義足でもスポーツがしたい――自ら作った義足でパラリンピアンとなった起業家の物語

PLMや3D CADなどのソフトウェアを提供するダッソー・システムズが2月9日から4日間、米テネシー州ナッシュビルで3D CADの年次カンファレンス「3DEXPERIENCE World 2020」を開催しました。来場者は推定6,000人。このカンファレンスにはさまざまなユーザーが集まりました。その1人がマイク・シュルツ氏――スポーツ用義足のデザイナーであり、今もスノーボードなどの競技で活躍する現役アスリートです。

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足の切断によって始まった義足の開発

「3DEXPERIENCE World 2020」でスピーチするマイク・シュルツ氏(右)
「3DEXPERIENCE World 2020」でスピーチするマイク・シュルツ氏(右)


「問題に取り組み解決に至ることが好き」というシュルツ氏ですが、2008年にシュルツ氏が直面した問題は、それまでの人生を変えてしまいかねない大事故でした。当時プロのスノークロス選手として活躍していたシュルツ氏は、試合中におきた事故により、左足を膝上から切断することを余儀なくされたのです。

義足となったシュルツ氏はすぐに「もう一度モトクロスやスノークロスをやりたい」と思います。ところが、特別な義足が必要だということに気がつきました。標準的な義足は前後の動きはできますが、モトクロスなどのスポーツで行うような膝や足の動きは不可能です。また、耐性もなければ、衝撃を吸収することもできません。

アスリートであると同時に、子どもの頃から作業場でデザインしたり、工具を使ってモノを作ったりするのが好きだったシュルツ氏は、自分が欲しい義足を自分で作ってみようと思い立ちます。

「体のメカニズムを思い出し、工具での作業の経験と知識を使って、軽量ながらショックを緩和するサスペンション装置を持つ義足を作ろうと思いました」とシュルツ氏は言います。

空気バネを用いた調節可能なショックアブソーバー、130度の屈折ができること、11〜12インチ(約27〜37センチ)の長さ――これらの条件を土台に、デザインを組み立てていきました。

義足を作ろうと決心してからわずか6週間後、プロトタイプができあがります。「(足の切断という)人生でも難しい時期にあったが、ネガティブな状況でもポジティブさを維持できた。義足を作ることが前向きになるのに役立った」とシュルツ氏は当時を振り返ります。

「再びスポーツの現場に戻ることができる、競争できる」――これが、大きなモチベーションになったようです。そうやって、後に膝部分(膝継手)の製品「Moto Knee」、足部分の製品「VF(Versa Foot)」となる原型を作成しました。


アスリートとして復帰後、起業へ

自身で開発したアスリート向け義足を付け屈託なく笑うシュルツ氏
自身で開発したアスリート向け義足を付け屈託なく笑うシュルツ氏


そうして切断から2か月後、シュルツ氏はスノーモービルを、4か月後にはモトクロスを再開しました。切断の翌年には、ESPN(アメリカのメディア・エンターテインメント企業大手ウォルト・ディズニー・カンパニー傘下のスポーツ専門チャンネル)のX GamesのAdaptive Motocross部門でシルバーメダルを獲得しています。

「自分が作った義足でスポーツを楽しむことができる」とわかったシュルツ氏は、他の人にもこの義足を提供できるのではと思うようになりました。そうして、2010年にBIODAPT.incを立ち上げました。

製品として販売するにあたってデザインを改善する必要を感じていたシュルツ氏、レース仲間を通じてプロダクト開発スタジオCenter for Advanced Design(CAD)と出会います。CEO兼リードデザイナーのマーク・マックリー氏をはじめとしたCADチームは、シュルツ氏の手書きのデザインを3Dモデルに変換しました。

二次元から三次元になることで、デザインはより洗練されたものになり、軽量化と形状の改善も同時に進めることができるようになりました。最大のメリットはシミュレーションです。

“32度の幅で前に曲げられる足首”と言ったシュルツ氏の要求を受けて、マックリー氏が変更を加え、それをシミュレーションすることができるため、改善のサイクルが高速化、効率化されました。

「次のレベルにすることができた」とシュルツ氏は言います。「マイク(シュルツ氏)は、できるだけ軽量、できるだけ強度の強いパーツを必要としている。シミュレーションにより、デザインの検証や最適化が簡単にできる」とマックリー氏も同意します。

そうやって、2011年に膝部分の「Moto Knee」の提供を開始、2019年には新しくなった足部「VF2」も登場しました。

例えばMoto Kneeは、膝の屈曲が130度、105度と2つのポジションをもち、最大135度の屈曲が可能ながら自然な感覚を維持できるというリンク機構(特許取得済)が大きな特徴です。スキー、スノーボード、モトクロス、ウェイクボード、乗馬、自転車、サーフィンなどさまざまなアクションスポーツに対応できるように、動きや耐性のレベルに合わせて部品を変えられるそうです。

動きの激しいアクションスポーツに対応
動きの激しいアクションスポーツに対応


多くの義足のスポーツ愛好家とパラリンピアンを生み出す

シュルツ氏のデザインした義足はあっという間に義足のスポーツ愛好家の間で広まり、現在、世界で約500人がシュルツ氏の義足を使ってスポーツを楽しんでいます。その中には、日本のスノーボーダー、鈴木隆太氏の名前もあります。

シュルツ氏自身も金と銀、2つのメダルを獲得した2018年の平昌オリンピック・パラリンピックでは、15人がシュルツ氏の義足でメダルを勝ち取りました。東京オリンピック・パラリンピックでも、ひょっとしたらシュルツ氏の義足が選手を支えているかもしれません。

事故から12年、シュルツ氏は事故前と変わらずスポーツを楽しんでいます。加えて、義足になったことで自分が設計した義足を世界の人に届けることができるようになりました。今後もアスリートと起業家のバランスをとっていきたいと言います。目下の取り組みは、ダウンヒルスキー用の義足の設計です。そして、Moto Kneeの次のバージョンに向けても作業を進めているそうです。

「義足になったからスポーツはできないと諦めたくなかった。だから、世界中にいる義足の人たちにも、もっと外に出てスポーツを楽しんで欲しい。できることはたくさんある」とそう語るシュルツ氏の目は、優しさと自信に満ちていました。



文/末岡洋子


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