自動運転社会実現に向けて開発が進むブラックベリー携帯端末で培われたテクノロジーとは?

自動車の機構の多くが電子化され、ソフトウェア制御が必須となりました。さらに無線通信でさまざまなサービスを提供するようになってきています。これまでの自動車とは大きく変わり、「走るコンピュータ」ともいえる存在に進化しつつあります。

その最中、自動車産業の構造は大きく変わってきています。もはや、自動車メーカーとサプライヤーを中心とした世界ではありません。IT企業や電機メーカー、スタートアップなど、これまでの自動車業界ではあまり想像がつかなかったような業界から自動運転車への参入が相次いでいます。その1社が、カナダの企業ブラックベリーです。

ブラックベリーといえば、小さなハードウェアキーボードが付いたスマートフォンを思い浮かべる方が多いでしょう。ブラックベリーの端末は、スマートフォンが主流となった今でも根強いファンがいます。そして、ブラックベリーが携帯端末で培ってきた技術が、今、自動運転車開発でいかされているのです。

今回は、ブラックベリー日本法人、ブラックベリージャパンのビジネスデベロップマネージャーで工学博士の中鉢善樹氏に、自動運転車をめぐる自動車業界の動きや、これからの技術者に求められるだろう技術について説明していただきました。

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自動運転社会実現に向けた5つのステップとは?

ブラックベリージャパンビジネスデベロップマネージャーの中鉢善樹氏
ブラックベリージャパンビジネスデベロップマネージャーの中鉢善樹氏


自動運転社会の実現ステップは、5つのステップで説明されます。

・レベル1:《運転支援》システムがアクセルやブレーキ、ハンドル操作の制御のいずれかを部分的に支援
・レベル2:《部分運転自動化》アクセルとブレーキ、ハンドル操作の両方を部分的に制御
・レベル3:《条件付き運転自動化》特定の条件下において完全自動運転だが、システムからの要請があれば、ドライバーは運転に戻ることが前提
・レベル4:《高度運転自動化》特定条件化の完全な自動運転
・レベル5:《完全運転自動化》完全な自動運転で、ドライバーは運転免許が不要



レベル1~2は自動運転というよりは運転支援です。レベル3以降から、本当の自動運転車といえる存在になります。現在普及している自動運転車の新車はレベル2相当だと言われており、そろそろレベル3の車両が出つつあるという状況です。なお完全自動運転車の実現は、今から20年くらいはかかるだろうと言われています。

「その取り組みは、地域により異なります。欧州はEU圏内の国家が連携し、北米は各州で自動運転への取り組みを実施しています。一方、中国と日本については国内のみで開発を進めています。日本は他の地域と比較して自動運転の立ち上がりが早いのではないかと見ています」と中鉢氏は言います。

その理由について、中鉢氏は次のように述べています。
「日本における自動運転社会の実現の目的の一つに、今後国内でますます進むであろう高齢化社会と地方の過疎化への対処があり、明確なものです。また日本政府が、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)実現のビジョンを掲げて(ソサエティ5.0)政策を進めている点も、自動運転社会へ向けた動きを後押ししていると思います」


「走るコンピュータ」となった自動車の開発は?

自動運転車もまさに、サイバー空間とフィジカル空間がつながり、インターネットや無線通信でさまざまな情報が行き交う世界の中で実現します。次世代車両が「走るコンピュータ」と言われるゆえんはそこにあります。それはコネクティビティ、自動運転、シェアリング、電動化の英訳の頭文字を表した「CASE(ケース)」と表現されることもあります。

さて、そのような自動車の開発は、どのように変わっていっているのか。「自動車は、大きく、上半分と下半分に分かれます」と中鉢氏は自動車のおおまかな構造について説明します。


現在の自動車のシステム概念図
現在の自動車のシステム概念図



「上半分はカーナビ、オーディオ、エアコン制御などの機器で構成されます。下半分はエンジンやパワーエレクトロニクス機器、足回りの機構などです」(中鉢氏)。

こうした上下のシステムは、別々に開発されてきました。上下それぞれにかかわる部品サプライヤーも異なり、システムやソフトウェアもそれぞれ異なります。しかし今後は、それぞれが個別に開発されていたのでは、複雑化するシステムや、市場のスピード感には到底ついていけないと言われており、まさにメーカー各社が設計プロセス改革に取り組んでいる現状です。

