インド開催【AUTO EXPO 2020 デリーモーターショー】現地レポート

自動車マーケットの次なるフロンティアとして注目されるインド。人口は2020年時点で13億人を超え、自動車市場もますます拡大する見込みです。そんな大きなポテンシャルを秘めたインドにおいて、世界有数の自動車ショー「AUTO EXPO 2020(デリーモーターショー)」が、首都デリー近郊の街グレーター・ノイダで開催されました。今回はその様子をレポートします。

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インド市場の成長性を数字で確認

AUTO EXPOの具体的な展示内容をレポートする前に、ショーの理解度を深めるため、インド自動車市場の基礎知識を紹介したいと思います。

まずは自動車市場の規模についてです。2019年度のインドの自動車販売台数は、約381万台になる見込みです。これは、中国(約2,500万台)、北米(約1,900万台)、EU(約1,500万台)、日本(約500万台)(いずれも2019年見込み)に次ぐ規模で、EU圏内のドイツ(約361万台)とほぼ同等の大きさになります。ドイツの人口は約8,000万人ですから、これからの伸びしろが大きいことがわかります。


各国統計報道をもとに筆者作成。いずれも2019年見込み
各国統計報道をもとに筆者作成。いずれも2019年見込み


一方で、インド市場においては四輪車より二輪車の販売台数のほうがまだまだ多く、年間2,000万台を超えています。このことも、今後のモータリゼーションの発展という意味でインド市場が伸びていく要素となりうるでしょう。


インドにおける四大自動車メーカー

次に自動車メーカーのシェアについてです。インドの自動車市場において、スズキのインド部門である「マルチ・スズキ」が大きなシェアをもっています。現地でも”マルチ”の名前で親しまれており、日本のメーカーでありながら(2007年にスズキが過半数の株式を取得)、インドに深く根ざしたブランドで、2019年もシェアを拡大させています。

次に続くのがインドの現地資本メーカー、タタとマヒンドラです。

それ以外のメーカーはいずれも数%のシェアを分け合っており、日系企業では、ホンダ、トヨタ、ルノー日産などがインド市場に参入していますが、いずれも年間販売10万台前後です。


新車でも100万円以下が当たり前

インドでは、市場の購買力に合わせて新車の販売価格も低く抑えられています。例えば、スズキ「ハスラー」をベースに1リッターエンジンを搭載した「エスプレッソ(S-Presso)」の価格は約60万円、日本でも販売されている「スイフト」の1.2リットルモデルは約90万円です。


マルチ・スズキの「エスプレッソ(S-Presso)」
マルチ・スズキの「エスプレッソ(S-Presso)」

このように新車価格は抑えられていますが、それでも自動車を買うことができるのは大学を卒業したホワイトカラーの一部であり、平均年収が低く、身分制度の影響からか経済格差が大きいインドでは、一家に一台にはまだ遠い現状があります。

4メートル以下の小型セダン

税制の優遇措置で、インドでは全長4メートル以下のクルマが主流です。軽自動車の規格は3.4メートル以下ですのでそれよりは大きく、「ヤリス」や「フィット」などのいわゆるBセグメントのハッチバックと同じくらいの大きさです。

ではハッチバックが人気かというと、さにあらず。インドでは1990年代にハッチバックの「アルト」が大ヒットし、大いに売れたのですが、インドの消費者心理としては、ハッチバックの次のステップアップとして、セダンの人気があるということです。

そこで各メーカーは、ハッチバックに小さなトランクをつけて4メートル以下に仕立て上げたコンパクトセダンを売り出しました。いまのインドでは、このセグメントが一大勢力になっており、販売ランキングの上位を占めています。その代表格がマルチ・スズキの「ディザイア(DZIRE)」で、街中を見ても一番多く感じるほど売れているという実感です。

そのディザイアがコンパクトセダンの本命だとすると、有力な対抗馬として名前があがるのが、ヒュンダイが発表した新型「オーラ(AURA)」です。


ヒュンダイの「オーラ(AURA)」
ヒュンダイの「オーラ(AURA)」



「オーラ」のスペックを簡単に紹介しておきましょう。ディメンションは、全長3,995mm・全幅1,680mm・全高1,520mm。この手のコンパクトセダンとして標準的なサイズです。

エンジンは3種類あり、ノーマルグレードは1.2リットルガソリンで、ハイパワーな1.0リットルガソリンターボもあります。そして、燃費が良くて人気がある1.2リットルディーゼルも用意されます。こちらも標準的なラインナップです。


SUV人気はインドにも波及

コンパクトセダンと並んで、人気が急上昇しているのが4メートル以下のコンパクトSUVです。AUTO EXPO 2020でも、各社から新型のSUVが発表されました。

まず紹介するのは、マルチ・スズキが発表した「ヴィターラ・ブレッツァ(Vitara Brezza)」です。まさにいま、インド市場で売れ筋となる全長4メートル以下のコンパクトSUVセグメントのニューモデルです。新車価格は約110万円から。


マルチ・スズキが発表した「ヴィターラ・ブレッツァ(Vitara Brezza)」
マルチ・スズキが発表した「ヴィターラ・ブレッツァ(Vitara Brezza)」


このカテゴリの標準的な大きさのボディと1.5リットルガソリンエンジンの組み合わせですが、今回の「ヴィターラ・ブレッツァ」には「スマートハイブリッド」搭載モデルが追加されました。これはいわゆるマイルドハイブリッドで、日本国内でいう「S−エネチャージ」と同等のものです。アイドリングストップ・ゼロ発進時のモーターアシスト・ベルト駆動式スターター・ブレーキ回生・デュアルバッテリーなどの機能が謳われています。

