さらなる進化を遂げるFDM3Dプリンター材料!造形精度だけでなく様々な用途に対応する熱可塑性プラスチックとは

INTERVIEW

ストラタシス・ジャパン
ノースアジア プロダクト&ソリューション部
小林 俊亮
営業部
川口 真弘 高橋 雅志

3Dプリンターおよび材料メーカーのストラタシス・ジャパンは2019年10月29日、3Dプリンターに使用される耐久性、耐熱性、耐薬品性を備える産業グレードの3種類(Antero840CN03, Diran 410MF07, ABS-ESD7)の新たな熱可塑性プラスチック材料を発表しました。そのうちの1つは、機械特性、化学薬品特性、静電気放電(ESD)特性に優れ、従来工法で製造される高コストな最終製品のパーツの置き換えや、薬品、オイルなどを使用する過酷な環境での利用、強靭かつ軽量なパーツを必要とする航空宇宙、産業アプリケーションなどにも最適だといいます。そもそも熱可塑性プラスチックとはどのようなものでしょうか。

最初に登場した3Dプリンターの技術は光造形(SLA)でした。それよりも少し後発の技術として、3Dプリンターメーカーのストラタシス(Stratasys)が熱溶解積層法(FDM)を開発しました。同社により特許が取得されたのは1989年で、1990年に商品化されました。

FDM方式の3Dプリンターは汎用化が進み、10万円以下の低価格で買える機種も多くある一方、ミッドレンジ機やハイエンド機はどんどん高性能化しています。今回は、ストラタシスの日本法人であるストラタシス・ジャパンに、FDM 3Dプリンターに使われる熱可塑性プラスチック材料ついてお話をお伺いしました。



▽おすすめ関連記事

熱可塑性プラスチックと熱硬化性プラスチックの違いは

熱溶解積層法(FDM)は、その材料に細い糸のようなフィラメント状の熱可塑性プラスチックを用い、一般的に3Dプリンターの材料のことを“フィラメント”と呼びます。熱可塑性プラスチックとは、熱によって溶解し、冷却されると硬化し、さらに再加熱すると溶解するプラスチックを指します。要するに、熱によって元に戻る(可塑な)プラスチックです。

一方で、熱を加えると固まるという特性を持ったプラスチックもあります。それを熱硬化性プラスチックと言います。このプラスチックは、一度熱を加えて固まったら、もう元に戻すことはできません。

ストラタシス・ジャパンの営業部 セールスコンサルタントの高橋雅志(たかはし・まさし)氏は、ユニークな例えで説明してくれました。「オムレツで例えたら、熱可塑性プラスチックはとろけるチーズですね。冷えると固まりますが熱を加えるとまた溶ける。一方、熱硬化性プラスチックはタマゴです。一度火が入って固まったらもう生卵には戻りません」


ストラタシス・ジャパン 営業部 セールスコンサルタント 高橋雅志氏
ストラタシス・ジャパン 営業部 セールスコンサルタント 高橋雅志氏


身近にある雑貨や家電など、一般的な製品で多用されているプラスチックは、熱可塑性プラスチックです。FDMは、それと同じ熱可塑性プラスチックを材料とする3Dプリンターなので、最終製品を想定した試作に使うことに向いています。ハイエンドのFDM機であれば、最終製品の部品を製作することも可能です。

例えば株式会社ポケットチェンジでは、海外旅行や出張などから戻った時に手元に残りがちな外貨コインを、空港などに設置した機械で、電子マネーやクーポン等に交換できる画期的なサービスを提供しています。米ドル、ユーロ、中国元、韓国ウォンなど10種類の通貨に対応しています。同社はその機械の内部パーツの製造に3Dプリンターを利用しています。

設置場所が国際空港などに限定されるため、機械そのものは量産するものではないことと、今後対応する通貨の種類を増やすなどさまざまな改良・アップデートをしていくことが必要であるなどの理由から、金型を作ってパーツを大量に製造するよりも、3Dプリンターで製作したほうが向いていると考えたそうです。



ポケットチェンジの内部パーツ。パーツごとにカラーを変えることでメンテナンス性も向上する。
ポケットチェンジの内部パーツ。パーツごとにカラーを変えることでメンテナンス性も向上する。




またFDM機で使える熱可塑性プラスチックの種類は、どんどん増えてきています。「さまざまな熱可塑性プラスチックをFDM機で使うためには、材料と装置の制御プログラムとで両輪での開発が必要です」とストラタシス・ジャパン 営業部 マテリアル セールスマネージャー 川口真弘(かわぐち・まさひろ)氏は言います。



ストラタシス・ジャパン 営業部 マテリアル セールスマネージャー 川口真弘氏
ストラタシス・ジャパン 営業部 マテリアル セールスマネージャー 川口真弘氏


FDMの汎用的なプラスチック材料はABS

低価格の3Dプリンターでも対応しているプラスチック材料の代表的なものに、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)があります。ABSは石油由来のプラスチックで、ある程度の強度と耐熱性を備えることから、工業製品の筐体や部品で非常に多用されています。「何か部品を作りたいけど、とりあえず」といった感覚で選定されることが多い材料です。ただし、ABSは熱収縮率が高めですので、3Dプリンターでは造形条件をうまく制御しないと反りや変形が出ることがあります。

3Dプリンターは高級機種であるほど、同じ材料であっても、美しくキメの細かい造形ができるようになります。その理由の一つは、メーカーが開発・販売している純正の材料の品質の高さにあります。

ストラタシスが販売する純正のフィラメントは、ABSといっても、静電気の発生をおさえられるもの、生体適合性をもたせたものなど、さまざまな特性を付加した材料を提供していることが特徴です。

また、ストラタシスのFDM式プリンターは、熱収縮による変形も計算に入れて制御する機能が備わっているそうです。「当社の3Dプリンターは、熱収縮による変形も気にならないほど自動で制御してくれます。さまざまな材料をFDM機で使うには、それぞれの熱収縮率に合わせた細やかなパラメータ制御の技術が肝になります」(川口氏)




FDMで使える高機能なエンジニアリングプラスチックは?

