『ひろしまAI・IoT進化型ロボット展示会2020』現地レポート

広島県といえば、自動車、造船、鉄鋼といった重工業から電気機械、電子部品などの先端工業まで、ものづくり県として有名です。経済圏は大きく東の福山市や府中市を中心とした福山経済都市圏と広島市を中心とした西部の広島経済都市圏の二つに分けられます。

どちらも瀬戸内工業地帯に入っていますが、広島経済都市圏は中国地方の中核拠点としての機能を持ち、また関西経済圏と九州経済圏の中間に位置する重要な産業地域となっています。そうした広島市で2017年から開催されているのが「ひろしまAI・IoT進化型ロボット展示会」です。

この展示会は、東京ビッグサイトで開催される「国際ロボット展」の地方版として始まり、全国から広島県内の需要に期待してロボット関係企業が出展し、地元の自動車産業の関連企業や団体なども趣向を凝らした展示によって独自技術を紹介してきました。前回2018年から1年おいて開催された今回の展示会を取材し、地元の出展社や産業団体からお話をうかがいました。


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無人稼働を目指す次世代スマートファクトリー

広島県内の自動車部品メーカーを中心につくる「ひろしま生産技術の会」のブースでは、「ロボットシステムインテグレータ連携(マルチベンダーコンソーシアム)」9社による、「次世代スマートファクトリー」のデモンストレーションを実演していました。

この出展団体は2003年、自動車ドアなどの製造メーカー、株式会社ヒロテック(広島市佐伯区)など4社が中心になって発足したといいます。会場で説明してくださった株式会社ヒロテックの国枝潤(くにえだ・じゅん)生産技術研究所主任にお話をうかがいました。


────この「ひろしま生産技術の会」というのはどういう団体なのでしょうか。

「2003年に当時の藤田雄山・広島県知事と広島県内の自動車産業関連企業3社のトップがヨーロッパへ視察に行った際、現地で見た工場の自動化技術に感銘を受け、日本でもやろうということで立ち上げた団体です。

3社というのはジー・ピー・ダイキョー株式会社(当時、現・ダイキョーニシカワ株式会社)さん、シグマ株式会社さん、そして弊社です。広島をものづくりの聖地にすることを目指し、24時間356日無人稼働の実現を活動テーマにしています。現在、26社が参加し、あまり広くPRや募集はせず、主にトップ同士のつながりでやってきました。

最初は自動車産業の関連企業が多かったのですが、最近ではIT系企業やロボット関連企業が加わり、さらに銀行さんや行政、大学など19団体からの支援も受けています」(国枝氏、以下同)


────まさにオール広島といった感じですか。

「ひろしま生産技術の会の会長は弊社の会長が務めさせていただいていますが、広島県内の産学官のゆるやかな連携が特長です。細かな規定もありませんし、会費も決まっていません。年度という感覚もないんです。

もちろん実際のビジネスになれば必要ですが、会の中では技術的なプロテクトに関して特に秘密保持契約のようなもの取り交わしていません。ガチガチにせず、ゆるやかなつながりでやっていくというのがポリシーです。

競合他社さんも多く参加していますが、各社ともにトップから現場の社員まで仲が良く、新入社員もすぐにLINEでやり取りするようになっています。仲が良くなる秘訣はいわゆる飲みニケーションですね。トップ同士も肩を寄せ合うような狭い居酒屋で飲みながらコミュニケーションをとっています」


24時間365日無人稼働するスマートファクトリーというのがコンセプトだそうです。産業用ロボット各社のアームが有機的な動きをアピールしていました。
24時間365日無人稼働するスマートファクトリーというのがコンセプトだそうです。産業用ロボット各社のアームが有機的な動きをアピールしていました。


────今回の展示は未来の工場というコンセプトですか。

「ひろしま生産技術の会の9社で24時間365日無人稼働するスマートファクトリーを実現したもので、10年くらい未来の自動車工場の様子です。

9社というのは、自動車関連の株式会社キーレックス(広島県安芸郡)さん、株式会社ニイテック(広島県安芸郡)さん、情報通信関連の株式会社ハイエレコン(広島市西区)さん、株式会社エネルギア・コミュニケーションズ(広島市中区)さん、システム関連の株式会社インタフェース(広島市南区)さん、平和情報システム株式会社(広島市西区)さん、株式会社オフィスエフエイ・コム(栃木県小山市)、工作機器の商社である株式会社ICHIKAWA(広島市中区)さん、そして弊社です。

