EV時代になればベアリングメーカーはどう変わるのだろうか〜《日本精工:後編》部品の仕事(2)

野地 秩嘉(ノンフィクション作家)
野地 秩嘉
ノンフィクション作家

『部品の仕事』第2回も、前回に引き続き日本精工を紹介します。EV化や自動運転などの技術導入を推進する自動車業界の変革に対して、精密部品メーカーの日本精工はどのように対応していったのでしょうか。今後のベアリング部品、ものづくりは、どのように変わっていくのでしょうか。日本精工:後編をお送りいたします。


ファイナルユーザーが何を求めているかを知ってからベアリングを開発する〜《日本精工:前編》部品の仕事(1) | みんなの試作広場

野地秩嘉氏の新連載『部品の仕事』第1回はベアリングメーカー大手の日本精工です。自動車部品としても欠かせないベアリングは軸受と呼ばれますが、精密部品の技術開発が進められているR&D現場では日々どのようなことが考えられ、行われているでしょうか。野地氏ならではの切り口で現在のものづくりの姿を掘り下げていき…

単純なものほど難しい。

「2000年を過ぎたぐらいから、やっぱりその先にあるものを知らないで作ることはあり得ないという雰囲気になってきました。例えば前にこういうデザインやったからそのまま使えるだろうと思い、相手先からいただいたスペックだけで開発すると、だいたい失敗するということがわかりました。単純に言うと壊れちゃうんです。ですから、その頃から特に使う人のことを考えて開発するようになりました」(後藤専務)

 もっとも、各自動車会社とも出してくるスペックはまったく違うものだという。

「当社で考えた企画を持ってドイツの北から南へ自動車会社にツアーをやったことがありました。1週間ぐらいかな。いろいろな会社に開発したい製品についてプレゼンしていると、相手から、『おまえら何言ってんの』って顔をされたこともあります。いや、実際は言わないですよ、言わないけども、目つきがそういう顔だった。
俺たちはもうその種の部品はいらないんだとか、もうやったよ、と。

 でも、同じ内容のプレゼンを違う会社にしてみると、目を輝かせて、『よし、やろう』と言われることもある。

 自動車って各社各様というか、特にシャーシ系、足回りだとかステアリング、サスペンションまわりはほんとに考え方が違います。だから、ベアリングの設計も変わってくるんです」


日本精工株式会社 取締役 執行役専務 技術開発本部長 後藤伸夫(ごとうのぶお)氏
1957年生まれ。大学院修了後1982年日本精工入社。その後いくつかの開発の現場を経て、2018年執行役専務、技術担当、技術開発本部長就任。現在、取締役品質保証担当も兼務。
日本精工株式会社 取締役 執行役専務 技術開発本部長 後藤伸夫(ごとうのぶお)氏
1957年生まれ。大学院修了後1982年日本精工入社。その後いくつかの開発の現場を経て、2018年執行役専務、技術担当、技術開発本部長就任。現在、取締役品質保証担当も兼務。


 外国の自動車会社、フォルクスワーゲンやルノーなどは積極的な提案を喜ぶという。ただ、いったん採用になったからと言って次もまた選ばれるとは限らない。次の車の開発の時はまた他のサプライヤーと同じスタートラインから提案しなくてはならない。

 しかし、考えてみればそれは当たり前のことだ。日本の自動車メーカーでも、積極的な提案が技術力として評価されてきている。

EVになるとベアリングは減る?

 自動車の部品を作っている会社は数多い。そのなかでエンジン回りを作っている会社はEV車がスタンダードになると、どうなるのだろう?
 会社はなくなり、社員は失業するのだろうか?

