『第6回 町工場見本市』現地レポート

葛飾区を中心とした東京都の城東エリア、近隣地域の中小製造業のための展示会が町工場見本市です。多くの下町の町工場が自慢の技術を持ち寄り、商談から受注につなげようと出展していました。その中から気になったものづくりの展示を紹介しましょう。

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粘性ある流体も垂らさずカットし生産効率を上昇!充填機のカットノズル

秋元産機株式会社(東京都葛飾区)が出展していたのは、充填機に装着するカットノズルです。説明してくださった秋元英希(あきもと・ひでき)専務取締役によれば、ローションなどの化粧品製造用に出している製品で、化粧品以外にもハチミツ、チョコレートなど粘性があって糸を引くような材料をしっかり切るという効果を発揮すると言います。

「弊社は基本的に充填機メーカーですが、今回出展しているのはカットノズルです。しっかり素材を切ることで不良率が下がり、垂れ止まりを待つ必要がないので生産効率も上がります。また食品の場合、散らばらないので衛生上も利点があります。

流体を流し、開閉しているタイプの充填機であれば、弊社以外の充填機にもほとんど装着することが可能です。弊社の充填機の場合、このカットノズルが付いていることでアドバンテージがあると考えています」(秋元氏、以下同)

同社のカットノズルは特許取得済みの技術だそうです。技術的なキモは、液流を乱さずに芯を出すという点にあり、それをどう実現するのかがノウハウだと言います。

「弊社のカットノズルは、独自技術でほかにはありません。ノズルの内部に入るバーのガイドが重要な部品であり、これを作るのが技術的なキモになります。ガイドというのは、ノズルの内部に入れた6羽を2か所に付けた棒状の部品で、羽には航空機の翼の断面のような流線型の加工が施されています。ノズル本体とこのガイドの間が狭すぎると素材のステンレスを削ってしまいますし、間が空き過ぎてもカット効果が期待できません」

同社のカットノズルは化粧品やハチミツなど充填する製品の素材自体を潤滑剤にしているそうです。

「素材の粘性によって隙間を変えていますが、実際にはノズルとガイドがどこにも触れていない状態で開閉し、ノズルの中で素材が流線型のガイドに当たることで芯を出すようになっています。技術開発を始めたのは20年以上前ですが、少しずつ改良を進めてきました。実際に効果を検証し、営業しながらやってきました」

このガイドはスライス板で成形した後、社員が分担して手作業の削り出しで流線型に形を整えているそうです。同社のノウハウがないと、やってみても工程ばかりかかってコストに見合わないと言います。

「同じようなカットノズルは以前からありましたが、実用化が難しく、長く敬遠されてきた技術です。既存のものは、ガイドの形状が単純で弊社のものとは違っていたため、うまくいかなかったのです。

弊社は、羽の数や断面を変えるなどして素材を整流し、芯を出すことに成功しました。従来のノズルは完全にシャット弁で素材を切るようになっていますが、弊社のカットノズルの場合、先端内部にテーパーがかけられていて次第にすぼまっていってカットするイメージです」


実際の化粧品工場のラインでは、多くて12口のノズルがぐるぐる回転しながら製品をボトルなどに充填しているそうです。
実際の化粧品工場のラインでは、多くて12口のノズルがぐるぐる回転しながら製品をボトルなどに充填しているそうです。


素材が垂直に落ちなければ、芯が乱れてしまうそうです。その技術も重要と言います。

「仮に上部に傾きがあっても、いかに素材を垂直に落とすかという部分も重要な技術になっています。ノズルの先端の形状、ガイドの羽、垂直に落下させることなど、どこが欠けてもうまくいきません」

他社の充填機では、依然として別の方式のノズルを使っているそうです。秋元氏は、それぞれメリット、デメリットがあると言います。

「例えば、弊社のカットノズルは、化粧品でマッサージ効果を高めるための粒子であるスクラブ剤くらいならカットできますが、弱点としてゴマドレッシングのように素材の中にゴマのような固い固形物が混じっているとカットノズルの先端が閉まりません。現在、東京理科大さんと産学連携し、固形物を砕いたり切断しながら液もカットするという技術を開発中です」


