今回の記事では、ランニングコストが安くて金属も造形できる「シート積層法」、積層痕が残らず、造形スピードも従来の光造形手法より速い「DLS (Digital Light Synthesis)」、射出成形機で使うペレットがそのまま使える「ペレット溶解積層方式」、熱で焼結することで、従来手法のSLSより小型化、冷却時間を短縮できる「SHS (Selective heat sintering)」など、汎用的な3Dプリンターとしては一般的ではないものの、特徴のある方式の造形手法についてご紹介します。
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ランニングコストが安くて金属も造形できる、「シート積層法」
シート積層法は、文字通り、薄いシート状の材料を何枚も重ねながら造形していく手法です。シートには、紙やプラスチック、紫外線硬化樹脂( UV硬化樹脂)、PVC(ポリ塩化ビニル)、金属などがあります。PVCや紙など安価な材料が使えることが利点です。
材料によってシートの固定方法は少し異なってきます。PVCのシートを使ったシート積層造形は「ラミネート積層法」とも呼ばれ、シートを接着剤で付けていきます。PVCなので、強度が高い造形物が作れます。ただしPVCといえば環境ホルモンで問題になったプラスチックでもあります。人が口に入れる恐れのあるものや、子どもが手を触れるものには今は使われなくなっています。PVCのシート積層装置を使う場合は、そのことも一応、頭に入れておく必要がありそうです。
PVCのシート積層法には加熱やUV光照射といった仕組みが不要です。そのため造形物をすばやく作ることが可能です。シートの層は造形物にそってカットされ、形状部分にだけ接着材が塗られます。造形が完了した時には、造形物はシートの層に埋もれています。接着剤の塗られていない不要な部分を取り除きます。その作業はFDM(熱溶解積層)などのサポート材除去よりも楽です。
シート積層法は、小さい部品になるほど、製作数が少なくなるほど材料ロスが出やすくなります。なるべく大きい部品か、ある程度の数量を作る部品の製作に向いているということになります。ランニングコストや作業性の部分で利点はあるものの、装置価格はとても安いわけではなく、備品がいろいろあって管理が面倒という欠点もあります。
Ultrasonic Additive Manufacturing(UAM)法は、金属シートを使う手法で、超音波を使って接着します。「Ultrasonic Consolidation (UC)」とも呼ばれます。接着というより、溶接しているという方が正しいプロセスです。造形プロセスの中にCNC加工(切削)が含まれます。異なる金属同士でも溶接ができるとのことです。
積層痕が残らず、造形スピードを高速化した「DLS」

提供:JSR株式会社
DLS(Digital Light Synthesis)は、紫外線硬化樹脂を用いる光造形手法の一種で、Carbon,Inc.が開発しました。造形においては連続的液体結合製法(CLIP:Continuous Liquid Interface Production)という光量と酸素流量を制御する窓を用いて素早く部品を製造する技術を用います。紫外線硬化樹脂を満たした層の下から紫外線を照射して描画するということは、従来の光造形と同じですが、酸素量をコントロールすることにより、造形スピードの高速化と造形物内に層構造を作らず強度の異方性を解消した点が特徴です。
照射する光は、プロジェクションなので、その点はDLP(Digital Light Processing、従来の光造形手法)と同じです。ただし従来のように1層ずつ材料の固化を完了させて移動するのではありません。制御された酸素によって層内の硬化度を傾斜させ、次の層との接合部と同等の硬化度としています。そのため造形物には積層痕が残らず、かつ造形スピードも速くなります。造形後は高温でベークして硬化を促進させます。従来の光造形の造形物は、(改善はされているものの)もろさを含んでいますが、この手法では酸素濃度を制御する造形方法に加え、光硬化と熱硬化のハイブリッド材料によって強度を高めます。