 実はそれほど単純ではない。まず、エンジンがすぐには電池とモーターに置き換わることはない。
 そして、エンジン回りの部品を作っている会社はそれぞれ生き残り策をちゃんと考えて、すでに実行に移していると思われる。

 たとえば、オイルパンを作っている会社がある。そこは早くからEV車の電池用ケースに目をつけていた。オイルパンの製造技術を応用すれば、電池ケースを作ることができるので、そちらに注力し、今では両方を生産している。

 では、日本精工のベアリングはEVが主流になったら、どうなるのだろうか。

「モーターはエンジンよりも回転のレンジが広いから、6速は必要ありません。同じことをやるなら2速から3速あれば十分。そこがやっぱり一番の違いです。そうすると、トランスミッションに使うベアリングの数は減ります。ただし、求められる性能が変わってくる。個数は減るけれど、金額ベースに換算すればプラスアルファになるんじゃないかと試算しています。

 詳しく言えば、エンジン車のトランスミッションに入るベアリングとEVのベアリングでは材料は同じだけれど、内部の設計が違ってきます。保持器のデザイン、内部の油の通し方などですね。特にEVはいろいろな業界から参入してくるでしょう。そうなってくると、参入してきた会社のなかにはトランスミッションのなかにオイルを入れて回すことはしたくないというところがあります。

 なぜかといえば、オイルポンプを持ってオイルを回すというのはそれなりに設計のノウハウが必要です。知見のあるトランスミッションメーカー、EVメーカーでないとできないでしょう。そして、新しく参入してくるEVの会社にしてみればオイルを回すことを考えて設計するよりも、オイル交換の必要がないグリースで済ませたいと思うのではないでしょうか。もっとも、うちではオイル用、グリース用のどちらのベアリングも開発します」

 後藤は自動車業界が変化しようとしているのを「肌で感じる」と考えながら言った。

「自動車が大きく変化していくなか、カーメーカー1社で何から何まで手がけるのはしんどいでしょう。優れたサプライヤーの技術なり、商品があるのだったら、積極的に採用していくべきと思っているのでは。

 自動運転になってくると、開発の比重がソフトウェアに寄ります。そこに人的な投資をしなきゃいけなくなっている。従来からの部分はなるべくそのままにしておきたい、むしろ、少数でやりたいと思っているんじゃないでしょうか。部品会社は今までよりもさらに仕事が増える時代になります」


チャレンジはやめない

 日本精工はベアリングだけでなく、トライボロジーという基礎技術を応用できる、さまざまな周辺分野にチャレンジしてきた。成果を上げたものもあったし、撤退したものもあった。たとえば、後藤が関わった「トロイダルCVT」という無段変速機は評判になった。一方で、トライボロジー技術とは関係性が薄いシートベルト&エアバック事業からは撤退した。

 自動車が変革していくなかで、部品の会社が考えなくてはならないことは、どういったことなのか。

「何かやらなきゃならないんです。変化を先読みというほどえらそうなことは言えません。ほんとうにちょっと足の親指の半分でもいいから、爪の半分でもいいから、とにかく前へ前へ進んでおく。既存のベアリングでも改良はつねに必要です。

 たとえばEVってエンジンの音がなくなりますから、軸受の作動音が目立つ。そうすると、今までのベアリングの音が、いや、これじゃ、うるさいという話になるから音を制御しなくてはならない。基礎技術を積み重ね、そのなかから何をチョイスしていくかですね。

 先ほど話したベアリングに使うグリースですけれど、あれはグリースメーカーから推奨品を買ってくるのではなく、全部私たちがレシピ決めて作ってもらっています。グリースメーカーさんに量産はしてもらっていますが、レシピは決めさせていただいています。それくらい丁寧な仕事をしています。そう簡単には負けないよという気持ちでね」

 ねじ、歯車と並んでベアリングは3大機械要素と言われている。ほとんどの機械に使われているから産業の米とも言われている。単純なものだ。だが、日本精工は精密なベアリングを作って、変革の時代に立ち向かっている。

 精巧と精密は違う概念だ。精密な部品を作り続けるには膨大な時間と独自の技術がいる。わたしが部品会社を起業するとしても、ベアリングには手を出さない。単純で精密なものは実績のある企業には勝てないだろうから。




世界で初めて四輪車向けに量産化した自社技術を二輪車へ〜《BOSCH:前編》部品の仕事(3) | みんなの試作広場

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連載『部品の仕事』シリーズ一覧 | みんなの試作広場

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野地秩嘉(のじつねよし)
1957 年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。近著『トヨタ物語』『トヨタ 現場の「オヤジ」たち』がベストセラーに。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。

 

 

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