『第9回 次世代ものづくり基盤技術産業展 TECH Biz EXPO』現地レポート

次世代産業の基盤技術を中心に、既存産業、産学官連携などとの融合を目指して、名古屋を中心とした中部地域の技術を展示してきたのが次世代ものづくり基盤技術産業展です。今回は自動車産業を中心にして多種多様な137社が出展し、3Dプリンター技術、CFRP、GFRP、CNFなどの製造加工技術、精密切削加工、レーザー応用技術などの要素技術、素材技術などが目立ちました。
自動車の電動化を見すえた新素材や素材特性を向上させる表面改質処理などもあり、地元・名古屋の企業の出展もありました。その中から炭素繊維と表面処理の技術を出展していた企業を紹介しましょう。


▽おすすめ関連記事

飛行機の羽根の端材から引き取った炭素繊維のリサイクル技術

佐久間特殊鋼株式会社(名古屋市緑区)はリサイクル炭素繊維を出展していました。会場で説明してくださった寺田利昭(てらだ・としあき)理事、技術サービスグループ長によれば、最近になって炭素繊維の端材が市場へ出回るようになってきたと言います。

「リサイクル炭素繊維のもとの材料は、飛行機で使用される羽根なんです。使われる炭素繊維の5割くらいが端材として捨てられますが、それを引き取ってリサイクル炭素繊維を扱っている会社が日本に数社あります。実はこれまで、端材が市中に出てくるというリサイクル仕組みがなかったのです。原料供給が不安定だからお客さんが使わない、使わないから供給できないというニワトリと卵の関係です」(寺田氏、以下同)



佐久間特殊鋼株式会社 理事 技術サービスグループ長 寺田利昭氏。炭素繊維のリサイクルは低価格化のキーテクノロジーと言います。
佐久間特殊鋼株式会社 理事 技術サービスグループ長 寺田利昭氏。炭素繊維のリサイクルは低価格化のキーテクノロジーと言います。


この端材を500℃くらいで加熱すると樹脂が溶け、炭素繊維だけが残るそうです。

「この炭素繊維を100ミクロンくらいに細かく裁断すると、ふわふわした綿状になります。樹脂メーカーさんから購入した樹脂に混ぜ、射出成形用のペレットにし、リマックス・コンポジットという製品にして販売しています。

樹脂の中に炭素繊維がランダムに混練されていますが、炭素繊維は焼結するのが難しい材料です。また、二次焼成された細かい繊維が空中に放出すると、制御回路を壊してしまうというように扱いが難しい素材でもあり、環境負荷につながるので規制されるようになってきています」

ペレット原料で射出成形すれば、いろいろな部品になります。

「樹脂由来の炭素が炭素繊維の中に入り込むんですが、安定して混練することができるようにするのが技術的な課題でした。ふわふわした糸状の炭素繊維が綿のようになっていますが、この綿のようになった炭素繊維を樹脂に混ぜていく混練が難しいのです。これを制御することができれば、大量生産できるようになるでしょう」

同社は企画と研究開発をし、混練は専門にしている企業と一緒にやっているそうです。

「こうしてできたリサイクル炭素繊維は、新品の炭素繊維と比較しても機能性に遜色はありません。グラスファイバーの10倍くらいの耐久性がありますが、樹脂にガラスを入れるグラスファイバーは使用を続けると次第に研磨剤のようになって接する材料を傷つけてしまいます。

炭素繊維は、鉛筆の芯のようなイメージで摺動する相手の素材を傷つけにくいのです。また寿命も長く、耐薬品性に優れ、摺動部品の高摩耗性も特長です」


炭素繊維(左)、リサイクル炭素繊維(中)、混ぜる樹脂(右)。
炭素繊維(左)、リサイクル炭素繊維(中)、混ぜる樹脂(右)。


炭素繊維を部品に使えば、剛性が高くなり、小型軽量化につながると言います。アルミ・ダイキャストより、やや性能は落ちますが重量を約半分にできるそうです。

「特殊な分野ではよく使われますが、まだ価格が高いのです。航空機では長い炭素繊維を使い、一方向にはとても強靱な部品を作っていますがコストを度外視して作っています。それをリサイクルした炭素繊維にすれば、コストは格段に安くなるでしょう。

