自動車用鉛バッテリーの進化する役割〜《GSユアサ:前編》部品の仕事(5) (1/2)

野地 秩嘉(ノンフィクション作家)
野地 秩嘉
ノンフィクション作家

野地秩嘉氏の連載『部品の仕事』第5回は老舗電池メーカーGSユアサです。GSユアサは、日本の蓄電池の祖と呼ばれるふたり(島津源蔵、湯淺七左衛門)が創立した会社が2004年に経営統合されて誕生しました。今回は、今後のEV車などの増加に向けて開発が進められる自動車車載電池に注目し、車載電池開発の仕事やこれからの電池の姿を探っていきます。


連載『部品の仕事』シリーズ一覧 | みんなの試作広場

MaaS時代に、より一層重要度が増す「部品」。「部品」をめぐる現場の研究開発者のリアルな仕事を「トヨタ物語」の著者であるノンフィクション作家、野地秩嘉氏が追います。

EV時代の車載電池

 自動車業界はEV(電気自動車)、HV(ハイブリッド車)、PHV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)などの環境対応車へのシフトが進んでいる。

 2019年1月から中国では新エネルギー車(NEV)規制(「乗用車企業平均燃料消費量と新エネルギー車クレジット並行管理弁法」)が始まった。同国で年間3万台以上のエンジン車(内燃機関乗用車)を生産あるいは輸入販売する企業に対して、バッテリー式電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)もしくは燃料電池電気自動車(FCV)の生産・販売義務を課すもの。対象企業(自動車メーカー、車両輸入販売する企業)においては、初年度の19年はエンジン車の生産・販売台数の10%、20年には12%が目標とされている。

 こうした流れで部品のなかで注目されているのがバッテリー、つまり蓄電池だ。環境対応車へのシフトで、車載電池メーカーはいっそう成長のチャンスをつかんだのだが、今のところ数量では中国、韓国の電池メーカーが先行している。

 対して、日本の電池メーカーは今後のEV車などの増加に対して、どんな手を打っていくのか。そして、車載電池開発とはどういった仕事なのか。自動車部品のなかでもっとも注目されている電池の現場とこれからを考える。

 わたしが取材に出かけていったのは老舗電池メーカーのGSユアサである。
 GSとは「ゲンゾー・シマヅ(島津源蔵)」の頭文字で、ユアサは湯淺七左衛門の名字である。GSユアサとは日本の蓄電池の祖と呼ばれるふたり(島津源蔵、湯淺七左衛門)の名前からできた社名だ。島津が設立した日本電池、湯淺が作ったユアサコーポレーションが2004年に経営統合してGSユアサとなった。

自動車車載電池のカテゴリーについて

 最初に、自動車車載電池について、その種類を記しておく。
 電池には一次電池、二次電池という2種類がある。一次電池は乾電池のように充電ができない使いきりのそれであり、二次電池とはスマホの電池のように充電ができて繰り返し使えるものをいう。

 二次電池のなかに、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池がある。鉛蓄電池は始動用バッテリーとしてガソリン車に搭載されている他、EV、PHVの補機用としても使われている。鉛蓄電池の容量はリチウムイオン電池ほどではないが、寿命が長く価格が安い。

 「補機用の鉛バッテリー」の意味だが、EV、PHVに載るリチウムイオン電池は主にタイヤを回す駆動用に使われる。システム起動やヘッドライト、カーナビなどの電源には、一般的に鉛バッテリーが載っているので、「補機用」とは駆動以外の電源として使われるという意味だ。

 ニッケル水素電池はトヨタがプリウスのハイブリッド用駆動用バッテリーとして採用している。けれども、最近のプリウスにはニッケル水素電池を搭載しているタイプ、リチウムイオン電池のタイプの両方がある。ニッケル水素電池は、リチウムイオン電池に比べると、エネルギー密度は小さいが出力は十分であり、コスト的にも有利である。
 車体を軽くしたい場合はリチウムイオン電池を使う。高価ではあるけれど、軽いし、小さくもできるし、前述のように出力が大きい。

 なお、リチウムイオン電池の発明、実用化は日本が最初だ。1985年、旭化成の吉野彰たち研究者がリチウムイオン二次電池の基本概念を確立し、研究開発で主導的な役割を果たした吉野彰は2019年ノーベル化学賞を受賞した。そして1991年、ソニー・エナジー・テックが世界で初めてリチウムイオン電池を実用化、商品化している。

