2019年12月、幕張メッセで電子ディスプレイ、有機エレクトロニクス(有機EL、固体照明、有機太陽電池)、IoT機器の開発・製造に関する技術が一堂に会する展示会「ファインテック ジャパン 2019」と、「レーザー加工」「光学部品・材料」「光計測・分析」の3つの専門展から構成される、光・レーザー関連技術の総合展「第20回 Photonix」が開催されました。今回は、新たなディスプレイの価値を開拓する技術や、光産業におけるグローバルニッチ企業の開発動向に注目しました。
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試作品から見えたディスプレイの未来

まず「ファインテック ジャパン 2019」の会場を訪れ、目を引いたのが「ジャパンディスプレイ(以下、JDI)」のブースです。多くの人が足を運び、同社の技術に注目を寄せていました。
JDIはガラス基板上に多結晶性のシリコンを低温で形成した低温ポリシリコン「LTPS(Low Temperature Polycrystalline Silicon))」をコア技術にし、これまで狭額縁かつ高精細なディスプレイをスマートフォン中心に展開してきました。
今回の展示会では、LTPSの上に載せる技術を液晶以外のものにすることで、新たな価値を提供していく──そんなJDIの考えが表れていました。

同社が次世代ディスプレイの有力候補として、「ファインテック ジャパン 2019」で展示していた試作品が“マイクロLEDディスプレイ”です。
これはLTPSバックプレーン技術を、各画像に個々の光源となるLEDが敷き詰められた"マイクロLEDチップ"に適用することで、液晶ディスプレイに不可欠だったバックライトや偏光板、カラーフィルターが不要になり、高輝度、広視野角が特徴的なディスプレイになっているとのこと。将来的には車載分野などでの実用化を目指していると言います。これまでスマートフォン中心であったディスプレイ展開を別分野でも目指す、JDIの次なる戦略が、展示から見てとれました。
「触れずに操作」でディスプレイの新たな価値を開拓
「おお、すごい。これどんな仕組みになっているのですか?」
そんな声が聞こえ、多くの人で賑わっていたのが広島を拠点にエアリアルイメージング事業を手がける「アスカネット」のブースです。あまり聞き覚えのない言葉ですが、エアリアルイメージング事業とは何なのでしょうか──。
アスカネットによれば、画像や物体の放つ光線を1枚の特殊な構造をしたガラスプレートを通過させることで、その反対側の同じ距離の位置に再び光が集まり、原版と同じ像を形成すること。それをエアリアルイメージングとよぶそうです。

その技術をアスカネットは「ASKA3D」と名付け、すでに樹脂製プレートや壁面空中サイネージに応用しています。
ASKA3Dは直感的に操作可能なタッチパネルでありながら、常に非接触であることが特長。プレートが1枚あれば、なにもない空間に液晶ディスプレイの映像を映し出すことができます。
具体的には手が汚れているときにディスプレイを操作したい作業現場、飲食店、医療現場などを利用シーンとして想定しているそうです。
また、展示会では新たに開発されたパソコンと接続するだけで簡単に「空中表示+非接触操作」ができるキットの提案も行われていました。現在、ガラス素材だけでなく樹脂による製造方法も研究中で、スマホ用に小型の試作品が完成しているとのこと。
Googleが最新スマートフォン「Pixel4」にスマホに直接触れず、手をかざすことで操作できるジェスチャー機能「Motion Sense(モーションセンス)」を搭載(日本は2020年春以降の予定)したように、今後ディスプレイは“触れずに操作する”流れが加速していくかもしれません。
時代の変化と共に「ディスプレイ」の形も変化
テクノロジーの発展とともに、新たなデバイスが登場。それにともない、ディスプレイの形も年々変化しています。2000年の創業以来、“液晶ビジネス”に特化し、時代の変化に合わせて新たなディスプレイの開発に取り組んできたのがグローバルディスプレイです。
同社は「ファインテック ジャパン 2019」で、ユニークなディスプレイ関連の技術を出展していました。中でも来場者の目を引いていたのが、「透明液晶BOX」です。この液晶BOXは前面が透明な液晶ディスプレイになっており、ボックスの中に商品を配置すると、商品に重ねて映像が表示されるという技術。
そのほか、鏡にタッチモニターを組み合わせたディスプレイ「鏡面モニター」も披露されていました。こちらは従来の鏡に代わり、バーチャル試着や広告を組み込めるデジタルサイネージとして、アパレル企業などに利用されているそうです。
1,000ppi解像度に対応する有機EL蒸着用マスクも
また、iPhoneに有機EL(OLED)ディスプレイが採用されてから数年。有機ELの解像度も年々高まっており、それに対応する有機EL蒸着用マスクも登場しはじめています。
今回の「ファインテック ジャパン 2019」で1,000ppiという高い解像度に対応する有機EL蒸着用マスク「ファインハイブリッドマスク」を展示したのはブイ・テクノロジーです。通常、有機EL蒸着用マスクの大きさは第6世代基板(1,500mm×1,800mm前後)が一般的ですが、同社が提供するのは「G6ハーフ」とよばれる、通常の約半分(1,500mm×900mm前後)の小型サイズになっています。
また、樹脂と金属の2つの材料を組み合わせることで、強度を維持しながら薄型・軽量を実現。ブイ・テクノロジーによれば、このマスクは高精細・高解像度の画素パターンの蒸着に向くほか、「縦型蒸着」に適用できるようになっているのが大きな特徴とのこと。「ファインハイブリッドマスク」は2020年1月からサンプル出荷を開始。有機ELパネルメーカーの評価を受ける計画とのことで、果たしてどのような反応が返ってくるのでしょうか。
産業用カメラの応用方法の拡大を狙う