24時間365日無人稼働するスマートファクトリーの実現は1社では難しいので会として9社の得意分野を持ち寄り、取り組んでみたということです」


────実際の自動車工場のミニチュアでしょうか。

「そうですね。実際の自動車を作るためには、今回の出展の何十倍のシステムが必要になります。それを簡略化し、車種もミニチュアにして3Dプリンターで自作しました。

具体的には、RFIDタグを利用したシステムで部品を運ぶ時間などを監視し、製品データや設備の余剰データなどをもとにパレットを持ち上げて運び、ロボットアームがミニカーにドアやタイヤを組み付け、製造ラインで製品を作るという工場内の物流を有機的に行う自動車作りの基本工程になっています。

人手不足もあって工場の自動化には関心が高く、将来の工場は人間の手がまったく介在しないようになるというデモンストレーションで、工場内が自律的に動き、AIがくっついていけばSociety 5.0(ソサエティ5.0)が実現することになるでしょう。」


3Dプリンターで作ったボディのミニチュアが監視画面に出ています。工程内には人は立ち入らず、モニターで工程を監視します。
3Dプリンターで作ったボディのミニチュアが監視画面に出ています。工程内には人は立ち入らず、モニターで工程を監視します。


────今回の出展を実現するためにどのあたりに苦労しましたか。

「大変なのがコンセプトを作るところです。競合も含めた9社が集まってくれば、やはり想いがぶつかります。自社の工場を24時間365日で無人稼働する場合、本当に困ったことをどう解決するのか、取りまとめ役として意見の摺り合わせに苦労しました。こうした摺り合わせでは、徹底的に話し合うのが重要です。落とし込むところまでもっていければ、参加社が貼り付いて、お互いに『困った』を助け合うようになります。

また、会では主に若手にやらせ、人材育成の場として活用している側面もあります。会の目的の一つは、自動車産業をベースにデジタル技術を活用して新しい産業を創成し、大学を卒業した人が広島にとどまってくれたり、外へ出た人が戻ってくるようにしようというものがあります」


パレットで搬送し、有機的な工程内の物流を実行します。
パレットで搬送し、有機的な工程内の物流を実行します。


────競合他社と交流することで社員さんも多くを学べるということでしょうか。

「こうした場がなければ、他社の開発担当者と話す機会はないでしょう。自動車関連の担当者がIT系やソフトウェア開発などの技術開発を間近にすることで知識のレベルがアップしたり、うちではIoTはこうやっているよと持って来て、それを自由に持ち帰って自社でやってみたりというようなことをやっています。

お互いの技術を参考にし、解決が必要な問題を知ることができ、1社でも実現が難しいような新技術を開発することができます。弊社の場合、システム・インテグレーターでもありますが、入れ物に乱雑に入った部品を認識して一つずつ取り出すロボットを開発することもしました」


────ひろしま生産技術の会は、参加社にとって大きなメリットがあるということでしょうか。

「競合先でもあるけれど、共存共栄といった関係でもある広島の地場産業が集まり、お互いにメリットがあるから長く続いています。自社へ持ち帰った技術を自社で使ったり、他社のアイディアを拝借したり、ということができています。

産学官連携の先進事例として評価され、2017年から出展している国際ロボット展では、行政が展示費用を出してくれました。広島は要素技術の集積である自動車産業が大きな影響力を持っていますから、ものづくりのバランスがいいのが特長です。

最近は大学を中心にしてデジタルを使ったものづくりも盛んになっています。CASE時代と言われるように自動車が電動化すれば、自動車産業の構造が変わってくるでしょう。そうした危機感を皆さん感じています。いろんな技術を組み合わせることで新しいことにチャレンジしていこうと考えています」

広島には、ひろしま自動車産業産学官連携推進会議(ひろ事連)というオフィシャルな団体もあるといいます。こちらは広島県や市、マツダ株式会社などが中心になっていますが、ひろしま生産技術の会の参加企業の多くも同時にそちらへも参加しているといいます。オフィシャルな産学官連携とゆるやかな集まりで広島のものづくりが進められているようです。


株式会社ヒロテック 生産技術研究所主任 国枝潤氏。ひろしま生産技術の会は、トップ以下、参加企業と社員のゆるい連携が特長といいます。
株式会社ヒロテック 生産技術研究所主任 国枝潤氏。ひろしま生産技術の会は、トップ以下、参加企業と社員のゆるい連携が特長といいます。


広島の地元企業が作る、新しい形の産業用制御ロボット

ひろしま生産技術の会の参加社の一つ、株式会社インタフェース(広島市南区)も出展していました。同社は、産業用のコンピュータやその周辺機器、ソフトウェアなどを開発・製造・販売している会社です。会場で高松力(たかまつ・ちから)ソフトウェア研究所副係長に展示内容について説明していただきました。

────どういった事業をされている会社なんでしょうか。

「一般消費者向けではなく、企業が工場の生産ラインの制御・管理などに用いる産業用パソコンや制御用のFAコントローラなどを作っています。ひろしま生産技術の会のブース展示にもあったように、24時間365日連続稼動できる信頼性の高い機器の開発を行っています。

