研究と失敗で見つけた低温で鋼を「摩擦圧接」する技術〜低温摩擦接合(前編)

INTERVIEW

大阪大学接合科学研究所
副所長/教授
藤井 英俊
特任准教授
森貞 好昭

複数の素材をくっつける技術を接合といいます。接合には、複数の素材を完全に一体化して分離できなくする方法と、ネジやボルトなどで力学的に固定して後に分離できるように接合する方法(機械接合)の大きく2つがあります。

前者のように一体化する接合方法の中には、主に金属を接合するための方法として冶金的接合があります。冶金的接合は接合方法によって融接、固相接合、圧接、鑞接に分けられます。さらに、それぞれは電気エネルギー、化学エネルギー、力学エネルギー、光エネルギーを利用した接合方法に分けられます。

融接の中で、電気エネルギーを利用した場合はアーク溶接や電子ビーム溶接などがあり、化学エネルギーを利用した場合にはガス溶接、光エネルギーを利用した場合にはレーザー溶接があります。

固相接合の中で、力学エネルギーを利用した場合は常温圧接、摩擦圧接、摩擦攪拌(かくはん)接合(FSW)、超音波圧接、拡散接合があります。

圧接の中で、電気エネルギーを利用した場合は抵抗溶接があり、化学エネルギーを利用した場合は爆発溶接があります。

鑞接(ろうせつ)の中で、電気エネルギーを利用した場合は誘導加熱鑞付けがあり、化学エネルギーを利用した場合はトーチ鑞付けがあり、光エネルギーを利用した場合は光ビーム鑞付けなどがあります。

今回、接合の技術で国際的にもトップレベルの研究をしている大阪大学接合科学研究所を取材し、同研究所の副所長でもあり接合界面機構学分野の藤井研究室を主導する藤井英俊(ふじい・ひでとし)教授と、同研究室の森貞好昭(もりさだ・よしあき)特任准教授にお話をうかがい、摩擦攪拌接合(Friction Stir Welding、FSW)を前編で、低温摩擦接合を中編で紹介し、低温摩擦接合の装置を開発した北川鉄工所を後編で紹介します。


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大阪大学接合科学研究所 副所長 藤井英俊教授(左)と同研究室 森貞好昭特任准教授
大阪大学接合科学研究所 副所長 藤井英俊教授(左)と同研究室 森貞好昭特任准教授


摩擦攪拌接合とは何か

摩擦攪拌接合は、素材を溶かさずに接合する固相接合の一種です。接合温度が低いために接合部の強度低下が小さく、アーク溶接に比べて素材を変形させずに接合できるというメリットがあります。また、シールドガスが不要でヒュームやスパッタを発生させず、作業環境を悪化させずに接合できます。

代表的な固相接合。摩擦攪拌接合にはツールが必要で、摩擦圧接は回転、線形摩擦接合は直線的な摩擦による熱で接合します。
図提供:大阪大学接合科学研究所 ※編集部一部修正
代表的な固相接合。摩擦攪拌接合にはツールが必要で、摩擦圧接は回転、線形摩擦接合は直線的な摩擦による熱で接合します。
図提供:大阪大学接合科学研究所 ※編集部一部修正


────接合と溶接は別の技術でしょうか。

「接合というのは、より広い概念で物と物をくっつけることです。接合の中に溶接がありますが、ボルト締めはこれら接合技術の外側になります。私たちは接合技術の中の摩擦攪拌接合などの研究をしています。摩擦攪拌接合はアルミを利用した鉄道車両などの製造にも使われ、現在の接合技術ではなくてはならないものになっています」(藤井教授)


────大阪大学の接合科学研究所は、溶接の研究もされているのでしょうか。

「本研究所は1972年の設立から2022年で50周年を迎えますが、以前は溶接工学研究所という名称でした。1996年に接合科学研究所という名前に変わりましたが、接合の技術の中には溶接だけでなく溶かさない接合もあるのでそういう名称にしたわけです。当然、接合の技術全般の研究をしていますから溶接の研究もしています。接合科学研究所という名前に変えて、研究所自体の手がける研究の幅が広がったということになるでしょう」(藤井教授)


────接合の研究では世界でもトップレベルの研究所になるそうですね。

「私(藤井)は1996年の改組した直後に着任した最初の教員でしたが、接合科学研究所という名前に変えた後、技術の一部でも世界で負けているのは良くないということで摩擦攪拌接合の研究を始め、それ以後、精力的に取り組んできました。

