自動車用バッテリーはどのように開発するのか?〜《GSユアサ:後編》部品の仕事(6) (2/2)

電池開発の仕方

野地 秩嘉(ノンフィクション作家)
野地 秩嘉
ノンフィクション作家

電池開発の仕方

 では、こうした電池の開発というのは電池会社が一方的に進めていくものなのか。

 山口が教えてくれた。
「自動車メーカーと一緒に進めます。なんといっても車に合わせた開発ですから。極端に言えば車種ごとに開発するというか。日本の企業が得意とする『すりあわせ技術』ですよ。自動車メーカーが、こうしたいと言ってくる。それに対して、我々は、こういうものができます、これでどうですかと提案する。それでまた自動車メーカーから要求が出てくる。そうやって、何度もすり合わせしてやっと製品ができる。

 たとえば開発中の新車搭載用の電池はこれまでにないスペックが出てきたりもします。ただ、新車用に関しては電池のスペックだけいただいても開発できません。新車自体のことをよく聞かないと、こちらも開発できないんですよ。

『車としてはこういう車を造るための電池がほしい。このぐらいの重さで、このぐらいの出力で、これぐらいの大きさで』
 自動車メーカーは電池の専門家ではありませんから、それ以上のことはこちらから引き出さないといけない。電池メーカーには答えを引きだす役割がいるのです」

 引き続いて、山口は1990年代、車のことをよく把握していないための電池のトラブルがあったと言った。

「鉛バッテリーの電力が突然なくなる、ということもありました。原因は車のスタイルが大きく変わったこと。
 それまでのスタイルと違い、車のフロントが短くなって、ボンネットのなかのスペースが密になったんです。

 1970年代、80年代の車のボンネットを開けると、エンジンルームの中はスカスカで下に地面が見えました。でも、今の車はボンネットを開けても地面はまったく見えない。ボンネット内の部品が密に詰まっているために、エンジンルームの温度が上がっていて、我々の想定以上の温度環境になり、鉛バッテリーの内部劣化が想定以上に早く進んでいました。現在の鉛バッテリーでは高温耐久性を向上させており、問題はほぼ起こらなくなっています。

 このように、バッテリーが置かれる環境を把握していないと、開発もできないのです。開発の時に、そこまで教えてもらえばいいのですけれど、自動車メーカーにとって新車は機密事項ですからね。バッテリーの置き場所を聞いただけではそこまでわからなかったんです」

電池の寿命

「鉛バッテリーの場合、車検までは持ちます。つまり新車で3年以上。ですけれど、乗り方によっても変わります。リチウムイオン電池でしたら、EV用、HV用ともに、ほぼ車両寿命と同じです。10年から15年は持ちます。ただ、10年経っていたら、電池の能力は落ちています。10年間ずっと同じ能力ではなく、徐々に落ちていきます。その辺もこれからの検討課題ですけれど」(大前) 

 わたしは質問した。電池の寿命はわかった。では、交換はできるのか? 電動自転車だったら、バッテリーだけ買って交換できる。EVやHVの電池だけ交換することはできるのか?

 大前はあっさり「NO」と言った。
「現状のEVやHEVは電池を交換する前提では設計されていません。それに、交換をするとしても、車両制御とマッチングした純正品が必要なため、一般の電池は使用できず費用が高くなる。ただこのことはメーカーも問題として認識しており、今後交換可能な車両や電池の開発が進むのではないでしょうか」

 このようにリチウムイオン電池は大切な部品なのだけれど、実は交換というのは現在では簡単にできない。タイヤのように、いい性能の電池が開発されたからと言って、おいそれと交換することはできないのである。

