『第6回鉄道技術展2019』現地レポート – 注目技術3選

鉄道技術展は、2年に1度、開催される鉄道インフラに関する専⾨展⽰会です。我が国の鉄道技術を紹介するとともに、EUパビリオン、ドイツパビリオン、スイスパビリオンなど海外からも多数出展される国際⾊豊かな展示会です。併催される橋梁・トンネル技術展は、関連技術に関する評価・維持管理・補修、補強といった保全、製品・技術を紹介していました。展示会を取材した中から、ものづくりに関係する特徴的な出展を紹介しましょう。

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安全で快適な移動のために

コイト電工株式会社(横浜市)は、小糸製作所から鉄道車両用機器やシート、照明、電気機器部門を継承して分社化した企業です。説明してくださった藤田淳一(ふじた・じゅんいち)営業本部販売促進部担当部長によれば、これまでモーターショーやライティングフェアには出展してきましたが、鉄道技術展への出展は初めてだそうです。同社の出展製品の中にクレードルシートというものがありました。

「クレードルというのは、ゆりかごのことです。包み込むゆりかごのようなシートという意味で、弊社のクレードルシートは、JR北海道(H5系)の北海道新幹線やJR東日本(E7系)、 JR西日本(W7系)の北陸新幹線など、新幹線のグリーン車用シートに多く使われています。

特徴としては、リクライニング時に座面も一緒に動くので膝元が狭くならず、引っ張られて背中のワイシャツが出るようなことが少なくなり、ゆったりとした座り心地になっています。また、リクライニングした際に座面が前に動くことで、背もたれが傾くことによる後方座席への影響も少なくなっています」(藤田氏、以下同)


同社のクレードルシートに実際に座った様子。人間工学的にも工夫した製品になっているそうです。
同社のクレードルシートに実際に座った様子。人間工学的にも工夫した製品になっているそうです。


グリーン車の専用シートというわけではなく、一般車両や少しグレードの高い車両用として採用されることを目指しているそうです。最近では、通勤電車でも少しお金を払って座席指定したいという乗客の方も増えているとのことで、なるべく快適に移動したいというニーズ、座席を確保できる安心感など、乗客の方からの要望に応えるシート開発を目指していると言います。

「今回、出展したクレードルシートは、お客様により広く知っていただくために豪華な革張りにし、高級感のあるものにしています。グリーン車用より少しコンパクトにしたのは差別化を図ってユーザーを広げていこうという目的で、一般車両とグリーン車の間のグレード、例えばお座敷列車のような車両や座席指定車両などに採用していただければということになります。

これは、乗客の方のニーズが多様化し、東海道線や横須賀線ではグリーン車の利用が多いのですが、そうしたサービスを山手線などにも広げていこうというように、鉄道各社の提案にも応えるための提案出展ということです」

鉄道車両用や航空機用のシートを作っている同社は、鉄道事業者や航空会社はもちろん、車両などやシートの素材メーカーと一緒に開発することも多いと言います。



クレードルシートの背もたれを後方から見た様子。背もたれを倒した際、座面が前方へ出るので後ろの座席を圧迫しにくい構造になっていると言います。
クレードルシートの背もたれを後方から見た様子。背もたれを倒した際、座面が前方へ出るので後ろの座席を圧迫しにくい構造になっていると言います。


「快適で安全な移動を目指していますが、シートの中の詰め物は、車両メーカーにもシートのデザイナーさんがいらっしゃるので、そうしたところからヒントをいただきつつ、弊社がシート生地やクッションを作っているメーカーと共同開発しています。車両の外観のデザインとシートのデザイン的な融合も重要ですので、弊社から提案することもありますが、車両メーカーからヒントをいただいて、それを具現化するお手伝いをしています」

他社と協力して技術開発することと同時に自社にも開発部門があり、鉄道車両用シートに関するさまざまな提案をしているそうです。

「乗客にはさまざまな体格や体重の方がいらっしゃいます。弊社にはシートの試験施設を使いつつ、外国の方も含めてそうした多様な体格に関してデザイン的な検証をしてきました。

また、弊社からロング・アンド・クロス・シートというものを提案していますが、これは通勤用と観光用の両方に対応するため、通勤用では線路に並行して車両の両脇に並ぶロングシートになり、観光用では線路と直交するクロスシートになるという転換式のシートです。これも今回、出展しています」

日本の鉄道の軌道の間隔には、大きく新幹線などが採用している標準軌(1,435mm)と在来線で使われる狭軌(1,067mm)の2種類があります。軌道の間隔によって車両の大きさも変わりますが、鉄道事業者からあらかじめ指定があり、なるべく軽量で背もたれが薄くシートピッチに影響が出ないシートを開発することが求められているそうです。

「輸送量と快適性との兼ね合いからシートピッチは重要です。航空機のシートもそうですが、最近の技術の進歩で背ずり※が薄くても快適性を損なわないシートもできています。鉄道用シートでも背ずりを薄くするなどして、より広い空間が確保できるように対応しています。また、重量にしても軽量化のため、シートのフレームをアルミや炭素繊維にするなどの開発も進めています」(※背ずり……一般的に背もたれのこと)


