東北大学発ベンチャーのものづくりスタートアップを支えるVCの伴走術とは

INTERVIEW

東北大学ベンチャーパートナーズ
取締役投資部長
樋口 哲郎

近年、日本のスタートアップの中でも徐々に注目を集めているのが、大学の研究室からスピンオフした大学発ベンチャーです。大学が大学構内に大学発ベンチャーを支援するインキュベーション施設を設置し、様々な支援をしてきた成果が出てきています。その中からは、世界からも注目される技術をもったものづくり企業も多数生まれています。

一方で、ものづくりスタートアップへの出資に躊躇するベンチャーキャピタル(VC)や投資企業も少なくないといいます。そんな中、東北大学発ベンチャーを積極的に支援しているVCのひとつが、東北大学ベンチャーパートナーズです。


▽おすすめ関連記事

東北大学で芽生えた高度な技術を、ビジネスに育てる

東北大学ベンチャーパートナーズ取締役投資部長 樋口哲郎(ひぐち・てつろう)氏
東北大学ベンチャーパートナーズ取締役投資部長 樋口哲郎(ひぐち・てつろう)氏


────主な活動と、設立経緯を教えてください。

主に東北大学の研究内容を活用しようとするものづくり企業を対象に、現在は約20社を支援しています。私もこちらに赴任するまでは知らなかったのですが、東北大学は材料や先端技術に関する研究が非常に盛んです。

当社の主な支援先としては、NASAのプログラムにも採択された宇宙開発企業ispaceや、津波の浸水や被害推定システムが内閣府「日本オープンイノベーション大賞」で総務大臣賞を受賞したRTi-cast、電気自動車やドローンに大切な小型かつパワーが高いモーター部品の超低損失軟磁性材料を開発している東北マグネットインスティチュートがあります。

東北大学ベンチャーパートナーズ設立のきっかけは、アベノミクスです。第三の矢である「産業競争力強化法」によって国立大学からの出資が可能になったことで、2015年に東北大学の子会社として設立されました。アベノミクスの狙いは、大学技術を使って新たな産業を生むこと。大学に眠っている高度な技術を、ビジネスに発展させるのが主な目的です。


────投資先企業はどのような基準で選定しているのでしょうか。

前提条件となるのは、東北大学で培われた研究成果を活用していることですね。そしてそれがイノベーションにつながるかどうかが大事です。大学の職員が起業したケースと、外部の方が東北大学の研究成果を活用するケースのどちらも適用されます。

その際には、知財が確保されているかどうかに注目しています。これは言い換えれば、モノをつくるための根幹がきちんと備わっているかどうかということです。その企業が大学のもっている特許を買い取ったり、あるいは大学と企業で提携を結ぶといった形で、ビジネスにつなげているケースで、支援を行います。

もうひとつの条件は、商業化の道筋が見えているかどうか。大学発スタートアップの中には技術先行でどのように利益を出すのかが十分に考えられていない企業も少なくないのですが、それは投資対象として望ましくありません。利益を出すことができれば、新たな雇用を生み出すなど、何らかの形で東北を活性化させることができます。


ものづくり系スタートアップの資金調達の呼び水になる

────ほかのVCとの違いは、どのような点なのでしょうか?

大きな違いは、民間企業やVCでは出資が難しい企業に出資することです。一般的に、Webサービス開発企業などに比べて、ものづくり系のスタートアップにはなかなか出資が集まりません。

しかし我々が率先して出資することで、成長の可能性を示すことができれば、民間企業や民間のVC、機関投資家も出資する可能性が高まります。私たちの2つ目の目的は、ものづくり系のスタートアップが資金を獲得する呼び水になることです。

例えば、東北マグネットインスティチュート社は我々がリードVC(最初に投資するVC)として出資した後に、ほかのVCや商社からの追加出資を受けており、現在はトータルで約20億円を集めています。超低損失軟磁性材料を開発している企業で、電気自動車やドローンに大切な小型かつパワーが高いモーターの部品になりうると期待されています。


────そもそも、なぜWebサービス企業に比べ、ものづくり系のベンチャーには投資が集まりにくいのでしょうか。

まず、製品を上市するまでに必要とする総経費が大きいことが挙げられます。近年、国内のVCの出資額も増えつつありますが、それでも数億円程度。製品開発までに数十〜数百億円かかることもあるものづくり系のスタートアップを支えるには、十分ではありません。また、PCさえあれば開発できるWebサービスに比べると高価な機械なども必要なため、コストに対する収益率(PER)の伸び代も限られています。

また、ある技術がプロダクトとして市場に出るまでには長い時間がかかります。10年以上を要することもあり、出資金を10年以内に回収することが基本のVCの出口戦略には、間に合いません。

さらに今、日本企業がR&D(研究開発)に消極的になっていることも挙げられます。かつてソニーが磁気製品開発で東北大学と連携していた例がありますが、以前は日本中で産学連携が根付いていました。しかし、近年は長期にわたる研究に出資できる企業は減っています。多くの人に基礎研究が産業に繫がる重要性を認識してもらいたいですね。



