九州地場企業の協力でわずか1年半で実現!高精細小型SAR衛星「イザナギ」の開発ストーリー

INTERVIEW

株式会社QPS研究所
代表取締役社長
大西 俊輔

“世界初”の100kgの高精細小型SAR衛星、「イザナギ」。マイクロ波を使って地表面を観測する「SAR衛星」は過去にもありましたが、QPS研究所が開発したSAR衛星は収納性が高く、軽量で大型のアンテナを使うことで小型化を実現。1mの高分解能でありながら、重量は従来のSAR衛星の約20分の1の100kgとなっているとともに、コストも従来の約100分の1となっています。
 
この世界初の高精細小型SAR衛星はどのように生まれ、具体的な技術はどうなっているのか──今回、QPS研究所の代表者を務める大西俊輔(おおにし・しゅんすけ)氏に話を伺いました。


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小型化に成功したSAR衛星「イザナギ」で目指す、地球のリアルタイムマップ

QPS研究所の代表者を務める大西俊輔氏
QPS研究所の代表者を務める大西俊輔氏


「2019年12月に1号機が打ち上がりましたが、今後は合計36機の小型衛星を打ち上げることで、リアルタイムに地球を観測することができるようになります。目指すのは“リアルタイムマップ”です」(大西氏、以下同)
 
小型SAR衛星を通じて実現したい未来について、大西氏はこのように語ります。現在、宇宙に打ち上げられている衛星のほとんどは、カメラを使用して地球を撮影していますが、現在の光学センサーの技術では、夜間や天候不良時の撮影は不可能。地球のおおよそ75%が常に夜間もしくは天候不良であるため、真の地球観測にはほど遠い状況にあります。
 
24時間、どんな天候でも観測できる衛星を開発すべく、QPS研究所は「SAR(Synthetic Aperture Radar)」に着目しますが、従来のSAR衛星は大きなアンテナと多量の電力を必要とするため、1トンや2トン以上の大型衛星が一般的と言われています。
 
常に上空を飛んでいる状態にするには多数の衛星を打ち上げなければならず、当然膨大なコストと労力が必要になります。資本力に乏しいベンチャー企業にとって、大型のSAR衛星をいくつも開発するのは現実的ではありません。
 
「すでにカメラ式の小型人工衛星は先行するプレイヤーがたくさんいましたし、大型のSAR(レーダー)衛星は国の機関や大手企業が開発していました。ただ、小型のSAR衛星に関しては開発している会社はなく、誰もチャレンジしていなかったんです。それで小型SAR衛星に大きなチャンスがある、と思い挑戦していくことにしました」
 
前代未聞の小型SAR衛星を開発するにあたって、大きな役割を担ったのが直径3.6m、質量10kgの超軽量展開型パラボラアンテナです。収納性が高く、軽量で大型のアンテナを開発することで電力とアンテナの課題をクリア。これにより、1mの高分解能でありながら、従来の約20分の1の質量の100kgへの軽量化、コストも従来の約100分の1を実現した100kgの高精細小型SAR衛星が完成したのです。


超軽量展開型パラボラアンテナの小型模型。らせん状の傘の構造に特徴がある。
超軽量展開型パラボラアンテナの小型模型。らせん状の傘の構造に特徴がある。


QPS研究所の小型SAR衛星は、夜間や天候不良時でも必要時に必要な観測地点を観測できるため、36機の衛星で世界中のどんな場所でも平均10分以内に撮影し、特定の地域を平均10分に1回定点観測することが可能になります。これにより、継続性のある画像をデータとして収集できる、土地や建物などの“静止体”だけでなく、車や船舶、更には人や家畜などの“移動体”をデータとして蓄積できるようになるのです。
 
「移動体データを活用することで、新しい経済価値が発見できたり、安心・安全な街づくりに貢献したりすることができます。例えば、2016年11月に発生した博多駅前道路陥没事故も、定点観測していけば陥没することも予測できたと思うんです。すでに鉄道などのインフラ系の企業や、保険業界の企業からデータの活用について問合せをいただいています。
 
