ドローン産業発展に貢献する知的財産戦略に重きを置いたビジネスモデルとは〜ドローン前提社会に向けて(後編)

エアロネクスト社は、取締役CTOである鈴木陽一氏が開発した4D GRAVITY(R)技術をコア・コンピタンスに社会に実装していくことを目的とした会社です。田路圭輔(とうじ・けいすけ)氏は会社が設立された約半年後にエアロネクスト社に参画し代表取締役CEOに就任しました。田路氏は知財戦略を非常に重視していると言います。それはどのような理由からなのでしょうか?

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CEOが知財戦略を重視する理由とは?

エアロネクスト代表取締役CEO田路圭輔氏
エアロネクスト代表取締役CEO田路圭輔氏


田路氏は電通に入社後、31歳の時に米・ジェムスター社と電通が共同創業した、株式会社IPGで日本初の電子番組表「Gガイド(R)」をローンチさせました。現在では、電子番組表はデファクトスタンダードになり、ほぼすべてのテレビに導入されています。電子番組表のビジネスモデルはGガイドの技術を特許化し、各テレビメーカーにライセンシングしてその使用料を収益としています。

この会社に在籍した18年間で田路氏は、特許やライセンスといった知的財産ビジネスを戦略的に活用することを身につけました。その後、ドローンの特許関連の会社である株式会社DRONE iPLABを弁理士・中畑稔氏と共同創業。そして資本提携という形で現エアロネクスト社に参画し、現在はエアロネクスト社の製品の特許およびライセンス全般を統括しています。

一般的には1つのベンチャー企業が大量の特許を取ることは難しいと言われています。なぜなら、外部の弁理士事務所に支払う出願登録費用が、特許1件成立する度におよそ100万円もかかるからです。しかしエアロネクスト社では、外部の弁理士事務所を頼らず社内のチームで内製し、ポートフォリオも社内で運用しています。この特許の内製チームを統括しているのが弁理士の中畑稔氏で、エアロネクスト社ではCIPO(知的財産最高責任者)の役に就いています。

エアロネクスト社は、ライセンス担当と特許を作るプロと、発明家がコアな柱をなし、ここにファイナンスのトップとマーケティングのトップがいるというような特徴的な階層をもった会社なのです。

「エアロネクストは、4D GRAVITY技術を製品化してメーカーになるという発想ではなく、この技術の特許のポートフォリオを固めていって、世界中のドローンメーカーにライセンスする方法を採用しています。4D GRAVITYはグローバルスタンダードをとれる技術だと考えています。メーカーになってしまうと競合が出てきて互いにシェアを奪い合います。こういうことが起こってしまうとドローン業界にとって損失だと考えたわけです。」 (田路氏、以下同)

エアロネクスト社のビジネスモデルは「技術」と「特許」と「ブランド」を4D GRAVITYという一つの商品にまとめて、これをライセンスするものです。いわばパソコン業界でインテル社が行なったライセンスモデルと同じようなものをドローン業界で行うということを目指しています。

しかしそれは単なるライセンシングを行うだけのものではなく、コンセプトモデルから実際飛行できる試作機を製作し、さらにライセンシングが決まった企業と共同で量産試作できる状態にもっていくプロセスまでがエアロネクスト社のタスクとなります。


ドローン先進国である中国市場への展開は

エアロネクスト社のドローン試作機
エアロネクスト社のドローン試作機


エアロネクスト社は2018年11月、中国・深セン市で開催された国際ピッチ大会、創新南山2018“創業之星”大賽で日本企業として3位を受賞しました。4D GRAVITYの知財戦略が評価され、知的財産賞を受賞しました。

「日本は新しいテクノロジーが社会実装するのに制約が多い社会です。法律の厳しさもそうですが、安全技術に対して厳しく保証を求められる社会と言えます。そのため試作機をなかなか飛ばせない、飛ばすエリアがない、研究開発するところと飛ばすエリアが離れているなど、エンジニアが苦労することが多い環境です」

以前は模型飛行機扱いだったドローンは、2015年の改正航空法によって「無人航空機」として定義され、航空法適用となりました。しかし、かつて2000年代、日本でブームとなった二足歩行ロボットのホンダ「ASIMO」やソニー「QRIO」などは、完成度が高く、すぐにでも商品化できるレベルにまでなっていましたが、安全ガイドラインは策定できたものの法律が整備されず、いまだ実用化に至っていません。