大学発スタートアップがつまずきがちなビジネス視点をサポート

東北大学ベンチャーパートナーズの投資先の1社であるispace社が開発中の月面探査ローバー
東北大学ベンチャーパートナーズの投資先の1社であるispace社が開発中の月面探査ローバー



────大学発スタートアップが成長していく上での課題はどのような点なのでしょうか。

いくつかありますが、まず「魔の川」といわれるフェーズでつまずくことが多いですね。これは製品のプロトタイプができあがるまでの間に訪れます。大学の先生はコアとなる技術をもっていても、その研究に没頭するあまり、収益化に向けたステップに進めないケースが少なくありません。

大学発ベンチャーにとって、発明家であり起業家でもある大学の先生が事業にどのように関わるかは、重要な問題です。大学で研究をしながら事業をするとなると、先生本人もどちらが主軸なのかわからない状態になってしまいます。

先生は技術には最も詳しい一方で、ビジネスに詳しくないため、会社の中で先生が権限を持った場合には経営が迷走する可能性もありますし、ほかの方が経営者となった場合にも、技術の産みの親である先生には意見が言いにくかったりします。多くのケースでは、産みの親である大学の先生は大学に残って研究を続ける以上は、企業の顧問や相談役となってもらい、経営は人に任せることが重要だと思います。ただし、それはなかなかわかってもらえないこともあります。


────そうした場合の軌道修正は、どのように行うのでしょうか。

まず、会社を立ち上げる前に東北大学側でサポートしています。中小企業基盤整備機構の支援をもとに、開かれた拠点としてキャンパス内にビジネスインキュベーション施設 「東北大学スタートアップガレージ」を開設しています。そこでピッチイベントや起業塾などを設置し、学生や研究者に最低限の起業や知財についてのリテラシーを身につけてもらっています。

こうした機会を通じて、改めてプランを練り直してもらうか、あるいは自分で経営するのは無理だと感じられた方には、外部から経営者を迎え入れるなどの判断をしてもらう機会を設けています。


────ビジネスについての知識がない状態での起業を食い止めようとしているわけですね。

もちろん、私たちも事業構想などについて積極的に相談に乗っています。提出いただいた事業計画を審査するだけでなく、ブラッシュアップのための提案をすることも少なくありません。

例えば、振動を検知する技術を使って、橋などの振動の測定機械の開発をしたいという事業計画をいただいたことがあります。異常検知ができる機器です。しかし、それでは利用シーンが限られており、ビジネスとしてスケールしづらいと感じました。

そこで、振動が微弱な電気を発生させる点に注目して、発電センサーを開発するよう提案したのです。交通や風などによって振動が発生しやすい橋や道路や建物に設置すればそこで発電ができるわけです。昨今はモノにインターネット技術を導入する「IoT」化が進んでいますが、その際に電気の通っていない場所にどうやって給電するかという課題がある。小型の発電センサーは、この課題を解決しうると考えたんです。


────起業家と一緒になって事業を考えているんですね。では、「魔の川」を超えた後にはどのような困難があるのでしょうか。

実際に市場に出せる製品を仕上げる前に「死の谷」とよばれるフェーズが立ちはだかります。ここでは市場を見定めての販路開拓、また、量産化を前提にした商品開発しなければならないので、よりビジネスの視点が求められますね。

ここからは、より起業家と伴走して事業の解像度を高めます。顧客ニーズ調査・マーケティングなどを起業家と一緒になって取り組む、ハンズオンでの支援です。

また、ものづくりでは量産ラインに乗せるために、10億円を超える資金が必要になってくるケースが少なくありません。この資金調達ができずに倒産してしまう企業が多いのです。当社は企業ごとに必要な資金調達を支援します。

出資額は平均的な大学系VCは1億円程度が多いですが、当社はトータルで約3〜5億円を出資します。当社が腹を決めて出資することで、ほかのVCや機関投資家の資金をよびこみ、量産ラインに必要な資金を集められるようにするためですね。


「ダーウィンの海」を越え、ものづくり企業の価値を高めてほしい

「世に広く受け入れられる企業を多く誕生させたい」と語る樋口さん
「世に広く受け入れられる企業を多く誕生させたい」と語る樋口さん


────ありがとうございます。最後に、今後の展望をお聞かせください。

2018年には7件の支援を行いましたが、引き続き毎年5〜10件ペースで支援を続けるつもりです。




「死の谷」の次は、いよいよ製品を世に出して市場に評価してもらう「ダーウィンの海」とよばれるフェーズが待ち構えています。現状ではまだこの段階に達した出資先企業はありませんが、世に広く受け入れられる企業を誕生させて、東北大学の技術力や基礎研究の大切さをもっと知ってもらいたいですね。



文/野口直希


▽おすすめ関連記事

こちらの記事もおすすめ(PR)