製品の高付加価値化をもたらす新素材とものづくり要素技術〜『第10回 高機能素材Week』レポート (1/3)

高機能素材Weekは、毎年5月に大阪、12月に東京で開催されている、フィルム・プラスチック・複合材・金属・セラミックスなど、製品の高付加価値化に欠かせない素材技術を持つ企業が出展する展示会です。

材料メーカーはもとより、加工技術、製造装置、検査関連技術などが出展していることで、自動車、エレクトロニクス、医療機器、航空・宇宙などの加工業者や研究開発、製造担当者らが情報収集したり商談したりするといった機会を得ています。

2019年12月に幕張メッセで開催されたそんな高機能素材Weekの出展社の中から興味深い技術を紹介しましょう。


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切削性・耐食性に優れ、環境規制に対応する黄銅

三菱伸銅株式会社(東京都千代田区)は主に銅とその合金の素材、加工品などを製造販売している企業です。出展していたのは、エコブラスという製品に新たな付加価値を付けた製品です。

説明してくださった松谷仁(まつたに・ひとし)営業統括部営業三部マネージャーによると、エコブラスは鉛フリーによる耐食性の高い快削黄銅(真鍮)の素材製品のブランド名ということです。

「エコブラスは鉛フリー黄銅で、銅、亜鉛、シリコンなどの合金になります。エコブラスは、一般的なステンレス鋼(オーステナイト系ステンレス)並みの高い強度があり、部材の軽量化、省資源化が可能になり、被削性にも優れることからコストダウンが期待できる製品になっています」(松谷さん、以下同)

銅と亜鉛の合金である一般的な黄銅には鉛を入れているそうです。素材としての黄銅は、上水道などに多く使われ、飲料水に触れることもあり、世界的にも鉛に対する環境規制が徐々に厳しくなってきている中、鉛フリーの製品を開発することで同社はアドバンテージを持とうというわけです。

「黄銅に鉛を入れない場合、旋盤などで黄銅を切削する際、旋盤の切りクズが螺旋状に繋がり出てきて、それが機械に巻き付いて切削性が悪くなってしまいます。鉛を入れることで、切りクズを繋がりにくくして効率のいい切削性ができるようにするのです」

黄銅(快削黄銅)には、鉛を入れたC3602やC3604(C360系)といった切削加工に適している黄銅があります。この場合、軟質で低融点なPb(鉛)粒子に応力集中し、切りクズを分断されやすくしていますが、同社のエコブラスでは、シリコンを入れることで、α相、γ相、κ相の中で比較的もろく硬質なγ相とκ相の部分をチップブレーカとして応力集中し、切りくずが分断されやすくなっているそうです。



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切削工程で出る黄銅の切りくず。同社のエコブラスの場合、螺旋状につながった切りくずにならず、切削性が高くなるそうです。
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切削工程で出る黄銅の切りくず。同社のエコブラスの場合、螺旋状につながった切りくずにならず、切削性が高くなるそうです。


「エコブラスの技術は、約20年前に特許を取得しています。当時、米国のカリフォルニア州で飲料水に関わる合金について鉛フリーにしなければならないという法律ができ、それに先がけてシリコンを合金に含めるための技術開発をしました。

鉛の代替としては他にビスマス(Bismuth、Bi、窒素族元素、原子番号83、蒼鉛)系を使う黄銅もありますが、ビスマス系は環境にも不安が残る素材になり、シリコンのほうがより環境負荷の点でも優れていると考えています。

従来の黄銅と同じような強度や耐食性について、開発途中でこれまでのC360系より性能の良いものをというコンセプトでやってきました。その結果、エコブラスでは、環境負荷の面はもちろん強度や耐食性、リサイクル性のどの点でもクリアできています」

出展していたのは、従来のエコブラスよりもさらに優れた性能のものだそうです。従来のエコブラスでも鉛添加の黄銅に対し、倍以上の耐食性があったのですが、さらにそれより40%も高い高耐食性を持たせたと言います。

これは、欧州標準化委員会が規格化したEN規格(CW724R)に対応し、大手水栓メーカーからの厳しい要求に応えるためで、EN規格では亜鉛21%以下、シリコン3%以下、鉛0.1%以下となっています。エコブラスは、欧州RoHS指令、ELV指令などの幅広い環境規制に対応した鉛フリー快削黄銅だそうです。

「さらに、ドイツ、フランス、オランダ、英国の4か国がThe Four Member States(4MS)という飲料水に接触する製品の適合テスト協定があり、黄銅もこの規格に登録しなければならなくなっています。これらの規格に合う材料が必要ということで開発した部分があり、規制の動きに先がけて市場のお客様のご要望に応えつつ、研究開発をしています」



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同社のエコブラス製品。従来の同じものに比べて40%高い耐食性になり、切削性も同程度のレベルを維持しているそうです。
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同社のエコブラス製品。従来の同じものに比べて40%高い耐食性になり、切削性も同程度のレベルを維持しているそうです。


こうした黄銅合金の開発で苦労した点はどこだったのでしょうか。従来の知見から、どんな元素を加えれば耐食性などの効果がどの程度出るかわかっていたと言います。

「黄銅にシリコンを入れると耐食性が高くなります。こうした元素の割合は結果的にわかった副産物ではなく、合金を作る前からある程度わかっていました。また、銅、亜鉛、シリコンの主要元素だけでなく、それ以外にもリンなどの元素を調味料のように入れています。

合金というのは、まだまだ開発のポテンシャルがあって性能を高める余地はあると思っていますが、従来の知見からどうやって量産できるようにするかどうかも研究開発のコンセプトでした」

欧米に比べ、日本にはまだ鉛規制が進んでいないそうです。そのため現状では鉛を含んだ黄銅製品が一般的と言います。

「ただ、日本でも上水道には溶出量の規制があり、鉛フリーの黄銅を使いなさいという行政指導はあります。こうした中、弊社のエコブラスが次第に認められ、水道メーカーに採用される部品の7〜8割になっています」

今後、同社は水素脆化耐性の高い銅合金の特徴を生かし、耐水素用途の高圧バルブなどに使用可能で耐摩耗性も兼ね備える高強度のエコブラスの開発を進めていくそうです。


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三菱伸銅株式会社 松谷仁 営業統括部営業三部マネージャー。今後、水回りの素材は規制がどんどん厳しくなっていくことが予想されると言います。
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三菱伸銅株式会社 松谷仁 営業統括部営業三部マネージャー。今後、水回りの素材は規制がどんどん厳しくなっていくことが予想されると言います。


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