棒状の部品がノズルに挿入され、2か所に6枚羽のガイドが素材を整流して芯を出すそうです。
棒状の部品がノズルに挿入され、2か所に6枚羽のガイドが素材を整流して芯を出すそうです。


難しいのは顧客からのオリジナルのフルオーダーにどう応えるかという点だそうです。

「例えば、極端に細いノズルですとか、長いノズルですとか、いろいろ難題があります。レトルト食品などのパウチ充填機ですと長いノズルが求められます。削り出しにこだわり過ぎると垂直に落ちる性能などが実現できませんから、ある程度は削り出しで加工を行い、残りは溶接でやるというようにお客様のご要望に柔軟に対応することが大変な点です。

ノズルの本体は削り出しで加工していますが、長くなり過ぎると芯が出にくくなります。加工の技術は例えばガイドの羽の削り出し成形など、正直、経験を積んでいくしかないと思っています。こうした加工では、地元の溶接会社さんなどとの人と人のつながりがなければできなかったでしょう」


秋元産機株式会社 専務取締役 秋元英希氏。現在、産学連携で新しい技術を開発中だそうです。
秋元産機株式会社 専務取締役 秋元英希氏。現在、産学連携で新しい技術を開発中だそうです。


生地とシールとの間にほとんど段差が感じられない馴染み感にこだわった加圧式ステッカー

よく加熱してノリを溶かすアイロンステッカーがありますが、アイロンなどで加熱する必要のないステッカーを出展していたのは株式会社扶桑(東京都葛飾区)です。説明してくださった富田成昭(とみた・なるあき)取締役によれば、同社は創業56年目で昔から転写シールに特化したビジネスをやってきたそうです。

「創業当時は、スキー板にデザイン性の高いシールを貼るアルコール転写の事業からスタートしました。長年、BtoBでつちかってきたいろいろな技術を組み合わせたのが今回、出展しているBtoCの加圧式シールということになります。

例えば、弊社は貼る対象物として、爪や肌、金属、木材、プラスチックなどに対する技術をもっていますが、今回出展している製品は、加熱しないため、綿、麻、皮、化繊など幅広い生地素材に貼ることができるのが特長になっています」(富田氏、以下同)

また、貼りやすくて剥がしにくいという特長で、肌に貼っても大丈夫という安全性も確認しているそうです。


株式会社扶桑 取締役 富田成昭氏。馴染み感にこだわって開発したそうです。
株式会社扶桑 取締役 富田成昭氏。馴染み感にこだわって開発したそうです。


「弊社の製品にはタトゥーシールがあり、第三者機関に安全性をテストしてもらっています。加圧式シールも同じように肌に貼ることもありますから、素材は安全性が担保されたものを使っています。どんな素材を使っているのか秘密ですが、肌に対してはパッチテストを実施して安全性を確認しています」

今回、出展している加圧式シールは、これまでの同社の技術の延長線上にある製品と言いますが、取引先から依頼されたものではなく、ブランドを含めて自社で独自に開発し、販売している製品だそうです。


布などに押し付けこすり付けるタイプのシールだそうです。
布などに押し付けこすり付けるタイプのシールだそうです。


「ビジネスモデルとしては、弊社がこれまで扱ってきた製品とは違います。製品開発は2017年から始まりましたが、きっかけは東京都さんとグッドデザイン賞をやっている日本デザイン振興会(JDP)のコンテストの中でベースが生まれ、そこから実際の製品開発が始まったということになります。最初からBtoCを考えたわけではなく、コンテストがきっかけになってブランドを含めた新しい製品を開発してみようということになったのです」

BtoCとして文房具屋など、ステーショナリーの市場に出しているそうです。また、開発で難しかったところは馴染み感だったと言います。

「貼る対象の生地目がわかるくらい馴染ませるところにこだわりました。触ってもらえばわかりますが地とシールとの間にほとんど段差が感じられないように、プリントに近い馴染み感を出すのが難しかったですね。生地の凹凸に沿って貼り付けていますので、厚みがあると馴染み感が出ませんし、薄すぎると劣化が早かったりしますので、その絶妙なバランスの調整に苦労しました」