炭素繊維一般にいえますが、問題は色ですね。炭素なので黒くなるのが宿命なんです。白くできる技術があったら医療業界など、応用範囲は格段に広がるでしょう」

炭素繊維は、リサイクル循環の仕組みがないと産業用として使えないと寺田氏は言います。


炭素繊維で作ったハードディスクケース。重量はアルミの1/3程度になるそうです。
炭素繊維で作ったハードディスクケース。重量はアルミの1/3程度になるそうです。


「格段にコストは下がっています。もちろん航空機には使えませんが、従来、使われてこなかった部品として作ることができるようになります。使えることがわかってから需要の高まりとともに、リサイクル炭素繊維の価格も少しずつ上がってきています。みんなが欲しがっているときにリサイクル炭素繊維を安定して供給できるようになるかどうかはこれからです」

リサイクル炭素繊維の利活用の動きには国も乗り出そうとしているそうです。同社はリサイクル炭素繊維の事業化に向かって進んでいると言います。


小型化に成功したアクティブスクリーンプラズマ(ASP)窒化処理

中日本炉工業株式会社(愛知県あま市)が出展していたのは、プラズマを発生させて部材の表面処理をするアクティブスクリーンプラズマ(ASP)窒化装置です。説明してくださった水流一平(つる・いっぺい)生産本部設計技術部開発担当によれば、プラズマを使った窒化処理は、硬度や耐摩耗性などの機械的な特性の向上を目的として、自動車や航空機の部品、治具、金型などの分野で利用されていると言います。

「プラズマを用いた窒化処理は、焼き入れに比べ、約500℃という比較的低温で処理を行うため、熱変形が少ないという特長があります。ただ、従来のプラズマ窒化法は、母材を陰極、炉壁を陽極にして、母材と炉壁の間でプラズマを発生させるため、突起部にプラズマ放電が集中したり、母材の穴の径が小さいと表面処理のムラが出たりするという欠点がありました」(水流氏、以下同)

一般的なプラズマによるイオン窒化法では、母材と炉壁の間で放電を起こし、プラズマが母材の表面に直接、発生してしまい、エッジ効果といって、突起物などがあるとプラズマが過剰になったり偏在が起きたりするそうです。

「弊社のASP法を使えば、それがなくなります。ASP窒化法は、母材と炉壁の間にスクリーンを置き、スクリーンを陰極、炉壁を陽極にし、さらにスクリーンの中の母材にバイアス電圧をかけてプラズマ放電をします。すると、スクリーンの表面でプラズマが発生し、それがバイアス電圧をかけた中の母材の表面に到達することでバイアス電圧の調整によって表面処理の程度をコントロールすることが可能になります」


中日本炉工業株式会社 生産本部設計技術部開発担当 水流一平氏。同社のASP窒化装置を使えば、形状にとらわれない表面処理ができると言います。
中日本炉工業株式会社 生産本部設計技術部開発担当 水流一平氏。同社のASP窒化装置を使えば、形状にとらわれない表面処理ができると言います。


母材に直接、プラズマを発生させないため、母材の形状に影響されない表面処理ができ、突起部や穴などによるムラが生じにくくなっているとのこと。

「バイアス電圧の量が多いほど、通常のイオン窒化と変わらない状態になってしまうので、その調整がキモの部分です。もともと、10年以上前に島根県の産業技術研究所とルクセンブルクのプラズマ・メタル社と弊社の3社合同で開発した技術です。

ヨーロッパでこの方式がよく使われていますが、今回はプラズマ・メタル社と技術提携して弊社が国内向けに小型化し、処理重量200kgまで可能になりました。その成果が実を結んで出展したというわけです」

この200kgというサイズは、ヨーロッパにはないと言います。

「国内では200kgサイズの需要が多いということで実用になると思います。小型化は5年ほど前から取り組んできましたが、技術的には難しい部分もありました。プラズマの電源まわりがブラックボックスになっていたこともあり、バイアス電圧をかける電源はオリジナルに開発しました。方式的には変わらないのですが、電源と調整のソフト的な部分は弊社独自の技術になっています」


右のシャーレに入っているのがバイアス電圧による表面処理の違いの例。上が未処理の母材で、バイアス電圧の強弱で強ければ粗くなり弱ければ滑らかになるといいます。
右のシャーレに入っているのがバイアス電圧による表面処理の違いの例。上が未処理の母材で、バイアス電圧の強弱で強ければ粗くなり弱ければ滑らかになるといいます。


