『京都ビジネス交流フェア2020』現地レポート

京都ビジネス交流フェアは、年に一度、BtoBに特化した展示商談会として開催されています。2020年の展示会は、切削・研削、鋳造・鍛造、板金・プレス、金型・治具、表面処理・熱処理、塗装、電気・電子部品組み立て、樹脂加工などのものづくり企業や生産性向上や環境・エネルギー関連などのソリューション技術など、京都を中心にした企業が多く出展していました。その中から興味深いユニークな技術、注目の技術を出展していた企業をいくつか紹介しましょう。


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マシニングセンタで作った一体造形、Oリングや接着剤を使用しない真空チャック

微細加工分野のマシニングセンタに関連する出展をしていたのは、株式会社吹野金型製作所(京都市南区)です。マシニングセンタそのものの展示ではなく、微細加工や鏡面加工の技術成果物を展示していましたが、その中にちょっと目を引く展示物がありました。

説明してくださった吹野文昌(ふきの・ふみあき)代表取締役によれば、マシニングセンタによる試作品である、一体造形の真空チャックとのことです。

「弊社はプラスチックの金型を作っています。今回、マシニング加工を使った試作品として、一体造形の真空チャックを出展しました。これは試作段階ですが、Oリングや接着剤を使用しない真空チャックになります」 (吹野氏、以下同)



ほかにない工法で作られた一体型の真空チャック。交換コストを削減する可能性があるそうです。
ほかにない工法で作られた一体型の真空チャック。交換コストを削減する可能性があるそうです。


この真空チャック、多孔質のポーラス形状になっていて、半導体などの製造工程で真空・高温になる環境で役立つのではないかと考えて試作してみたそうです。

「製法についてはまだ秘匿中ですが、開発のきっかけはポーラス形状を一体として造形できる技術があることを耳にし、その技術を使える場所を探したところ、もともと半導体業界とのお取引もあったので、それならウエハの搬送中の真空テーブルに使える可能性があるということで形にしてみました」

素材はマルエージング鋼で、真空に引いた環境でポーラス素材によって半導体を吸着するそうです。

「ポーラス形状の真空チャックは、半導体の製造工程では、ウエハからチップを切り離してダイシングし、枠のリードフレームを配線するボンディングの場面で生産装置の中でよく使われています。

ポーラスの多孔質で半導体ウエハを吸着するわけですが、200℃前後で使用されることが多く、従来のチャックは高温によって接着剤が溶けたりします。冷却回路も同時に一体造形できますので、冷却しながら真空に引くといったことが一つの部品で同時にできる可能性があります」


同社本来の技術であるマシニングセンタによる微細切削加工の展示。
同社本来の技術であるマシニングセンタによる微細切削加工の展示。


すでに、テストケースで実際に使っていただいている取引先もいるそうですが、真空チャック以外の付加価値としての機能を付け、優位性をどれだけ確立できるかを考えていると言います。

「また、Oリングなどを一定の期間ごとに劣化する前に交換しますが、それ以上、温度を上げたいという要望もあり、そうしたお客様に対して営業しているところです」

同社のメインであるマシニングセンタによる加工技術の成果物も展示していました。

「弊社のマシニングセンタは、直径0.1mm、0.2mmといった小径のフライス工具のエンドミルで形状加工できます。表面粗さをRa(算術平均粗さ)57μm以下で加工するのが得意です。弊社の場合、金型では約半分がプラスチックレンズの金型ですので、その技術をなんとかほかの分野でも使ってほしいと考えています」

同社は、今後はさらにマシニングセンタの精度を上げていくのと同時に、将来的に微細なプラスチック製品の加工が必要になってきた時、アドバンテージになるような技術を蓄積していこうと考えているそうです。


株式会社吹野金型製作所 代表取締役 吹野文昌氏。真空チャックには大きな技術的なブレークスルーの余地があると言います。
株式会社吹野金型製作所 代表取締役 吹野文昌氏。真空チャックには大きな技術的なブレークスルーの余地があると言います。