また、気象データ、市場データ、経済データなどと組み合わせることで、将来の作物の価値予測や、国・地域の経済予測も可能になると思います」


九州の地に宇宙産業を根差すことを目指し立ち上げ 

直径 3.6mと大型ながら10kg と軽く、打ち上げ時はコンパクトに折りたたまる収納性の高いアンテナ
直径 3.6mと大型ながら10kg と軽く、打ち上げ時はコンパクトに折りたたまる収納性の高いアンテナ


そもそも、QPS研究所は今から15年前の2005年に九州大学名誉教授の八坂哲雄氏と桜井晃氏、そして三菱重工業株式会社のロケット開発者・舩越国弘氏の3人が“九州の地に宇宙産業を根差す”ことを目指し、立ち上げられた企業。
 
社名の“QPS”は「Q-shu Pioneers of Space」の頭文字を取ってつくった言葉で、この言葉には、九州宇宙産業の開拓者となること、そして九州の地から、日本ならびに世界の宇宙産業の発展に貢献する、という思いが込められています。
 
「九州には種子島宇宙センターがあるにも関わらず、地場の企業に宇宙産業がまったく根付いていない。関東や東海で開発されたものが九州に運ばれ、打ち上げられる。そういう状況に対して、八坂先生は『すごくもったいない』と言っていたんです。

それで八坂先生たちが九州中のメーカー企業を巡り、『宇宙産業を一緒に盛り上げないか?』と声をかけていき、最終的に数十社が参加を表明し、現在も約20社と協力関係を築いています」
 
現在、代表を勤めている大西氏ですが、もともとは八坂教授の研究室の卒業生であり、QSAT-EOSプロジェクト(九州大学を中心とした九州地区の大学・企業による50kg級小型衛星プロジェクトを取りまとめていました。
 
八坂教授はもともと「九州に人工衛星の開発技術を残せればいい」という発想の持ち主だったこともあり、自社で衛星を打ち上げることまでは考えてなかったとのこと。しかし、大西氏が2013年に社長に就任以降、ビジネスとして成功させる方向に転換。世界初となる小型SAR衛星の開発に着手していったのです。
 
「九州出身の宇宙産業のエンジニアのみなさんは、『できれば地元の九州で働きたい』思いが強くあるのですが、帰れる場所がない。であれば、帰れる場所をつくり、なおかつQPS研究所をより発展させていけばいいのではないか。そういう気持ちがありました。

エンジニアのみなさんは、世界初や日本初など“魅力あるミッション”がなければ帰ってこない。会社としても競争優位性を出すために、なにをすべきか考えた先に小型SAR衛星があったんです。開発にあたって一番ネックになるのはアンテナだと思っており、八坂先生に小型衛星に搭載できる軽いアンテナはつくれないか聞いてみたところ、実現できることがわかったので、具体的に話が進んでいきました」
 
開発を進めていくにあたって、当然ですが資金が必要になります。当時を振り返り、「QPS研究所の転機となった」と大西氏が語るのが、市來敏光氏のCOOとしての参画です。彼の参画によって、36機の小型衛星でリアルタイムに地球を観測する世界観ができあがり、2017年に23.5億円の資金調達も実施できました。


九州の地場企業の協力によって、1年半という短期間で開発できた

「短期間の開発には地場企業20社との連携が不可欠だった」と語る大西俊輔氏
「短期間の開発には地場企業20社との連携が不可欠だった」と語る大西俊輔氏


なぜ、QPS研究所は小型SAR衛星を開発できたのか──これを語る上で欠かせないのが、地場の企業20社ほどの協力体制です。
 
「どう作ればいいかのアイデアは着想できますが、実際にアイデアを形にするためには地場企業の製造能力、スピーディーに物にする力が密接に関わっています。彼らの協力があったからこそ、1年半という短期間で世界初のレーダー衛星を開発できたんです。
 
