光造形法3Dプリンター開発史とその造形原理~樹脂3Dプリンター入門講座(4)

光造形は3Dプリンターの歴史の中で最も古い手法といわれます。槽に溜まっている液状の紫外線(UV)硬化樹脂に向かって、造形したい形状の断面データを描画したUV光を照射して樹脂の薄い硬化層を作ります。次にわずかに液から引き上げ、さらにそこに新しい層を作って……と繰り返し積み上げていくことで形状を作り上げる手法です。

光造形の材料は、光造形専用に熱硬化性樹脂を改良したものです。一度硬化した材料は加熱して溶融させることができません。光造形の材料は軟質材から硬質材まで、バリエーションが比較的豊富ですが、工業製品で一般的な樹脂材料を基にした造形材料は使えず、完全に造形専用の材料です。


▽樹脂3Dプリンター入門講座

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世界初の光造形3Dプリンターを開発した日本人

樹脂3Dプリンター入門講座(1)でも触れましたが、世界で最初に光造形法を発明したのは名古屋市工業研究所の研究者の小玉秀男氏でした。1980年に出願された「立体図形作成装置」(出願番号:特願昭55-48210)です。新聞の版下製作で使われていたフォトレジスト(感光性樹脂)を用いた造形法でした。

小玉氏は、文字の版下のような層を何枚も重ねたら立体になるだろうと考えたのです。特許明細の「特許請求の範囲」には、

「上面が解放されているか、もしくは光を透過する材質からなっている容器と、該容器中に貯蔵された感光性樹脂と、該感光性樹脂中で上下に動く工作台と、該容器上部にあって感光性樹脂の表面を照射する露光装置とで構成される、立体図形作成装置」

と書かれています。「描きたい図形の指示はネガフィルムを使う」とあります。形状データを基に細やかなコンピュータ制御をするものではありませんでした。

明細書の中の記述には「市販されていないような特殊の歯車を少数個必要とするような場合には非常に便利である」「つぼ等についても、金型ではつくることの難しい内部に複雑なしきりを持つような物でも容易に作ることができる」とあります。今も3Dプリンターのメリットとして挙げられていることそのものです。

小玉氏は複数の外部メディアのインタビューの中でも、自分の製作した試作機では、「造形の精度2mmほどの丸太小屋のような造形物しか作れなかったことから、周囲の研究者に相手にされず、心が追い込まれて研究をやめてしまった」という辛い過去について語っています。その後、小玉氏は審査請求を行うことはありませんでした。


ほぼ時代を同じくして、同じような手法を研究していたのが、アメリカ人のチャック・ハル氏でした。ハル氏は1986年に米国特許(U.S. Patent 4,575,330 :Apparatus for Production of Three-Dimensional Objects by Stereolithography:「光造形法による3Dオブジェクト製造装置」)を取得します(出願は1984年)。概要は難しい言い回しなので、ざっくり意訳すると「2Dの断面パターンを用いて3Dオブジェクトを造形するシステムである」とし、「放射線入射や化学反応などを起こして流体の媒体の表面に層を形成して、段階的にそれを積み上げることで、任意形状を作り上げる」といった説明がされています。

本特許については、「紫外線(UV)の使用はその手段の1つである」と説明されています。特筆すべきなのは、CADやCAMのデータを活用したコンピュータ制御と組み合わせて使うと述べられている点です。小玉氏の装置では造形精度が大きな課題になっていましたが、ハル氏の特許ではグラフィックスデータとコンピュータで制御させることでその課題を解消しようとしていたのです。

ハル氏は1986年に光造形機を商品化するために3D Systemsを設立し、翌年の1987年に光造形機「SLA-1」を販売開始しました。Stereolithographyを縮めて「SLA」という方式名になりました。

それから20年後の2006年に3D Systemsの特許は失効し、ストラタシスのFDM特許失効のケースと同様に、光造形を使った3D プリンターに参入する企業も増えることになりました。今は本体価格が10万円を下回る光造形機が登場しており入手しやすくなっています。


特許が切れて低価格の3Dプリンターが登場。
特許が切れて低価格の3Dプリンターが登場。


低価格光造形機で特許侵害訴訟が勃発

そんなさなか、ある事件が起こります。2012年にKickstarterでの大成功をおさめた低価格光造形機「Form-1」の件で、開発元のスタートアップ企業Formlabsに対し、3D Systemsが特許を侵害したと訴訟を起こしたのです。