欲しいを叶える歯車

航空機分野で使われる部品、特に歯車を得意分野にしているというのが川崎機械工業株式会社(京都市下京区)です。同社は、1983年にすでにAGMA(American Gear Manufacture's Association、アメリカ歯車製造者協会)の規格で高い技術基準をクリアし、その後、大手航空機メーカーのエンジン部品に歯車を納品しているそうです。

説明してくださった今井彰(いまい・あきら)営業企画部部長SKY ART事業部担当員によれば、今回の出展では京都航空宇宙産業ネットワークのブースに参加したと言います。

「弊社の場合、航空部門の売上げは20〜30%です。ほかは自動車や製造機械などになります。航空関係のお仕事をさせていただいているということは、ある意味では弊社の品質保証のような信頼性につながっています」 (今井氏、以下同)

一言で歯車といっても、そう単純なものではないと今井氏は言います。

「歯車の歴史は有史以来、長いのですが、皆さん、歯があれば歯車という認識だと思います。しかし、実際に作ってみると、歯の部分以外もすべて含んだものが歯車であり、単に歯を作る歯車加工だけではないのです。例えば、歯の部分は熱処理もされていますが、熱処理すると歪みが生じるのでその歪みをどう勘案して歯車を作っていくのかというところが難しくなります」

最適な設計数値を反映させ、歯車を作ろうとすると技術的に難しいそうです。

「弊社の場合、基本的にお客様の用意した設計図面に基づいて作るのが前提ですが、あらゆる要素技術をすべて理解した上で、歯車を作ることを考えていかなければお客様が要求するものを作ることができません。

お客様が用意してくださる設計図面を最終的な目標としつつ、素材の選び方や焼き入れした際の歪み、耐久性といったさまざまな条件を収斂させていくわけです。最終的な形にするため、無駄かもしれませんが事前に熱処理をし、歪ませた状態を正とし、その後に加工してみてから再度、熱処理を施してみるなど、いろいろなことを試しています」


作ることが技術的に難しい2段歯車。内側と外側のピッチが異なり、歯車を切るカッターが入りにくいと言います。
作ることが技術的に難しい2段歯車。内側と外側のピッチが異なり、歯車を切るカッターが入りにくいと言います。


取引先から時に工法的にみると実現不可能と思えるような歯車の設計図面が来ることもよくあるそうです。

「それをどう工夫して実現するのかが技術力だと思っています。どこでもできるような歯車ではなく、難易度の高い歯車であればあるほど弊社を頼られてくるお客様がいるのでしょう」

時計に使われているものから発電所のタービンに使われているものまで、歯車を作っている企業はたくさんあるそうですが、例えば歯車のサイズが用途によって変わるように意外に棲み分けされている業界と言います。

「その中で弊社は、航空産業へ納品していることもありますが、内歯車の歯面研削という高精度な加工の量産ができるところが特徴と言えます」

歯車の歯を切る技術では、例えば内側の歯を切るのと外側の歯を切るのと工法がまったく違うそうです。

「2段歯車を一体化する歯車は多いのですが、外側を切るのはネジ状のホブカッター(Hob Cutter)をぐるぐる当てながら切っていきます。しかし、内側の歯を切るためには同じ工法を使うことができません。また、一つの部材に二重に歯車が切ってある場合、歯車のピッチが違いますので、同じネジ山ではできないのです。

2段歯車も溶接で二つの歯車をつけるとコストが高くなり、逆に強度が低くなります。なにが目的なのかによって、どんな歯車を選ぶのか、どんな歯車を作らなければならないのかが決まってきます」


狭いスペースで効率的な減速をする遊星歯車ですが、大きな場所があるならば遊星歯車はコスト的に見合わないと言います。
狭いスペースで効率的な減速をする遊星歯車ですが、大きな場所があるならば遊星歯車はコスト的に見合わないと言います。