ハイブリッドはインド市場ではあまりポピュラーではありませんが、マルチ・スズキはこのスマートハイブリッドで環境イメージを訴求していました。この機能のエクストラは約20万円と日本国内のS−エネチャージとほぼ同じ価格ですが、インド市場で受け入れられるかどうか、注目されるところです。


ブレッツァの強力な競合車種

コンパクトSUVはいま一番ホットなカテゴリですので、マルチ・スズキ以外のメーカーも強力なモデルを発表していました。2位グループのキアは、コンセプトモデル「ソネット(Sonet)」を公開しました。詳細なスペックは明かされていませんが、2020年後半に市場投入すると表明しています。非常に洗練されたスタイリングで人気を集めました。

キアが発表したコンセプトモデル「ソネット(Sonet)」
キアが発表したコンセプトモデル「ソネット(Sonet)」



外資系メーカーの攻勢に対して、地元インド勢もライバル車種を用意しています。マヒンドラは既存車種「XUV300」のラインナップを訴求するとともに、ピュアEVモデルも公開しました。


マヒンドラのピュアEVモデル「eXUV300」
マヒンドラのピュアEVモデル「eXUV300」



そしてタタもピュアEVをぶつけてきました。「ネクソンEV」です。30.2kWhのバッテリーを搭載しながら、約240万円と価格を抑えてきました。


タタの「ネクソンEV(Nexon EV)」
タタの「ネクソンEV(Nexon EV)」


インドは公共充電インフラが整備途上であるため、ピュアEV市場はいまだほとんど存在しませんが、政府は税制面の優遇措置や、高速道路を中心とする充電ネットワークの拡充を目指しており、今後のインドEV市場に注目が集まります。


気になる中国メーカーの動向

現時点では、中国メーカーはインド市場でのシェアはほとんどありません。にも関わらずAUTO EXPOでは、中国大手の自動車メーカー上海汽車集団(SAIC)のブランド「MG」と、SUVが人気の民営系メーカー長城汽車のブランド「GWM」が巨大なブースを構え、インド市場への参入を強くアピールしました。

そのなかでまず注目すべき車種としてあげたいのが、MG「ヘクター」です。ミドルクラスSUVにカテゴライズされるこのクルマは、洗練されたスタイリングや性能を持つ現代的なモデルでありながら、ライバルより大きく抑えられた価格で人気を集めました。


上海汽車集団(SAIC)傘下の英系MGモーター・インディアの「ヘクター(HECTOR)」
上海汽車集団(SAIC)傘下の英系MGモーター・インディアの「ヘクター(HECTOR)」


具体的には、同じカテゴリに属するホンダ「CR-V」は、との比較では、「ヘクター」が約220万円からに対し、CR−Vは約450万円と、CR−Vの半額以下というプライスタグです。

ヘクターは現在、先行予約を受け付けている状況ですが、すでに4万台もの予約を集めたことが話題になっています。

そしてもう一方の長城汽車についてですが、こちらはまだインド市場で車両は販売していないものの、AUTO EXPOに先立つこと1か月、2020年の1月に、米ゼネラルモーターズが所有していたインド工場を買い取るという報道がありました。


中国に対するインド市民の感情

中国に対するインド国民の感情は複雑なものがあります。先にあげた中国2メーカーのブランディングにも、中国が出自であることをことさらにアピールしたりはしていません。例えば上海汽車は、インド市場においては上海汽車の名前は出さず、傘下のいちブランドであるMGの名前で統一し、上海汽車の別ブランドである「ロンウェイ」の車両を、MGのバッジに付け替えて展示をしていました。

ご存知の通りMGはイギリスにルーツがあるブランドですが、現在は商標権を上海汽車がもっています。上海汽車はMGのルーツをうまく利用し、展示ブースはイギリスを感じさせるディテールが散りばめられ、”中華色”を巧みに隠していました。

ちなみに余談ですが、かつての宗主国であるイギリスに対するネガティブな感情は、コーディネイターのインドの方によれば特にない、とのことです。


イギリス色を醸し出すMGのブース
イギリス色を醸し出すMGのブース


そしてもう一方の長城汽車も、同じようにブランディングに細心の注意を払っていました。同社は中国および諸外国においては、Great Wall Motorのブランドを誇らしげに掲げていますが、インドではGreat Wall という言葉を使わず、GWMまたは同社のSUVブランドである「ハーバル」で統一していました。


GWMの「ハーバル(HAVAL)」
GWMの「ハーバル(HAVAL)」


ポテンシャルマーケットであるインド自動車市場は、同時のその独自性で車種ラインナップもガラパゴス化しており、他の地域では見られない特徴あるクルマが多数見られました。また、現地インドメーカーも一定のクオリティを超えて、市場で存在感を発揮しています。

またグローバルで進展している電動化については、充電インフラの整備がこれから、というタイミングにあって、各社からEVモデルは発表されていますが、市場への浸透を見守る必要がありそうです。

そして中国勢の攻勢も注目です。現時点では市場シェアはほとんどありませんが、インドよりも数段上の”ものづくり”品質と低価格、そして中国市場で蓄えた充分な資金力を背景に、一気にその攻勢を強めています。

2030年までにはドイツ・日本を超えて世界第3位の巨大マーケットになると見られているインド自動車市場は、今後どのように変化していくのか、注目していきたいと思います。


文/佐藤耕一


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