鋳造用アルミニウム合金とメーカー開発合金~アルミニウムの基礎知識(2)

鋳造用アルミニウム合金とメーカー開発合金についてお話を伺ったのは日軽エムシーアルミ株式会社 開発部長の堀川宏(ほりかわ・ひろし)氏です。前回のアルミニウムの基礎知識(1)で伺った展伸用アルミニウム合金と、今回の鋳造用アルミニウム合金にはどのような違いがあるのでしょうか? 

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自動車や二輪などに使われる鋳造用アルミニウム合金

日軽エムシーアルミ株式会社 開発部長 堀川宏氏
日軽エムシーアルミ株式会社 開発部長 堀川宏氏


「前回ご紹介しましたように、板や箔などの板材、管、棒、サッシなどの押出形材には“展伸用アルミニウム合金”を使います。一方、今回お伝えする砂型、金型、ダイカストなどの鋳物には、“鋳造用アルミニウム合金”を使います。これは文字通り鋳造性に優れているのが大きな特長となっています。日本では鋳造用アルミニウム合金の約90%が自動車や二輪などの輸送機器に使われています」

鋳造用アルミニウム合金は、さまざまな鋳造法を利用して鋳物をつくるための合金ですが、適用する鋳造法によって要求特性が異なるため、JIS規格では鋳造法別に分類して規定されています。それを踏まえた上で、堀川氏は「砂型・金型鋳造用合金と、ダイカスト用合金の2つの系統があります」と言います。堀川氏にそれぞれの系統について解説してもらいました。


アルミを溶解し、添加物を混ぜたアルミニウム合金の塊
アルミを溶解し、添加物を混ぜたアルミニウム合金の塊


砂型・金型鋳造用合金は?

砂型・金型鋳造用合金の系統は鋳型に溶湯(溶解したアルミニウム)を鋳込む際に特別な圧力を加えないで注ぐ重力鋳造法やガス圧により、下方より押し上げる低圧鋳造法が使われています。合金の種類によって鋳造性、強度、耐摩耗性、高温強さなどの特性が異なります。AC1BなどJISで定められた材料記号別に、主に以下の9つの種類があるそうです。


AC1B: Al-Cu-Mg系合金

「Al-Cu-Mg系合金は鋳造用アルミニウム合金の中で靱性に優れた合金です。切削性がよく、電気伝導性に優れているため架線用導電部品、自転車用部品、航空機用油圧部品などに使用されています。ただし、耐食性が劣るため腐食しやすい環境での使用には適していません」


AC2A、AC2B: Al-Cu-Si系合金

「Al-Cu-Si系合金はAC1B合金よりも銅の添加量を減らし、マグネシウムを添加しない合金系です。靭性を少し犠牲にしていますが、ケイ素(シリコン)を添加したことで鋳造性が改善しており、自動車などのエンジン部品に使われることが多くなっています」


AC3A: Al-Si系合金

「Al-Si系合金はアルミニウムにケイ素(シリコン)だけを合金元素として添加したものです。強度はそれほど高くないですが、鋳造性に優れており、大きな伸び、小さい熱膨張係数、良好な耐食性を持っているのが大きな特長となっています。あまり強度を必要とせず、薄肉で複雑な形状や模様を呈する門扉やカーテンウォールなどに使われることが多いです」


AC4A、AC4C、AC4CH: Al-Si-Mg系合金

「Al-Si-Mg系合金はAC3A合金と比較してケイ素の量を減らして、マグネシウムを少し加えたものです。鋳造性を維持したまま機械的性質を改善しているのが大きな特長です。主に、エンジン部品、車両部品、船舶用部品などで使われています。この合金系の中でも、AC4CH合金はAC4C合金よりも不純物の含有量を厳しく規制しており、自動車用ホイールなど保安的要求が高い部品に多く使用されています」


AC4B: Al-Si-Cu系合金

「Al-Si-Cu系合金はAC3A合金と比較してケイ素の量を減らし、銅を添加した合金です。銅を含有するため耐食性は劣りますが、鋳造性に優れており強度も高いので自動車用、電気機器用、産業機械用部品など広い分野で利用されています」


AC4D: Al-Si-Cu-Mg系合金

「Al-Si-Cu-Mg系合金はAC4C合金と比較してケイ素の量を少しだけ低くして、銅を添加してあります。耐圧性、耐熱性に優れていることから、自動車エンジンのクランクケース、油圧機器部品などに使われています」


AC8A、AC8B、AC8C: Al-Si-Ni-Cu-Mg系合金

「Al-Si-Ni-Cu-Mg系合金はエンジン用のピストンに適するようにつくられた合金です。AC4D合金と比較して銅の量を半減させ、ケイ素の添加量を大幅に増やすことで、小さい熱膨張係数、高い耐摩耗性を持つ剛性の高い合金になっています。自動車、ディーゼル機関車用ピストン、プーリー、軸受などでも使用されています」


AC9A、AC9B: Al-Si-Cu-Mg-Ni系合金

「Al-Si-Cu-Mg-Ni系合金はケイ素の含有量が最も多く、AC9A合金は23%のケイ素、AC9B合金は19%のケイ素を含有しています。AC8系合金よりも熱膨張係数が小さく、高い剛性と耐摩耗性を保有していることから、2サイクルエンジン用ピストンやディーゼルエンジン用ピストンなどで使われています」


AC7A: Al-Mg系合金

「Al-Mg系合金は代表的な耐食性合金として知られていて、強さも伸びも高く、切削性に優れています。架線金具、船舶用品、建築金具、事務機器部品などに主に使われています。ただし、溶湯は酸化やガスを吸収しやすいため、鋳造性が悪い欠点も持ち合わせています」


ダイカスト用合金は?

