樹脂の粉末焼結積層造形と選択的レーザー焼結法(SLS)とは〜樹脂3Dプリンター入門講座(5)

粉末焼結積層造形は、粉末の材料をレーザーや放電で溶融させ、焼結させていくことで少しずつ積層しながら形状を作り上げる手法です。金属3Dプリンターの造形手法としてもよく知られていますが、技術として確立したのは樹脂での造形の方が先です。今回は樹脂の粉末焼結積層造形について、解説していきましょう。

▽おすすめ関連リンク

サポート材(支持材)が不要の3D工法

樹脂の粉末焼結積層造形は、これまでの連載で解説したFDM、光造形法と比べ、サポート材(支持材)が必要ないという大きなメリットがあります。そのため、他の3Dプリンティングの工法では難しい複雑な中空形状の成形が可能になります。

ですから、他の3Dプリンティング工法の場合には、パーツを分けて製作し、その後接合しなければならなかった場合の形状でも、一回で一つの造形物として成形できる可能性が高まります。これは組み立ての工程が省けるほか、後工程での接合による脆弱さの心配がなくなることを意味しています。

また、サポート材が不要ということは、サポート材を取り外す必要がないため、手間と時間が省けるほか、取り外しの際に本体を傷つける心配がありません。さらに、粉末焼結積層造形で作られたパーツは強度も強く、耐久性も高いと言われています。

このように非常にメリットが高い工法です。

樹脂の粉末焼結積層造形の材料はナイロン(ポリアミド)が主です。さらに、ナイロンの中にガラスを混ぜた材料もあります。

金属の粉末焼結積層造形の材料は、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、コバルト・クロム、ニッケル合金など、さまざまな金属の粉末が使われます。

粉を溶かして固めていく造形方法によって、きちんとした強度が出るのか不安に思う人もいるかもしれませんが、樹脂も金属も、造形物の密度が高められるため、一般の量産向けの製造方法(樹脂であれば射出成形、金属であれば鋳造など)に近い物性が得られるとしています。つまり強度は非常に高く、最終製品としても使用できる可能性が高いのです。

粉末焼結積層造形の方式には、選択的レーザー焼結法(Selective Laser Sintering:SLS)、選択的レーザー溶融法(SLM)、電子ビーム溶融法(EBM)があります。SLSとSLMは粉末の焼結にレーザービーム、EBMは電子ビームを使っています。

樹脂の粉末焼結積層造形の方式は、SLSです。一方、金属の粉末焼結積層造形は、SLSとSLM、EBMの3種類が使われます。金属3Dプリンターの方式について詳しくは、「押さえておきたい金属3Dプリンターの基礎知識~造形原理や原料からメリット・デメリットまでを簡単紹介~」で解説しています。

 

SLS造形機の歴史と特許

SLSのアイデアは1980年代当時、テキサス大学オースティン校の修士・博士課程で学ぶ学生だったカール・R・デッカード氏が思いつきました。デッカードが所属した研究室の教授であったジョゼフ・ビーマン氏の力を借りて開発を進めていくのですが、その後、部品製作に耐え得る装置開発に成功。1987年に母校から技術ライセンシングを受ける形で、DTM (Desk Top Manufacturing)社を設立し、SLS造形機を商品化しました。

社名の「デスクトップ マニュファクチュアリング」は、3D Roboticsのクリス・アンダーソン氏の著書で3Dプリンターによる産業革命論を取り上げた「Makers」で話題になった言葉です。この本が出たのは2012年ですが、デッカード氏は25年前からの元祖ということですね。

デッカード氏が取得したSLS関連の特許として知られているものは3つです。

  • 「Method and apparatus for producing parts by selective sintering(選択的焼結による部品製造における方法および装置)」(1986年出願:U.S. 4,863,538)
  • 「Selective Laser Sintering With Assisted Powder Handling(パウダーハンドリングによる選択的レーザー焼結)」(1987年出願、U.S. 4,938,816)
  • 「Apparatus for producing parts by selective sintering(選択的焼結による部品製造装置)」(1987年出願:5,597,589)

 

要約では、1つ目は「焼結層を含む部品を製造するための、粉末層を選択的焼結するための方法と装置」。2つ目は「粉末の層を選択的焼結し、複数の焼結層を含む部品を製造する方法および装置。この装置にはレーザーを制御、およびレーザーエネルギーを粉末に向けることで焼結塊を生成するためのコンピューターを含む」とあります。3つ目は「複雑な形状の部品の製作において廃棄物を出さず、かつ精密に行う装置を提供する」「粉末から1層ずつ積層することで部品を作る」とあります。

