気分良く走っても燃費がいい~「スカイアクティブX」担当エンジニアに聞く開発現場(中編)

INTERVIEW

マツダ株式会社
パワートレイン開発本部 エンジン性能開発部
第2エンジン性能開発グループ

末岡 賢也 井上 淳

世界中の自動車メーカーが開発を急いでいた“理想のエンジン”をマツダが「スカイアクティブX」で実現しました。その技術がSPCCI(Spark Controlled Compression Ignition:火花点火制御圧縮着火)。このエポックメイキングなエンジンをどのような発想で、また技術で開発したのか? 前回に引き続きスカイアクティブXの開発を担当したマツダ株式会社 パワートレイン開発本部 エンジン性能開発部 第2エンジン性能開発グループ アシスタントマネージャー 井上淳(いのうえ・あつし)氏と同 主幹 末岡賢也(すえおか・まさなり)氏にお話を伺いました。

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スーパーチャージャーではなく「エアサプライ」

────今回のエンジンにはスーパーチャージャーが装備されていますね。

「はい。ただ私たちはエアサプライと呼んでいます。スーパーチャージャーと呼んではいけない、ということではありませんが(笑)」 (末岡氏)


────なぜ呼び方を変えたのですか?

「スーパーチャージャーというと、パワーを出すためにめいっぱい空気を入れて燃料をドバドバ吹いて、という使い方ですが、今回そういう使い方はしてないんですよ。燃料を薄めるために空気やEGRガスを大量に入れるために使っているので、従来と使い方が違うんだという意味でわざわざ呼び方を変えています」 (井上氏)


────仕組みは一緒だけど、ということですか。

「はい、仕組みも一緒、モノも一緒ですが、役割が違います。たくさん空気を入れて混合気を薄めたい時に、自然吸気だとシリンダーの容積までしか吸い込めないので、過給で入れ込むためのものです。エアサプライがあることで燃費のいい領域が広がってくるんです」 (井上氏)


────スーパーチャージャーがついてるから燃費が悪い、ということではないんですね。

「はい。燃費を良くするために今回はつけさせていただきました」 (井上氏)


マツダ株式会社 パワートレイン開発本部 エンジン性能開発部 第2エンジン性能開発グループ アシスタントマネージャー 井上淳氏
マツダ株式会社 パワートレイン開発本部 エンジン性能開発部 第2エンジン性能開発グループ アシスタントマネージャー 井上淳氏


量産の道程に50年を費やした研究者も

────スカイアクティブXを実現するために、さまざまなエンジニアリングの積み重ねがあったんだということがわかりました。

「実は先週、東京で二人で講演をしてきたんですが、講演後の質疑応答で、大学の先生から質問があって、どんな質問をされるんだろうかとドキドキしていたら、 『私はこの50年この技術を研究してきました。やっと量産ということで、世の中に出してもらってありがとうございます』と。その方は多分70歳超えてるというくらいだろうなという感じでした。やっている方は本当に数十年研究されていますね」 (井上氏)


────HCCIの研究を、ですか?

「そうです。HCCIの研究をしている大学の先生方がいるんです。弊社もそういう先生にアドバイスをもらいながらずっと研究をやってきました」 (井上氏)

「そういう先生方はHCCIに本当に長く携わっておられます。ノッキングをいかに起こさないか、コントロールするか、といったところから始まり、HCCIという燃やし方が出てきてからは、ノッキング、つまり自着火燃焼を生かして熱効率やCO₂の低減をどうやって実現するかという流れに変わりました。その流れの中でとても長い間研究している方だったので、感慨もひとしおだったのではと思います」 (末岡氏)


────そのような意義のあるエンジンといういっぽうで、ユーザーが運転して感じることとしてはどのようなもののでしょうか。

「乗って感じていただけることとしては、非常に応答性が良いエンジンになっているということです。意のままにアクセルワークに追従しますので、走るのがとても楽しいエンジンになっていると思います。

そしてここが重要なのですが、気分良く走っても燃費がいいという点です。

気兼ねなくアクセルを踏み込んで走ると、燃費が悪くなるという心理的なストレスがどうしてもありますよね。そこを少しでも軽減したいというのが今回のエンジンの1つのテーマでもありました。

燃費のいい領域が、従来のエンジンよりも非常に広くなっています。それもトルクの高いところまで燃費がしっかりと良い。だからアクセルを深く踏み込んで、走りを楽しんでも燃費が悪くなりません。そういう良さを感じていただけたらなと思います」 (井上氏)



SKYACTIVE-Xエンジンは「-G」と比べ、10〜20%の燃費改善し、燃費の良いゾーン(青色部分)が広い、フラットな燃費消費率特性を実現している(右図)。これによりギア比選定の自由度が拡大し、走りと燃費を高次元で両立させたと言う。
SKYACTIVE-Xエンジンは「-G」と比べ、10〜20%の燃費改善し、燃費の良いゾーン(青色部分)が広い、フラットな燃費消費率特性を実現している(右図)。これによりギア比選定の自由度が拡大し、走りと燃費を高次元で両立させたと言う。