コイト電工の出展ブース。実際にシートに座ってみる来場者も多く見受けられました。
コイト電工の出展ブース。実際にシートに座ってみる来場者も多く見受けられました。


レール軌間の微妙な調整に対応するタイプレート

規格としての軌道の間隔とは別に、鉄道のレールの幅は厳密にいえば一定ではありません。カーブなどで脱線しない範囲で、微妙に間隔が狭まったり広がったりしています。レールの幅を軌間と言いますが、軌間の微妙な調整を行うための軌間調整タイプレートを出展していたのが株式会社関ヶ原製作所(岐阜県)です。

説明してくださった浅野昌隆(あさの・まさたか)執行役員 特機事業本部本部長によると、枕木の上に乗せてレールを固定する板状のものをタイプレート、もしくは床板(しょうはん)と言うそうです。通常、タイプレートには4つのボルト穴が開いていてレールを固定しています。

「既存のものには、弊社の製品のように調整という名前が付きません。4つのボルトで締結するための4つの丸い穴が開いているだけのものになります。この場合、1回ネジ込んでしまうと位置を変更することができません。

レールの位置を変えたい場合、従来はネジクギを抜き、枕木に開いた穴を埋め戻し、埋めた後に変えたい位置に再び改めて穴を開け直し、ネジクギを挿して締結します。この際、枕木とは異なった素材で穴を埋めるため、既設と新設の穴の重なりが小さい場合、新たにネジクギを挿しても、枕木の埋めたもとの穴にネジクギが戻ろうとするなどして強度が落ちてしまうのです」(浅野氏、以下同)


同社の軌間調整タイプレート。下の茶色の部分が枕木で、枕木に穴を開けてネジクギを挿し、ナットで枕木とタイプレートを固定し、タイプレートの上にレールを乗せて固定しています。
同社の軌間調整タイプレート。下の茶色の部分が枕木で、枕木に穴を開けてネジクギを挿し、ナットで枕木とタイプレートを固定し、タイプレートの上にレールを乗せて固定しています。


同社の軌間調整タイプレートは、橋梁や分岐器の区間でのレール位置の修正を行うためのもので、最初に枕木にタイプレートを固定すれば、締結しているネジクギを抜くことなく、長円形に開けられたネジクギ用の穴によってレールを外側や内側へズラして補正し、軌間の微妙な調整が可能になると言います。

「鉄道の場合、こうした軌間の調整の必要は頻繁に起きます。通常、鉄道の線路や軌道で乗り心地を良くしたり、レールの伸縮による枕木の移動を少なくしたりするためにバラストと呼ばれる砂利や砕石を枕木の下に敷きますが、橋梁や分岐器の区間部分には砂利を敷けませんので、どうしても枕木を固定する必要が出てきます。そうするとバラストの上に置いたときよりも自由が低くなってしまいます。

また、カーブのような外側へ遠心力が強く働くような区間でも軌間の調整が必要となり、こうした区間部分の局所局所で弊社が今回、出展している調整タイプレートが使われるというわけです」


赤と青の色分けは展示会用のもので実際には塗られていないそうです。タイプレートに凹みがあり、長円形の穴が開けられ、凹みにはまるラックにも同じ長円形の穴が開けられ、押さえつけるラックと刻みが噛み合うようになっています。
赤と青の色分けは展示会用のもので実際には塗られていないそうです。タイプレートに凹みがあり、長円形の穴が開けられ、凹みにはまるラックにも同じ長円形の穴が開けられ、押さえつけるラックと刻みが噛み合うようになっています。


軌間調整タイプレートは、タイプレート、ネジクギ、ラック2枚、ワッシャー、ナットのコンポーネントで構成されています。また、強度やサイズは鉄道事業者や国の規格に沿って作られているそうです。

「この締結ネジクギの抜き挿しを行わずにレールの一修正作業を可能にした弊社の技術は、10年くらい前に特許を取得しています。現在、JR東海の在来線と新幹線のレール用に納品させていただいています。

軌間調整タイプレートは、原則、レールの両側にしていただいたほうがいいと思います。なぜなら、レールのどちらをズラしたいのかは、その場その場の条件によって変わってくるからで、どちらか片方だけを動かすことも少ないのです。

例えば橋梁の場合、10組から20組という数でご提供させていただいています。この製品は、鉄道事業者から困りごとをお伺いし、それをどうすれば解決できるのかという現場のニーズから開発したものになります。現在の形式にたどり着くまでにいろいろと試作してきましたが、鉄道事業者とのやり取りを重ねてきた結果です。ですから、何もニーズがないところから、いきなり開発したものではありません」

技術的に工夫した点は調整のピッチだったそうです。多様な環境の違いがある保線の現場で必要最大限の調整ピッチが必要だからです。

「タイプレートのラックに開けられた長円形の穴のピッチですが、実際にレールが敷かれている本線にいけば、保線する上で多種多様な制約が出てきます。そのために必要十分な距離をズラせるように長円形の長さを決めてあります。