Formlabsは2011年にMIT Media Labの学生が立ち上げた企業です。「SLA特許は切れていたはずでは?」と思うかもしれませんし、FormlabsだってNo. 4,575,330が失効していたからこそFoam-1を作ったのです。

しかし、3D SystemsはSLA関連の特許を周到かつ多数取得しており、この件については同社のSLA関連の特許であるNo. 5,597,520「Simultaneous multiple layer curing in stereolithography:光造形法における同時多層硬化」の一部に抵触するということでした。

2014年に両社は和解し、すべての訴えと反訴が取り下げられました。Formlabsは一部の売上を3D Systemsにロイヤリティーとして支払うことで合意しています。

光造形のメリットとは

廉価版の光造形3Dプリンター
廉価版の光造形3Dプリンター


光造形は、3D CADが設計現場に普及し始めた2000年代からおなじみの試作向け造形機です。オフィス向け3Dプリンターが出る前は、工作機械と同じようなもので、メーカーも受託造形や社内の試作部門の工場にお願いするのが一般的でした。その頃は、「光造形」や「ラピットプロトタイピング(RP)」とよく言っていました。今では、設計室に備える3Dプリンターで光造形ができるようになりました。

光造形は、「造形スピードが速い」「なめらかな面が造形できる」「透過率の高い(透明な)材料」が使えるといった特色があります。光造形の造形物は、昔は「硬くてもろい」と言われましたが、いまは靭性も備えたしなやかな材料も普通になりました。

光造形では、前述したように、まず槽に満たした液体のUV硬化樹脂(UVレジンとも呼びます)に、UVレーザーを照射させることで硬化させてプラットフォーム(ワーク面)に薄い層を作り、その作業を繰り返します。光造形もFDMと同様にサポートが生成され、造形完了後に撤去する必要があります。造形が終った後には、IPA(イソプロピルアルコール)を使った洗浄をしなければなりません。

光造形の手法は大きく、「SLA」と「DLP」に分類されますが、いずれも基本的には同じことをやっています。両手法はUV光の照射の方式に違いがあります。SLAは光線を形状になぞらえて走査させます。SLAには上から光を当てる方法と、下から光を当てる方法があります。DLPはUV光の画像を下から投影します。SLAのデータは丸い点で描く線で描画しますが、DLPは立体イメージのボクセルデータで描画します。

SLAは小さくて細かいパーツを精度よくたくさん作ることに向いています。DLPは多少荒くなってもいいから幅広い形状やたくさんの部品を一気に造形する場合、または細かい形状の小さい部品を1つだけ高精度にすばやく造形したいときにはDLPが向いています。

DLPはプロジェクターがスクリーンに映像を映すのと同じ要領で、広い範囲の投影になる場合は解像度が落ちて、狭くすると解像度が高まります。つまり投影範囲が広くなれば造形速度が遅くなる代わりに、大きい部品や複数の部品が一気に作れて、逆に狭めれば細かくて小さい部品がすばやく作れるというわけです。

DLPと似ている方式に、「LCD」方式があります。こちらは比較的新しい技術です。UV光をバックライトにして液晶パネル(LCD:Liquid Crystal Display)に表示させた画像をUVレジンに投影させます。SLAやDLPだと大掛かりになっている仕掛けが、LCDだと液晶パネル1つですむことから、本体コストが安くなるといわれています。しかし現状、市場に出ている製品にはまだ技術的な課題が残るようです(記事執筆時点)。

SLAの3Dプリンターも通販などで手軽に手に入るようになりましたが、FDMより難易度が上り、かつFDMほど気軽には使えません。また液状のUVレジンは人体にとってあまりよくないものです。レジンタンクを触る、造形物を洗浄する際などは、素手で作業すると手荒れします。光造形での作業はゴム手袋が必須です。



著者:小林由美(こばやしゆみ)
エンジニア、⼤⼿メディアの製造業専⾨サイトのシニアエディターを経て、2019 年に株式会社プロノハーツに⼊社。現在は、広報、マーケティング、イベント企画、技術者コミュニティー運営など幅広く携わる。技術系ライターとしても活動。


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