また、通信をする「走るコンピュータ」であるということは、ハッキングされるリスクが大いに高まるということになります。運転支援車が走る今も、自動車のハッキングが増えていると言います。自動車のハッキングは家電やパソコンなどが相手である場合よりもはるかに、重大な事故を招きます。

自動車は非常にパワーがある機器である上、人を乗せています。故に外部から制御可能となれば、たちまち殺人兵器ともなり得るということです。自動運転車両においては、誤動作やハッキングは絶対に起こってはならないことです。制御を誤れば大変危険である車両を確実に制御し、安心で安全な社会を担保するために、「ISO26262」など厳しい自動車向けの機能安全の規格で統制しなければなりません。

ブラックベリーのセキュリティ技術とアライアンス

「ブラックベリーは携帯端末の時代からセキュリティに非常に強い企業です」と中鉢氏は説明します。ブラックベリーのセキュリティ関連への強いこだわりは今も昔もずっと変わらないと言います。ブラックベリーはかつて同社端末を販売していたNTTドコモ向けにセキュアな通信システムを開発して提供していました。

ブラックベリーは、世の中で急速にスマホが普及する中で、2010年にリアルタイムUnix系組み込みソフトウェア企業のQNXを買収しています。これまでのネットセキュリティの技術とQNXの技術を組み合わせて、車載ソフトウェア業界へ参入することになりました。そこでできたオペレーションシステムがBlackberry QNXです。

「車載向け組み込み開発システムと、インターネットセキュリティ技術を併せ持った企業は業界の中では他にいない」と中鉢氏は説明します。2019年11月時点で、QNX搭載車が全世界で1億5,000万台あるということです。


CPUと各OSを接続するQNX Hypervisorの概念図
CPUと各OSを接続するQNX Hypervisorの概念図


QNXは組み込み用仮想化ハイパーバイザー(QNX Hypervisor)を備えています。「クルマの上下のシステムをシームレスにつなげるための存在」だと中鉢氏は説明します。このハイパーバイザーを仲介することで、これまで異なっていたソフトウェアやプログラム間でのやりとりが1プラットフォームで行えるようになります。

最近、デンソーとブラックベリーが開発した、統合コックピットシステム「Harmony Core」はQNX Hypervisorを用いて作られた仕組みです。HMIはADAS(先進運転支援システム:レベル2までの技術に相当)の中でも重要な技術です。HMIはいわゆる、パソコンのように、人が自動車を操作するために必要な機能をまとめた画面のことを差します。

Harmony CoreはHMIの背後で動いているさまざまなOSを1つのコンピュータで制御します。これまでは、HMIの中で表示する機能の情報や音のコントロールは、機能ごとでOSやプログラムがばらばらであったがために、「少し音を小さくしたい」というちょっとした動作でも、パソコンのように簡単にコントロールできないものでした。要するに、そういった問題が解消され、HMIが使いやすくなるのです。

車両の開発面においても、QNXによりこれまで別々に開発されていた部分がシームレスに連携できるようになるとのことです。自動運転車の開発は、メカ、ソフト、エレキといった社内の各部門が密に連携して、いわゆる「システムズエンジニアリング」を実践しなければなりません。

「車載系の組み込み開発エンジニアは、セキュリティやサーバ管理関係など、過去にはあまり必要がなかったような知識が必要になってくるでしょう」(中鉢氏)。

また自社内だけではなく、社外のサプライヤーや異業種の企業との間の垣根もできるだけ取り払わなければなりません。自動運転車の開発は、その環境の実現も1社だけではなしえません。ブラックベリーはデンソーのようなパートナー企業とのアライアンスをこれまでも積極的に広げていくとのことです。「車載開発向けオープンソースプログラムの『Autoware』のような取り組みは、今後の自動運転において非常に興味深い」と中鉢氏は述べています。


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