鉛バッテリーはなくならない。

 わたしがじっくりと取材したのは大前孝夫技術本部長、自動車電池事業部所属である。もうひとりは山口義彰取締役、同事業部の副事業部長も兼務する。
 大前は日本電池、山口はユアサコーポレーション、それぞれの鉛電池研究開発部門出身である。
 ふたりとも口をそろえて、「経営統合前からお互いの存在は知っていました」とのこと。要するに、ふたりは車載電池の専門家である。
 ふたりは非常に仲が良いようで、掛け合い漫才をやっているかのように、質問に答えてくれた。
 大前は、「電池について、少し説明させてください」と話を始めた。

「自動車にはエコカーというカテゴリーがありますね。いちばんエコなのがEV、FCV。そしてPHV、ハイブリッド車と続きます。それからガソリン車のなかでもアイドリングストップ車が来て、通常のガソリン車です。EV、PHV、ハイブリッド車は駆動にリチウムイオン電池を使っていますが、アイドリングストップ車は始動用の鉛バッテリーです。

 で、当社にはEV用電池をつくる会社(株式会社リチウムエナジージャパン)とハイブリッド用電池の会社(株式会社ブルーエナジー)があります。そして、私どもふたりが所属しているのは、鉛バッテリーを作っている部隊です」

 鉛バッテリーを使ったGSユアサの看板製品がアイドリングストップ車用のそれだ。アイドリングストップ車とは信号などで停車した時にエンジンが止まり、燃費を向上するエコカーである。
 わたしたちはアイドリングストップ車をエコカーと認識していないところがある。しかし、燃費性能を比較してみると、ハイブリッド車はガソリン車よりも50パーセント以上燃費が向上しているのに対し、アイドリングストップ車では10パーセント程度燃費が向上する。

 山口は「通常のガソリン車に使う鉛バッテリーとアイドリングストップ車に使う鉛バッテリーでは中身が違うのです」と言った。

「アイドリングストップするかしないかで車のエンジンをかける回数が全然違います。普通の車ですと自宅からエンジンかけたら目的地まではエンジンかけっぱなし。ところが、アイドリングストップ車は信号にかかるたびにエンジンが止まります。電池に負荷がかかりますから、耐久性が全然違います。そのために中身を変えています」。

 山口は続ける。
「エンジンが止まっている間は発電機も止まっています。しかし、オーディオやカーナビなどの機能は動いています。ですから、アイドリングストップ車用の鉛バッテリーは通常のガソリン車のそれよりも放電量が大きいのです」

 次にしゃべるのは大前の番だ。
「今のアイドリングストップ車には回生という機能が付いています。ブレーキエネルギーを電気エネルギーに換えたものを吸収するという機能です。
 そして、燃費を上げるために何をしているかというと、発電で消費するエネルギーを減らすために走行中はできるだけ発電機を停止させ、ブレーキを踏んだ時だけ発電機を動かす。運動エネルギーを電気に戻して、バッテリーにもう一回充電するわけです」

 これまでの車では、車がブレーキをかけた時、ただ、止まるだけだった。ただし、その時に熱エネルギーが発生した。回生とは熱エネルギーを電気エネルギーに換えてバッテリーに蓄えている。つまり、ブレーキを踏んだ時のエネルギーで発電しているわけだ。

 では、アイドリングストップ車はどのくらい普及しているかと言えば、現在販売されている乗用車タイプの軽自動車のほぼ100パーセントがそうなっている。普通乗用車では約半分がアイドリングストップ機能を持つ。今、走っているガソリン車をすべてアイドリングストップ車にするだけでも、自動車の環境対応は大きく前進する。

株式会社GSユアサ 取締役 自動車電池事業部副事業部長 山口義彰氏(左)、理事 自動車電池事業部技術本部長 大前孝夫氏
株式会社GSユアサ 取締役 自動車電池事業部副事業部長 山口義彰氏(左)、理事 自動車電池事業部技術本部長 大前孝夫氏
ハイブリッド車とEVのバッテリーの違いとは。 次ページ

こちらの記事もおすすめ(PR)