物流ドローンに欠かせない積載重量のバランスを保つ重心制御技術とは?〜ドローン前提社会に向けて(前編)

小型のカメラを搭載し上空からの撮影を目的としてリリースされた無人航空機(ドローン)は、空撮のフェーズを得て測量点検フェーズへと進み、2019年に次なる物流ドローンのフェーズへと入りました。

経済産業省から発表された「空の産業革命に向けたロードマップ2019」によれば、2019年度は離島や山間地域など無人地帯での目視外飛行の実証実験を目標とし、2020年度は無人地帯での運用の拡大を目標としています。2022年以降では都市部での目視外飛行も開始する予定となっています。


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エアロネクスト社の特殊構造技術「4D GRAVITY(R)」とは?

エアロネクスト代表取締役CEO田路圭輔氏
エアロネクスト代表取締役CEO田路圭輔氏


「エアロネクスト社の中核技術が4D GRAVITYです。4D GRAVITYとは重心制御技術のことで、機体の構造を飛ぶことに必要な部分(飛行部)とペイロードに関する部分(積載部)を、物理的に切り離して制御することで、機体全体の重量バランスを安定させるものになります。一般的にドローンを含め多くの回転翼航空機では、この二つは分離されることなく一体型になっているのがほとんどなので、当社のこの技術は他のドローンには見られない特殊構造技術になります」とエアロネクスト代表取締役CEOの田路圭輔(とうじ・けいすけ)氏は語ります。

飛行部と積載部を分けることはドローン飛行において大きな意味を持ちます。

ヘリコプターなどの回転翼タイプの航空機は揚力を発生させる回転翼面を、行きたい方向に傾斜させることによって機体を移動させます。ゆっくり移動する場合には傾斜角は小さく、高速で移動する場合には傾斜角が大きくなります。

つまりヘリコプターなどの回転翼機は、速度を上げれば上げるほど機体も傾いてしまうのが宿命です。これは有人機であればパイロットの目線が進行方向ではなく地面方向を向いてしまい、操縦がしにくいといったことがデメリットとしてあげられます。

また、それに加えて機体と一緒に荷物や搭乗者も傾いてしまうことで重量バランスが変化してしまうという問題も生じます。通常、重量バランスに変化が起きても姿勢制御によってそのズレは相殺されますが、その姿勢制御を行う分エネルギーを消費し、また回転翼(ブレード)にも負担をかけてしまいます。

これは支点と重心がずれることで発生するモーメントの問題です。回転翼機の多くは機体の最上部に回転翼面があり、その中心を支点として機体を傾斜させます。機体が水平を保っているとき、機体の重心は支点の真下にありますが、機体が傾くとローター軸も傾き、支点と機体の重心に水平方向の差が生じます。これによってモーメントが発生し、力点である回転翼(ブレード)に負担をかけてしまうのです。

「4D GRAVITYは、飛行部と積載部の間に関節部分があり、それを2軸のブラシレスモーターで制御することで、機体がどれだけ傾いても積載部の重心とモーメントの支点にズレを生じさせないように働きます。

機体の重心が回転翼面の中心の常に真下にあることで、機体の安定性を向上させて、ブレードへの負担を軽減させることで、姿勢制御や消費エネルギーにゆとりが生まれ、耐風性や機体安定性、信頼性のほか、飛行時間や飛行速度を向上させることが可能となります」(田路氏、以下同)


ラジコンヘリ空撮・バルーン空撮で培われた重心制御技術

エアロネクスト社の4D GRAVITYはどのような経緯で誕生したのでしょうか。田路氏はこう話します。

「前身の会社はヘリウムガスを使ったバルーンで空撮を行なっていました。2007年頃から気球タイプのバルーン空撮事業を開始し、他社にはないノウハウを蓄積してきました。今ではアクションカメラ用のスタビライザー、一眼レフカメラ用のスタビライザーは数多く市販されていますが、マルチコプター空撮が普及するはるか前の2009年にバルーン空撮用の三軸スタビライザーを独自開発しました」

ヘリウムガスを使ったバルーン空撮であれば、長時間のフライトを行うことができますが、ペイロード(積載量)を大きくするためには、より容積が大きいバルーンが必要となります。上空からの眺望撮影などを行う際に一眼レフカメラなどのペイロードを吊り下げるためには、直径2m、全長6mの円筒型の気球を使っていました。