同社は、歯車の研究で有名な米国オハイオ州立大学の歯車研究機関「GEAR LAB」の正式スポンサーになっているそうです。同大学の「GEAR LAB」には、多くの航空機メーカーや自動車メーカーが関わっていると言います。

「歯車の研究では、米国、イタリア、ドイツの大学に研究室があり、歯車独自の学科もあります。しかし、日本では以前は京都大学にあったようですが今は聞きません。オハイオ州立大学の『GEAR LAB』の研究室で開発された歯車解析ソフトを使用できるのも弊社が持つ他社にないアドバンテージだと思います」

こうした世界のトップレベルの研究機関との関係は、取引先から持ち込まれた設計図面の意図を知るために重要な知見になると言います。設計意図の深い部分がわからないと、どうやって加工していったらいいのかという方針が決まらないそうです。


川崎機械工業株式会社 営業企画部部長 SKY ART事業部担当員 今井彰氏。歯車は単に円形の金属に歯が切ってあるだけのものではないと言います。
川崎機械工業株式会社 営業企画部部長 SKY ART事業部担当員 今井彰氏。歯車は単に円形の金属に歯が切ってあるだけのものではないと言います。


伝導や対流ではなく、放射によって電機部品の熱を逃がす、セラミック・ヒートシンク

京都と言えばセラミックスの技術も強い土地柄ですが、西村陶業株式会社(京都市山科区)が出展していたのは放射放熱セラミックスというセラミック・ヒートシンクの一種です。説明してくださった営業部の佐藤昌利(さとう・まさとし)氏によれば、同社はセラミックスのメーカーとして、サウナで使われているような遠赤外線用のヒーターなどを手がけてきて、2018年に創業100年になったと言います。

「熱の伝え方には大きく、伝導、対流、放射の三つあります。放熱のために産業界では、従来からアルミなどによる熱伝導、そしてファンによる対流を使って熱対策をしてきました。しかし、放射で熱を逃がす方法は、これまであまり注目されてこなかったのです。

そこで弊社は、セラミックスによって電機部品の熱対策に利用する技術を開発しました。この放射放熱セラミックスの素材は、ファインセラミックスで一般的に使われているアルミナが原料ですが、弊社が従来からやってきたセラミックスのノウハウを活かした技術になります」 (佐藤氏、以下同)

セラミックスによる熱の放射は効率が良いそうですが、同社の技術はノウハウと材料について国内と米国で特許を取得していると言います。


セラミックスの放射放熱システムの形状では、コストなどいろんな条件を考えると平面で放熱したほうが効率が良いそうです。
セラミックスの放射放熱システムの形状では、コストなどいろんな条件を考えると平面で放熱したほうが効率が良いそうです。


「弊社のセラミックスによる放射で熱を逃がす方法の検証自体は、まだ第三者機関に検査を出している段階ですが、焼成してできる結晶の大きさや結晶構造の特性に知財があります」

自動車が電動化によってCASE化しつつあり、半導体やリチウムイオン電池などに対する熱対策が重要になってきていると言います。佐藤氏によれば、この技術の研究開発を始めたのは、10年くらい前からだそうです。


同社の展示。セラミックス製の真空チャック(右の円盤状のもの)などがありました。
同社の展示。セラミックス製の真空チャック(右の円盤状のもの)などがありました。


「始めて5年くらい経った時に、従来からのお客様から東京スカイツリーのLED照明の熱対策について、ファンによる放熱が使えない屋外の照明の熱対策で良いアイディアはないかと相談を受け、板状のセラミックスによって問題を解決しました。これが本格的な導入事例です。

弊社の放射放熱セラミックスは熱伝導率が39W/m・K(1㎡の立方体において、1秒間に1m移動する熱量)あり、非常に熱伝導率が良く、優れた熱放射性(熱放射率0.97)により、LEDや各種電源装置、集積回路など、熱対策が必要とされるあらゆる分野に採用されています。絶縁性も高く、高圧電流にも耐えるという特徴もあり、研磨もでき、値段も他の放熱材料よりずっと安くなります」

