『Japan IT Week関西 2020』現地レポート

関西で4回目を迎える情報システム、経営企画、設計・開発などの展示会が「Japan IT Week 関西」です。組み込みシステム関係のハード、ソフト、コンポーネント、AI活用、情報セキュリティ、IoTや5Gなどの先端技術を出展企業が競っていました。多様な構成展で幅広い業種業態の来場者が来ていたようです。そんなJapan IT Week 関西から興味深い技術を出展していた企業を紹介しましょう。

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軽量でコストダウンを実現した自然空冷式ヒートシンク

半導体素子の冷却にとって欠かせないヒートシンクは、自動車の電動化時代にも重要な技術になっています。かがつう株式会社(石川県河北郡)は、時計用のコイン型電池や携帯電話のリチウムイオン電子のケースといった精密プレス部品を作るのが得意な企業と言います。説明してくださった同社の紺谷英紀(こんや・ひでのり)企画・管理室兼情報システム技術課部長によれば、これまでつちかってきたプレス技術で半導体素子などの冷却に使われるヒートシンクを開発したそうです。

「従来のヒートシンクは、押出成形されたものに切削加工などを追加工したものになりますが、弊社のヒートシンクは、プレス加工(冷間加工)から作っているのが特徴です。プレスしたものを折り曲げて作っています。押出成形したヒートシンクに比べて軽量にできます」 (紺谷氏、以下同)

 軽量かつ高性能なヒートシンクだそうで、2年くらい前から開発を始め、その後、フィンの形状を工夫したり、大きさを最適化したりして現状のものになったそうです。

「縦長のスリットがあるのが特徴です。温かい空気は上昇しますが、上昇すると内部の空間の圧力が下がり、周囲から空気を吸い込むことでプレスして作ったフィンをさらに冷却し、より高い冷却効果を発揮します」


自然空冷式ということになり、ファンレスを要求される場面で最適なヒートシンクになっています。
自然空冷式ということになり、ファンレスを要求される場面で最適なヒートシンクになっています。


同社は、新製品として独自の技術を活かした応用製品の開発に着手し、いろんなことにチャレンジしたそうです。ところが、どれもなかなかうまくいかなかったのですが、ヒートシンクが応用まで残ったと言います。

「電池ケースなど、これまで弊社が扱ってきた製品と同じような大きさのものを開発しようということになりました。そこで、半導体用のヒートシンクに応用の余地があるのではないかという発想がありました。また、素材としてアルミの加工が得意なので開発をスタートしました」

最初は、ハニカムの穴を開けてみたそうです。ハニカムは、強度的に最も強く効率的に穴を開けられる方法です。

「それなりに性能は出たのですが、やってみるとハニカムより縦長のスリットを開けたほうが性能が良かったのです。ハニカムはすでに製品ラインナップから落としていますが、ハニカムは一工程のプレスで抜き出していますから展示会用として目を引く技術なので出しています」

プレスしたものを折り曲げ、箱形にしたものをヒートシンクに使う発想は、曲げるというイメージからで、最初は四方を囲むのではなくコの字の形状にしてみたり、いろいろ試行錯誤して現在の形にたどり着いたと言います。

「4面は、スリットにフィンが付いていない面とフィンが付いている面があります。これは、ヒートシンクが付いている半導体素子は、平面に置く場合だけではなく90度傾けたりしますが、その場合、4面すべて同じようのフィンが付いていると意外に性能が良くなかったからです。

もちろん、こうした組み合わせも最適なものかどうかは、まだまだ改良の余地があると考えています」

常により良く性能をアップしようとしているそうですが、最も性能の高い形状を常に探っている状況だそうです。

「今も開発していく上で最も苦労しているのは、最適解がどこなのかを見極める部分です。プレスしたものを折り曲げるヒートシンクとして、まだ最終形ではなく開発途中のものです。

もちろん、今はある程度、見極めた段階で製品として出していますが、弊社としても半導体素子用のヒートシンクは初めてなので、他社さんの同外形品と比較しながら常に良いものを目指しています」


かがつう株式会社 企画・管理室兼情報システム技術課部長 紺谷英紀氏。同社のヒートシンクは、コストを下げることも可能だそうです。
かがつう株式会社 企画・管理室兼情報システム技術課部長 紺谷英紀氏。同社のヒートシンクは、コストを下げることも可能だそうです。


「従来のヒートシンクは押し出して切削するという複数工程が必要ですが、弊社のヒートシンクは1工程です。同じ性能で他社同形品と比べて1/2以下という軽量、そして工程が少ないという有意性があると思っています」

極端な形状の場合は金型を起こさなければなりませんが、大きさなどのカスタマイズも受け付けるそうです。同社には金型の用意がかなりあるそうで、想定されるほとんどのご要望に対応可能と言います。


