水温や水位を遠隔管理。ICTの活用で「次世代の農業」のスタンダードをつくる挑戦

INTERVIEW

ベジタリア株式会社
取締役 技術開発本部長CTO
島村 博

古来より続く、日本の農業。
農作物を育てて、収穫する手法は長い歴史の中で大きく変わっておらず、基本的には農家の人たちの経験、勘に基づいて行われてきました。かつてはそれで良かったかもしれませんが、昨今、農家を取り巻く環境は大きく変わってきています。

農業従事者の高齢化、農業就業人口の減少──。ここ数年で、日本の農業は“人手不足”という大きな課題が浮き彫りになってきました。そうした状況を解決する手段として、いま注目を集めているのが「ICT(情報通信技術)」を活用する「スマート農業」です。

矢野経済研究所が2018年11月に発表した調査によれば、ロボットやドローン、AI、IoTなどのICTを活用した「スマート農業」の国内市場規模は、2024年には387億円まで成長することが見込まれています。今後、大きな成長が期待される市場に対して、農林水産省も注目。政策目標として2025年までに農業の担い手ほぼすべてがデータを活用した農業を実践することを掲げ、2019年度から2か年の事業として50億円を投資し、『スマート農業加速化実証プロジェクト』を全国69地区でスタートさせています。

同プロジェクトに参画し、“次世代の農業のあり方”を模索しているアグリテックベンチャーがいます。それがベジタリア株式会社です。

同社は圃場の環境情報や作物の生育状況を常時モニタリングできるIoTセンサ「フィールドサーバ」、水位情報などをスマホ・タブレットで自動受信できる水田センサ「パディウォッチ」、地図情報をベースに圃場管理や農作業の記録ができるクラウド型営農管理システム「アグリノート」など、先進的な農業IoTソリューションを提供しています。

ベジタリアが考える、これからの農業のあり方とは何か。ベジタリア 取締役 技術開発本部長の島村博(しまむらひろし)さんに話を聞きました。



▽おすすめ関連記事

農家が持つ経験、勘をテクノロジーと融合させる

<写真1>
水位、水温などをモニタリングする水田センサ「パディウォッチ」が設置された水田
<写真1>
水位、水温などをモニタリングする水田センサ「パディウォッチ」が設置された水田


ベジタリアが創業したのは2010年のこと。代表取締役社長の小池聡(こいけさとし)さんは90年代、シリコンバレーでベンチャーキャピタリストとして活動。帰国後はネットイヤーグループとネットエイジグループ(現ユナイテッド)を創業・上場に導いた経験を持つ人物です。

ずっとIT業界に身を置いてきた小池さんが“農業”に興味を持ったのは、東京大学EMP(エグゼクティブ・マネジメント・プログラム)に入ったのがきっかけです。

「新しいライフワークを始めたい」という思いから、小池さんは就農。自身の手で無農薬、有機の野菜を作り始めますが、すぐさま壁にぶつかります。つくった野菜は、病虫害でほぼ全滅してしまったのです。そんな課題を、東京大学EMP室長補佐で植物病の第一人者である難波成任(なんばしげとう)教授に相談した結果、「農地を病気になりにくい温度・湿度の環境に制御し、管理できれば無農薬でも野菜がつくれるはず」という結論に至ります。

その後、小池さんは株式会社イーラボ・エクスペリエンスが開発した日射量、温度、湿度などを自動計測する「フィールドサーバ」を見つけ、導入してみることにします。すると、病虫害が少なくなり、野菜が収穫できるようになったのです。

その経験から、「農家が持つ経験、勘は、最新の植物科学に基づく科学的根拠とIoTやセンサによる計測、ビッグデータやAIを活用したシステムを使い、これまでの技術を伝承しながら、新しい栽培技術を開発していく必要がある」と感じ、ベジタリアが始動しました。