提供:JSR株式会社
DLSによる造形は、「従来の光造形手法と比較して最大で100倍速い造形が可能である」とCarbon,Inc.が発表しています。加えて、量産を想定した多様な材料を自社開発しています。よってこの手法が、3Dプリンターで量産を考えた時には有力であるといわれます。
射出成形機で使うペレットがそのまま使える、「ペレット溶解積層方式」
ペレット溶解積層方式は、国産メーカーのエス.ラボが開発した造形手法です。射出成形機で使うペレットがそのまま3Dプリンターで使えるというものです。FDMと比べて使用可能な材料の制約がなくなって、汎用材料での参入がぐっとしやすくなります。フィラメントがないFDM、といいますか、超小型の射出成形機がエクストルーダーの代わりにあるといった感じです。
FDMと比較して吐出量が増大します。1時間に約3kgのペレットが出力できるとのこと。ガラスやカーボンなどの成形フィラーが混ぜられる機種もあります。大型機種のGEM2100GDは造形サイズが2m(幅)×1m(奥行)×1m(高さ)。クルマのバンパーなど大きい造形物が、従来の3Dプリンターと比較して高速かつ低コストに造形できるとのことです。エス.ラボは現在、3Dプリンター開発で、事務機器・光学機器メーカーのリコーと、トヨタ系列の企業である豊田合成と業務提携をしています。
熱で焼結することで、小型化、冷却時間の短縮化を実現した「SHS」
SHS(Selective heat sintering)は、選択加熱焼結と訳される手法で、当時デンマーク工科大学 工学部の学生だったFrederik Tjellesen氏とAnders Hartmann氏が開発しました。二人の研究は2008年から始まって1年ほどで部品製造ができることを確認し、2014年にようやく装置の製品化が実現。SHSの装置を販売するためにBlueprinter社を立ち上げています。3Dプリンターのブームがきっかけではなく、その以前から研究に取り組んでいたのです。BlueprinterのSHS 3Dプリンターは、クラウドでソフトウェアを提供しているとのことです。
粉末材料を一層ずつ焼結し、最後に粉末を除去装置で取り除く、サポートがない、粉末は再利用できるといったところは、SLS(Selective laser sintering、レーザー焼結法)と似ています。SHSの装置で使用するのはナイロン系粉末です。SLSと違うのが、焼結のためにレーザーを使うのではなく、熱転写ヘッドを使う点で、積層方法も異なります。
粉末材料は固化する前にワーク上に薄く伸ばし、熱転写ヘッドで造形データの断面を描画するように加熱していきます。レーザーの機構を付けずに済むので、SLSよりも装置のサイズは小さくしやすく、かつコストも安く抑えられます。また、レーザーのような高温にさらさないため、SLSよりも造形後の冷却時間も少なく済むことが利点です。
金属など硬い造形品が作れる、FDMを利用した造形手法
FDMでも、金属の造形が可能です。厳密にいえば「FDMを利用した造形手法」によるものです。フィラメントそのものは100%金属ではなく、バインダーが少し混じっています。形状ができあがったときにバインダーを焼却工程で除去して金属だけにします。
Virtual Foundry社の装置はFDMという名前を出して説明していますが、Markforged社の金属フィラメントを使う装置はFDMとは言わずに「ADAM(Atomic Diffusion Additive Manufacturing/原子拡散積層造形法)」としています。こちら向けにはインコネルやチタンなど高級な金属材料もあります。両者は樹脂部の焼結法に違いがあります。
Markforgedには、さらにFDMを利用した「CFF(Continuous Filament Fabrication)」という手法のユニークな装置があります。カーボン長繊維素材をカットして、樹脂フィラメントが引き込まれたエクストルーダーの中に入れて混ぜ合わせながら積層造形する装置です。


著者:小林由美(こばやしゆみ)
エンジニア、⼤⼿メディアの製造業専⾨サイトのシニアエディターを経て、2019 年に株式会社プロノハーツに⼊社。現在は、広報、マーケティング、イベント企画、技術者コミュニティー運営など幅広く携わる。技術系ライターとしても活動。
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