量産試作のための基礎知識(1)〜製品量産化のための設計・試作の進め方

製品開発の最終目的は言うまでもなく世に出すことです。どんなにすばらしいアイデアや格好の良いデザイン、高度な機能を有していても、それが世に出なければ意味はありません。この連載ではアイデアを具体化するための製品設計から試作、量産までの基礎知識を学んでいきましょう。

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量産化するまでのフローとは

製品を市場へリリースするためにはさまざまな段階を踏まなければなりません。「作る」という目線でいうと、量産までは大きく3段階の試作を踏む必要があります。

 1)その製品の機能や性能を確認・限定するための「原理試作」
 2)市場ニーズや使いやすさを意識した外観を選定するための「デザイン試作」
 3)原理試作・デザイン試作の結果を踏まえ量産を意識した「量産前試作」


それぞれの段階で試作・検証を繰り返し満足する結果を得られれば、試作の結果を踏まえていよいよ量産へと移行します。量産された製品を検査して、それをクリアすれば、いよいよ市場投入となります(図1)。


<図1>製品が市場投入されるまでのフロー
<図1>製品が市場投入されるまでのフロー


なお、実際の製品開発ではマーケティングやコストなど複数の要因が加わってくるのですが、この連載では設計・製作のみを意識するものとします。

試作と量産では必要な数量が異なるので、製作方法も異なってくるのが一般的です。樹脂の製品であれば、試作段階では少量の部品が必要なので、3Dプリンターや切削加工を用いて製作するのですが、量産となれば金型を製作して成形していくことが主流です。

同じ製品でも、試作品と量産品では、それぞれ製作過程が異なります。そのため試作から量産に移る段階で、いろいろな問題が生じることが多いのです。製作過程が異なればそのために注意すべき点も当然変わってきます。3Dプリンターで製作できたものが、量産ではできない(あるいは難しい)ということはザラにあります。

製品の設計・試作工程において、どの段階で量産を意識して、量産で成立する形を反映するのかが、非常に重要なポイントであると言えます。


製品の仕様だけでなく「デザインの肝」も理解する

製品開発においては、まず製品の仕様を理解しなければ始まりません。「仕様」とは大雑把に言ってしまえば、「なにを作るのか?」を定めたものです。

 ・なにをする製品なのか?
 ・どういった機能を付けるのか?
 ・大きさはどのくらいが良いか?
 ・どのような環境で使われるのか?


その製品が目指す着地点を理解することは非常に重要です。もちろん、製品開発の初期段階で完ぺきな仕様ができていることはまずないですし、開発の工程で仕様が変更になる場合も多々あります。仕様を把握せずに開発を行っても、地図を見ずに知らない場所を目指すようなもので、迷走することになってしまうのです。

仕様は「仕様書」として書類化されることが一般的です。製品のことを理解するためには、仕様書を確認します。これは個人的な考えなのですが、仕様とは別に、その製品の「デザインの肝」(デザイン〔意匠〕において最も大事なところ)を理解しておくことを推奨しています。

デザイン試作で作られた製品が量産では成立しないということは多々あることであり、製品設計の段階でそれを修正していくことになります。そこで、そのデザインの肝を知っているのと知らないのでは修正の仕方が大幅に変わってきます。


<図2>「デザインの肝」を優先してデザインしていく
<図2>「デザインの肝」を優先してデザインしていく


例えば、量産では難しい形だとしても、そこがデザインの肝となるのであれば、その形状を優先して採用します。あるいはコスト面の課題などにより修正検討する場合もデザインの肝を意識した修正を提案することができます。

デザインの肝を理解せず、単に作りやすさやコストダウンの目的で修正をしてしまうのは、製品が大事にする根本を崩しかねません。製品の仕様を理解するとともに、デザインの肝も理解して製品開発を進めましょう。

余談になりますが、個人的には「初期デザインの段階から金型、量産を意識する必要はない」と思っています。「できる」「できない」を意識せずに自由にデザインを進めるのが結果的に良い製品への近道になります。

とはいえ、「デザイナーは金型のことや量産技術のことをまったく知らなくてよいのか?」といえばそんなことは決してありません。ある程度は知っておいておいた方がよいでしょう。

「どの部分がデザインの肝なのか?」――これは、モノづくりにおいて重要なことではないでしょうか。このデザインの肝がうまく伝わっていないことが実は多々あります。実際、当社で製品設計や金型設計をする際も、デザインデータを支給してもらって、金型で成立するようにそのデータを修正・検討していきます。ところが、デザインの肝となる部分がうまく伝わっておらず、金型設計を承認してもらうまでの工程で、非常に時間がかかってしまうことがよく起こります。


量産までに行う3段階の試作工程

前述した通り、量産までは大きく3段階の試作工程を踏みます。開発環境によって前後したり省略されたりする場合もありますが、基本は3段階になります。各試作を通して重要となるのが、仕様とデザインの肝であるのは前述したとおりであり、その2点を軸にして試作を進めていくことになります。


段階1.「原理試作」

原理試作は、その製品の機能や性能を確認および限定するための試作のことです。ここでは、外観は関係がないので、まったくこだわりません。例えば、「人が通ったことを検知してLEDが点灯する」といった装置の原理試作を製作する場合では、目的は、その仕様を満たす基板、検知センサー、LEDなどを選定することになります。

ここでは、部品交換などをしやすく作ることが重要であって、性能確認さえできればよいので、製品外観となる筐体(ケース)などはこの段階では何でもよいということになります。


段階2.「デザイン試作」

デザイン試作は、原理試作とはまったく逆で、市場ニーズや使いやすさを意識した外観を主に検討する試作のことです。人間工学や使用環境などに従って検討を進めます。また、原理試作で内部構造が決まっていれば、それが納まるようにデザインをしていきます。

例えば、シャワーヘッドのように、手で持って使用する製品の場合であれば、持ち手に合わせて複数の形状を製作し、最適な形状を選びます。昨今では3Dプリンターが普及してきたことから、検討する形状の制約が少なくなってきています。


シャワーヘッドの持ち手の形状もいろいろ
シャワーヘッドの持ち手の形状もいろいろ


段階3.「量産前試作」

上で説明した原理試作やデザイン試作の段階では、量産のことは意識されずに試作されています。そのため、量産前試作の段階で金型を用いて製作できるように製品設計をし直した上で、試作と検証を進めます。

「金型で製作できるように設計する」ということは、「量産性を向上する」ということであり、この段階で原理やデザインに影響が出ることもあります。特にデザインにおいては、金型を意識して製品設計すると、デザインの印象が大幅に違ってくる場合も多々あるので、デザインとのすり合わせは重要です。

試作品はさまざまな方法で製作されます。試作における製造方法に関しては、次回から説明していきます。



著者:落合孝明
大学卒業後、2年間の会社勤めを経て、モールドテックに入社。2010年から同社の代表取締役に就任。現在に至る。樹脂およびダイカスト金型の設計を軸に、製品の企画・デザインから手配まで一貫して請け負う。著書に、「金型設計者1年目の教科書」「すぐに使える射出成形金型設計者のための公式・ポイント集」(日刊工業新聞社刊)がある。



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