「単結晶」工業技術イノベーション史〜単結晶が変えた私たちの世界(前編)

INTERVIEW

東北大学
金属材料研究所 先端結晶工学研究部
未来科学技術共同研究センター(NICHe)

教授 吉川 彰

無機物の材料素材には、まだまだイノベーションの余地があります。多種元素を組み合せ、新たな結晶を作ることで既存の材料にはない特性をもつ物質を開発できる可能性があるのです。

東北大学の吉川彰(よしかわ・あきら)教授(金属材料研究所 先端結晶工学研究部、未来科学技術共同研究センターNICHe 兼任)の研究室では、さまざまな物質で単結晶を作り、工業技術のイノベーションに役立てようとしています。まず、吉川教授に研究テーマについて説明していただく前に、結晶について基礎的なことをうかがいました。


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単結晶とはなにか

────単結晶と多結晶の違いはどこにあるのでしょうか。

いろいろな固体物質は、どこまでも小さく割っていくとどこかに最小の塊があります。分子、つまり原子配列のようなものを考えていただければと思いますが、分子の配列は同じ形、同じ分子の組み合わせによる周期的な配列の繰り返しが3次元の立体的に何千万個、何億個と並んでいます。

こうして同じ繰り返しをする特性を並進対称性といいますが、大ざっぱにいえば、この分子や原子がバラバラにいろんな向きを向いているものを多結晶といい、すべての分子が同じ向きを向いているものを単結晶というのです。 (吉川教授、以下同)

東北大学 吉川彰教授
東北大学 吉川彰教授


────単結晶の特徴はどういうもので、どのような用途があるのでしょうか。

原子配列には、座標軸としてXYZというものがありますが、我々はa軸b軸c軸と呼んでいます。その物質の特性が方位依存をもつことがあります。例えば、a軸だけ特性が良い方位をもつ物質の場合、多結晶の中にその向きと逆向きの方位の結晶があると打ち消されてしまいます。その特性を最大限に引き出そうとすると、方位をすべて同じ方向にそろえることが必要となります。

多結晶の物質は良い特性があっても打ち消されてしまうことがありますが、方位が同じ方向を向いている単結晶では打ち消されず、ある特性を最大限に取り出すことが可能になります。逆にいえば、ある特性を取り出したい場合、特性が打ち消されない単結晶の物質を使うわけです。


────私たちの身の回りにも単結晶の物質がありますか。

そうですね、自然界にも単結晶の物質があります。それは例えばダイヤモンドやサファイア、ルビー、ガーネットなどの透明に見える宝石が単結晶です。どこかに逆向きの結晶粒があると光が散乱されてしまって透明に見えないのです。

ほとんどの場合、絶縁体の単結晶は透明になり、電気伝導体や半導体は単結晶になっても透明にはなりません。ですから、絶縁体の単結晶である宝石は透明ですが、金属は単結晶でも透明にはならないのです。


────自然界の単結晶の物質はどのようにしてできるのでしょうか。

宝石のような単結晶の物質というのは、ひじょうに高温で圧力がかかっているような環境でできることが多いのです。少なくとも一度は高温になることが必要です。例えば、水の場合、低温では氷になっていますが、温度が上がると液体の水になります。このように高温になって物質が溶け、溶けたものが再び凍り始める、つまり固まり始めます。

サファイアの場合、2,030℃くらいで溶けるので2,500℃くらいの高温ではすべて溶けてしまいます。この時、どこか1か所に1,900℃くらいの領域ができると、そこを基点にして凍るとき、固まるとき、同じ方向に分子が整然と並んでいき、その結果として単結晶ができ、サファイアになるというわけです。

しかし、この時、いろんな場所で冷たくなり始めると、いろんな方向から凍り固まり始めるので、どこかでぶつかり合って方向が乱れてしまいます。ですから、ダイヤモンドやサファイアのような宝石は、まさに偶然によってできた珍しい単結晶です。

どんなに融点が高い物質でも4,000℃くらいでほとんど溶けてしまいます。地中深くの5,000℃にもなるようなひじょうに高温で圧力も高い環境でできたものが、火山の噴火など何かが原因で地上近くに出てきたのでしょう。それを人間が掘り出して宝石として流通させたということになります。



