名古屋モーターショー同時開催『あいちITSワールド』で見たITS最新技術動向 (2/2)

微弱な磁場で位置情報を検出する技術

微弱な磁場で位置情報を検出する技術

磁気センサーを利用した位置検出技術を出展していたのは愛知製鋼株式会社です。説明してくださった岩間直樹(いわま・なおき)モノづくり・未来創生本部 未来創生タスクチーム 主査によれば、出展していたのは「MIセンサ」と呼んでいる磁気センサー技術です。このセンサーは、自動車用だけでなくスマートフォンや食品の異物検出装置などに活用され、鉄鋼製造以外の弊社の主力事業の1つになっているそうです。

「MIセンサは、名古屋大学の毛利佳年雄(もうり・かねお)名誉教授が発見した磁気インピーダンス(Magneto-Impedance、MI)効果をもとに、弊社が1999年から共同開発を始めました。その後、2000年には世界で初めてMI効果を利用したセンサー素子の開発に成功し、2001年からは量産化に入っている技術です」(岩間さん、以下同)

MIセンサは、熱処理した金属繊維(アモルファスワイヤ)を並べてメガヘルツ単位の電流を流すことで、ワイヤの周囲に巻いたコイルを通じて地磁気の反応などを検出するそうです。感度は従来の磁気センサーに比べ、1万倍以上になっているといいます。

「弊社の特殊鋼で培った要素技術を利用し、センシング技術の開発に20年以上前から取り組んできました。最初に実用化したのはスマートフォンに使われている電磁コンパスですが、MIセンサの応用例では、愛知万博でも使われた路上に磁石を埋め込み、それをセンサーで検知しながら移動体を動かしていく技術があります」

完全に自律的な自動運転技術はまだ発展途上ですが、今回、出展している同社の自車位置検出の技術は、自動運転を補うために自車位置を正確に検知するためのものだそうです。

「弊社が提供しているのは、路上に敷設した磁気マーカの情報をMIセンサで読み取り、移動体の位置を高精度に特定することで、人工衛星を利用した全地球測位システムであるGNSS(Global Navigation Satellite System)電波などが届かないトンネル内などを含む道路を円滑に走行できる技術です。

車載用には16個〜24個のMIセンサが装着され、それぞれのセンサーが磁石の磁力から位置を検知して、中央のセンサーに位置決めされるように制御調整されています」

雪道では現在のカメラによる白線検出はできませんし、GNSSでも難しい条件になっています。MIセンサは、非常に微弱な磁力を検知することが可能だそうで、雪が降るような悪天候でも路上に敷設した磁気マーカからの磁力によって位置の検知ができるといいます。

「トンネルの中や高架下などではGNSSの信号を受信できなかったり途切れたりすることがありますが、路上に磁気マーカを敷設しておけば、位置情報を正確に得ることが可能になります。

今後の実用化を想定しますと、自動運転にさまざまな障壁があって簡単にできません。ですから現状では、人が立ち入らない限定的な空間や自動運転車両しか運行していない環境で実証実験をしていただくという段階になっています」

過去に敷設されていたかつての鉄道が廃線になり、その代わりにバスを運行しているBRT(Bus Rapid Transit、バス高速輸送システム)では元の鉄道だった路線をバスの専用道として活用していますが、BRT路線内ではバスしか運行せず、歩行者が立ち入らないようになっています。こうしたBRTの路線が東北や九州など全国各地にあり、そうした導入ハードルの低いエリアで実際に実証実験を始めているそうです。


<写真5>
出展していたBRTを利用した磁気センサーによる位置検出技術の例。センターラインが見えない雪道や衛星からの位置情報を得られにくいトンネル内などで効果を発揮するそうです。
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出展していたBRTを利用した磁気センサーによる位置検出技術の例。センターラインが見えない雪道や衛星からの位置情報を得られにくいトンネル内などで効果を発揮するそうです。


例えば、2019年11月から2020年2月までの期間、JR東日本管内のBRTでバス自動運転のレベル2の技術実証が行われています。レベル2なので、自動運転の区間でも運転手が乗車し、緊急時には自動運転から手動へ切り替えるといったもので、自動運転中はアクセルとブレーキを自動制御しています。