株式会社 リチウムエナジー ジャパン製電気自動車用リチウムイオン電池
株式会社 リチウムエナジー ジャパン製電気自動車用リチウムイオン電池

これからの電池

 最後に訊ねたことは電池の進化について。全固体電池の実用化ではない。全固体電池よりもさらに未来の電池について、である。

「永久電池みたいなものって、実用化されるのですか?」(野地)。

 大前はこの質問にも、きっぱりと「NO」と答えた。
「永久電池はないと思います。もし、できるとしたら、化学反応を伴わないような電池ですけれど、どういったものができたとしても、必ずどこかの部品が劣化してくるものです」

「わかりました。では、おふたりが考える、未来の電池とはどういうものですか?」

 大前は腕を組んでから答えた。
「いろいろなミッションがあります。耐久性を伸ばす、出力を上げる。価格を安くする……。でも、私たちは市場で問題を起こさないことを最優先します。ある添加剤を入れると、性能が飛び抜けて良くなる。しかし一方で、ネガティブな点が出てくる。こういう場合はネガティブな点をなくすことを優先させます」

 山口もうなずく。
「やっぱり信頼性なんです。ほしい性能があっても信頼性とのバランスです。次がコスト。基礎技術的には全固体電池がいいとなっても、それをやるためには工場にとてつもない投資が必要になるとなれば、そこは考える必要があります。

 結局、車載用電池の場合、最終的にお客さんが何を重視するかがポイントになります。各社それぞれ違いますし、車種によっても違ってくる。軽自動車ではコストが重要でしょうし、高級車は出力と耐久性とか。そして、日本のメーカーの場合、もっとも重要と考えているのが市場での信頼性ではないかと思うんです。それを全方位、作り分けて対応できるというが我々の会社の強みかもしれません」

「作り分けというのは原材料の組み合わせ、つまり、レシピを開発する能力があるということですか?」(野地)

「まあそういう感覚に近いところはあります。電池の主要な原材料として、活物質(=電気を蓄える電池にとっての心臓部)というペースト状の練り物があるんですけれども、ここに独自のスパイスを効かせたりしますから。」

 最後に、大前が結論をまとめた。
「我々がどういった電池を理想とするかと言えば、それは電池があることを感じさせないこと。車でいえば、バッテリーが上がったりしない。出力が突然、落ちたりしない。ユーザーがバッテリーの存在に気づくのって、トラブった時です。ですから、気づかれないように裏方で安全に支えるというのが電池なんです」

 大前がまとめたことが電池に限らず、部品の仕事なのかもしれない。裏方としての喜びを意識することが部品開発の仕事で、意識しなくてはいけない点ではないか。シャイな人間、表に出るのが苦手な技術者にとっては部品の仕事は居心地がいい仕事だ。

 


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野地秩嘉氏の連載『部品の仕事』第7回は日本電信電話株式会社(以後NTT)です。コネクティッド・サービスをリードするトヨタと協業し、ビッグデータ収集・分析だけでなく、ネットワーク、データセンター、5G、エッジコンピューティングなどの通信技術で自動車の「見えない部品」を開発するNTTグループ。今回は、コネクティ…

野地秩嘉(のじつねよし)
1957 年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。近著『トヨタ物語』『トヨタ 現場の「オヤジ」たち』がベストセラーに。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。


▽連載『部品の仕事』シリーズ一覧
  1. 日本精工(NSK)「ベアリング」前編 / 後編
  2. BOSCH「二輪車用ABS」前編 / 後編
  3. GSユアサ「自動車用バッテリー」前編 / 後編
  4. NTT(日本電信電話)「コネクテッドカー」前編 / 後編
  5. 村田製作所「車載センサー」前編 / 後編
  6. ブリヂストン「トレッドパターンデザイン」前編 / 後編
  7. 矢崎総業「ワイヤーハーネス」前編 / 後編
  8. クラリオン「カーオーディオ」前編 / 後編
  9. エフ・シー・シー「クラッチ」前編 / 後編
  10. ソミック石川「ボールジョイント」前編 / 後編
  11. 林テレンプ「内装部品」前編 / 後編
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