ダイカスト用合金は溶湯を加圧し、金型に高速で注入するダイカストに用いられます。この合金は溶湯の高い流動性、そして金型への焼付きを予防するために砂型・金型鋳造用合金では不純物とされる鉄をあえて少量添加していることが特徴です。

ダイカストは大量生産に適していますが、溶湯を高速で射出注入するため空気を巻き込みやすく、巻き込まれた空気が膨張してブリスターと呼ばれる内部欠陥を発するため、熱処理に適していません。また速い冷却速度で成形(急冷凝固)されるため、金属組織の調整が困難となり、高い機械的性質の製品を得るのが難しいと言われています。

そんなダイカスト合金には、どのような種類があるのでしょうか? JISの材料記号別にご紹介します。


ADC1: Al-Si系合金

「Al-Si系合金は砂型・金型鋳造用のAC3A合金とほぼ同等の化学組成となっており、鋳造性と耐食性に優れているのが特長となっています。高い強度を要求しない薄肉・複雑形状の鋳物に適しており、自動車メインフレームなどの適用例もありますが、使用率はあまり多くありません」


ADC3: Al-Si-Mg系合金

「Al-Si-Mg系合金は砂型・金型鋳造用のAC4A合金とほぼ同等の化学組成で、機械的性質と耐食性がよいため自動車や自転車用部品として使用されることがありますが、こちらも実用例は少ないです」


ADC5、ADC6: Al-Mg系合金

「Al-Mg系合金は耐食性合金として知られており、強さも伸びも高く、アルマイトなどの表面処理性や切削性に優れています。ただし、溶湯の流動性に劣り、鋳造割れも発生しやすいなど鋳造性に難があります。耐食性や装飾性が重視される部品に使用されています」


ADC10、ADC10Z、ADC12、ADC12Z: Al-Si-Cu系合金

「Al-Si-Cu系合金は砂型・金型鋳造用のAC4B合金に相当する合金で、多くのケイ素、銅を添加することで鋳造性と強度を高めた合金です。ダイカスト用合金の中でも鋳造性に優れた高力合金として位置付けられていて、特に自動車エンジン部品、電気機器部品などで使用されています」


ADC14: Al-Si-Cu-Mg系合金

「Al-Si-Cu-Mg系合金はエンジンブロックの軽量化を目的として開発されたもので、強度や耐摩耗性に優れ、熱膨張係数が小さいことが特長です。自動変速機用オイルポンプボディ、クラッチハウジングなどで使用されています」


起業企業が独自に開発したアルミニウム合金

日軽エムシーアルミ開発合金による自動車部品、トルクロッド
日軽エムシーアルミ開発合金による自動車部品、トルクロッド


前回の記事も含め、ここまでアルミニウム合金の基礎知識をお伝えしてきました。“アルミニウム合金”と一口に言っても、その種類は多く、用途によって必要なものが異なります。そうした状況から、日軽エムシーアルミ株式会社などの企業は顧客の求める特性やスペックを持ったアルミニウム合金を開発、提供しています。

「弊社では提供するアルミニウム合金の半分ほどが汎用のJISやISO規格合金で、それ以外はJISやISOに規定されていない化学組成です。お客様から指定された化学組成の合金も多いですが、弊社がお客様と共同開発したものや独自開発したアルミニウム合金をお使いいただいています」


日軽エムシーアルミ開発合金による自動車部品、ミッション部品
日軽エムシーアルミ開発合金による自動車部品、ミッション部品


日軽エムシーアルミ株式会社では、そのアルミニウム合金を「メーカー開発合金」あるいは、単に「開発合金」と呼んでいます。例えば、ダイカスト用の高熱伝導合金では「従来のものは鋳造性が悪く、高コストで、自動車部品としては強度が不足していたので、強度及び鋳造性を向上させました」と言い、DX17、DX19合金を開発し、提供しています。

そのほか、陽極酸化処理を行うことで耐食性、耐熱性にも優れ、装飾が必要な部分に適した「良表面処理合金」や、硬質粒子のサイズを従来耐摩耗合金並みに抑制し、高剛性の金属間化合物を均一に発生させることにより剛性が高い「高剛性アルミニウム合金」を開発しているのです。

「ここ数年で、地球環境問題を背景とした自動車の軽量化を目的に、車体構造材がダイカストなどアルミニウム合金になりつつあります。まだ高級車だけですが、今後どんどん置き換わっていくはずです。私たちも種々の高靭性合金を開発しており、車体構造材のアルミニウム合金化に貢献していければ、と思っています」


文/新國翔大

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