自動車用鉛バッテリーの進化する役割〜《GSユアサ:前編》部品の仕事(5) (2/2)

ハイブリッド車とEVのバッテリーの違いとは。

野地 秩嘉(ノンフィクション作家)
野地 秩嘉
ノンフィクション作家

ハイブリッド車とEVのバッテリーの違いとは。

 次にハイブリッド車とEVでは使用するバッテリーには違いがあるのか。どちらも使っているのはリチウムイオン電池だ。

「簡単に言えば、容量が大きくてたくさんの距離が走れるのがEV用バッテリーです。一方、容量が小さくてその代わり瞬発力があるのがハイブリッド用です。

 ランナーで言えばマラソンランナーがEV用、短距離走者がハイブリッド用みたいな感じです。ハイブリッド用は瞬発力が要るんですよ。車を押しだす瞬発力、エンジンが一番苦手な低回転のところを押しだす瞬発力をアシストするのがハイブリッド用バッテリーです」(大前)

 わたしは訊ねた。
「ハイブリッド用のリチウムイオン電池をたくさん積んだらEV車に載せられるというわけではないのですね?」

 大前がすぐに答えを出す。
「違います。一例ですが、ハイブリッド用の単電池容量は約5Ah(アンペアアワー)の高出力型、一方、EVは約50Ahの高容量型です。ハイブリッド用のバッテリーはあくまでエンジンの苦手なところをカバーするのが役割です。ハイブリッド車にバッテリーをたくさん積めば、それだけ使える電気量が増えることは増えます。しかし、バッテリーを積んだ分だけ車は重くなる。すると、燃費が悪くなる。エコカーであることが本質なので、バッテリーを積み過ぎると本質を外れることになるわけです」

株式会社GSユアサ 理事 自動車電池事業部技術本部長 大前孝夫(おおまえたかお)氏
奈良県生まれ。大学卒業後、日本電池株式会社入社。GSユアサ統合後も自動車用電池各部署の要職を経て、現職。
株式会社GSユアサ 理事 自動車電池事業部技術本部長 大前孝夫(おおまえたかお)氏
奈良県生まれ。大学卒業後、日本電池株式会社入社。GSユアサ統合後も自動車用電池各部署の要職を経て、現職。

鉛バッテリーはまだまだ重要だ。

 次にわたしが訊ねたのは、鉛バッテリーはなくなっていくのかということだ。
「鉛蓄電池の技術というのはだいたいもう完成されてるんですか? リチウムイオン電池に置き換わらないのですか?」

 世間では電池と言えばリチウムイオン電池、それから未来の電池として全固体電池のことばかりが話題に上っている。だが、GSユアサのふたりの専門家の話を聞く限り、鉛蓄電池にもまだ未来はあるようだ。

 大前は「そうなんです」とうなずいた。

「私たちが今、考えているのは鉛バッテリーの回生の能力をさらに上げることです。回生能力を増やせば増やすだけ車の燃費がよくなります。回生エネルギーを使うのは、もともとはハイブリッド車やEVがやっていたことでした。それを鉛バッテリーにも応用したのが当社のアイドリングストップ用バッテリーなんです。現在の鉛バッテリーの大きな役割はエンジン始動や、ヘッドライトをつけたり、カーオーディオの動力源になるだけでなく、燃費を良くすることなんです。

 従来の車の機構を少し説明します。エンジンをまわして車が走るのと同時に、発電機も常に回っています。発電した電気エネルギーはエンジン点火や電装品負荷だけでなくバッテリー側に行きますのでバッテリーは常に満充電状態にあります。しかし、つねに発電するということは、ガソリンの一部分を走るためではなく、発電のために使ってしまう。燃料の無駄になるわけです。そこで、アイドリングストップ車では、できるだけ発電機を回さず、無発電時にはバッテリーから放電することで、その分だけ燃費をよくしよう、そして放電した分は回生エネルギーで取り返そう、というのが基本発想です。

 昔は、車をスタートさせてから止めるまで100%発電機が回ってました。しかし、今の車では発電機が回っているのは、おそらく50%以下だと思います。ガソリンはなるべく車を走らせるためだけに使おうということなんです」

 燃費をよくすることもガソリンの使用を減らすことにつながる。彼らは鉛バッテリーの回生性能を上げることでエコに貢献している。

最新の自動車用鉛蓄電池
最新の自動車用鉛蓄電池

では、全固体電池はもうあるのか。

 さて、さらに質問である。
「最近、新聞記事に出てくる全固体電池というのは、すでにあるのですか? 実用化されるとすればいつですか? GSユアサも開発しているのですか?」

 ふたりは声を揃えて答える。
「我々も車載用として研究開発をしています。電池の試作段階ではほぼ完成していますが、車載用としての実用化にはまだ時間がかかると思います。
 全固体電池とはリチウムイオン電池の発展形です。リチウムイオン電池には可燃性の電解液が入ってますが、その液体部分をイオンが移動する固体の物質に変えるというのが全固体電池です。

 全固体電池のいいところとは安全性でしょう。たとえば、リチウムイオン電池の問題点は『発火する』という事象が起こること。携帯電話に入ったリチウムイオン電池が発火したということはお聞きになったことがあるのではないですか。

 リチウムイオン電池は通常はまったく問題ありません。また、特に車載用は万一の場合に備えて何重にも安全機構が備えられています。しかし、中に可燃性の電解液が入ってますから、事故が起きてバッテリーが破壊されたとか、ショートしたりすれば、発火してしまうリスクはゼロではない。一方、全固体になると液が燃えることがないわけですから、安全性が飛躍的に向上します」

「では、性能がよくなるわけではないのですか?」(野地)

「性能は今の時点でいえば液体のほうがいいです。全固体電池の開発とはいかに液体の電池に追いついていくかという技術であり、研究なんです。そして、実用化でいえば、ウェアラブルなどに使われる小さなサイズの全固体電池は量産が近いと聞いています。しかし、車に搭載する大型のものはまだ少し先でしょう。世界中の自動車会社、電池会社がチャレンジしていて、いつ実用化できるのか、各社しのぎを削っています。」


《後編に続く》

 


自動車用バッテリーはどのように開発するのか?〜《GSユアサ:後編》部品の仕事(6) | みんなの試作広場

『部品の仕事』第6回は自動車部品の老舗電池メーカーGSユアサ後編です。GSユアサでは、どのように電池開発が進められており、これからの電池をどう考えているのでしょうか。前編に引き続き、GSユアサの特色から電池開発の仕方、電池の寿命、未来の電池を伺うなかで、多方面から開発現場における部品の仕事にせまりま…

野地秩嘉(のじつねよし)
1957 年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。近著『トヨタ物語』『トヨタ 現場の「オヤジ」たち』がベストセラーに。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。


▽連載『部品の仕事』シリーズ一覧
  1. 日本精工(NSK)「ベアリング」前編 / 後編
  2. BOSCH「二輪車用ABS」前編 / 後編
  3. GSユアサ「自動車用バッテリー」前編 / 後編
  4. NTT(日本電信電話)「コネクテッドカー」前編 / 後編
  5. 村田製作所「車載センサー」前編 / 後編
  6. ブリヂストン「トレッドパターンデザイン」前編 / 後編
  7. 矢崎総業「ワイヤーハーネス」前編 / 後編
  8. クラリオン「カーオーディオ」前編 / 後編
  9. エフ・シー・シー「クラッチ」前編 / 後編
  10. ソミック石川「ボールジョイント」前編 / 後編
  11. 林テレンプ「内装部品」前編 / 後編
▽番外編・特別編

 

 

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