いずれにしても、粉末材料の焼結においてレーザー(エネルギービーム照射)を使用し、焼結した層を積み上げて部品を製作することを示しており、かつ内容を少し変えながら定義しています。なおDTMは2001年、3D Systems社に4,500万ドルで買収されました。それから10年以上、SLSは「3D Systemsの技術」として周知されていくことになります。

DTMが買収された後、デッカード氏は3D Systemsには所属せずアカデミックの世界に戻り、工学部教授としてしばらく教鞭をふるいます。その後は、独自のエンジン研究などに従事します。

2012年にはSLS向けの高分子ポリマー材料を開発するStructured Polymersの共同創設者としてかかわりました。同社は径0.1~400μmの高分子粉末を製造する技術を独自で開発しました。Structured PolymersはEvonikに2019年1月に買収されました。そして、SLSの生みの親であるデッカード氏は2019年12月に天に召されました。58歳でした。

さて、そんなSLSの特許も2014年で失効しました。やはり、FDMや光造形と同様に、参入企業が増え、かつては数千万円以上が相場であったところ、百万〜数百万円程度にまで値を落とした廉価機種が登場しました。

設備を極力小型・簡素化する、従来のCO₂レーザーなど高出力レーザーからLEDに光源に変えるなど、新興企業それぞれ独自の工夫が見られます。前回の光造形の解説に登場したスタートアップのFormlabsは2017年からSLSの装置も販売しています。SLSは、この流れで「デスクトップ製造」になったといえます。

 

粉末焼結積層造形の製造方法は?

レーザー式粉末焼結積層3Dプリンターでの照射。
レーザー式粉末焼結積層3Dプリンターでの照射。


次に、SLSを含む粉末焼結積層造形の製造方法について解説しましょう。

SLSは、パウダーベッドという受け皿に、材料の粉末を薄い層状に敷き詰めます。そこに赤外線レーザーを走査させて造形物の横断面の形状を描画しながら焼結していきます。

横断面の形状が1層出来上がると、パウダーベッドが1段下に下がります。そこにまた粉末を薄い層状に敷き詰めて、その一つ上の横断面の層の形状を、赤外線レーザーを走査させて焼結していきます。その工程を繰り返しながら立体形状が完成するまで層を積み上げていきます。

造形物は粉末材料に埋もれた状態で完成します。造形完了後には、余計な粉末を除去して、造形物を取り出します。造形後に除去した粉末材料は廃棄するわけではなく再利用ができます。各メーカーではこの再利用率を高めようと努力しています。

また前述したように、中空がある部品などを作る際にはサポートが必要ありません。製造プロセスにおいて、中空になる部分には焼結されない粉末が詰まった状態になっているためです。この部分は完成後に除去します。

サポート材がある造形法と比較すると、サポート材を切除しようとして部品を破損するリスクがなくなるため、複雑で繊細な部品を作る際には安心感があります。また強度が高いナイロンなどを扱い、かつ密度が高い造形が行えるため、強度が必要な部品の造形に適しています。

SLSの樹脂造形はいまのところナイロン系材料のみです。SLS向けの粉末材料は吸湿性が高いため、フィラメントや半液体の材料と比べると保管に気を使います。

造形物のカラーは白か黒の単色しか対応しませんが、粉末材料に着色する技術は登場しています。また、粉末材料を使うため、仕上がりは少しざらつきを帯びた感じになります。高級な機種では造形物のざらつきが少なめにはなりますが、射出成形品ほどの滑らかな面が必要な場合は研磨が必要です。

粉末材料を使う造形法には他に、「粉末固着造形」があります。パウダーベッドがあるところやサポートがいらないところなど、確かに少し似てはいるのですが、層を固着する方法に大きな違いがあります。「焼結」ではなく「固着」なのです。
また、使われる材料は、樹脂や金属の粉末ではなく、石膏の粉末です。プリンターヘッドから結合剤を吐出し、石膏の粉末を硬化させ積層していきます。そのため、粉末固着造形手法は「インクジェット方式」の1つとして分類されます。


著者:小林由美(こばやしゆみ)
エンジニア、⼤⼿メディアの製造業専⾨サイトのシニアエディターを経て、2019 年に株式会社プロノハーツに⼊社。現在は、広報、マーケティング、イベント企画、技術者コミュニティー運営など幅広く携わる。技術系ライターとしても活動。


▽樹脂3Dプリンター入門講座

▽おすすめ関連リンク

こちらの記事もおすすめ(PR)