『光とレーザーの科学技術フェア2019』レポート(前編) (2/2)

レーザーを利用した水中での物体検知

レーザーを利用した水中での物体検知

これまでの水中での無線通信や探査技術は、音波(水中音響通信)を使うものが主でした。音波はレーザーと比較すると水中での伝送速度が遅い上に、指向性はありません。音源が移動すれば救急車のサイレンのようなドップラー効果が出て正確なデータ伝送が行いにくいという弱点がありました。

音波以外の伝送・探査の研究開発は長く技術的な課題になってきましたが、デジタル技術、レーザー技術の進歩で大きな可能性を秘めてきている分野でもあります。

同展示会に出展していた株式会社トリマティス(千葉県市川市)は、高速制御回路技術と光デバイス技術を誇る会社です。

陸上(大気中)での光無線、特にLiDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging、ライダー)という技術を使ってレーザースキャナー製品も手がけ、説明してくださった白鳥陽介(しらとり・ようすけ)取締役営業統括によればこの技術を水中に応用することに取り組んでいるそうです。

「水中で光がどれくらい届くのかが、これまでわかっていません。ですから、弊社のほかに日本で同じような技術開発に取り組んでいる会社さんは少ないのです」(白鳥さん)

LiDARというのは、レーザー光を利用して測距や画像検出を行うリモートセンシング技術です。レーダーは電波を照射しますが、LiDARは光や電磁波を照射するそうです。


同社のLiDARを活用した水中でのアプリケーションのための装置。青色レーザーによる水中スキャンにより、将来的には水中での三次元的な物体把握が可能になるといいます。
同社のLiDARを活用した水中でのアプリケーションのための装置。青色レーザーによる水中スキャンにより、将来的には水中での三次元的な物体把握が可能になるといいます。


「パルス発生でレーザーを照射すると対象物に当ててレーザーが戻ってきますが、照射した時間と戻ってきた時間の差が情報になります。光のスピードは固定ですから、その時間差を計測することで距離がわかります。

これは、一点だけの距離を測るのではなく、X軸Y軸といった面状に照射し、それぞれの距離を計測することで照射した面の3Dの情報がわかります。ターゲットが人であれば人数がわかりますし、交通監視であれば人とクルマの情報を知ることができるのです。また、そうした3D情報を経時的に計測することで物体の変化や移動などもわかります」

光は指向性が高く容量の大きい高速のデータ伝送が期待できますが、電波と同様、水の濁りなどによって透過性は低くなります。そのため、海水中の微生物死骸などのマリンスノーによる水の濁り、また水中機器などが海底で巻き上げた汚泥などの濁りといった阻害物の干渉をどう解決するのか、といった技術開発が続けられてきたそうです。

「弊社はこれまで陸上の大気中で多種多様な受託開発事例があります。それを水中で行おうとしているのです。レーザーの中でも青や緑といった可視光は水中でも直進性が高く、減衰しますが戻ってきて計測は可能です。

水中といっても水質がさまざまです。水道水は比較的抵抗モーメントが少ないので計測しやすく、水道水の場合、5m、10mならそれほど難しくはありませんが、これが海水中になった場合、1mの距離でも難しいかもしれません。

現状は水道水での検証をした段階ですから今後、海水などで試してみるつもりです」(白鳥さん)

水中では波長が380nm(ナノメートル)から780nmあたりの光線の透過性が高く、海の色が青いように波長が短くなれば透過性も高くなります。一般的に用いられる青色半導体レーザーの波長は波長450nm周辺です。

「水中でのLiDARによるセンシングの技術的な課題は、まずレーザーの強さです。波長によっては、地上(大気中)の場合は増幅することも可能ですが、水中で使う青色の波長を照射するレーザー装置が限定的になりますし、青色のレーザー自体の出力が弱く、弊社が期待するほどの出力のレーザー発振器がまだ存在しません。

光源の課題を解決するために、例えば青色レーザーを何本か束ねるなどを試してみようと考えています。水中で大気中と同じように可能かどうか、やればやるほど課題が出てくるという段階です」(白鳥さん)


株式会社トリマティス 白鳥陽介取締役営業統括。同社は、LiDARのシステム設計から加工、製品開発まで手がけているといいます。
株式会社トリマティス 白鳥陽介取締役営業統括。同社は、LiDARのシステム設計から加工、製品開発まで手がけているといいます。


高輝度レーザーでは赤色から青色レーザーへと短波長化が進められていますが、パルスレーザーなど種類もいろいろあるそうで、同社ではこうした展示会で情報を収集しようと考えているといいます。

「装置内部の回路は弊社で作っていますが、弊社がレーザー自体を作っているわけではありません。そうした会社さんに協力していただければと思っています。

また、弊社が想定しているのは水中からの橋脚基部の点検ですとか魚の養殖場の監視などですから、過大な高出力は危険性もありますし必要ないと考えています」(白鳥さん)

水中で光による情報のやり取りが可能になれば、これまでの水中活動の概念が根底から激変する可能性があります。同社は、水中通信の技術にも挑戦していこうと考えているようですが、ユビキタスな子機を水中に無数に散らばらせれば、あたかも目視しているかのように周囲の様子が手に取るようにわかるようになるかもしれません。

いろいろな光技術が一同に会した光とレーザーの科学技術フェア2019。多様性と奥深さを実感させられた展示会でした。



文/石田雅彦


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