FDMにはエンジニアリングプラスチック(エンプラ)のフィラメントもあります。エンプラは強度や耐熱性など機械特性を強化した、工業向けプラスチックです。FDMで使うには従来、少し難易度が高いと言われてきましたが、最近はその壁を少しずつ乗り越えながら、エンプラのバリエーションが広がってきています。

ASA(Acrylate Styrene Acrylonitrile)という樹脂は、ABSのB成分(ブタジエンゴム)の代わりに、弾性のあるアクリレートを用いたプラスチックです。「ASAはABSと似た特性ですが、ABSよりも耐候性に優れた材料です。雨風にさらされる環境での材料としても使われます」と高橋氏は言います。

その他によく使われるエンプラのフィラメントとして、「PC」が挙げられます。「PCはポリカーボネートのことで、よく『ポリカ』と言いますね。PCは衝撃に強いのが特長です。当社が開発した材料にはABSとPCの特性を兼ね備えたPC-ABS(ポリカABS)もあります。PC-ABSは、ある程度耐熱性もあり、衝撃にも強いのが特長です。そのためパソコンの筐体にもよく使われますね」(高橋氏)。

柔軟性があり、衝撃に強い材料としてはナイロンが挙げられます。強度、剛性、耐熱性と、幅広い機械特性に優れたプラスチックで、金属部品の代替品や、治具製作にも使うことができます。「ナイロンにカーボンファイバーが含まれた『Nylon 12CF』は、手で曲げようとしても簡単にいかないほど強い部品が作れます」と川口氏は言います。

エンプラのさらに上を行く機械特性を備えているのが、スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)と呼ばれるプラスチックです。

ゼネラル・エレクトリック(GE)が開発し、現在はサウジアラビアの複合企業SABICが供給するスーパーエンプラ、「PEI(ポリエーテルイミド)」の商品「ULTEM」に対応するFDMプリンターも登場しています。ULTEMは航空機の従来のアルミ製部品を置き換える用途でも使用されています。「ULTEMは燃えにくく、燃えたとしても煙が出にくくなっています」(川口氏)。ストラタシス社は、「ULTEM 9085 resin」と「ULTEM 1010 resin」を純正品としてラインナップしています。

さらなる進化を遂げるFDM材料

ストラタシス・ジャパン ノースアジア プロダクト&ソリューション部/シニアセールス アプリケーションエンジニア 小林俊亮
ストラタシス・ジャパン ノースアジア プロダクト&ソリューション部/シニアセールス アプリケーションエンジニア 小林俊亮


同社はユーザーのニーズに合わせてバリエーションを増やしているそうで、「造形精度はもちろん、従来のプラスチックよりも高い強度や、耐薬品性、静電気対策などが求められます」とストラタシス・ジャパンノースアジア プロダクト&ソリューション部シニアセールス アプリケーションエンジニアの小林俊亮(こばやし・しゅんすけ)氏は言います。

ストラタシスには樹脂3Dプリンターとして最大クラスの914.4×609.6×914.4mmのサイズで造形できる最高級機「Stratasys F900」があります。FDM機としてはいまのところ最大といわれます。「航空・宇宙関係や自動車関係の従来工法で作られた金属部品の代替用途が多い」(小林氏)とのことで、材料開発もそれを意識したものが見られます。

その新材料として、「Antero(アンテロ) 840CN03」を発表しています。この材料はフランスの化学メーカーであるアルケマが開発したコポリマー「Kepstan PEKK」を使っています。

「PEKK」は「ポリエーテルケトンケトン」の略称で、結晶性の熱可塑性樹脂である「PEEK(ポリエーテルケトン)」の仲間です。耐熱性、強度、耐薬品性、難燃性と幅広い特性に優れています。樹脂のコンポジット材料(複合材料)にも使われます。「Antero 840CN03」は、優れた機械特性や耐薬品性を備え、さらに静電気放電性もあります。


同社のミッドレンジクラス機「Stratasys F370」用に開発された「Diran 410MF07」は、ナイロンベースの材料。炭化水素ベース化学薬品への耐性を持ち、非常に高い靭性と低摩擦性を有しています。「造形面は従来の造形物と比較して平滑になり、摺動部品にも使えます」と小林氏。

同じくF370向けに開発された「ABS-ESD7」は、ABSに静電気防止特性を備えたプラスチックです。「静電気は、製品を傷つける原因にもなり得ますが、この製品は、粉末、粉じん、微粒子といった他材料への放電や誘引を防止し、静電気に敏感なアプリケーションに最適で、低コストでの造形が可能になります」(小林氏)。


FDMフィラメントの材料の種類を増やすには、制御技術が肝となります。フィラメント開発においては、装置の技術を持たない材料メーカーではなく、制御技術を握る装置メーカー側にイニシアチブがあるという現状だといえそうです。


文/小林由美


▽おすすめ関連記事

こちらの記事もおすすめ(PR)