プラズマを発生させる雰囲気である窒素ガスと水素ガスの混合ガスは無害というのも特長です。割合はノウハウだそうです。

「コーティング処理を施す場合、素材に直接コーティング処理をするより、窒化処理をした上にコーティング処理をしたほうが密着性が高くなります。また、もともとの母材の特性を向上させ、しかも長寿命になります。

ただ、一般的な窒化処理では表面が荒れてしまうため、表面を研磨する必要があり、それだけ工程が増えます。弊社のASP窒化装置を使えば、研磨が不要になり、工程削減に寄与できます」


小型化を実現した同社のASP窒化装置。
小型化を実現した同社のASP窒化装置。


今回の展示会の反響として講演会をやったこともあって、かなり大きく手応えを感じたそうです。


炭素繊維の低コスト化への試み

何社かが集まったブースは、名古屋大学ナショナルコンポジットセンター(名古屋市千種区、NCC)という団体が出展していました。説明してくださった佐野翔大(さの・しょうた)氏は名古屋大学の学生だそうです。出展していたのは、熱可塑性CFRPです。

「金属で使われている部分を、炭素繊維を使った樹脂であるCFRPで代用できないかということが期待されています。軽量化して自動車の燃費を上げようということで、メーカーさんと合同で研究し、最適化した技術を見つけていこうとしています。

既存の炭素繊維の課題として、従来の航空機で使われているようなものは値段が高く、製作に時間がかかってしまいます。F1マシンのボディなどに使われているようなものですが、大量生産もできないので一般大衆が使うような場面にはなかなか実用化できませんでした」(佐野氏、以下同)

今回の出展は、高価な炭素繊維を量産効果で価格を下げようというプロジェクトだそうです。

「我々が使っている炭素繊維は、熱可塑性樹脂の原料ペレットを溶かし、LFT-D(Long Fiber Thermoplastic-direct)という方法で混練しながら二軸スクリューに入れ、ロビンに巻きつけた炭素繊維の糸を混ぜ込んで押出し、プレス成型していきます。

実際、長繊維なので編んであるようなものとは違います。加熱され、炭素繊維と樹脂が混ざった物体がどろどろした状態で出てきます。布団というものですが、この布団をプレス成形すれば工程1分のサイクルができ、これだけの短い成形サイクルができれば量産化に目処がつきます。量産効果で価格も落ちてくるということを期待しています」


真ん中の筒状のものに炭素繊維の糸が巻きつけられています。右の固まりが布団と呼ばれる樹脂に炭素繊維を混ぜたものです。
真ん中の筒状のものに炭素繊維の糸が巻きつけられています。右の固まりが布団と呼ばれる樹脂に炭素繊維を混ぜたものです。


溶融させる温度は秘密だそうです。しかし、まだ課題も多いと言います。

「まだ研究段階で、実際の量産にまでいっていません。先は長いと思います。シャシー、バッテリーケースなどは可能ですが、足回りはまだ難しいです。

今は樹脂の中の炭素繊維の配合や分散性が課題になっています。練り込んで押出していったときの繊維の配合です。再現性がないんですね。出てきた製品がすべて同じ強度でなければ、とても自動車の部品として使えません。近い将来、高級車には使われるようになるかもしれません」


黒い板状のものが自動車のシャシーです。炭素繊維でこれだけ大きいものを作るとコスト高になりますが、量産効果で価格を下げようとしているそうです。
黒い板状のものが自動車のシャシーです。炭素繊維でこれだけ大きいものを作るとコスト高になりますが、量産効果で価格を下げようとしているそうです。


このNCCは名古屋大学の中に事務局があり、複合材料の研究のために2012年に産学官連携の拠点として設立されたそうです。

「研究会の内部には、NCC次世代複合材研究会というものがあり、豊田合成さん、デンソーさん、三菱自動車さん、日本製鉄さん、ブリヂストンさん、静岡大学さん、中部大学さん、愛知県さん、岐阜県さんなどが参加しています」

自動車の電動化には、車体の軽量化が避けて通れません。炭素繊維が安価になれば、軽量化に大きく役立つでしょう。

名古屋と中部地方といえば、自動車産業や航空機産業の集積地です。今回の次世代ものづくり基盤技術産業展では、電池技術とともに炭素繊維に関する出展も目立ちました。特に炭素繊維の低コスト化は大きな課題のようです。


文/石田雅彦


▽おすすめ関連記事

こちらの記事もおすすめ(PR)