研究室にあった天然の紫水晶。これも単結晶といいます。
研究室にあった天然の紫水晶。これも単結晶といいます。


────自然界にある単結晶の物質によって何がわかりますか。

単結晶の物質が自然界にあることで、例えば地学の分野の研究者は、その地層から時代を推定し、その単結晶の物質の組成や発見される頻度などからその時代がどんな温度環境だったのかなどを逆にたどっていくようなことをやっているのだと思います。

また、単結晶が自然界にあるということは、それができた条件を与えてやれば同じような単結晶が人工的に再現できるということになります。自然界の単結晶の物質を人為的に作るということは、例えて言えば養殖や畜産のようなものかもしれません。


────単結晶ではないダイヤモンドもあるということですか。

ダイヤモンドの多結晶もありますが透明ではありません。もちろん、透明でなくても硬さや比重などの物質の特性としてはダイヤモンドなのは間違いないのですが、単結晶のダイヤモンドではないためダイヤモンド特有のあの輝きはないことになります。人間が人工的に作ったダイヤモンドでも、単結晶でなければ宝石のような透明なものにはなりません。


人工的な単結晶によって大きく変わった人間の生活

────人工ダイヤモンドのように人工的に単結晶を作ることができるのでしょうか。

はい、最近になってようやく人工的に単結晶のダイヤモンドを作ることができるようになっていますが、宝石レベルの大きく綺麗な単結晶を工業生産する技術はまだです。自然界のダイヤモンドは単結晶になるために圧力が必要ですが、サファイアやガーネットなどはそれほど圧力を必要としないのでダイヤモンドよりも容易に単結晶ができます。

先ほど単結晶の物質を人為的に作るのは養殖や畜産のようなものと言いました。価値のある宝飾品としての宝石はもちろんですが、例えばダイヤモンドが研削や研磨に使えたり、ルビーがレーザーに使えたり、水晶をクォーツとして振動子として使えたり、というようにある単結晶を工業的に使えることがわかった場合、これまでは自然界が偶然に作り出した単結晶の物質を探しに行っていました。これは、いうなれば狩猟採集のような行き当たりばったりの行動です。しかし、それだと見つけたり見つけられなかったり、安定した供給ができません。

では、ダイヤモンドやルビーなどを人工的に作ることができたらどうでしょうか。これはつまり狩猟採集でサケやイノシシを捕っていたのをやめ、サケを養殖したり畜産でブタを改良したりすることと同じで、人間が計画をもって安定して作ることができるようにしたいということになります。これが、私たちの研究テーマです。


────そうした人工的に作られた単結晶の物質は私たちの生活をどのように変えたのでしょうか。

例えば、絶縁体の単結晶でいえば振動子や発振器で使われている水晶(クォーツ)は、人類の歴史に大きな影響を与えました。透明な水晶自体は単結晶ですが、水晶発振で1秒(水晶振動子が3万2,768回、振動する時間)が計れるようになりましたし、水晶発振でいろんな機器のタイミングを合わせられるようになりました。

つまり、水晶の発振特性を利用したタイミングデバイスとして、コンピューター、スマートフォン、アプリケーションなどのクロックの同期をとるために必須の技術でもあります。

水晶は山の中で偶然見つかったりしますが、見つけるのも大変ですし、不純物が入っていると発振特性が変わってきます。工業的に水晶を作り出す技術が確立されたのはイタリアでしたが、半導体が米国中心の技術なのに比べ、人工水晶はクォーツ時計の製造など、どちらかといえば日本やアジア諸国が得意とする技術になっています。


────水晶のほかに単結晶で画期的な技術には何がありますか。

そうですね、半導体も単結晶が人類の歴史に最も大きな影響を与えた例と言え、半導体に使われる結晶薄膜も同じように薄膜の中は単結晶になっています。これも単結晶の特性がわかったので、人工的に単結晶のシリコンを作り、それをあるときは絶縁体になり、あるときは電気伝導体になる半導体に応用したのです。

それまでの電気・電子回路には真空管を使っていたのですが、単結晶のシリコンを使えば半導体の機能をもつことがわかりました。さらに、2インチのインゴットのような単結晶シリコンの固まりを作る製造技術が確立し、インゴットを薄くスライスして半導体デバイスの基板材料になるシリコンウェハーを量産することができるようになりました。