PC98の頃からやっていることは同じで、アナログとデジタルで出入力したりしていますが最近、特に変わってきたのはリアルタイム性です。コアの一つをリアルタイム専用にする技術は弊社独自の技術になります」(高松氏、以下同)


────どういったお客さまが対象なんでしょうか。

「主に鉄道系ですね。10年単位で長期供給でき、そんなに製品が換わらない高速鉄道などで使っていただいています」


────今回の展示はロボットですがロボットの実機を作ってもいるのですか。

「いえ、ロボットの出展は今回が初めてです。アクチュエーターを使ったロボットを作り始めたのは2年くらい前で、それまではパソコンでモーターを制御するシステムを作っていました。

ソフトウェアを検証するためのハードとしてロボットを作ってみましたが、今回の制御系は例えばデンソーさんのCOBOTTAも動かせる汎用性があります。今回のロボットを売り出すかどうかは検討中で、お客様のご要望があれば作ります」


ロボットはイメージとして宮島の厳島神社の神楽にしているそうです。
ロボットはイメージとして宮島の厳島神社の神楽にしているそうです。


────産業用パソコンやFAコントローラとロボットでは難しさが違いましたか。

「今回の自作ロボットの目的は、ロボットを動かすためのいろいろな汎用のモーターに対応していくためです。実際、苦労はけっこうたくさんありました。専門のロボットメーカーさんはさすがだなと思います」


────例えば、どのようなところが難しかったのですか。

「アームの長さ、一つ取ってもアルミの削り出しで、設計から考えて作っています。アームはギアも可搬重量との兼ね合いでトルクの問題がありますから、減速の倍率を調整しながら製作しなければなりません。まだ、そのあたりのベストマッチングは未完成で、これから探っていこうと考えています。

モーターのトルクなど、毎回、検証して設計し直しを繰り返してきました。モーターは市販のものを使っています。モーターの特性によってトルクが弱かったり強かったり、選定する時点で難さを感じました」


────けっこうアームに配線が目立ちますが。

「そうなんです。配線も難しい部分でした。単体のモーターを複数で構成しているので、モーターの数だけ配線が出入りする形になっています。実際のロボットは、シリアル接続で複数のモーターを一括で制御し、配線もその分、少なくなっています。

それをやるためには、複数のモーターが組み合わされた場合に基板を一つひとつ用意しなければなりません。最近、Ethernetを使った高精度な複数の同期制御が可能にしたイーサキャットというネットワーク規格が出てきて、それを使えば複数のモーターで動くロボットを作ることができ、それを採用しています」


マウスによるティーチングの操作画面。同社がロボットの実機を出展するのは初めてだそうです。
マウスによるティーチングの操作画面。同社がロボットの実機を出展するのは初めてだそうです。


────プログラミングのほうはどうでしたか。

「直感的なインターフェースによるティーチングが難しかったです。ティーチングはマウスを使って行いますが、マウスで点をクリックすると座標が出てきて、それを結ぶように自動的に計算してくれます。

ようするにモーションプランニングですが、位置をトレースするくらいで、まだ方向を維持したまま水平移動させるところまではできていません。6軸を少しずつ傾けながら同期させていかなければならないので、例えば手の先を同じ方向へ向けた状態で、腕全体を動かし、手の先の方向を変えないというのはかなり難しい動きになります。

また、協働型を狙ったアルゴリズムを開発しましたが、まだ少し不安定なので展示用に柵を設けてあります。モーターのトルクがそれほど強力ではないので危険性は低いと思います」


────今回、実機を作った手応えはどうですか。

「弊社の場合、実際のロボットまで作っていないお客様がほとんどです。最近、モーターメーカーがロボットを提案している事例が多くなってきて、ロボットコントローラーとしての立ち位置を目指しています。

弊社の事業はパソコンやFAコントローラなどの実機、ロボットのシステムが主ですが、今回、ロボットの実機を作ってインターフェースを検証することで、リアルな世界からシステムへフィードバックできることを期待しています」

同社の研究拠点は広島にあるものの、あまり地元の広島に偏ったお客様がいるわけではなく、全国に向けてサービスを展開しているそうです。


株式会社インタフェース ソフトウェア研究所 副係長 高松力氏。同社のロゴマークが紅葉のように、広島の企業という誇りは持っているといいます。※トップ画像参照
株式会社インタフェース ソフトウェア研究所 副係長 高松力氏。同社のロゴマークが紅葉のように、広島の企業という誇りは持っているといいます。※トップ画像参照


ひろしまAI・IoT進化型ロボット展示会は、大手産業用ロボット企業が多く出展し、地元のAIやロボットは目立たないイメージがありました。しかし、ひろしま生産技術の会のようなユニークな取り組みもあり、ものづくりの街としてチャレンジしていく意気込みが感じられた展示会でした。


文/石田雅彦


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