熱効率の方程式はひとつ

────ディーゼルエンジンの圧縮比は、スカイアクティブDで、14.0とかなり低くなりましたが、いっぽうで今回のスカイアクティブXは圧縮比が16.3と高くなり、ガソリンがディーゼルを逆転しました。これはどのような背景なのでしょうか。

「熱効率の向上のため、ガソリンエンジンの圧縮比を高めていくという方向性があり、逆にディーゼルの課題は、火がつきやすい燃料を、火がつく前までにいかに良く混ぜるか、なので、圧縮比を下げて火がつくまでに燃料をよく混ぜる、というのが今トレンドにはなっています」 (末岡氏)

「圧縮比はより高く、燃料はより薄めると熱効率が向上します。この図式はディーゼルでもガソリンでも同じです。しかしながら圧縮比を上げていくとノッキングの壁がきますし、薄めていくと今度は失火という燃えきらない壁がきます。それぞれの壁を越えながらやっていくということですね」 (井上氏)


────そういった事象は実際にエンジンを回して確かめるのでしょうか。

「最初の段階は車に乗るようなエンジンではなくテスト用の単気筒エンジンで、吸気バルブと排気バルブも普通のカムシャフトで開閉するものではなく、電磁クラッチで動くような、自由自在に操れるエンジンですね。

その中で狙いに近い燃焼ができたので、こういう状態こういう温度を作れば狙いの燃やし方ができる、という基礎的なところが固まってきたところで、今度は量産を見据えた4気筒エンジンで実際に回してみましょうという形ですね」 (井上氏)


────御社ではモデルベース開発が進んでいると聞きますが、開発初期の段階ではどのように利用されていたのでしょうか。

「開発のごく初期段階から利用するのは難しいところがあります。初期は実際に評価した結果を見ながら、シミュレーションの個々の精度を評価する、といったループを回しながらになりますね。

実際の現象をデータとして捉えて、それをモデルベースに乗せるというプロセスはどうしても必要です。そして最終的には、狙った効果をモデルベースで確認するということを目指してやっていますし、かなりできてきたと思っています」 (末岡氏)

「そうですね。なにか新しいことをしようと思ったら、実際にエンジンを回してみて変化が起こることを掴み、その変化がなぜ起きているのかをコンピューターシミュレーションでしっかり分析することが必要です。

特に最初の技術開発の時は、そういうプロセスでずっと開発を進めていきました。だんだんモデルの精度も上がってきますし、新しい現象を捉えられるモデルの育成というのもできるんですよ。そうやってモデルと実機とが育成されていって、最終的にはモデルだけでピストンの形を決められるようになるまでにモデルの精度が上がってくると、量産開発まで行ける、といった感じだと思います」 (井上氏)


「スカイアクティブX」の次に狙うものとは?

────スカイアクティブX(ガソリン)の次は、スカイアクティブD(ディーゼル)の進化ですね。

「ディーゼルのセカンドジェネレーションは今まさに開発しているところです」 (井上氏)


────ディーゼルをもっと進化させるために、今度はガソリン側の知恵を活用することもあるのでしょうか。

「当然あります。スカイアクティブXを量産するにあたって積み上げてきた技術は、燃焼の話に限りませんので、活用できるものはディーゼルエンジンでも活用していきます。」 (末岡氏)


────現行のスカイアクティブDもかなりのインパクトでしたが、それに匹敵するくらいのネタを第二世代ディーゼルには用意しているのですか?

「具体的には伏せますが、もちろんお客様をあっと言わせるようなものを目指して開発しております」 (末岡氏)


────今回のスカイアクティブXでは、低速トルクが大幅に強化されましたが、お客様の志向として、それでもディーゼルが好きなんだという方もいらっしゃるんでしょうか。

「やはり低速トルクが非常に豊かというのがディーゼルエンジンの特徴です。2,000回転でピークトルクというのはガソリンエンジンにはない特性なので、出足の良さとか、坂道も軽く登りきってしまうこととか、明らかな乗り味の特徴はあると思います」 (末岡氏)


マツダ株式会社 パワートレイン開発本部 エンジン性能開発部 第2エンジン性能開発グループ 主幹 末岡賢也氏
マツダ株式会社 パワートレイン開発本部 エンジン性能開発部 第2エンジン性能開発グループ 主幹 末岡賢也氏


長い道のりを経て開発されたスカイアクティブX。その技術はまた、次世代のディーゼルエンジン、スカイアクティブDに活かされることになりそうです。それほどにブレイクスルーを果たしたスカイアクティブXは、しかし発売前に急きょ発売が延期されます。そこにはどのような事情があったのでしょうか。
後編では、その事情とそもそもの理念についてお話を伺います。


《後編に続く》

文/佐藤耕一


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