接合に特化している研究所としては日本で唯一ですし、世界的にも接合に関する3大研究所の一つになっています。本研究所の英語名はJWIR(Joining & Welding Research Institute)ですが、世界にはあと2つ、トップレベルの研究所があります。それは英国のTWI(The Welding Institute、英国溶接研究所)と米国のEWI(Edison Welding Institute、エジソン溶接研究所)です」(藤井教授)


────溶接工学研究所の時代から摩擦攪拌接合の研究をされていたのでしょうか。

「いえ、溶接工学研究所の時代から接合の研究はやっていましたが、摩擦攪拌接合の接合方法が1991年にできていますので、摩擦攪拌接合のような技術研究は改組以前にはまだしていませんでした。一方で鑞付けや半田付けなど、素材は溶けずに他のものが溶けてくっつく技術の研究はしていましたし、固体状態で押し当てて高温にさらしてゆっくりと原子を移動させてくっつける拡散接合をやっていた可能性はあります。また、超音波接合を当時、やっていたかどうかわかりません」(藤井教授)


────その摩擦攪拌接合という技術について教えてください。

「摩擦攪拌接合は、円筒状のツールを回転させながら素材に強く押し当て、溶かさずに摩擦熱によって素材同士をくっつける技術です。接合後は一枚の板のようになり、裏側もきれいでスパッタも出ません。もともと融点の低いアルミなどの素材で発達した技術ですが、私たちの研究室で鉄鋼による低温接合を実現させました」(森貞准教授)


────この技術はどのように生まれたのでしょうか。

「英国のTWIの研究者ではない技術者が1991年に開発しました。その技術者は最初、鉄板の上に棒を押し当てて摩擦熱で棒を柔らかくして肉盛を形成させ、溶接のように素材をくっつけようと考えたそうです。しかし、強い棒を押し当てると肉盛ではなく、素材同士がくっつくことにたまたま気がつきました。肉盛するためには棒が溶けなければなりませんが、棒の材料をいろいろ変えながら試行錯誤を繰り返すうち、棒が硬くて溶けずに摩擦熱で素材がくっついてしまうことを発見したのです」(藤井教授)


────こうした摩擦熱で肉盛して溶接する技術や摩擦熱で素材が接合するという技術はそれまであったのでしょうか。

「1つの原理として肉盛の技術はありましたが、広く使われていたわけではありません。摩擦圧接という技術、これはツールを使わずに素材を回転させ、摩擦熱でくっつける技術ですが、こちらも広く使われていたわけではなかったのです」(森貞准教授)


────摩擦攪拌接合の技術的なポテンシャルが広がったのはアルミ以外の高融点の鉄鋼での利用だと思いますが、藤井研究室での研究成果を教えてください。

「まず、摩擦攪拌接合で高融点の鉄鋼を使う場合のお話をしましょう。鉄鉱石から取り出した銑鉄(せんてつ)には炭素が含まれています。炭素量が低いものを鋼(はがね)といい、多いものを鋳鉄(ちゅうてつ)といいますが、鉄の中に含まれる炭素の割合が多ければ多いほどほど硬く強い、しかし、もろい鉄になります。強度を期待するあまり炭素を入れ過ぎると、逆にもろくなってしまうというわけです」(藤井教授)


──── 一般的な鋼の場合、どれくらいの炭素量なのでしょうか。

「炭素量が2%までの鉄を鋼といいますが、自動車用の鋼板の場合、0.15%くらいの炭素しか入れられませんし、マックスでも0.3%くらいです。それ以上では硬くなり過ぎてプレス加工などがしにくくなってしまうからです」(藤井教授)


────この鋼に含まれる炭素量と接合技術の関係はどのようなものなのでしょうか。

「前述したように、鉄に含まれる炭素量が増えれば硬く強くなりますが、伸びや粘りは低くなります。さらに、鉄の温度を上げて急に冷やすと結晶構造が変わって硬くなるという相変態が起きますが、アーク溶接などの溶接を用いた接合時に同じことが起きると鉄鋼の接合部分が硬くなり、さらにもろくなって割れたり欠陥が生じやすくなります。