この実証実験が行われているのは、東日本大震災で営業休止した後、BRTで仮復旧している気仙沼線の陸前横山駅と柳津駅の間、約4.8kmの距離で、最高時速60kmでの走行と決められた位置でスムーズに停止することを目指しています。同社の磁気センサーによる位置検出技術は、この実証実験で使われているそうです。

今回の磁気センサーに利用されているアモルファスワイヤという金属繊維はどのようなものなのでしょうか。

「アモルファスはガラスのような非結晶金属で、原子が規則正しく立方体に並んでおらず、ランダムに並んでいます。弊社の磁性ワイヤは非常に細く、数十ミクロンから100ミクロンほどの径になります。数年前から弊社内で専用の装置を使って生産するようになっています。液体の状態の金属を急冷して作りますが、瞬時に冷却しないと結晶化してしまいますし、せっかくできたアモルファスワイヤも加熱すると結晶化してしまうなど、とても不安定な材料です」

アモルファス磁性ワイヤの特性として、強度が強くなったり、磁性体として磁極が消えやすかったり反転しやすく軟磁性が良好であったりするそうです。磁場を検出するセンサーがいろいろある中、同社のMIセンサは高感度なのが特徴だといいます。


<写真6>
ロールされたアモルファス磁性ワイヤ。同社のMIセンサは多くのスマートフォンの電子コンパスに使われているそうです。
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ロールされたアモルファス磁性ワイヤ。同社のMIセンサは多くのスマートフォンの電子コンパスに使われているそうです。


「非常に微弱な磁場でも検出できますから、弱い磁力の磁気マーカでも検出可能で、低コストで単純な構造のマーカでの位置検知などができるというメリットがあります。

道路に敷設されている磁気マーカは、電磁界を用いて近距離の無線通信を行い、情報をやりとりするためのICチップが埋め込まれたRFID(Radio Frequency Identification)タグになっています。ノイズの除去が技術的に難しい部分でしたが、車両のどこかに必ず磁気マーカがあることを想定しており、現状2メートル間隔で敷設しています。将来的にはもっとピッチを広げても位置検知ができるようにしていこうと考えています。

また、アールの小さなカーブを正確にトレースしたり、バス停に数センチ単位で停車できるようなニーズに対しては、間隔をより狭めていけば可能になります」


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路上に敷設される磁気マーカ。直径は小さく厚みのあるタイプ(黒い上の二つ)と直径が大きくて薄いタイプ。
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路上に敷設される磁気マーカ。直径は小さく厚みのあるタイプ(黒い上の二つ)と直径が大きくて薄いタイプ。


車載されたMIセンサが、路上の磁気マーカの真上にきたときがピークになるといいます。車体の下部に装着したMIセンサと磁気マーカの距離は15〜20センチ、磁気マーカの大きさは、厚みのある埋め込み型では直径を小さくでき、路上に貼り付け型で厚みが薄く直径20センチにしているそうです。

「前後に1機器ずつ装着する車載用のMIセンサのほうは開発中なので、単価はまだ出ていません。磁気マーカは、フェライト磁石の中でも安価なので1,000個十数万円単位です。回収している場合もありますが、そのまま路上に敷設したままの場合もあります。道路管理者の所有物として買い取っていただいています」

気仙沼線のBRT以外にも、すでに各地で行われている実証実験で使われている同社のMIセンサと磁気マーカ。技術的な課題を克服し、実用化されるのも近いかもしれません。

「将来は、無人の輸送トラックが高速道を自動運転で走行するようなことも技術的に可能になります。その場合、まずは自動運転専用の車線を高速道路に作り、一般車と混在しないようにしなければなりませんが、GPSの信号が届かないトンネル内やガード下などで弊社が開発したMIセンサと磁気マーカを組み合わせた技術を使っていただけるようになるかと思います」


<写真8>
愛知製鋼株式会社 岩間直樹 モノづくり・未来創生本部 未来創生タスクチーム 主査。実証実験を繰り返し、安全性を高めながら少しずつ高速道や一般道での実用化に向けて取り組んでいると言います。
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愛知製鋼株式会社 岩間直樹 モノづくり・未来創生本部 未来創生タスクチーム 主査。実証実験を繰り返し、安全性を高めながら少しずつ高速道や一般道での実用化に向けて取り組んでいると言います。


隔年で開かれるモーターショーですが、自動車産業が集積する中部地域ならではの自動運転に関連する技術もあり、東京モーターショーとはまた違う魅力のある展示会でした。



文/石田雅彦


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