産学連携による最新事例:低温2面摩擦接合機の装置開発~低温摩擦接合(後編)

INTERVIEW

株式会社北川鉄工所
新事業推進本部 課長
石原 玲一
新事業推進本部 技術担当
吉川 尚吾

大阪大学接合科学研究所の藤井研究室で開発された新たな接合技術が低温摩擦接合です。この技術は、摩擦接合の部材にゆっくりした回転摩擦を与え、より強い圧力で押しつけることで、部材の組織に熱変態を起こさず、低温で摩擦接合ができるというものです。

低温摩擦接合の技術を実際に装置化し、低温2面摩擦接合機として実現させたのが2018年に創業100周年を迎えた金属素材・工作機器・産業機械メーカー、株式会社北川鉄工所です。

同社は以前から特殊工作機械としての摩擦接合機や3部材を接合させる2面摩擦接合機を製作してきましたが、大阪大学接合科学研究所の技術が2面摩擦接合機に大きな付加価値を付ける可能性に期待し、2年前の2017年から新たな2面摩擦接合機の開発に取り組んできたといいます。この新しい低温2面摩擦接合機は、2019年9月に名古屋で開催されたオートモーティブワールド「クルマの軽量化技術展」で初めてお披露目されました。

その開発に携わった石原玲一(いしはら・れいいち)新事業推進本部課長と吉川尚吾(きっかわ・しょうご)新事業推進本部技術担当に、新たな2面摩擦接合機の技術の詳細やや開発の苦労などのお話をうかがいました。


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────御社は以前から2面摩擦接合機を製作してきたわけですが、これはどのような技術なのでしょうか。

「2面摩擦接合というのは、3つの接合部材を接合させる技術です。弊社の技術は、3つの中の真ん中の部材を回転させ、片側の部材から圧力を加えることで固定・回転・加圧側の3つの部材を摩擦熱によって接合させるもので、これは弊社の独自技術となり10年ほど前に特許を取得しています」(石原課長)


────真ん中、中間の部材を回転させるというのが独自技術になるのでしょうか。

「その通りです。他社さんの2面摩擦接合の技術は、真ん中を固定し、挟んだ両サイドの部材を回転させて圧力を加えるのですが、この場合、両側の角度を厳密に管理しなければなりませんし、回転数を同期させることも難しいのです。

偏心して回転させることが難しい部材でも真ん中を回転させることで接合が可能となりますし、長尺部材でも真ん中の短い部材だけ回転させればよく、また位相合わせの必要な部材同士の接合ができることもあり、弊社の技術にアドバンテージがあるのです」(吉川技術担当)


説明してくださった石原課長(左)と吉川技術担当(右)。
説明してくださった石原課長(左)と吉川技術担当(右)。



────今回、大阪大学の低温接合の技術に興味を持ったのはどのような経緯でしたか。

「大阪大学接合科学研究所の藤井先生らとの産学連携は、大学との間に入っている企業さんからお話がきました。技術的な説明をうかがった際、組織が変わらずに接合ができる低温摩擦接合の特徴もポイントになりましたが、弊社としては特に低速回転で接合ができるという部分が魅力だったのです」(石原課長)


────なぜ低速回転に興味を抱いたのでしょうか。

「真ん中の部材を高速回転させる場合、分割構造にしようとすると構成要素の中に技術的に満足できないものがありました。しかし、大阪大学の藤井先生らの低回転での接合技術を用いることで、課題を克服することができるのではないかと興味を抱きました。」(吉川技術担当)

「もちろん、部材の出し入れに時間がかかってしまってもかまわないというお客様はおられ、従来の低速ではない2面摩擦接合機でお客様のニーズには対応しておりますが、付加価値として部材を取り出しやすい接合装置ができたことで、より自動化にも対応でき、接合タクトタイムの短縮になるのではないかと期待したのです」(石原課長)


────高速回転での技術的な蓄積はすでにあり、さらに低速回転の2面摩擦接合機を開発しようと考えたわけですね。

「2017年から開発に着手し、装置の開発に1年くらいかけ、2019年に装置が完成してテストを始めたということになります。大阪大学接合科学研究所の藤井先生らが実現させた低温接合は1面だけですが、弊社の装置の場合、2面を一度に接合するので条件を細かく検証していかなければならない難しい技術でもあります。

開発過程で最も苦労したのは、やはり回転部分の分割機構でした。高速回転する構造体で自動開閉できるようにすることが非常に困難で、分割構造にすることによって、新たな価値を付加することができると考えました」(石原課長)


北川鉄工所が開発した低回転の低温2面摩擦接合機。
北川鉄工所が開発した低回転の低温2面摩擦接合機。


「現在の装置は弊社が独自に開発したものですが、回転部分の設計において、多くのアイデアを出して試行錯誤しました。2面摩擦接合の場合、真ん中の部材を設置する部分が回転するために、強固な継合状態で精度よく回転する必要があります。また、接合が終わったらその部分が開いて接合した部材を容易に取り出せるようにしなければなりませんし、取り出した後、再び回転させるため、すぐに一体化して起動させなければなりません」(吉川技術担当)