バルーンのサイズが大きくなれば、それだけ風の影響を受けやすくなり、都市部などビルや建物が多いエリアでは気流が安定せず、バルーンも風であおられてしまいます。

吊り下げられているカメラを常に安定させるために、苦労して開発したのが三軸スタビライザーです。バルーンの飛行部は薄いアルミフィルムでヘリウムガスを包んだものなのでとても軽量です。それに比べて積載部は数キロからなる撮影機材で構成されています。

機体全体の割合からすると飛行部の重量は限りなくゼロに近く、機体重量のほとんどが積載部の機材になります。この飛行部が軽く積載部が重いという構造の中で積載部を安定させるために開発した三軸スタビライザーのノウハウが今日の4D GRAVITYの誕生へと繋がっています。


一般的な「ジンバル」と何が違うのか

4D GRAVITYのドローンに搭載される2つのジンバル
4D GRAVITYのドローンに搭載される2つのジンバル


DJI社をはじめとする空撮用ドローンは、小型のカメラを標準で搭載し、カメラを常に水平に保つ機構であるジンバルも標準で備え付けられているものがほとんどです。この「ジンバル」と「4D GRAVITY」は何が違うのでしょうか。

DJI社の代表的なドローンであるPhantom4シリーズのようなオールインワン型のドローンは、カメラ部を極限まで軽量化するために、録画機能にかかわる部品やカメラの電源を飛行部に集約させているのが特徴です。以前のPhantom2シリーズでは、カメラ部は別売りのGoProを搭載する仕様となっていました。

GoProは単体でもカメラとして機能するため、バッテリーを内蔵していますが、Phantom4ではカメラの電源はドローン本体の電源から分配し供給される仕様になっています。Phantom4のカメラ部が軽量化されたことでジンバルに使われているブラシレスモーターもパワーが必要なくなり、結果小型で軽量なもので済むようになりました。

つまり、多くのオールインワン型ドローンは、パーツを飛行部に集約させ積載部をなるべく軽くして機体を安定させる構造となっています。カメラが軽量で、かつ着脱不可能であることから、その重量が不変で機体全体の重心バランスも設計時に容易に計算できます。

それとは反対に4D GRAVITYの技術は、飛行部をなるべく軽くして重たいものは積載部に集約させる構造をとっています。そのことによって重心バランスに大きなズレがなくなり、姿勢制御が安定しエネルギー消費量も節約することができます。これはバルーン空撮の経験から導き出された概念に則ったもので、昨今のジンバルとは大きく異なったものと言えます。

一般的に三次元空間は、x軸・y軸・z軸の3つの要素から成り立ちますが、この3つに機体の安定性能を極限まで向上させるための4つ目の「重心」という要素を加えた概念、それを具現化したシステムとして「4D GRAVITY」と名付けられました。


宅配専用ドローン「Next DELIVERY(R)」

Next DELIVERYのイメージ
Next DELIVERYのイメージ


4D GRAVITYの特徴がわかりやすい機体としてエアロネクスト社の「Next DELIVERY」が挙げられます。Next DELIVERYは配達の行きと帰りでペイロードが変化することに着目した宅配専用ドローンです。

ドローンに限らず陸路であっても、宅配は行きは積載率が100%であったとしても帰りは荷室が空になるので積載率0%になることが多いものです。つまり往路ではペイロードが大きく、復路ではペイロードが小さくなり重量バランスも著しく変化します。

4D GRAVITY技術を採用したNext DELIVERYは、飛行部と積載部が分離されているのはもちろん、リチウムポリマーバッテリーがカウンターウェイトの役割をはたしているのが特徴的です。

荷室が満載の往路ではカウンターウェイトはアームの外側に配置することでバランスをとっています。目的地で荷物を下ろして荷室が空になると自動的にカウンターウェイトはアームの一番内側に移動し、積載重量に応じて発生するモーメントを常にゼロに保つように設計されています。

では、エアロネクスト社はこの4D GRAVITY技術を活用して、どのようなビジネスモデルを描いているのか、また、ドローン前提社会に向けての次なる戦略とはどのようなものなのでしょうか。次回はそれらについてご紹介しましょう。


文/渡辺秋男



参考情報
・4D GRAVITYおよびNext DELIVERY は、株式会社エアロネクストの商標です。

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