最初はパワーデバイスに、その後、LEDに採用され、現在はCPUの上にどうやって取り付けたらいいのかという問題について考えていると言います。


西村陶業株式会社 営業部 佐藤昌利氏。京都はセラミックス技術の本場と言います。
西村陶業株式会社 営業部 佐藤昌利氏。京都はセラミックス技術の本場と言います。


プラスチック(樹脂)という固形物を染色する技術とは!?

京都ならではの技術として染色があります。株式会社ムラカミ(京都市南区)が出展していたのは、プラスチックそのものを染める技術です。説明してくださった同社の村上善啓(むらかみ・よしひろ)氏によれば、衣服などを染める染色の技術を応用しているそうです。

「もともと弊社は染料の販売卸をしていまして、染色屋さんとの長いお付き合いの中から少しずつノウハウを蓄積してきました。その後、販売卸から業態変換し、プラスチック染色専門の会社にしました。社長が繊維を扱っていた関係で、20年前から樹脂を直接、染める研究を始めました」 (村上氏、以下同)


多種多様なプラスチック。これらはすべて染色によって着色されているそうです。
多種多様なプラスチック。これらはすべて染色によって着色されているそうです。


プラスチックに色を付けるためには、材料の素材に着色する方法、成型後に塗装する方法、そして染色があり、それぞれ利点や欠点があるそうです。

「素材に着色する方法では発色が良くなかったり、目的の通りにいかなかったりし、小ロットではコスト高になってしまうことがあります。また、塗装では剥がれたり、素材の表面の形状や特性を変えてしまいます」

プラスチックを染める方法は、これまで衣服のボタンなどで行われてきたそうです。しかし、素材が限定的だったり、発色に難があるなど、問題がありました。同社の技術では、素材の制限はなく、発色も良いものができるそうです。

「プラスチックを染色すれば、発色も良く、小ロットでも対応でき、コストも安くなることがあります。樹脂の表面に染料をしみ込ませているので、母材となる樹脂の性質をいじっているわけではありませんから、染料の化学組成による樹脂へも影響しません」


発色も良く、微妙な色も調整できるそうです。
発色も良く、微妙な色も調整できるそうです。


よくプラスチック消しゴムに油性マジックで文字を書いたりするとジンワリとしみ込みますが、あれと同じように、プラスチックの表面に染料をしみ込ませる技術だそうです。

「樹脂ごとに条件を変え、弊社が専用に開発した機械に入れ、染料液に入れて、一気に仕上げる方法でやります。コストやムラができにくいなど利点があります。技術的な難しさは、前例がなかったところです。化繊の着色と原理的には同じですが、プラスチックの固形物を染めるという発想がありませんでした。ノウハウを探そうとしてもなかったので、一から始めなければなりませんでした。

樹脂の染色の技術が確立したのが数年前です。10年以上は試行錯誤してノウハウを蓄積してきました。少しずつ仕事を請け負いながら、実際に製品を作りデータを取っていきました。ようやく、なんとかなりつつありますが、まだ知名度が低いのでビジネスとしてはこれからです」

最近のものづくりの現場では熟練工が少なくなり、ネジ1個から色分けして未熟練の工員でも作業をわかりやすくするようなことが行われています。同社にも少しずつ、そうしたニーズが増えてきているそうです。


株式会社ムラカミ 村上善啓氏。最初のきっかけは、染色ならではの技術的な強みを樹脂でやってみようということです。
株式会社ムラカミ 村上善啓氏。最初のきっかけは、染色ならではの技術的な強みを樹脂でやってみようということです。


京都ならではのものづくり技術が多く見受けられた京都ビジネス交流フェア。今後もユニークで発想豊かな出展が期待できそうです。


文/石田雅彦 

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