「産業が盛り上がっていくには、優秀なエンジニアが必須ですが、まだまだ優秀なエンジニアにとってドローン産業は興味対象になっていません。それはなぜなのでしょうか。試作機を容易に飛ばす環境がないからです。

対して中国には日本のような制約は少なく、手続きをすれば街中でドローンを飛ばすことができます。そのため、開発者と実証環境が同じところに混在できるのです。

この現状を見たときに、私は中国という環境を積極的に借りて、4D GRAVITYの技術が搭載された機体が社会実装できるまでの間、中国で実証させてもらい実証が安定してきてから日本に逆輸入するという仕組みを思いつきました」

エアロネクスト社は2019年11月、中国深センにある南方科技大学と「SUSTECH(SIR)-AERONEXT Flying Robots Technology Shenzhen Lab」を立ち上げ、フライングロボットに関する共同研究を開始しました。


フライングロボットからフライングカーへ

エアロネクスト社が開発するネクストモビリティ、フライングゴンドラのイメージ
エアロネクスト社が開発するネクストモビリティ、フライングゴンドラのイメージ


2019年時点で世界のドローン市場のシェア7割を占めている中国のDJI社は、その商品のほとんどが空撮用途のドローンです。いわばDJI社が作り上げたドローンマーケットは「フライングカメラ」の領域であって、それ以外の産業用途のドローンマーケットは未開拓の状態です。エアロネクスト社は、フライングカメラ領域のプロダクトを追いかるのではなく「フライングロボット」の領域を狙っています。

フライングロボットとは、空で自律的に仕事をするロボットのことで、たとえば空中警備をしたり、空中で放水したり、物を持ち上げたり、塗ったりするような仕事をこなすものです。空中で作業をするということは重心の制御が重要となるため、4D GRAVITYの技術がもっとも活躍できる領域と言えます。

さらにエアロネクスト社では、フライングロボットを超え、フライングカーを次の目標にしています。つまり、空飛ぶカメラから空飛ぶロボットを経て、ドローンは空飛ぶクルマになりうるということです。

2020年の米国CESにおいてエアロネクスト社はエアモビリティの新たなコンセプト、空飛ぶゴンドラ「Next MOBILITY(R)」を発表しました。Next MOBILITYは、これまでの回転翼航空機のデメリットであった航続距離に注目し、固定翼と回転翼のハイブリッドであるVTOL(垂直離着陸)型の機体を独自開発しました。

一般的にVTOL型はオスプレイのような構造で、上昇するときはローターが上向きに、前進するときはローターが横向きにチルトしますが、この方法ではトランスフォーム時に機体のバランスが不安定になって墜落するリスクがあります。

エアロネクスト社が考えるVTOL機は、回転翼と固定翼がシームレスに協調し、揚力を効率よく発生させて飛行するのが特徴です。離着陸時はこれまでの回転翼機と同様に上向きのローターを使って垂直に離着陸しますが、上空で回転翼面を傾斜させ機体が前進すると、ローター下部に取り付けられた固定翼に迎え角が生じ、揚力が増幅する仕組みとなっています。

これにより前進時、揚力を確保するためのエネルギー消費が抑制され、航続距離を長くすることができます。もちろん、4D GRAVITY技術も採用されており、ボディとキャビンが分離構造であるため、ボディ全体がチルトしてもキャビンは傾かずに水平を保ちます。このキャビン部の形状が、観覧車のゴンドラに似ているので「空飛ぶゴンドラ」というコンセプトになりました。

これまで地表から150m以上の空域は有人航空機の領域でしたが、航空法が改正されたことによって150m未満の空域が無人航空機に割り当てられました。未活用であったこの空域に今後産業が必ず生まれます。しかし、それには機体の信頼性がカギとなり、ますます重心の安定性が重要になっていくと思われます。

パソコンにインテル社の「intel inside」、ミュージックプレイヤーにドルビー社の「DOLBY AUDIO」が刻印されるように、エアロネクスト社の「4D GRAVITY」が刻印された物流ドローンや空飛ぶクルマが150m未満の空域を飛び交う日は近いかもしれません。


文/渡辺秋男


参考情報
・4D GRAVITY、およびNext MOBILITYは株式会社エアロネクストの商標です。
・Gガイド は、ジェムスターデヴェロップメントコーポレイションの商標です。

 

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