ピンポイントでゲリラ豪雨を観測するシステム

ここ数年、温かい季節になると豪雨災害が毎年のように起きています。自治体は、ゲリラ豪雨のような局地的な降雨の状況を把握し、避難指示などに活かさなければなりません。

エコー電子工業株式会社(福岡県福岡市)は、自治体などへ向けて防災無線のサービスを行っている会社だそうですが、オリジナルに開発した雨量観測システムを出展していました。説明してくださった公共ソリューション部営業課の沖重昌吾(おきしげ・しょうご)氏によれば、従来のメッシュ方式の雨量観測システムは目が粗すぎると言います。

「2年くらい前に西日本豪雨が起きた際、弊社のお客さまである福岡県の朝倉市さんが被災し、豪雨災害の現場を目の当たりにしたという経験があります。そうした場合、国や県レベルで整備したメッシュ方式の雨量観測システムでは追い切れないという声を耳にし、局地的な雨量観測を少しでも安くして多くの点でやれるようなシステムを弊社で開発しようということになりました」(沖重氏、以下同)

同社は、国交省の雨量計のノウハウを把握していたそうです。

「そのノウハウを活かし、2019年に開発しました。雨量計というのは基本的にパルス信号を拾って、どれだけ雨が降っているのかを観測しています。

このパルス信号というのは、よくお寺の庭にあるような鹿威(ししおど)しの仕組みで雨が貯まると一方が倒れて電極から信号を発して把握するようになっています。このパルス信号の計算式を弊社がオリジナルで作っています」

自治体はそれぞれ防災マップを作っていて、その中に土砂災害警戒区域という危険性の高いエリアがあります。つまり、豪雨時に崖崩れが起きる危険性の高い土地があり、その下に住居がある場合、そうした場所に設置することを同社では提唱していると言います。

「メッシュ方式では、その範囲内の地域ごとに雨量が違っていた場合、自治体から避難指示が出てもいわゆるオオカミ少年のようになって、本当に避難してほしいときに指示に従ってもらえないような事態も起きると言われています。

住民が自分のこととして捉えられなくなってしまうことも多いのですが、局地的なデータを示せば、身近な問題として考えてもらえるようになると思います」


太陽電池とバッテリーで商用電源不要、パソコンやスマホから雨量情報を確認できると言います。
太陽電池とバッテリーで商用電源不要、パソコンやスマホから雨量情報を確認できると言います。




国交省のシステムなどでは、時間などと紐付けて測定したデータをどこかしらのサーバーへ送っているそうです。同社は同じようなシステムを単純化し、クラウドに組み込んでいると言います。

「苦労したのは、計算式をどうやって作ればいいのかという部分です。雨量計を作っているのは大手企業ばかりですが、測定の方法や結果はノウハウとして非公開になっています。そうしたデータにいかに近づけるかというのが最も苦労しました」

国や県が整備するシステムでは、1か所あたり1,000万円から2,000万円ほどの費用がかかってしまうそうです。自治体から申請した場合、その費用はほとんど自治体の負担になってしまうと言います。

「財政難の自治体では、そう簡単に局地的な雨量観測システムを増やせないのですが、弊社のシステムのコストは1台100万円を切る程度なので、土砂災害警戒区域などに点として複数を設置できる可能性があります」

自立型と支柱設置型の2種類あるそうです。どちらも太陽光バッテリーで、電源の引き込み工事も必要ないと言います。

「弊社の雨量観測システムでは、IoTのゲートウェイ装置もキモの技術になります。弊社のグループ企業が作っているQRITという機器にSIMが入っているので、観測したデータを一度、携帯電話のキャリアを通じたLTE通信でクラウドシステムへ送っています。今は携帯のSIMを入れていますが、携帯基地局がない山間部などではこのゲートウエイ装置を使えば特定省電力に切り替えたりといった運用が可能になります」


エコー電子工業株式会社 公共ソリューション部営業課 沖重昌吾氏。医療現場などでBluetoothの発信源に積み、タグを付けた物の移動管理に使うことが多いというQRITを、今回は降雨の情報に特化するように変えたと言います。
エコー電子工業株式会社 公共ソリューション部営業課 沖重昌吾氏。医療現場などでBluetoothの発信源に積み、タグを付けた物の移動管理に使うことが多いというQRITを、今回は降雨の情報に特化するように変えたと言います。


すでに、長崎県の南島原市に導入され、国交省のシステムと比較して正確性を確認したと言います。その結果、特に誤差がなく、同じくらいの品質は担保できているそうです。


工場内で物を移動させる自律型ロボット

今回のJapan IT Week 関西には、ロボット関係の企業もいくつかありました。株式会社匠(福岡県福岡市)は、工場内などの物流設備に特化したロボットを出展していました。説明してくださった営業部の鐘江亮介(かねがえ・りょうすけ)氏によれば、工場設備や無人移動の世界も近年、大きく環境が変化してきたと言います。