「第20回 Photonix」では、ロボットによるレーザー加工の自動化に関する展示が多く出展されている印象を受けました。その中で、レーザー加工の自動化以外で印象に残った展示を紹介していきます。
「できないと言わずにやってみろ」
この言葉を行動指針にし、光電子増倍管やフォトダイオードなどの光検出器のほか半導体レーザーやランプ、LEDをはじめとする光源、またカメラや画像解析装置、光計測装置といった「光」を活かす技術で科学・医学・産業の発展に貢献しているのが浜松ホトニクスです。

“光の技術集団”として、あらゆる光を追求し、進化をし続けている同社は新たに産業用カメラ向けに目に見えない微弱な光を強くし、捉えやすくする部品の新製品「C14245シリーズ」の開発に取り組んでいます。
サイズを従来の約3分の1に抑え、シンプルな形にすることで多様なカメラに接続しやすくしています。浜松ホトニクスによれば、わずかな放電現象からプリント基板の絶縁不良を調べる検査など、産業用カメラの応用方法の拡大を狙っていくとのこと。2020年3月2日から受注を始め、具体的な製品化に取り組んでいくそうです。
今年の10月に新棟をつくり、本社工場内に分散していた光半導体モジュール製品の開発と生産機能を集約。生産能力を現状の2倍の年100億円(売上高換算)に増やす予定など、積極的に投資を行なっている浜松ホトニクス。今後の展開も楽しみです。
年間生産本数が400億本以上の知られざる企業
グローバルニッチ市場で高いシェアを誇る、知られざる企業が湖北工業です。同社は1959年の創業以来、あらゆるエレクトロニクス製品に欠かせない「アルミ電解コンデンサ用リード線端子」の製造・販売を推進。 2000年には主力事業で培った精密加工技術を活かし光通信分野へ事業を展開、更なる高付加価値製品の開発に取り組むなど、常に新しい挑戦を続けています。
「アルミ電解コンデンサ」は急速に電気科が進む自動車分野(CASE)、通信分野(5G)、産業機器分野(ロボット化)などで活躍の場が広がり、光ファイバ通信網は増え続ける情報通信を支えるインフラとして世界中で欠かせない存在になっています。
実際、展示会などでは来たる将来を見据え、5G向け高速応答VOAやMCFクラッドプリフォームといった製品が展示されていました。
さまざまな企業が出展し、大盛況だった「ファインテック ジャパン 2019」と「第20回 Photonix」。普段、私たちは使用する製品にばかり注目してしまいがちですが、その裏側では日夜、進化を続ける技術が使われている。そんなことを強く感じました。
はたして、来年はどのような最新技術を使った新製品が現れるのでしょうか。
文/新國翔大
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