────やはり高速回転の装置とは別の技術的な課題があったということでしょうか。

「そうです。この部分は、2つの半円形の部品から構成され、それぞれを連結する機構が内蔵されています。このロック機構については、従来の既製品を流用できないか、いろいろ部品を探したのですがサイズの問題やロック機構自体の構造的な問題もあって目的のものを見つけられなかったので、弊社が独自に回転部のロック機構を開発しました。また、圧力をかける部分も、装置全体の強度や剛性の関係で技術的に難しかったところです。そのため、3次元で解析を行いながら、従来の装置の倍以上の強度と剛性をもたせるため、独自に装置全体を設計し直して開発しました」(吉川技術担当)


────御社が開発した低温2面摩擦接合機では現在どのようなテストを行っていますか。

「現在、小径材料でさまざまな材質で接合を行っており、さらに幅を広げていきます」(石原課長)


────大阪大学の先生方から「炭素鋼の炭素の割合が多くなると溶接や接合が難しくなる」と聞きましたが、御社でも高炭素鋼の接合には取り組まれるのでしょうか?

「すでに、高炭素鋼にもトライしていますが、さらに実験を重ね、検証を進めなければなりません。また、材質、異種接合、素材の大きさ、形状も含め、さまざまな素材を接合できるかどうか、テストをしていこうと考えています」(吉川技術担当)


回転部分が分割でき、接合した部材を取り出しやすくした装置。技術保護のため、一部画像をボカしてあります。
回転部分が分割でき、接合した部材を取り出しやすくした装置。技術保護のため、一部画像をボカしてあります。


「今は回転数と圧力の組み合わせをテストしています。圧を上げ過ぎると挫屈(ざくつ)して部材が潰れてしまいますし、回転数を上げていけば温度が上がりすぎてしまい、低温での摩擦接合になりませんし、低速回転による装置開発という目的から外れてしまいます。素材を合わせて最も接合の状態がいい組み合わせを探っているところですが、ほぼ目的の組み合わせがわかってきました」(吉川技術担当)


────この低速回転による低温2面摩擦接合機のメリットはどのあたりにあるのでしょうか。

「従来の高速回転による2面摩擦接合機に比べ、部材の取り出しやセットの時間と手間が省け、自動化が可能になるという点でしょう。また、従来の摩擦接合ではバリが硬くなり過ぎてバリ取りの工程で硬度の高い工具が必要になりますが、低温摩擦接合によるバリはそれほど硬くないのでバリ取りも容易になるかと思います」(吉川技術担当)


────では、すでに製品化に向かっている段階といっていいのでしょうか。

「この技術における弊社の目的は、低速回転で2面摩擦接合させることで、それは達成していると考えています。もちろん装置のブラッシュアップは進めていきますし、素材の性質によって回転数や圧力の微調整が必要かもしれませんが、すでに分割機構を開発していますので基本的には現状の装置で十分と考えています。今後は、素材、形状ごとの対応など装置の調整、改良をすることになっていくかと思います」(石原課長)




3つの部材を接合した鋼材の丸棒。両端の2部材を固定し、真ん中の部材を低速で回転させ、圧力をかけることで接合されます。
3つの部材を接合した鋼材の丸棒。両端の2部材を固定し、真ん中の部材を低速で回転させ、圧力をかけることで接合されます。



────2019年9月の名古屋オートモーティブワールドに出展した際の手応えはいかがでしたか。

「摩擦接合は自動車業界のニーズが高いので、お客様にアピールできる場として名古屋で開催されるオートモーティブ・ジャパンに出展しました。従来の摩擦接合機は高速回転かつ高温で接合するので、展示会場での接合は困難です。しかし、弊社が出展した低温2面摩擦接合機は、音も静かですし、低温なので接合後、部品をすぐに触ることができるため、非常にインパクトがある摩擦接合の実演をすることができました。

おかげさまで多くの来場者の方々に興味を持っていただいたようです。2020年の春くらいからの製品化を目指していますが、自動化に関してもお客様のご要望に合わせてロボットやローダーのご提案を進めていきます。今後、しっかりと技術や実績を積み重ねていき、新しい接合技術を発信していこうと考えております」(石原課長)



3回にわたって紹介してきた接合技術の中の摩擦攪拌接合と低温摩擦接合でしたが、熱起因による相変態による影響を受けずに接合できたり、圧力をかければかけるほど鋼が低温になるなど、材料物性分野にはまだまだ未知の世界が残っていることを実感させられました。今後も新しい発見と技術革新が期待できる分野なのは確かでしょう。



文/石田雅彦


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