「例えば、物流設備で扱うベルトコンベアも物を運ぶ手段ですし、無人車も有軌道というある程度、決められたラインの上を移動するものです。しかし、工場のラインが頻繁にレイアウト変更するような時代になり、設備投資で対応解決できない現場の悩みが出てくるようになってきました」(鐘江氏、以下同)

そうした中、工場の自動化を進めていく上でどうすればいいのかということで、物を運ぶ自律型のロボットを作ろうということになったそうです。

「製造現場のニーズ、ソリューションについて理解した上でロボットを開発していこうと考えています。弊社のロボットのラインナップは、現状では製造現場で物を運ぶことに特化したロボットです」


株式会社匠 営業部 鐘江亮介氏。将来的にはサービスロボットなど、いろいろな作業をするロボットを作っていくつもりという鐘江氏。
株式会社匠 営業部 鐘江亮介氏。将来的にはサービスロボットなど、いろいろな作業をするロボットを作っていくつもりという鐘江氏。


ロボットといえば、自律型を実現させるAIの技術が重要と思いますが、同社のロボットにはそれほど高度な技術は必要ないと言います。

「環境が変わってもフレキシブルに対応していくロボット、つまりAIが搭載されたロボットを実現させるためには、例えばセンサー技術が発達しなければなりませんし、センサーを充実させていけば、どんどんスペックが上がっていき、そこでまたAIの良さが発揮されるという循環になると思います。

ただ、現状では省人化のため、人件費とロボットの導入費用での折り合いをつけなければなりません。AIが必要な部分と必要ではない部分を切り分けていかなければならないと思っています」

こうした分野では、すでに中国のロボットが広く使われるようになっています。ただ、国内メーカーではないため、中国のロボットメーカーと一緒に仕事をしていく上で、導入先は共通の悩みを抱えていると言います。

「弊社としては、しっかりベーシックな技術的な部分を押さえ、お客様のご要望に対してはカスタマイズなどで丁寧に対応していくことで中国メーカーとの差別化を図っていこうと考えています」

現在、位置認識の方法によって2種類のロボットがあるそうです。

「GRID方式は、格子状のマーカーの上をトレースして移動する方式です。SLAM方式は、センサーによって周囲の環境を把握し、そのデータをもとに自己位置を推定する方式です。

GRID方式は、積載重量で500Kg、800Kg、1,000Kgの3種類を2020年の秋頃にリリースしようと考えています。SLAM方式は、今のところ50Kgの1種類でこれは2020年4月にリリースしましたが、近い将来、300Kg、500Kgのものをリリースしようと考えています」

2種類とも共通の基本動作は同じで、棚の下にもぐりこんで棚ごと物を移動させる方法です。

「小ロット多品種で工場のラインも変わっていくでしょう。積載重量の違いは、現場で把握してきた経験によるものです。製造業の部品など軽量のものの自動化が求められているので、対応できるロボットを開発すれば確実に需要が見込める市場だと思います」


ゴムのタイヤで、2輪の速度差で方向転換しています。前後のキャスターで保持しています。
ゴムのタイヤで、2輪の速度差で方向転換しています。前後のキャスターで保持しています。


位置センサーは、何度も試走を行ってプログラミング・データに上書きさせ、一種の強化学習をさせているそうです。

「例えば、ガラスの場合、透明だけれど壁があるはずというのを人間の側が手作業で補正し、データのマッピングを完成させていきます。空間把握は基本的に最短距離をトレースします。ただ、自分が把握しているマップに障害物があった場合、そこを避けていきます。避けた側の障害物と壁などの間に自分が通ることができる幅があった場合、別のルートを選んでそちらの方向へ移動します」

開発で難しかったのは、移動時の調整だったと言います。

「回転時の揺らぎなど、ソフトの調整が難しかったです。例えば、揺らぎが生じないように回転したり、そういう細かい調整でした」

物流設備や無人車でつちかってきた技術を応用して開発された同社の自動搬送ロボットは、中国製が席巻している現場にどのように受け入れられるのでしょうか。日本独自の製造現場に応じたシステム設計が評価されれば、今後、可能性が広がるのかもしれません。

ものづくりからシステム、IoTソリューション、クラウド、マーケティングまで、幅広い技術が多く出展していたJapan IT Week関西ですが、多様な技術が複雑に絡み合い、相互に影響し合う刺激的な開発環境も垣間見させてくれた展示会でした。



文/石田雅彦


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