宇宙系ベンチャー企業が、宇宙工学を学んだ人たちが立ち上げたものが多く、製造部分が弱い。作り方は考えられたとしても、それが実際に作りやすいかと言われたら、そうではないことが多いんです。だからこそ、つくる側の意見を早い段階から取り入れて、作りやすさも考えて進めていかなければいけない。

その点では20社との協力体制が大きかったですし、物理的な距離も近い意味も含めて“九州”はいい場所だなと思いました」
 
例えば、小型SAR衛星の開発において重要な役割を担っている超軽量展開型パラボラアンテナ。これも作り手の考えをもとに、最適解を見つけていったのです。
 
一般的なアンテナは傘のように放射線状に骨が開くと思いますが、放射線状に開いたものを収納しようとすると付け根が曲がりづらく、折り畳もうとすると相当な力が必要で壊れてしまう可能性も高くなってしまいます。
 
「放射線状にする場合、ヒンジを使って折り畳めるようにするのですが、ヒンジを使うとガタの分だけ表面の精度が出しづらい。表面すべてが理想の形から1ミリもズレてはいけないわけなので実現が難しい。また機構部品は、宇宙で展開するときに不確定要素になるので付けづらい。
 
そうした条件の中でどうすべきか。その中で出てきたのが、らせん状にして巻けるようにする、というものでした。それならばコンパクトに収納もできますし、骨組みがバネ材なので、収納したときの弾性力を使って自分の力で開くこともできる。
 
普通はモーター使って駆動させて開かせるイメージがあると思いますが、その場合だと宇宙空間でモーターの駆動がなにか問題があったときに展開できなくなる。一方でわれわれのアンテナは一回開かせる指示を出せば、自分の力で開くので信頼性も高くなります」
 
実際、軽量化のことも含めて、どういった形でどういった構成にするべきなのか──数百パターンものラフを書き出していったと言います。開発の方向性が定まった後、QPS研究所が行ったのが実物の1/2スケールで開発してみる、ということです。
 
「開発するにあたって、まず最初に全体のアタリをつけることが大切です。半分のスケールで開発を進めると、どこに問題があり、どこに注力すればいいかわかります。例えば、実際に開発して動作は確認できたのですが、電波を反射させるために骨組みに金属メッシュを貼り付けなければいけない課題が見えてきました。シワをつけずに貼り付けることが、どれだけがんばってもできなかったんです」
 
そんなピンチを救ってくれたのが、地場企業の協力でした。自動車のシートなどの貼り付けを行うメーカーに問い合わせ、相談してみたところ、協力してもらえることが判明。実際にやってみたところ、寸分違わぬ形で貼り付けてもらえたのです。
 
「これで小型SAR衛星の実現がグッと近づきました。自分たちだけでは絶対に浮かばないアイデアだったな、と思います。八坂先生がアイデアを着想し、どう作るかを協力企業のみなさんで話し合う。これならできる、こうしたらいいのではないか。そうした議論の次の日にはモノが出てくる。

すごいスピードで試作と検証を重ねながらつくっていくからこそ、1年半という短期間でパラボラアンテナと小型SAR衛星が開発できました」
 
「九州でなければ開発できていなかったでしょう」──大西氏は開発していた頃を振り返り、このように語ります。2019年12月に打ち上がった「イザナギ」は2020年4月現在、初期運用の段階でSAR衛星機能の約95%を実現。初号機で宇宙実証、技術実証ができました。
 
今後、QPS研究所は36機の衛星を運用していくことに向けて、「イザナギ」での画像取得を進めつつ、同時にスムーズなSAR観測を実現するための手順や姿勢、角度、タイミング等の条件についての知見、経験を広げていくとのこと。また、「イザナギ」で検証した技術や改善点を2号機「イザナミ」へ反映させていくそうだ。九州発・リアルタイムマップを生み出すための挑戦は、まだ始まったばかりです。


 
文/新國翔大

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