また、右に8mm、左に8mmまで元に戻らないような噛み合わせを刻んで調整が可能になっていますが、弊社の軌間調整型タイプレートの場合、1mm間隔でピッチが刻まれて固定できます。この固定ピッチは上下で0.5mmずつズレていますが、このピッチをどこまで細かくするのかを決めるのも悩ましいところでした。

鉄道事業者の了承を得られるような製品に仕上げていくことも大変でしたが、部品の数をなるべく少なくし、規格に合わせた強度も担保しなければなりませんでした」


説明してくださった浅野氏。軌間を調整するタイプレートは他社製品もありますが、同社のものは特許を取得した独自技術だそうです。
説明してくださった浅野氏。軌間を調整するタイプレートは他社製品もありますが、同社のものは特許を取得した独自技術だそうです。


安全性はもちろん、強度など求められる技術的なレベルは高く、要件も多かったと言いますが、軌間調整タイプレートにより、タイプレート自体を長寿命化でき、調整する作業の時間と手間を格段に省くことができるようになり、夜間の保線作業などで早く正確な作業を効率的に行うことができるようになったそうです。


クサビをヒントにしたボルト・ナット

ボルト・ナット締結という固定方法は、鉄道に限らず、建築や多種多様な工業分野で使われている技術です。簡単に締め付けることができ、簡単に外すことができるというメリットがありますが、ただし緩みやすいという欠点もあります。締結しやすく外しやすいというメリットを残したまま、いかに緩まないかという課題にHLNハードロックナットという製品で挑戦しているのがハードロック工業株式会社(東大阪市)です。

説明してくださった寺谷徹(てらたに・とおる)営業グループ海外営業チーム・サブリーダーによれば、HLNハードロックナットは、同社の取扱い額で半分近くを占め、新幹線などの車両や鉄道軌道に多く使われているそうです。鉄道に使われる締結部分は振動だけでなく衝撃などの負荷が強く加わる部分で、特に線路では強く緩みにくい効果を発揮していると言います。


新幹線のレールのつなぎ目に採用されたHLNハードロックナット。英国など海外の鉄道にも採用されていると言います。
新幹線のレールのつなぎ目に採用されたHLNハードロックナット。英国など海外の鉄道にも採用されていると言います。


「HLNハードロックナットは、鉄道用に特化したボルト・ナットではありませんが、鉄道に注力している製品になります。ネジが緩む最も大きな原因は、ボルトとナットのネジの間に空間があるからです。この遊びがなければネジ込むことができにくくなるので必要なのですが、締結後に空間や遊びをなくすことができれば、緩みにくいボルト・ナットができるようになるでしょう」(寺谷氏、以下同)

このボルトとナットは、同社の創業者である若林克彦会長が、神社の鳥居などに使われているクサビからヒントを得て43年前に考えついたそうです。以後、基本的なアイディアは変えずにいろいろと改良を加えて現在の製品になっていると言います。

「HLNハードロックナットの原理を簡単にいえば、ナットを凸ナットと凹ナットの2つ使い、凹ナットを下にして対象物と締結し、上から凸ナットで締め付け、クサビ状になった接点でボルトとナットを一体化させています。凸ナットのほうの芯を偏らせて少しズラし、凹ナットのほうは真円にすることで、凹凸で偏って2つのナットが接する部分がクサビの役割をになうというわけです」(寺谷氏)


HLNハードロックナットの概念図。クサビからヒントを得て2つのナットを使って同じような効果を発揮するようになっています。この図では赤い部分がクサビになっていますが、偏芯させて凸が凹に締まるような構造になっています。同社ホームページより。
HLNハードロックナットの概念図。クサビからヒントを得て2つのナットを使って同じような効果を発揮するようになっています。この図では赤い部分がクサビになっていますが、偏芯させて凸が凹に締まるような構造になっています。同社ホームページより。


メンテナンスでは、ボルトの緩み具合を知るためにボルトとナットに直線を引き、そのズレで緩みを視認するようなことがよく行われているそうです。同社のHLNハードロックナットも素材や環境などによってまったく緩まないことはないそうですが、ユンカー式ネジ緩み試験やNAS試験などによって優れた緩み止め効果があることが実証されていると言います。


説明してくださった寺谷氏。同社のHLNハードロックナットは、新幹線など多くの鉄道関連部品のボルト・ナット締結に使われているそうです。
説明してくださった寺谷氏。同社のHLNハードロックナットは、新幹線など多くの鉄道関連部品のボルト・ナット締結に使われているそうです。


「2つのナットを使うことでナット部の高さが長くなり重くもなりますし、作業の工程面でも締め付けが2回必要になりますが、そういったことを考えても緩みにくいナットということで高く評価されています。また、より薄型のハードロックナットを開発してきていますし、今回は出展していませんが1つのナットで緩みにくい製品の研究開発も続けています」(寺谷氏)


鉄道技術展にはこのほかにも世界中から興味深く奥深い鉄道技術が集結していました。また、2年後にはさらに進化した鉄道技術が登場するかもしれません。


文/石田雅彦

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