半導体の登場でトランジスタ(シリコンなどの結晶で作られる増幅機能をもった半導体素子、1947年に米国ベル研究所で開発)ができ、精密な電気特性の制御が可能なっていったのです。これは20世紀最大の発明と言っていいと思いますが、真空管時代に比べて大きさも格段に小さくなるなど、かなり大きな技術革新が起きたというわけです。


2インチのシンチレータ単結晶。切り刻んでアレイ(配列)型にするそうです。
2インチのシンチレータ単結晶。切り刻んでアレイ(配列)型にするそうです。


────半導体の単結晶としての特性というのは何ですか。

物質には方位依存の特性があるので、例えばある半導体に使いたい物質があってその方位的な特性を最大限に引き出そうとする場合、工業的に言えばその物質の単結晶を作らなければならないということになります。半導体の場合、材料を含めて単結晶を作る技術を開発しなければなりません。

p(ポジティブ)型やn(ネガティブ)型の単結晶シリコン、pn接合という技術がありますが、これは電子などの移動量といった半導体の特性をもつもので、同じ電圧をかけてもたくさん移動させたいなど、その特性を最大にしたい場合、結晶にホウ素やリンなどの添加物を加えて調整します。


────目的に応じた結晶を人為的に作り出すということでしょうか。

そうです。半導体工学において添加物を混ぜることをドーピング(Doping)といいます。この単結晶の人工的な作成やドーピングを畜産で考えると、野生のイノシシを家畜としてのブタにする場合、まず最初に行うのは人工的にイノシシをたくさん作り出して次第にブタに改良していき、柔らかい肉にしたり、より多くの肉がとれるようにしたりと、ブタを品種改良することに相当するでしょう。


────そうした目的に応じた結晶はどうやって作り出すのでしょうか。

シリコンというのはケイ素(Si)ですけれど、自然界のケイ素には酸素やアルミニウム、マグネシウムなどが結びついているため、純粋なケイ素の単結晶は存在しません。特に半導体に使われる単結晶のシリコンは、小数点以下に11個も並ぶ(イレブン・ナイン)ほど純度の高い単結晶構造でなければなりません。

また、ある目的に応じた結晶を作る場合は、もうちょっとバンドギャップ(電子が存在できない領域)の幅を広げたい場合にはどうすればいいのかとか、結晶欠陥を少なくするためにはどうすればいいのかという理論が確立しています。

シリコン以外の材料設計の理論もある程度はあります。しかし、新しい材料系では、やはり実験も含めてやってみなければわからなかったり、それまでの理論ではわかっていなかったことがやってみたら新たに見つかったりすることも多いのです。ですから、人類が未知の単結晶の物質は、まだまだたくさんあると思います。


────単結晶という物質は、私たちの生活を劇的に変えたと言っていいですね。

その通りです。水晶がタイミングデバイスの発振器として、半導体がIC、太陽光発電モジュール、LEDなどに使われるように、どちらもコンピューターや我々の生活には欠かせない材料になっています。我々の身の回りのありとあらゆるところに単結晶の技術が使われているというわけです。

水晶がタイミングデバイスに使えることを発見したり、シリコンの単結晶が半導体に使えるという現象が見つかり、長い研究開発を続けて人工的に水晶を作り出したり、高純度の単結晶シリコンを作ったりすることに成功してようやく産業として利用できるようになったということになります。

これを狩猟と畜産にたとえてみると、イノシシを苦労してブタにし、美味しいお肉がとれるように品種改良し、量産化してようやく我々の口に入るようになるということになるでしょうか。




単結晶、多結晶と聞くと大きな結晶の固まりが単結晶というようにイメージしますが、原子配列の立体構造の特性の向きが同じ方向のものを単結晶と言うわけです。単結晶は宝石だけでなく、クォーツ時計やタイミングデバイス、ICやCMOS、LSIなどの半導体にとって欠かせない物質ということがよくわかりました。

次回(第2回)では、単結晶をどうやって作るのか、吉川教授に青色LEDの事例などから説明していただき、さらにイリジウムの単結晶の開発秘話などについてうかがいます。


文/石田雅彦


≪中編に続く≫

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