番のポイントだと思ってます。1台の車でとれる範囲は限りがあります。一方、カメラを取り付けて、どれくらいかといえば、たとえば200メートル先まで映ることは映りますけれど、解像度が悪いから、技術としてはあまり役に立たない。カメラで撮ってくる情報は数10メーターが適切な範囲かなとも思います」

 そうやって集めた車の外側の情報を何に役立てていこうとしているのか。
 むろん、前述した渋滞情報だけではない。周囲の車、オートバイ、歩行者といったものも把握できるビッグデータだから、自動運転、あるいは、ぶつからない車の開発に役に立つだろう。
 その場合、データを集めたサービスはどう製品化するのか。トヨタ一社だけが利用できるものとするのか。
 森の推測はこうだ。

「非常に難しいポイントですし、ちょっと我々も確実なことは言えないです。しかし、自社専用のものを作るのではなく、作って外に広げていくことに意味があると思います。だからこそ、我々のような異業種と組んでいるのではないでしょうか。
 私たちと技術開発したものを他の自動車会社、できれば日本だけじゃなくて、ドイツやアメリカも含めて同じような仕様で、連携できるような形の情報基盤を作って行きたいのではないでしょうか」

 ここは非常に重要な話だ。部品はその会社、もしくはその製品専属のモノと、タイヤのようにどの自動車にでも合うように作られているものの2種類がある。また、タイヤの場合は直接、ユーザーが部品の小売店で選ぶことができる部品だ。
 汎用性があり、しかも、独立性があれば製品のマーケットが広がる。
 NTTとトヨタがやっている「見えない部品」の開発は汎用性があるから、大きな可能性を秘めていると言える。


日本電信電話株式会社ソフトウェアイノベーションセンタ 主任研究員 森航哉(もりこうや)氏
NTT研究所にて通信とコンピューテーションの融合であるエッジコンピューティングの研究開発業務に従事。特にコネクティッドカー分野におけるエッジコンピューティング技術の適用などのR&Dに注力している。
日本電信電話株式会社ソフトウェアイノベーションセンタ 主任研究員 森航哉(もりこうや)氏
NTT研究所にて通信とコンピューテーションの融合であるエッジコンピューティングの研究開発業務に従事。特にコネクティッドカー分野におけるエッジコンピューティング技術の適用などのR&Dに注力している。

ドライバー情報はどうするのか?

 コネクティッドカーから集めた情報は内部情報、外部情報のふたつがあり、そのうち、できるだけ多くの外部情報があれば役に立つサービスにつながる。
 では、内部情報のなかに、ドライバーの自身の情報も入るのだろうか。
 これは平林が答えてくれた。

「今はまだそこまでの取り組みはしていません。ただ、健康に関する情報などを取り込もうと思えばできないことはないでしょう。車自体に機能を付けて、ドライバーの健康状態をセンシングするという方法もあれば、車に乗った状態でヘルスケアのサービスを提供する形もありうるでしょう。ただ、まだそこまでは議論はできていません」


《後編に続く》



野地秩嘉(のじつねよし)
1957 年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。近著『トヨタ物語』『トヨタ 現場の「オヤジ」たち』がベストセラーに。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。


 

 

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