金色の丸が加圧式シール。素材の凹凸にしっかり貼り付けられています。
金色の丸が加圧式シール。素材の凹凸にしっかり貼り付けられています。


溶接や染めなどの加工が難しい真鍮を使ったものづくり

展示会場の入り口に飾られていたユニークな真鍮製のコンロを開発したのが株式会社富士産業(東京都葛飾区)です。説明してくださった杉本英樹(すぎもと・ひでき)常務取締役によれば、町工場見本市には開催3回目から出展しているそうです。

「入り口のキャンプ用の組み立てコンロは、3本の棒と三角形の板で構成されていますが、キャンプ用品の専門メーカーさんにもまず同じような製品はないでしょう。3本の棒の組み合わせのヒントは、プロ野球のボールを乗せたバットの記念品から得ています。私が小さいときに阪神タイガースのバース選手がホームランを打った時のホームランボールをもらったんですが、その時の感動が記憶に残っていて再現しました」(杉本氏、以下同)


ユニークな形状の真鍮製コンロ。持ってみるとずっしりしています。
ユニークな形状の真鍮製コンロ。持ってみるとずっしりしています。


同社は、出展して来場者の感触を確かめると同時にOEMにつながる商談を期待しているそうです。

「弊社は50年の歴史があり、銅もステンレスもアルミの加工もやっています。最初に町工場見本市に出展した年は、鉄とアルミとステンレスと銅と真鍮を出し、一般の人にとってどんな材料がいいのか試してみました。すると、銅と真鍮がかなり注目されていることがわかりました。

その次に銅と真鍮だけ出してみたところ、今度は真鍮のほうに技術的に困っている会社が多いとか、一般の方の興味が強いということがわかったのです。そして、2014年から真鍮に挑戦してみようと思いました」

町工場見本市に出展してみると、建築事務所や建具・家具などのデザイナーさんに、真鍮のニーズがかなりあることがわかったと言います。

「皆さんが真鍮に求めているのは、素材自体の持つ味わいです。建築士さんやデザイナーさんは、ヨーロッパなどで100年以上経った家具などを見てきていますから、そうした経年した味わいを再現したいというニーズがあったのです。

真鍮独特の味わい、そう高価でもないという点、しかし加工が難しいというところに弊社が着目しました。エイジング加工は薬品で化学反応を起こして、自然な経年の風合いを出しています」

実際、町工場見本市には3回目に真鍮のオブジェを出展し、かなり注目を集め、ビジネスにもつながったと言います。

「弊社の場合、真鍮を切削するというより、板物を溶接して組み合わせたりする加工です。1点物ですが、花生けは10万円くらいで、キャビネットは150万円くらいです。平均すると毎日1点は作成しています。製作は、お客さんの注文を受けてから取りかかります。図面や簡単に描いていただいたスケッチを元に作っていますが、これまで期待を裏切ったということはなかったと思います」


下のキャビネットも真鍮製。前回の町工場見本市に出したもので、上の花瓶は今回初めて出したそうです。
下のキャビネットも真鍮製。前回の町工場見本市に出したもので、上の花瓶は今回初めて出したそうです。


真鍮は銅と亜鉛の合金ですが、溶接や染めなどの加工が難しいそうです。

「真鍮の加工がなぜ難しいのかといえば、亜鉛が邪魔してなかなかうまく溶接できないということがあります。通常のアルゴン溶接の共付けでやろうとすると、ガスが出てきたり穴が空いたりします。鬆(す)が入るような感じです。研究を重ねてノウハウを実現しています。

技術もそうですが、それを受け入れてもらうためには営業をしっかりしなければなりません。はたして受け入れられるものなのかは毎回毎回、トライアンドエラーで修正していきます」


株式会社富士産業 常務取締役 杉本英樹氏。8人体制の金属製作部門だそうです。
株式会社富士産業 常務取締役 杉本英樹氏。8人体制の金属製作部門だそうです。


「曲げ加工は真鍮の方向があるので気をつけなければなりません。弊社はもともと金属鋼材の卸なので、よく板をみるとタテヨコの方向がわかります」

2020年で6回目になった町工場見本市ですが、出展社からは下町のものづくりの熱気のようなものが感じられました。中小の製造業にも多種多様な努力と工夫、そして斬新な技術があります。そうした日本のものづくりのポテンシャルを見ることのできる展示会でした。


文/石田雅彦

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