金属3Dプリンターで注目される新素材『アルミニウム合金粉末』の開発事情とは

INTERVIEW

東洋アルミニウム株式会社
パウダー・ペースト事業本部
グローバルマーケティング部
部 長 今井 宏之

金属の積層造形機、いわゆる金属3Dプリンターはいま製造業で非常に注目が高まっています。活用先としては、航空・宇宙関連や重工業など、部品点数が少なく、かつ過酷な環境で使用する部品への適用が目立ちます。

従来の切削加工や鋳造と比較して、作成可能な形状の自由度が極めて高く、積層造形ならではのハニカム構造の採用による軽量化も狙えます。また、金型を用意する必要がないため、需要があったときだけ部品を用意するといった生産スタイルにも向きます。


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金属3Dプリンターの方式と市場動向は?

金属3Dプリンター装置市場は、ドイツのEOS(イオス)社や、スウェーデンのArcam(アーカム)社といった海外メーカーの世界シェアが非常に大きくなっています。国内メーカーとしては、松浦機械製作所のLUMEXシリーズが奮闘しています。

金属3Dプリンターは、金属積層造形というプロセスで3次元形状を造形します。その造形法で普及しているのは「パウダーベッド方式」という方式です。装置の中に金属の粉末をベッドのように平らに敷き詰め、固めたい場所に「レーザービーム」または「電子ビーム」照射します。

ビームの熱によって金属の粉末が溶解し、その後凝固して固体の層を作ります。その上にまたパウダーのベッドを敷き詰め、またビームを当てて溶解・凝固するというプロセスを繰り返し、下から上に立体を造形していきます。最後に金属粉末をすべて払い落としたら完成です。

金属粉末を扱うことや、金属を溶解するほどの高温にすることから、樹脂用の3Dプリンターとはまったく違った装置であり、価格も高価で、1億円以上する装置が主流です。

製造業において、さまざまな課題に活路を見いだす可能性があるとされ、採用も広まっている金属3Dプリンターではありますが、今もなお技術面やコスト面などでの課題は残っています。
金属3Dプリンターの開発動向としては、以下のようなトレンドがあります。

・造形速度の高度化
・複雑形状への対応と高精度化
・小型化または大型化、モニタリング機能実装など、装置の多様化

金属3Dプリンターは、より高い性能が求められ、かつ多様化も望まれているという状況です。

現在、金属3Dプリンターに関する研究は国際的に活発的に行われています。国内においても2014年度から「技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構(TRAFAM)」による国家プロジェクトが進められ、一部の研究は事業化や製品化となり、2018年度いっぱいで終了しています。

また、金属3Dプリンターの材料についても課題があります。樹脂(プラスチック)と比較して、金属の材料費そのものが高いことや、3Dプリンターでの造形に適した材料としての技術開発などが挙げられます。

TRAFAMにおける粉体材料の研究に参画していた1社が東洋アルミニウムでした。同社はアルミ箔とアルミペーストのグローバル企業ですが、現在、国内で稀少な、金属積層3Dプリンター向けのアルミニウム合金粉末(アルミニウム・パウダー)を生産しているメーカーです。今回は、東洋アルミニウム パウダー・ペースト事業本部 グローバルマーケティング部長の今井宏之(いまい・ひろゆき)さんに、金属3Dプリンターの粉体材料開発事情についてお話をお伺いしました。


日本国内で製造されるアルミニウム合金粉末

東洋アルミニウム パウダー・ペースト事業本部 グローバルマーケティング部 今井宏之部長
東洋アルミニウム パウダー・ペースト事業本部 グローバルマーケティング部 今井宏之部長


従来の金属3Dプリンターの材料は、装置メーカー純正の造形材料を使うことが前提となっていました。しかしその後3Dプリンター関連ではない金属メーカーの参入が始まり、汎用材料も存在しています。そして、国内の材料メーカーも参入しています。

東洋アルミニウムは、「アルミニウム」を社名に冠する通り、アルミニウム製品に特化した企業です。同社がTRAFAMで共同開発していた金属3Dプリンターの材料も、アルミニウム合金粉末(アルミニウム・パウダー)です。

「当社の3Dプリンター向けのアルミニウム合金粉末の市場はほぼ日本国内向けで、出荷はまだ年に数トン程度。日本の金属3Dプリンターのユーザーは、まだ装置メーカー純正の海外製の粉末材料を使う企業が多い現状です」と、今井さんは言います。その一方で「需要の高まりは感じています」とも述べており、金属3Dプリンターの市場が拡大していることと、価格優位性からも、伸びしろがある状況ともいえます。

東洋アルミニウムでは、滋賀県日野町にある日野製造所で粉体のアルミニウムを生産しています。以前は主に純アルミニウム粉末を製造していました。純アルミニウム粉末は、ロケット燃料や、顔料のメタリック素材など、さまざまな用途で使われています。

