安全性やセキュリティ面を考慮する3Dプリンターが実現する世界「Smart Spaces」

2020年2月中旬に米テネシー州ナッシュビルで開催された「3DEXPERIENCE World 2020」。主催者であるDassault Systemes(ダッソー・システムズ)と戦略的提携関係であるRIZEは「コピー機のような存在」を目指した3Dプリンターを出展していました。そこで、同社CEOのAndy Kalambi氏にお話を聞きました。

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APD技術によりオフィスに置ける安全性を確立

フルカラーの3Dプリンター「XRIZE」と同社のCEO、Andy Kalambi氏
フルカラーの3Dプリンター「XRIZE」と同社のCEO、Andy Kalambi氏



3Dプリンターの歴史は1980年代ごろまで遡ることができますが、2012年創業のRIZEは「これまでの3Dプリンターの課題を解決する」と同社社長兼CEOのAndy Kalambi氏はいいます。

最大の差別化は、同社が独自開発した拡張ポリマー堆積(APD)技術。RIZEのプロダクト&マーケティング担当バイスプレジデント、Kishore Boyalakuntla氏は、「材料押出と材料噴射という2つの成熟した技術を組み合わせたハイブリッド型」と説明します。

材料押出は材料を押し出すことで造形する手法で、FDM(熱溶解積層法)、FFF(Fused Filament Fabrication)などとも呼ばれており、材料噴射はマルチジェットプリンティング、インクジェットなどの技術。これらを融合することで、どのような特徴が生まれるのでしょうか?

CEOのKalambi氏が最初に挙げたのは、「安全性」です。FDM式などでよく使われるABS、PLA、ナイロンなどの素材は、有毒な物質を発生する研究結果が米国の研究機関より発表されるなど、その影響について指摘されてきました。一部の3Dプリンターは最大で200VOC(揮発性有機化合物)を排出するとも言われており、健康へのリスクを懸念する声もあります。

「RIZEは安全な3Dプリンターを作ることから始まった」(Boyalakuntla氏)というだけあり、独自ポリマー技術を土台としたフィラメント技術ファミリー「Rizium」を開発しています。RiziumとAPDにより、「これまでの3Dプリンターは産業用のスペースに置くものだったが、RIZEはオフィスに置くことができる」とKalambi氏はいいます。

このような安全性のための技術は公的機関にも認められ、RIZEの3Dプリンター機種「RIZE ONE」は2019年に火災防止などの安全規格であるULより、3Dプリンターの排出する粒子や化学物質が安全であることを認める「UL2904」認定を受けました。3DプリンターでUL2904認定を受けたのはRIZE ONEが初とのことです。


サポート除去などの後処理を大幅に簡素化

XRIZEで成型した心臓モデル
XRIZEで成型した心臓モデル


XRIZEで成型したカメのモデル
XRIZEで成型したカメのモデル


2つ目の特徴は、後処理の簡素化です。FDM方式の多くの3Dプリンターでは素材を支えるサポート材や積層跡の除去が必要となりますが、APDでは簡単かつ安全にサポート材を取り除くことができます。後処理は2分以内となり、時間とコストを大幅に短縮できます。

IT専門調査会社IDCのアンケートによると、現在の3Dプリンターに対する不満のトップは「コスト(プリンターの運用と素材)」で44%がこれを挙げています。次いで、「構築時間」(32%)、「事前処理の要求レベルが高い」(25%)などが続いており、「後処理の要求レベルが高い」も18%が選んでいます。

実際、RIZEのBoyalakuntla氏によると、後処理が簡素化される理由でRIZEの3Dプリンターを求める人は多いといいます。さらには、RIZEで作成した作成物は、完全にリサイクル可能です。

3つ目は「セキュリティ」――具体的には、トレーサビリティやIP(知的所有権)保護を指します。CATIAやSOLIDWORKSなどのDassault Systemesのツールを使ってデザインし、RIZEのソフトウェア「RIZE OneTouch」にモデルをエクスポートしてQRコードを生成し、RIZEのプリンターで直接プリントしたパーツを作成できます。できあがったパーツのQRコードをスキャンすると、パーツの情報やモデリングなどをみることができます。


3Dプリンターのあるデジタル環境で作業が変わる

QRコードも同時にプリントすることで、パーツのインテリジェント化が進む
QRコードも同時にプリントすることで、パーツのインテリジェント化が進む


このような特徴を備える3Dプリンターが実現する世界として、RIZEでは3Dプリンターがデジタル環境につながる「Smart Spaces」コンセプトを提唱しています。

UL2904認定により安全性が保障されたことで、オフィスのフロアで安心して3Dプリンターが使えるようになります。「3Dプリンターがデザインの現場にあることで、設計からイノベーションまでを高速化できる」とKalambi氏は言います。

「設計段階ではたくさんのバージョンを作り製造工程にリリースする前に改善を続けるが、時間は限られている。エンジニアの近くに3Dプリンターがあれば、すぐにプリントして、できたものを見てすぐに修正できる」と続けます。

設計現場に3Dプリンターを置き、接続された環境を持つことで、作業が効率化できます。それだけでなく、QRコードによりパーツがインテリジェントになり、クラウドを利用することでARやVRを利用してアセンブルするとどうなるのかのシミュレーションなどが可能になると言います。これまでのデザインから作成までの作業を根本から変えようというのがSmart Spacesコンセプトと言えそうです。

RIZEは現在、3Dプリンターとしてはモノクロの「RIZE ONE」、そしてフルカラー「XRIZE」を提供しています。今後の方向性として、Kalambi氏は小型化などプリンターそのものの改良に加えて、「提携」を挙げます。

3DEXPERIENCE World 2020では、競合とも言える韓国のSindohと素材で提携したことを発表しました。これにより、Sindohの顧客は安全性の高いRIZEの素材を使えるようになります。まずは2機種(「Shindoh 3DWOX 2X」と同7X)で対応、これらのプリンターを使うSindoh顧客はSindohの3Dプリンターを安全に使って作業ができるようになります。

このような提携は今後も増やしていきたい、とKalambi氏。「エコシステムを作りたい」と狙いを語りました。3Dプリンターがコピー機のような存在になる日は近そうです。



文/末岡洋子


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