結晶構造に相変態が起きるのは接合にとって悪いことで、金属の構造体では溶接や接合の部分が基本的に最も弱くなります。つまり、素材をいくら強くしても、溶接や接合している部分で破断するなりすれば元の木阿弥というわけです。また、溶接する場合に鋼の炭素量を増やすことができなくなり、その結果として鋼の素材自体の強度が低下することになります。

結局、高い熱を用いた接合方法では、硬くて強い鋼をくっつけることが難しいということになるのです。これはアーク溶接でも、また従来のように鉄の変態点を超える高い温度になってしまう摩擦攪拌接合でも同じでした」(藤井教授)


────では、摩擦攪拌接合による鋼の接合ではどのようになっているのでしょうか。

「そのために考えられたのが、焼き入れ性の抑制と接合温度の低温化による摩擦圧接、線形摩擦接合、摩擦攪拌接合などの固相接合です。固相接合するためには、溶かさずに再結晶という現象を使います。再結晶というのは固体に新しい結晶を生み出すことです。

摩擦攪拌接合では、円筒状のツールを素材に強く押し当て、素材の結晶を攪拌して歪みをたくさん貯めておくようにします。結晶に攪拌という歪みを与えると結晶構造がぐちゃぐちゃになってしまいますが、ぐちゃぐちゃになり過ぎると今度は秩序を生み出そうとして新たな結晶ができます。

鉄は固体ですが、原子の移動自体はありますので、攪拌と摩擦という加工を与え、素材の温度を上げるとエネルギーを下げるために新しい結晶を作って再結晶します。摩擦攪拌接合ではこうした現象を使って接合しています」(森貞准教授)


「この再結晶は融点の7割から8割くらいで発生しますが、鉄の融点は1,536℃ですから7割から8割というと1,000℃から1,200℃くらいが従来の摩擦攪拌接合の接合温度になってしまいます。しかし、これほど高い温度になると、再結晶しても焼き入れの急冷と同じように相変態して硬くてもろい状態になってしまうのです。

ただ、結晶構造は温度によって違います。低い温度で安定な相であれば、700℃程度でも十分に接合できるだろうという見込みはありました。鉄の各相を別の材料として考えれば、より低い温度で接合できるのではないかと考えたのです」(藤井教授)


────先生方が開発した摩擦攪拌接合では、より低い温度で接合できるというわけでしょうか。

「その通りです。一般的な摩擦攪拌接合の温度は融点の7割8割なので1,000℃から1,200℃でなければ良好な継手が得られないのではないかと考えられていました。しかし、我々は接合する鋼には3つの相があり、適当な摩擦攪拌接合温度は各相によって異なるだろうと考え、700℃前後の温度でも鉄の摩擦攪拌接合ができることを発見したということになります。

同時に摩擦熱を相変態以下である723℃より低くすると結晶構造が変わらずに変態しません。つまり、鋼の炭素量を多くしても硬くなり過ぎず、もろくならずに接合できるのです。それが摩擦攪拌接合のメリットで、鉄と炭素の合金である普通の鋼でも、マンガンやシリコンの合金である特殊鋼でも概ね同じようにできます」(藤井教授)


大阪大学接合科学研究所の摩擦攪拌接合装置。下が母材、上のツールが回転しながら押しつけられます。
大阪大学接合科学研究所の摩擦攪拌接合装置。下が母材、上のツールが回転しながら押しつけられます。


────こうした技術はそれまでどこにもなかったということでしょうか。

「鉄で摩擦攪拌接合をやろうとした事例はありましたが、従来通り鉄の融点の7割8割の1,000℃から1,200℃でなければくっつかないという考え方でやっていたので、接合部が硬くなり過ぎて割れてしまっていたのです。私たちの技術は、攪拌して結晶構造をぐちゃぐちゃにするという現象を人為的に引き起こし、低温でも再結晶する現象を引き起こしたということになります。

攪拌という加工を与えれば与えるほど再結晶の温度が下がり、鉄の場合、300℃という低温でも再結晶することを発見したのです。円筒状の棒材を押しつけて結晶構造をぐちゃぐちゃにするという、局所的に加工を入れることのできる技術はかなりユニークな方法なので、私たちが発見するまでなかったのです」(森貞准教授)




大阪大学接合科学研究所の摩擦攪拌接合の技術について、お話をうかがいました。中編ではさらに詳しく、また新たな低温摩擦接合の技術について紹介していただきます。


文/石田雅彦



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