水位、水温の管理に精緻化をすると、収穫量が5%〜10%向上

<写真2>
ベジタリア 取締役 島村博技術開発本部長
<写真2>
ベジタリア 取締役 島村博技術開発本部長


その後、水稲における一番重要かつ農作業時間の割合が高い“水管理”に焦点を当てた水田センサ「パディウォッチ」を開発します。

「昔の農業は自宅の近いところに、2ヘクタール、3ヘクタールの規模の水田があるだけでしたが、いまは50を超えて100ヘクタール規模のメガファーマも出現してきており、年々、規模が大きくなっています。農場経営は効率化が図られていますが、水管理に関しては朝晩の見回りが必要で飛び地、遠隔地に圃場がある場合は大きな負担になっています。そこで、遠隔地からスマートフォンやタブレットの専用アプリで水田の水位、水温、温度、湿度などのデータを確認できるツールが必要だと思ったのです」(島村さん、以下同)

2015年4月に九州大学 南石教授が研究代表者として推進する「攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業」における「農業生産法人が実証するスマート水田農業モデル(農匠ナビ1000)」の中で、大規模圃場1,000か所に水田センサを納入。その研究中間成果をもとに「パディウォッチ」を製品化します。

その後、新潟市、ベジタリアグループ、ドコモが連携する実証プロジェクトが発足し、稲作の中心となる新潟市で約300箇所に「パディウォッチ」が導入され、業務の効率化を検証することに。その実績が認められ、パディウォッチは農林水産省が始めた「水田センサ×技術普及組織による農業ICT導入実証プロジェクト(平成27、28年)」に発展していき、平成27年に全国36道府県で、28年度に全国43道府県との共同実証が行われました。

当初は商用電源を有していた農業センサは、現在は単1アルカリ電池8本で約9か月間使用が可能。月額の利用料金も1,980円。計測器をポールに付けて、設置したい場所に置き、専用アプリをスマホやタブレットにインストールするだけで使い始められる手軽さが魅力となっています。

「水位、水温の管理を精緻化をすると、収量が5%〜10%あがる。良食味化へ向けて、水分量とタンパク含有量を6〜7%未満くらいに抑えることにも効果がある、深水高収量安定食味を行う栽培技術があり、稲の成長ステージに対して、然るべきタイミングで水をあげたり、浅水にしたり、中干ししたりしないといけません」


<写真3>
パディウォッチはポールに付けて田に差し立てるだけで簡単に設置可能
<写真3>
パディウォッチはポールに付けて田に差し立てるだけで簡単に設置可能


<写真4>
遠隔地からスマートフォンやタブレットのアプリで水田の状況を確認できる
<写真4>
遠隔地からスマートフォンやタブレットのアプリで水田の状況を確認できる


拠点づくりと作業内容を共有仕組みが大事

そして、平成30年から『スマート農業加速化実証プロジェクト』がスタートし、全国69地区でスマート農業の社会実装を加速するための2年間にわたる技術実証が各地で行われています。

「私たちの水田センサ『パディウォッチ』は稲作の効率化に活用されており、稲作は1.5兆円の売上規模を誇る産業で、全国において約140万ヘクタール程度の作付面積があるなど、一大市場を築いています。その領域で、私たちはスマート農業の促進を図っています」

また、レタスや葉物などにおける環境データとメッシュ気象データを活用した収穫予測システムを構築。この収穫予測を地図ナビゲーションシステムに取り込むことで、最適な収穫機器の配置や運搬ルートを算出し、収穫および工場稼働の最適化を図る取り組みも開始しています。

「これにより、今まで露地栽培では難しいとされた、天候に左右されやすい収穫時期や工場納期を最適化し、ジャストインタイム型の収穫コントロールおよび工場稼働の実現をしていけたら、と思っています」

また、スマート農業を普及、浸透させていくべく、農林水産省ではスマート農業の普及拠点づくりとして360拠点整備しながら、産地形成は500か所をスマート化するプロジェクトが進められています。

「フィールドサーバ」や「パディウォッチ」のほかに、クラウド型の栽培管理システム「アグリノート」も手がけ、ノートに書き込んでいた作業メモのオンライン化、作業進捗閲覧、栽培管理票の作成など作業内容の共有手段についてもサポートしているベジタリア。

創業から9年。世の中の流れを受け、急速にスマート農業の波が広がっています。ICTを活用した次世代の農業を当たり前にすべく、今後もさまざまな取り組みが行われるそうです。



文/新國翔大


▽おすすめ関連記事

こちらの記事もおすすめ(PR)