東洋アルミニウムは1980年代からアルミニウム合金粉末も作り始め、粉末押出し用に提供してきました。その後、この粉末冶金向けのアルミニウム合金の技術を基に、金属3Dプリンター向けの粉末材料の開発を開始しました。なお、国内では現時点、3Dプリンター向けのアルミニウム合金を製造しているのは、東洋アルミニウム1社のみと言います。

アルミニウム合金を金属3Dプリンターで活用するメリットはたくさんあります。まず、金属3Dプリンターに適用できる金属材料の中では、チタンなどに比べアルミニウムは比較的安価なことです。なので、まずコスト面でのメリットが大きくなります。さらにアルミニウムは金属としては軽量で、合金の種類によっては高い強度を備えるため、造形部品の軽量化にも寄与します。

さらに従来の金属材料よりも切削性が優れているため、追加工や切削加工などと合わせた複合加工がしやすくなります。また、表面処理としてアルマイト(陽極酸化処理)をかけることで錆びを防ぐことができます。

しかしながら、アルミニウムを金属3Dプリンターで活用できるようにする際には課題もあります。


アルミニウムを金属3Dプリンターで使えるようにするには

東洋アルミニウムの金属3Dプリンターおよび冶金加工サンプル
東洋アルミニウムの金属3Dプリンターおよび冶金加工サンプル


アルミニウムを3Dプリンターで使用できるようにする上での課題は、まず光沢のあるアルミニウムが金属3Dプリンターの造形で多用されるレーザー光を反射しやすい点があります。よってレーザーの方式が限定されることになります。

金属3Dプリンターで品質の高い造形を行うためには、粉体材料の流動性確保も課題になります。アルミニウムの粉体は、他の金属と比較して、流動性があまりよくありません。アルミニウムは酸化しやすいことから、粒子が異形になりやすいということです。異形の粒子になると造形物にボイド(気泡)を生じやすくし、変形や強度低下などの原因になります。またアルミニウムの比重の軽さが造形プロセスではネックとなる場合もあります。

さらに金属3Dプリンターは、微細な金属粉末を取り扱うことから、粉じん爆発のリスクがあります。アルミニウムは比重が小さく粉体が舞いやすいことから、そのリスクがより高まります。

金属3Dプリンターに携わる各社は、これらの課題を解決するべく、アルミニウム合金での造形精度の向上や、安全性向上に取り組んできました。

金属3Dプリンター向けの粉体材料は、従来、純正が使われてきたことからも、装置によって最適な条件が異なっているといいます。汎用材料を提供する材料メーカーも、さまざまな装置の仕様に合わせられるように材料開発を行っているとのことです。

「例えば、粉末を上から下へ、狭いスリット越しに落とし、パウダーの薄い層を作っていく、レーザー・パウダーベッド方式の装置では、粉体材料の流動性が大事になります」(今井さん)。アルミの比重の小ささも、正常な造形プロセスを妨げる原因になることがあります。

粉体材料の流動性を高めるために、東洋アルミニウムが主に取り組んだのは、アトマイズプロセス(溶けた金属に高圧のガスを吹きつけて飛散、凝固させて粉末を作る方法)を工夫して、粒子を極力、均一な真球状にすることでした。それにより流動性を高め、3D造形物に空気をなるべく含ませないようにしました。

下にある顕微鏡写真は、他社製品と東洋アルミニウムのパウダーの顕微鏡写真です。上の2つが他社製品、下の2つが東洋アルミニウム製品となっています。特に、右下の写真にある東洋アルミニウムBタイプが、ほぼ均一な真球状であることが見て取れます。「このような形状をしている粉末は他社にはありません」と今井さんは言います。


粉末粒子の顕微鏡写真(出典:東洋アルミニウム)
粉末粒子の顕微鏡写真(出典:東洋アルミニウム)


そのメリットとしては、3Dプリンターで製造する際の造形精度が非常に高いとのことです。

東洋アルミニウムでは、装置の条件に応じた粉末材料を提供できるように粉末の種類をそろえ、装置や顧客に合わせた合金組成での粉末製造も可能ということです。

同社では、ヨーロッパの航空宇宙会社エアバス社の関連会社であるAPWORKSからライセンスを受け、引っ張り強度と延性に優れたアルミニウム合金「Scalmalloy (R)」粉末の製造も既に始めています。「金属3Dプリンターの材料では、合金の組成をライセンシングすることもよく行われています」(今井さん)とのことで、このようなビジネスは今後も増えていくだろうということでした。



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参考情報
・「Scalmalloy」は、独国APWorks GmbH社の独国およびその他の国における登録商標または商標です。



著者:小林由美(こばやしゆみ)
エンジニア、⼤⼿メディアの製造業専⾨サイトのシニアエディターを経て、2019 年に株式会社プロノハーツに⼊社。現在は、広報、マーケティング、イベント企画、技術者コミュニティー運営など幅広く携わる。技術系ライターとしても活動。


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